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3.バルト海を並び行く幽霊たち
3-10.お嬢の船
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3-10.お嬢の船
「クソッ、クソ、クソ!」
そう叫ぶと、私は、テーブルを何度もたたいていた。
情けない。あまりにも情けない。
今の私は、自分自身に腹が立つという状況に陥っていた。
今日、何があったかを整理しよう。
ゴットランド島で怪しい中型船:キャラベルを三隻発見した。
帆がボロけているのが霧の中から、薄っすらと見えており、この船が幽霊船だと直感した!
「よし、後を付けるぞ。停まったところで襲撃だ。証拠をつかむ」と、言うとキャラベルの灯りを目印に、こちらは灯りを消して尾行した。
幽霊船なら、証拠をつかむ。無関係の商船や海賊なら略奪すれば良し。
しばらくすると、霧が、さらに濃くなり進行が難しくなってきた。
「よし、停船した。乗り込む」と言うと、女海賊団は乗り込んだ。
乗り込まれた船員は驚いているようだが、芝居臭い感じがする。
「キーナ・コスペル海賊団だ! 全員、甲板に並べ!」
そして、その間に部下たちが、船内に入り込んだ。
「怪しい物があったら持ってきてくれ」
「「「了解」」」
しばらくして、部下たちが戻ってきた。
「お頭、まったく積荷がありません」
「他の船も同じだと言っています」
「なに?」
私は、一人の船員を捕まえて、「おい、説明しろ!」と胸ぐらをつかんだ。
「ああ、俺たちは、積荷を売りさばいて帰るところだ。売上は船荷証券で済ませている」
「なんだと!」
船荷証券!
それは、古代ローマ人が発明した交易のやり方だ。
信用できる相手との交易には、いちいち、商品と銀や貨幣と交換などしない。そんなことをしていたら、私の様な海賊に狙われてしまうし、面倒だ。
そこで、輸入業者は発注と共に船荷証券を発行し、輸出業者は船積みが終わると船荷証券を受け取ることが出来き、この時点で、すぐに銀行で還元が出来る制度が船荷証券なのだ。
つまり、輸出業者は船荷を送ってから、貨幣を受け取って、輸出業者のもとに帰って来るまで売上金が手に入らないなんてことになると、航行中に海賊に狙われるし、無事でも遅い収益で倒産するリスクを回避するというものだ。
ただ、商品が着く前に売り上げることが出来るので、信用のある者通しでしか行われない。
これは、13世紀のイタリアの商人で流行った取引となる。
そして、この船には積荷も船荷証券も乗っていないと言っている。
幽霊船の手がかりもなく、金目のものもなく……
その時、「お嬢ッ、海賊こわい」と、歳のころなら、五歳ぐらいの女の子が大きな声で言ったのが聞えた。
「ペティー、お静かにね」と、身なりの良い若い女が言った。
――なんだ、貴族か? 大商人か?
五歳ぐらいの幼女が二十過ぎの女に、「お嬢ッ」と呼ぶのは不思議に思えたので、訳を知りたくなった。
「おい、女。その子は?」と、私が言うと、“お嬢”の後ろにいた従者らしき女のひとりが、彼女をかばうように、前に出てきた。
「アレクサンドラ、良いのよ」と、“お嬢”が言った。
「お嬢様……」
――やはり、貴族か大商人の娘か?
「この子は、うちの飼い犬ですわ」
「おおお、お嬢ぉ」と、仔犬が震えている。
うちのクライネスと同じかと思うと、少し苦笑してしまった。
「海賊ッ、何がおかしいぃ」と、果敢にも飼い犬が吠えているわ。いとおかし。
「ペティーッ、おやめなさい」
非常に興味深い二人なのだけれども、長居は無用だ。
が、これだけは聞いておかなければならない。
「何故、ご令嬢が幽霊船などに乗っている?」
「幽霊船? 失礼ですわ」
「失礼も何も、このボロけた帆は……」と言い、帆を見ると、ボロけていないでは!
