12 / 25
3.バルト海を並び行く幽霊たち
3-8.公爵の危機
しおりを挟む
3-8.公爵の危機
「ヴィル! 聞いて!」と、従姉妹のアンナが駆けてきた。
「どうしたの? アンナ?」
「実は、実は、私たち公爵家と付き合うと、『騎士団に殺された者の幽霊が領地に入り込むから、私たちとお付き合いしてはいけない』って、他の貴族たちが噂しているのよ」
「何ですって!」
間に合わなかった!
恐れていたことが、起きてしまった。
私は、頭が白くなってしまったが、一呼吸して落ち着くことにした。
そうなのだ。あまりにも噂が早すぎる。
ほんの数日で、領地を超えて、他の貴族まで伝わるのだろうか?
私たちが着いた、一週間前までは、幽霊船が出るらしい程度の噂だったはず。
「アンナ、落ち着いて中でお話を聞きましょう。伯父さまも中なのでしょう?」と言うと、アンナは落ち着いたせいか、クライネスの存在に気が付いたようだ。
「あら、これは可愛いお客様ね。貴女はどなたなの?」
おい、クライネス。
教えた通りに、ご挨拶するんだよ。でないと、クッキーは無しだからな!
「あわわ、おかし……ら、いや、お嬢様のふふふねで……」
「おかし??? お菓子が、どうしたのかしら」とほほ笑むアンナ。
ダメだ!
フォローしておこう。
「紹介いたしますわ。うちの商船で飼っている、仔犬ですわ」
「「ええっ!?」」
「エルメンヒルデ! このワン子の面倒を見ておやり。後のことは任せました」と、クライネスをエルメンヒルデに任せて、伯父のいる部屋にアンナと向かうことにした。
頭を下げているが、エルメンヒルデが笑っているのが分かったわ。ふふふ。
「伯父様、アンナから聞きましたわ。他の貴族が良からぬ噂を立てていると」
「ヴィル……」と言うと伯父は黙ってしまった。
「アンナ、その噂は誰から聞いたの?」
「王妃様よ。そして、言っている本人も王妃様よ」
なんと、自分で噂を流し、自分で忠告してきたのか?
根性が悪すぎる。
やはり、ハプスブルクの連中は始末するに限る。
「伯父様、今回の一件は、誰かが糸を引いているはずです。あまりにも事の進展が早すぎます。黒幕がいるはず。だから、黒幕を捕まえない限り、収まらないわ」
「ヴィル!」
「幽霊船は、捕まえるまで、ここから離れないわ。だから、安心して」
「分かったわ。ヴィル」
「だから、陸のことは任せますわ。私は、海の方をします」
「ありがとう」
「助かるよ。ヴィル」
私は、早速、バルト海へ巡回に行きたかったので、お暇させて頂くことにしたが、クライネスがいない。
「エルメンヒルデ、クライネスは?」
「はい、先ほどから、公爵様がご試走してくださっています」
伯父が気を利かせて、あの後、クライネスの相手をしてくださったようだ。クッキーで。
伯父の顔は鷹の様で恐ろしいんだけど、よくクッキーを食べれたよな。クライネス。
「エマリー、もう時間がないようだ。実は……」
「それって、相手の術中にはまっているじゃない。相手が動いてからでは手遅れね」
「ああ、この狭いバルト海に隠れる場所などあるのか?」
「というか、入り江だらけなので、一つ一つ調べるのも手間よ」
そして、東に行けば行くほど、ポーランドやリトアニアなど、ドイツ騎士団に恨みを持つ連中が多い場所になる。
だから、その辺りが隠れ家ではないかと思っている。
では、最もドイツ騎士団に恨みを持っているところはどこだろうか?
ドイツ騎士団が皆殺しをしたという、ゴットランド島だろうか?
ここは、ドーバー港のとある酒場の個室。
黒船のキャプテンが、例の設計図を広げていた。
「ホーキンスの親父さん、これをどう思う?」
「うん。これは危ない。放置は出来ん。フランシス、お前もそう思うだろう?」
「あぁ、これを放置していると、イギリスは攻め込まれる」
「ボスに報告が必要だ。ボスには儂から伝えておく、バーナー」と、ホーキンスが答えた。
ホーキンス!
この時代を代表する海賊で、誰もが認めるナンバーワンだ。
その従兄弟がドレイクで、後継者的存在だ。
その海賊のボスとは誰だろうか?
「女王陛下も苦労が絶えないな」
女王陛下?
そうなのだ。海賊たちの頂点に立つのは、エリザベス一世なのだ。
海賊と海軍を仕切るボス、それがエリザベス女王ということになる。
「しかし、この巨大戦艦。大砲を積み過ぎではないのか? バラストはこれで良いのか?」
「儂もそう思う。船首ヘビーなガレオン船を、さらにヘビーにしている。かなり船速も遅いだろうし。バランスが悪い上、横転でもするんではないか?」
(改良が必要か? となると腕の立つ技師も必要か? この船をバーナー・シュバルツ海賊団の旗艦にしたいのだが)と、黒ずくめのキャプテンは思っていた。
「ヴィル! 聞いて!」と、従姉妹のアンナが駆けてきた。
「どうしたの? アンナ?」
「実は、実は、私たち公爵家と付き合うと、『騎士団に殺された者の幽霊が領地に入り込むから、私たちとお付き合いしてはいけない』って、他の貴族たちが噂しているのよ」
「何ですって!」
間に合わなかった!
