【完結】天才魔導師は二度目の恋を知る

樹結理(きゆり)

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第19話 王立学園へ!

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 アシェルト様はあの日以来、涙を見せることはなかったし、私に弱い姿を見せることは一切なかった。それがなんだかまた壁があるように思えてしまい辛くもなった。私のせいなのだから仕方ないのよ。そう自分に言い聞かせはするが、それでもやはり辛くなる。油断するとすぐに顔に出てしまいそうで、必死にそれを隠し、笑顔で過ごした。

 ラシャ様の婚約話はアシェルト様にも報告出来なかった。ラシャ様がアシェルト様には言わなかった内容を私が伝えて良いはずがない。だからこれは私とノアだけで調べる。
 アシェルト様には魔導師団への訪問時間が早くなったとだけ伝え、その日は朝からの出発となった。


 王立学園は王都内にあるが、かなり広い規模の学園のため、王都のなかでもかなり外れにある。広大な敷地は塀に囲まれ、入り口の門には警備の兵が立つ。卒業してからまだそれほど長い年月が経ったわけでもないが、それでも懐かしさを覚える。

 広大な敷地に広がる、学舎に庭園。グランドに農場や牧場までもがある。敷地内には生徒が暮らす寮もあり、多くの学生が学園内で生活している。

「懐かしいな」
「ハハ、そうだね」

 当日までに訪問の許可をもらっていたため、門兵には名を伝えただけですんなりと通してもらえた。
 正面に大きく広がる庭園を抜けると、一番大きな学舎が待ち受けている。学園の顔とも言えるその学舎は、三階建てで横に長く廊下が伸びる。正面から見ると硝子窓がズラリと並び壮観だ。

 学園内の学舎やそのほかの建物は配置に意味があるらしく、複雑な並びになっていたりする。だから一年生などはよく学園内を迷ったりするものだ。そして迷子になり、上級生に発見保護され連行されていく、というのが、入学式後の数ヶ月の伝統通過儀礼のようになっていた。

 懐かしい気分になりながら、きょろきょろと回りを見回しつつ歩く。

「そういえばノアはなんで十六で魔導師団に入らなかったの?」

 ノアは私よりもひとつ年上だ。しかし、魔導師団への入団は同年だった。だからひとつ年上でありながらもノアは私の同期となった訳だが、魔導師団や騎士団へ入団を考えている子は大体十六で入団試験を受ける。そして合格すると、その時点で卒業が決定し、春を迎え入団するのだ。

 特に決まりがある訳ではないのだが、入団は十六から受け付けているため、自分の実力に余程自身がない、といった場合や、なにか事情があったり、ということがない限りは、大体皆十六で試験を受ける。だから、単純にノアが十七で試験を受けたことが不思議に思ってしまった。

「んー、特に理由はないんだけどなぁ、まあ、魔導師団と騎士団とどちらに行こうか迷ってたってのもあるかな、ハハ」
「騎士団に入りたかったの?」

 確かにノアは武芸にも優れていた。魔導科にいたとしても、剣技や体術が得意な人も多くいた。入学のときに本人の希望、そして学園内での毎年の成績によって、入る科は変動する。ノアは魔導科にはいたようだが、ノアのように剣技や体術の成績が良かったりすると、翌年クラス異動することもあった。

「いや、特に入りたいってことはなかったんだけど、一応うちは武のほうで有名だったからさ」

 そう言って苦笑するノア。

「ノアの家名って……」
「ジェストルド……ジェストルド伯爵家」

 ジェストルド伯爵家……そういえばと思い出す。
 一般教養で習ったことがある。国の軍部を支える貴族家がいくつかあり、そのうちのひとつにジェストルド伯爵家もあったはず。代々主に騎士団上層部の役職となる家。

「だけどノアはずっと魔導科だったのよね?」
「あぁ、俺はどちらかというと魔法のほうが好きだったからな。だから魔導科にずっといたし、卒業後も魔導師団へ入るつもりだったんだけど、家からは騎士団へ行けと言われてさ」

 そう言いながら乾いた笑いになったノア。あー……これは、色々あった感じかしら……。

「そ、そうなのね……大変だったね……」
「ハハ……まあな」

 遠い目をしているノアに苦笑するが、しかし、ノアが魔導師団に入ってくれたおかげで今こうして私の大事な友でいてくれている訳だ。そう思うと、その当時頑張ってくれたノアに感謝しかないわね。そんなことを考えフフッと笑った。

「なんだ?」
「え? いや、ノアが魔導師団への入団を頑張ってくれて良かったなーと思って。そのおかげで私は大事な親友を得たんだもの。ありがとね、ノア」

 横に並び歩くノアの顔を見上げながら笑顔で言った。ノアは驚いたのか目を見開き、そしてなぜかサッと顔を逸らしてしまった。

「別にルフィルのためじゃないし」
「分かってるわよ! でもノアが魔導師団に入ってなかったら出逢えなかったんだから感謝してるの!」

 ノアの顔を覗き込むように、前へと踏み出すと、さらに一層顔を背けられた……なんでよ。

「ちょっと、なんでそんな顔を背けるのよ」
「う、うるさいな、なんでもない! 早く行くぞ!」
「え、ちょっと、待ってよ!」

 声を張り上げたノアは急に速度を上げ、大股で歩いて行ってしまった。背の高いノアの一歩はかなり大きいため、私は慌てて小走りでそれに続いたのだった。


 正面の学舎へと入っていき、職員室へと向かう。そこに全ての先生方の机が揃ってはいるのだが、さらにクラスによって先生方専用の部屋もあるため、ライラ先生が今現在どこにいるのかは探さないと分からない。

 時間的に今は授業中のようで、外を歩いている生徒などは見掛けない。農場や牧場にはいるかもしれないが、かなり離れた場所にあるため、学舎内を歩いているだけでは生徒を目にすることはない。

 職員室へと顔を出すと数人の先生方の姿は見えるが、ライラ先生の姿はなかった。見知った懐かしい顔の先生もいたため、捕まってしまい世間話をしつつ、なんとか話を終わらせライラ先生を探す。

 どうやらライラ先生は現在魔法実技中らしく、グランドにいるのではないかと、残っていた先生から教えてもらった。
 ノアと共に学舎を出て、さらに学園奥へと歩いて行く。複雑に入り込んだ学園内を、通っていた当時を思い出しつつ歩く。

「一年生が迷うだけあって、本当にややこしい造りだよな」

 そう言いながら苦笑するノアに、私も同様に苦笑する。

「だよね。学舎の並びで結界の役目を果たしているんだっけ?」
「そう習ったよな。実際、上空から眺めた訳じゃないから、本当にそんな並びになっているのか疑問だが」

 お互い苦笑する。学園の歴史を勉強する上で、この学園は巨大な結界で護られている、ということを学ぶ。しかし、学舎の並びが結界の役目を果たしている、と言われても、上空から見ない限り分からない。現実的には結界がどうというよりも、この複雑な並びが遭難者を出している、ということのほうが大いに問題だった。

 そんなことを思い出すと笑いそうになるのだが、こうやって皆、方向感覚を身に付けたり、空間共有の魔法や感知能力の魔法、迷ったときの道案内をさせる魔法などを必死に訓練したおかげで、森などで全く道に迷わなくなったものだ。普通科と騎士科の生徒たちは大変だったようだが……。
 ノアとふたりで笑いながらグランドへと歩き、懐かしい話に花が咲く。

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