そう、この帆は、通常の帆の周りに、飾りをしているだけだ。
それが、霧の中では、帆がボロけた幽霊船に見えたのだ。
「バカンスを楽しんだ後、この船で領地に帰る途中でしたの。おわかり?」
「……」
「分かった、これで失礼しよう」
「海賊、帰れぇ」
「これ、ペティー」
「最後に、御領地はどちらで?」
「答える必要があって?」
「いいや」
「フランスですわ」
「ありがとう。では」
「なぁにが、『では』だ。海賊!」
「ペティーッ!」と、その時、“お嬢”はきつく、飼い犬を叱った。
そして、恥ずかしいことに、このキャラベルと共にケーニヒスベルクまで行くことになったのは、一生の不覚。
「なんか、嫌味ったらしいですねぇ」
「嫌味だろう」
と、イリーゼとエルメンヒルデが愚痴っている。
そして、ケーニヒスベルクに着くと、漁村組合の男が、「西のデンマーク近くに幽霊船が出たんだ」と駆けてきた。
「なに?」
「また、『ドイツ人、許すまじ』と言っていたって!」
――東に行っている間に西に幽霊船が出たと!
その時の私は、力なく膝間づこうとしていた。
そこに、“バッシ”とでもいう音が出ようかという勢いで、私の腕をつかんだのは、エマリーとイライザだった。
「ミーナ、お腹でも空いた?」
「『お頭が付いているから大丈夫』と、みんなが信じているでがす」
「すまない。頭も体力も使ったのでエネルギー切れだったのよ」と、見え透いた言い訳をした。
しかし、それで良いのだ。
言い訳でも、気持ちが前向きになれたのだから。
それを遠巻きに見ていた、例の“お嬢”は、
「ふぅん、何が『キーナ・コスペル海賊団』だよ。ヴィルヘルミーナ! お前らドイツ人には、これから苦しんでもらうよ。イタリア戦争の恨みをたっぷりとな」と。
「「「お嬢様」」」
「アレクサンドラ、ジョルジェット、ペティー。これは戦争なんだよ。戦争なんだよ」
「クソッ、クソ、クソ!」
そう叫ぶと、私は、テーブルを何度もたたいていた。
情けない。あまりにも情けない。
今の私は、自分自身に腹が立つという状況に陥っていた。
今日、何があったかを整理しよう。
ゴットランド島で怪しい中型船:キャラベルを三隻発見した。
帆がボロけているのが霧の中から、薄っすらと見えており、この船が幽霊船だと直感した!
「よし、後を付けるぞ。停まったところで襲撃だ。証拠をつかむ」と、言うとキャラベルの灯りを目印に、こちらは灯りを消して尾行した。
幽霊船なら、証拠をつかむ。無関係の商船や海賊なら略奪すれば良し。
しばらくすると、霧が、さらに濃くなり進行が難しくなってきた。
「よし、停船した。乗り込む」と言うと、女海賊団は乗り込んだ。
乗り込まれた船員は驚いているようだが、芝居臭い感じがする。
「キーナ・コスペル海賊団だ! 全員、甲板に並べ!」
そして、その間に部下たちが、船内に入り込んだ。
「怪しい物があったら持ってきてくれ」
「「「了解」」」
しばらくして、部下たちが戻ってきた。
「お頭、まったく積荷がありません」
「他の船も同じだと言っています」
「なに?」
私は、一人の船員を捕まえて、「おい、説明しろ!」と胸ぐらをつかんだ。
「ああ、俺たちは、積荷を売りさばいて帰るところだ。売上は船荷証券で済ませている」
「なんだと!」
船荷証券!
