【完結】天才魔導師は二度目の恋を知る

樹結理(きゆり)

文字の大きさ
12 / 35

第12話 調査訪問

しおりを挟む
 その後すぐには動けず、星空を見上げながらボーッと時間が過ぎていった。祭りの喧騒が静まり出した頃、私はアシェルト様を起こし、何事もなかったかのように二人で家路に着いた。

 ラシャ様の名を呼ぶアシェルト様の声は忘れてしまおう。
 小さな箱のなかにこの想いは閉じ込めるのよ。そうしないと私が前に進めなくなってしまう。私が止まる訳にはいかない。アシェルト様に前に進んで欲しいのなら、私自身が無理矢理にでも前に進まないと。

 きっとこうやって箱にしまう気持ちはこれからもきっとある。
 こうやって閉じ込めて、やり過ごして、前へと進んで……そしていつかこの箱に想いを閉じ込める必要がなくなる日がきっとやってくると信じて……私は頑張るしかないのよ。

 その後、私はアシェルト様との研究も進めつつ、その合間を縫って魔導師団へと赴いた。
 アシェルト様に魔導師団訪問の話をすると、やはり賛成はしないけど、といった複雑そうな顔ではあったが、溜め息を吐きながらも送り出してくれた。

 王城にある魔導師団へと向かうと、まずはバルト団長へと声をかけに行く。
 いつものごとく団長室の扉を叩き、バルト団長に挨拶すると魔導師団の皆に話を聞く許可をいただく。

「あの、しばらくは毎日通いたいのですが良いですか?」
「毎日か、ならば時間を決めておいてくれ。その時間はノアを仕事から外すから同行させるように」

 毎日ノアに同行してもらうのは申し訳ないなぁ、と少したじろぐと、バルト団長は苦笑した。

「ノアに悪いと思っているのなら無駄だぞ? 逆に呼ばないと怒るだろ、あいつは」

 アハハ、と笑いながら言ったバルト団長。うーん、ノアは私とアシェルト様のあのやり取りを見ているからか、やたら心配してくれているしね……確かになにも言わずに私がひとりで行動したら怒られそうだし……。

「とりあえずノアを呼び出すか」

 そう言ってバルト団長はおもむろに小さな紙を取り出した。

 あ、これ、連絡用の魔導符。
 魔法陣が描かれた小さな紙。連絡を取りたい相手を思い浮かべ魔力を送ると、相手の元へと魔導符が転送されるのよね。

 魔法陣と共に送る側の印が記されてあるから、誰から連絡が来たのかが分かる。呼び出せるだけなので比較的簡単な魔法だ。私でも使える。ただ相手を呼び出すなんてことは、私のような下っ端が出来る訳もないので、使ったことはない。

 緊急的に伝えたい内容がある場合の魔法はもう少し高度になるため、使える人が限られてくる。私やノアもこの魔法自体は学園でも習ったので使えるのだが、それなりに魔力消費量が多いため、こちらも使うことはまずないだろう。

 バルト団長は魔導符に魔力を送ると、魔導符は青白く光り、バルト団長の手から離れ浮いた。そしてまるで炎で燃え落ちていくかのように、青白い光は広がり魔導符が跡形もなく消えた。
 この魔導符は消えたと同時に相手の目の前に消えたときと同様に、まるで炎が広がるかのように青白い光が魔導符を形作っていくのだ。
 おそらく今頃ノアの目の前に出現しているのだろう。

 そしてバルト団長と今後の相談をしていると団長室の扉を叩く音がする。

「団長、ノアです」
「入れ」

 ガチャリと扉が開かれ「失礼します」という言葉と共にノアが現れた。

「あれ、ルフィル?」

 団長室へと足を踏み入れたノアは、応接椅子に座るバルト団長に視線を送ったあと、私に気付き声を上げた。
 そしてすぐさま事情を察したのか、「あぁ」と小さく声を上げたかと思うと、歩を進め、応接椅子の横で立ち止まった。

「ルフィルの魔導師団訪問の件ですね?」

 ノアは応接椅子の横に立ち、後ろ手に直立すると、バルト団長に向かい声をかけた。

「ハハ、話が早い。そうだ、ルフィルが魔導師団の皆から話を聞きたいと言っていた件だが、どうやらしばらく毎日来たいらしいのだ。お前の都合のいい時間で合わせたほうがいいと思ってな」
「毎日……」

 チラリとノアは私を見た。

「フッ、良かったな」

 バルト団長がなにやらニヤッとしながら言った。
 ん? 良かった? なんで? ノアからしたら迷惑なだけ……いや、仕事を休めるから? 息抜きにはなるのかしら?

