『パン屋の娘と魔導騎士 ― 恋と誇りのマントゥール譚』

もちもち

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最終話 あなたに出会えて

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朝焼けに照らされたマントゥールの丘で、シルビアとウィリアムは互いに微笑み合っていた。
 けれど、その穏やかな時間は長くは続かなかった。

 王宮からの使いが彼を呼び戻し、再び王女・フェリシアの護衛としての任務が再開される。
 「ウィリアム・レグアスタ。家門の名誉にかけ、速やかに正式な婚約者を立てること」
 それが、王からの“勅命”だった。

 レモニィーの策謀により王家に波紋が生じたことで、護衛騎士に相応しい身辺の整理が必要と判断されたのだ。



 一方、シルビアは再び日常に戻っていた。
 パンを焼き、家族と笑い、町の人々と触れ合う――。
 (あの人に、重荷になりたくない)
 そんな思いが、彼女の胸を締めつけていた。

 「シルビア、お前……最近元気ないな」
 父親の何気ない一言に、シルビアは微笑みながら首を振った。
 (いいの、これで)
 (私は――彼の世界に、いなくても)



 そして王都では、再び貴族令嬢たちが集められていた。
 レモニィーは令嬢としての資格を剥奪され、実家に謹慎処分。
 ローラは、自ら身を引く決断を下していた。

 「わたくしのような者が、貴方に相応しいとは思いません……」
 震える声で言ったローラに、ウィリアムはただ、感謝の言葉を返した。
 「ありがとう。君のような優しさが、私にはもったいない」

 そして、彼は王宮の謁見の間で宣言する。

 「――私、ウィリアム・レグアスタは、婚約を辞退いたします」
 「なんだと……?」と王が目を見開く。

 「婚約者ではなく、“共に生きたい”と願う者がおります。
  身分を越えて、ただひとり、私の心に灯をくれた女性です」

 フェリシアは微笑み、隣のドルマンは「ようやった」と声を漏らす。



 その夜、マントゥールのパン屋に一人の騎士が現れる。
 旅装束のまま、少しだけ照れた顔で、パンくずの匂いの漂う店先に立っていた。

 「……旅の途中で、パンが恋しくなりまして」
 シルビアは目を丸くしたあと、ふわりと笑った。

 「旅人の方にしては、ずいぶん立派な剣をお持ちですね」
 「お気づきでしたか。実は、この剣には……一つ、大事な願いが込められておりまして」

 「願い?」

 ウィリアムはそのまま、そっと彼女の前に跪いた。
 「シルビア。どうか、私の傍にいてくれませんか。
  騎士としてではなく――ただの私として。貴女に、心を尽くしたい」

 店の奥で、両親が声を潜めて様子をうかがっている。
 町の人たちも、窓の隙間からのぞき込んでいる。

 でも、シルビアはもう迷わなかった。

 「……はい。私でよければ」

 二人の手が重なり、温もりが交差する。
 それは、身分を越えた、静かな約束。
 恋は、誇りを越え、未来を紡いだ。



のちに「パン屋と騎士の恋物語」は、王国中に語り草となった。
 慎ましくも芯ある少女と、不器用で誠実な騎士の愛は、
 国の隅々にまで、温かな希望を届けていったという――。
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