それは、古代ローマ人が発明した交易のやり方だ。
信用できる相手との交易には、いちいち、商品と銀や貨幣と交換などしない。そんなことをしていたら、私の様な海賊に狙われてしまうし、面倒だ。
そこで、輸入業者は発注と共に船荷証券を発行し、輸出業者は船積みが終わると船荷証券を受け取ることが出来き、この時点で、すぐに銀行で還元が出来る制度が船荷証券なのだ。
つまり、輸出業者は船荷を送ってから、貨幣を受け取って、輸出業者のもとに帰って来るまで売上金が手に入らないなんてことになると、航行中に海賊に狙われるし、無事でも遅い収益で倒産するリスクを回避するというものだ。
ただ、商品が着く前に売り上げることが出来るので、信用のある者通しでしか行われない。
これは、13世紀のイタリアの商人で流行った取引となる。
そして、この船には積荷も船荷証券も乗っていないと言っている。
幽霊船の手がかりもなく、金目のものもなく……
その時、「お嬢ッ、海賊こわい」と、歳のころなら、五歳ぐらいの女の子が大きな声で言ったのが聞えた。
「ペティー、お静かにね」と、身なりの良い若い女が言った。
――なんだ、貴族か? 大商人か?
五歳ぐらいの幼女が二十過ぎの女に、「お嬢ッ」と呼ぶのは不思議に思えたので、訳を知りたくなった。
「おい、女。その子は?」と、私が言うと、“お嬢”の後ろにいた従者らしき女のひとりが、彼女をかばうように、前に出てきた。
「アレクサンドラ、良いのよ」と、“お嬢”が言った。
「お嬢様……」
――やはり、貴族か大商人の娘か?
「この子は、うちの飼い犬ですわ」
「おおお、お嬢ぉ」と、仔犬が震えている。
うちのクライネスと同じかと思うと、少し苦笑してしまった。
「海賊ッ、何がおかしいぃ」と、果敢にも飼い犬が吠えているわ。いとおかし。
「ペティーッ、おやめなさい」
非常に興味深い二人なのだけれども、長居は無用だ。
が、これだけは聞いておかなければならない。
「何故、ご令嬢が幽霊船などに乗っている?」
「幽霊船? 失礼ですわ」
「失礼も何も、このボロけた帆は……」と言い、帆を見ると、ボロけていないでは!
そう、この帆は、通常の帆の周りに、飾りをしているだけだ。
それが、霧の中では、帆がボロけた幽霊船に見えたのだ。
「バカンスを楽しんだ後、この船で領地に帰る途中でしたの。おわかり?」
「……」
「分かった、これで失礼しよう」
「海賊、帰れぇ」
「これ、ペティー」
「最後に、御領地はどちらで?」
「答える必要があって?」
「いいや」
「フランスですわ」
「ありがとう。では」
「なぁにが、『では』だ。海賊!」
「ペティーッ!」と、その時、“お嬢”はきつく、飼い犬を叱った。
そして、恥ずかしいことに、このキャラベルと共にケーニヒスベルクまで行くことになったのは、一生の不覚。
「なんか、嫌味ったらしいですねぇ」
「嫌味だろう」
と、イリーゼとエルメンヒルデが愚痴っている。
そして、ケーニヒスベルクに着くと、漁村組合の男が、「西のデンマーク近くに幽霊船が出たんだ」と駆けてきた。
「なに?」
「また、『ドイツ人、許すまじ』と言っていたって!」
――東に行っている間に西に幽霊船が出たと!
その時の私は、力なく膝間づこうとしていた。
そこに、“バッシ”とでもいう音が出ようかという勢いで、私の腕をつかんだのは、エマリーとイライザだった。
「ミーナ、お腹でも空いた?」
「『お頭が付いているから大丈夫』と、みんなが信じているでがす」
「すまない。頭も体力も使ったのでエネルギー切れだったのよ」と、見え透いた言い訳をした。
しかし、それで良いのだ。
言い訳でも、気持ちが前向きになれたのだから。
それを遠巻きに見ていた、例の“お嬢”は、
「ふぅん、何が『キーナ・コスペル海賊団』だよ。ヴィルヘルミーナ! お前らドイツ人には、これから苦しんでもらうよ。イタリア戦争の恨みをたっぷりとな」と。
「「「お嬢様」」」
「アレクサンドラ、ジョルジェット、ペティー。これは戦争なんだよ。戦争なんだよ」
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