「ちょっ!!」

 ノアが急に大声を上げたため、驚き顔を見上げた。横に立つノアとバチッと目が合うと、ノアはガバッと顔を逸らす。

「ちょっと! 顔逸らすとか失礼ね」

 ノアに文句を言おうと顔を覗き込むため前のめりになると、ノアはさらに顔を逸らしてしまった。

「ブフッ、アッハッハッ」

 バルト団長が盛大に噴き出したため、私の視線はノアから外れ、バルト団長に向いた。

「団長……」

 ノアがやたら低い声でジト目になりながらバルト団長を見ていた。
 バルト団長は必死に笑いを堪えようとしているが、目に涙すら溜めている。
 な、なんなのよ。

「あー、すまん。んん、あー、えーっと、そうそう、ノアの都合のいい時間だよ」

 ノアはブツブツとなにやら文句を言いながらも、自身の仕事の予定を思い出していた。

「今のところ遠征等の外部へ出る予定もありませんし。午後の数時間は訓練をしているだけなので、その時間ならどうですか?」
「そうだな。ルフィルの都合はどうだ?」

 ノアとバルト団長が目を合わせ、ノアの予定を思い出しつつ、バルト団長が顎に手をやり頷いた。そして私に視線を寄越すと聞く。

「私はそれで大丈夫です」
「うん、なら、その時間でノアと合流するように。第一の隊長には俺から伝えておく」
「ありがとうございます」

 ノアに目をやると、先程顔を逸らしたことは忘れているのか、目が合うとニッと笑った。
 なんだかまたしてもバルト団長がニヤニヤとしている気がしたけど……ま、いっか。

 そしてノアの訓練時間の半分を私に割り当ててもらい、毎日訪問することとなった。

「なんかごめんね? 巻き込んじゃって」
「気にするな。俺が自分から言い出したことなんだから」

 ノアはそう言いながら、頭にポンと手を置いてワシワシと撫でた。

「うん、ありがとう」
「早速向かうか?」
「そうだね」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

憧れと結婚〜田舎令嬢エマの幸福な事情〜

帆々
恋愛
エマは牧歌的な地域で育った令嬢だ。 父を亡くし、館は経済的に恵まれない。姉のダイアナは家庭教師の仕事のため家を出ていた。 そんな事情を裕福な幼なじみにからかわれる日々。 「いつも同じドレスね」。「また自分で縫ったのね、偉いわ」。「わたしだったらとても我慢できないわ」————。 決まった嫌味を流すことにも慣れている。 彼女の楽しみは仲良しの姉から届く手紙だ。 穏やかで静かな暮らしを送る彼女は、ある時レオと知り合う。近くの邸に滞在する名門の紳士だった。ハンサムで素敵な彼にエマは思わず恋心を抱く。 レオも彼女のことを気に入ったようだった。二人は親しく時間を過ごすようになる。 「邸に招待するよ。ぜひ家族に紹介したい」 熱い言葉をもらう。レオは他の女性には冷たい。優しいのは彼女だけだ。周囲も認め、彼女は彼に深く恋するように。 しかし、思いがけない出来事が知らされる。 「どうして?」 エマには出来事が信じられなかった。信じたくない。 レオの心だけを信じようとするが、事態は変化していって————。 魔法も魔術も出て来ない異世界恋愛物語です。古風な恋愛ものをお好きな方にお読みいただけたら嬉しいです。 ハッピーエンドをお約束しております。 どうぞよろしくお願い申し上げます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響
恋愛
平和だったカヴァニス王国が、隣国イザイアの突然の侵攻により一夜にして滅亡した。 カヴァニスの王女アリーチェは、逃げ遅れたところを何者かに助けられるが、意識を失ってしまう。 目覚めたアリーチェの前に現れたのは、祖国を滅ぼしたイザイアの『隻眼の騎士王』ルドヴィクだった。 憎しみと侮蔑を感情のままにルドヴィクを罵倒するが、ルドヴィクは何も言わずにアリーチェに治療を施し、傷が癒えた後も城に留まらせる。 ルドヴィクに対して憎しみを募らせるアリーチェだが、時折彼の見せる悲しげな表情に別の感情が芽生え始めるのに気がついたアリーチェの心は揺れるが………。 ※内容の一部に残酷描写が含まれます。

皇帝とおばちゃん姫の恋物語

ひとみん
恋愛
二階堂有里は52歳の主婦。ある日事故に巻き込まれ死んじゃったけど、女神様に拾われある人のお世話係を頼まれ第二の人生を送る事に。 そこは異世界で、年若いアルフォンス皇帝陛下が治めるユリアナ帝国へと降り立つ。 てっきり子供のお世話だと思っていたら、なんとその皇帝陛下のお世話をすることに。 まぁ、異世界での息子と思えば・・・と生活し始めるけれど、周りはただのお世話係とは見てくれない。 女神様に若返らせてもらったけれど、これといって何の能力もない中身はただのおばちゃんの、ほんわか恋愛物語です。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、 結婚初日から気づいていた。 夫は優しい。 礼儀正しく、決して冷たくはない。 けれど──どこか遠い。 夜会で向けられる微笑みの奥には、 亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。 社交界は囁く。 「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」 「後妻は所詮、影の夫人よ」 その言葉に胸が痛む。 けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。 ──これは政略婚。 愛を求めてはいけない、と。 そんなある日、彼女はカルロスの書斎で “あり得ない手紙”を見つけてしまう。 『愛しいカルロスへ。  私は必ずあなたのもとへ戻るわ。          エリザベラ』 ……前妻は、本当に死んだのだろうか? 噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。 揺れ動く心のまま、シャルロットは “ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。 しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、 カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。 「影なんて、最初からいない。  見ていたのは……ずっと君だけだった」 消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫── すべての謎が解けたとき、 影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。 切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。 愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる

処理中です...