恐れていたことが、起きてしまった。
私は、頭が白くなってしまったが、一呼吸して落ち着くことにした。
そうなのだ。あまりにも噂が早すぎる。
ほんの数日で、領地を超えて、他の貴族まで伝わるのだろうか?
私たちが着いた、一週間前までは、幽霊船が出るらしい程度の噂だったはず。
「アンナ、落ち着いて中でお話を聞きましょう。伯父さまも中なのでしょう?」と言うと、アンナは落ち着いたせいか、クライネスの存在に気が付いたようだ。
「あら、これは可愛いお客様ね。貴女はどなたなの?」
おい、クライネス。
教えた通りに、ご挨拶するんだよ。でないと、クッキーは無しだからな!
「あわわ、おかし……ら、いや、お嬢様のふふふねで……」
「おかし??? お菓子が、どうしたのかしら」とほほ笑むアンナ。
ダメだ!
フォローしておこう。
「紹介いたしますわ。うちの商船で飼っている、仔犬ですわ」
「「ええっ!?」」
「エルメンヒルデ! このワン子の面倒を見ておやり。後のことは任せました」と、クライネスをエルメンヒルデに任せて、伯父のいる部屋にアンナと向かうことにした。
頭を下げているが、エルメンヒルデが笑っているのが分かったわ。ふふふ。
「伯父様、アンナから聞きましたわ。他の貴族が良からぬ噂を立てていると」
「ヴィル……」と言うと伯父は黙ってしまった。
「アンナ、その噂は誰から聞いたの?」
「王妃様よ。そして、言っている本人も王妃様よ」
なんと、自分で噂を流し、自分で忠告してきたのか?
根性が悪すぎる。
やはり、ハプスブルクの連中は始末するに限る。
「伯父様、今回の一件は、誰かが糸を引いているはずです。あまりにも事の進展が早すぎます。黒幕がいるはず。だから、黒幕を捕まえない限り、収まらないわ」
「ヴィル!」
「幽霊船は、捕まえるまで、ここから離れないわ。だから、安心して」
「分かったわ。ヴィル」
「だから、陸のことは任せますわ。私は、海の方をします」
「ありがとう」
「助かるよ。ヴィル」
私は、早速、バルト海へ巡回に行きたかったので、お暇させて頂くことにしたが、クライネスがいない。
「エルメンヒルデ、クライネスは?」
「はい、先ほどから、公爵様がご試走してくださっています」
伯父が気を利かせて、あの後、クライネスの相手をしてくださったようだ。クッキーで。
伯父の顔は鷹の様で恐ろしいんだけど、よくクッキーを食べれたよな。クライネス。
「エマリー、もう時間がないようだ。実は……」
「それって、相手の術中にはまっているじゃない。相手が動いてからでは手遅れね」
「ああ、この狭いバルト海に隠れる場所などあるのか?」
「というか、入り江だらけなので、一つ一つ調べるのも手間よ」
そして、東に行けば行くほど、ポーランドやリトアニアなど、ドイツ騎士団に恨みを持つ連中が多い場所になる。
だから、その辺りが隠れ家ではないかと思っている。
では、最もドイツ騎士団に恨みを持っているところはどこだろうか?
ドイツ騎士団が皆殺しをしたという、ゴットランド島だろうか?
ここは、ドーバー港のとある酒場の個室。
黒船のキャプテンが、例の設計図を広げていた。
「ホーキンスの親父さん、これをどう思う?」
「うん。これは危ない。放置は出来ん。フランシス、お前もそう思うだろう?」
「あぁ、これを放置していると、イギリスは攻め込まれる」
「ボスに報告が必要だ。ボスには儂から伝えておく、バーナー」と、ホーキンスが答えた。
ホーキンス!
この時代を代表する海賊で、誰もが認めるナンバーワンだ。
その従兄弟がドレイクで、後継者的存在だ。
その海賊のボスとは誰だろうか?
「女王陛下も苦労が絶えないな」
女王陛下?
そうなのだ。海賊たちの頂点に立つのは、エリザベス一世なのだ。
海賊と海軍を仕切るボス、それがエリザベス女王ということになる。
「しかし、この巨大戦艦。大砲を積み過ぎではないのか? バラストはこれで良いのか?」
「儂もそう思う。船首ヘビーなガレオン船を、さらにヘビーにしている。かなり船速も遅いだろうし。バランスが悪い上、横転でもするんではないか?」
(改良が必要か? となると腕の立つ技師も必要か? この船をバーナー・シュバルツ海賊団の旗艦にしたいのだが)と、黒ずくめのキャプテンは思っていた。
0
あなたにおすすめの小説
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる