23 / 35
第23話 いつも傍にいるのは…
しおりを挟む「お願いだから危険なことだけはしないでね?」
私が内心色々と考えを巡らせていることには気付いているのかいないのか。それは分からないが、眉を下げながら心配そうな顔を向けるアシェルト様。心配をしてくれている、というだけで嬉しくなってしまう。
「大丈夫ですよ、ノアがいつも傍にいてくれていますし」
そう言うと、アシェルト様はピクリと反応し、そしてなにやらムッとした顔となった。
「そうだね……」
俯き私から視線を外したアシェルト様はボソッと呟いた。急に不機嫌になったような……どうしたのかしら……私、なにか拙いことでも言った!?
「あの、なにか問題でもありましたか?」
危険なことをしているつもりもないし、今まで危ない目に遭った訳でもない。調べるときにはいつもノアが一緒にいてくれる。だから問題はないと思ってはいるけれど、アシェルト様にはなにか問題があるように見えるのかしら……。
「いや……別に……問題はない……こともない……」
ん? どっち? 問題あるの? ないの?
「い、いや、ない……特になにもない!」
キョトンとしてしまい、アシェルト様は珍しく慌てて声を張り上げた。そのことに驚き、目を見開く。アシェルト様はチラリと私を見たかと思うと顔がカァァッと一気に赤く……え?
「ご、ごちそうさま」
「え、あ、はい」
ガタッと立ち上がったアシェルト様はなにやら眉を下げ、泣き出しそうな潤んだ瞳で私を見たかと思うと、慌てて顔を逸らし部屋を後にした。
え、なにあれ……な、なんだったの? 顔が赤くなってた……あんなアシェルト様、初めて見た……なにあれ! なにあれ! えぇ!? なんだったのかよく分からないけど……えぇ!?
白い肌が赤く染まっていくのがはっきりと分かった。耳や首までもが赤く染まり、潤んだ瞳……なにやら妖艶……じゃなくて!! テーブルに突っ伏し悶絶……。その日の夜はなにやら興奮してしまい眠れなかった……。
ノアが実家に連絡を取ってくれている間も、とりあえずは魔導師団の訪問を続けたが、しかし、ほとんどこれといった情報はもうなにも出なかった。
ノアはどうやら実家から、なぜソルファス侯爵家に面会したいのかを根掘り葉掘り聞かれたらしく、げっそりとしていた。
「ご、ごめん、ノア……」
「あぁ、気にするな、ハハ」
ノアはげっそりとはしていたが、笑いながら私の頭を撫でた。その優しさが嬉しくもあるが、私ひとりの力ではなにも出来ないことが悔しく、ノアを巻き込み嫌な思いをさせていることに申し訳なく、情けなくもなった。
「今、王都には侯爵閣下だけらしくてな。夫人はラシャ様が亡くなってから病がちになられたそうで領地で療養されているらしい。だから話を聞けるのは侯爵閣下だけだが大丈夫か?」
「うん、ありがとう」
ラシャ様が亡くなられてから、きっと心痛で病になられたのだろう、ということは容易に想像がついた。だから無理に話を聞くなんてことはしたくない……。侯爵閣下からお話を聞けるだけで有難い話だ……。どうか心の傷を抉ることになりませんように……。
なんて自分勝手な願いなんだろう、と自分で思う。ソルファス侯爵家の方々にしてみれば、私のような赤の他人が当時の事故を掘り起こすこと自体が心の傷に触れる行為だろうに。それなのに傷付けたくないとか、馬鹿じゃないの。
そうは思うのだが、ライラ先生やノアに言われたように、私は私の責任で覚悟を決めないとね……。これは私が望んだことなんだから……。真実を見付けたい……アシェルト様に前を向いて生きてもらいたい。そう望んだんだから……。
「それから、クナム副団長のことだが……」
考え込んでいると、ノアが話を続けた。
「あぁ、うん。クナム副団長は今どうしているの?」
「魔導師団を辞めた後は、やはり侯爵家を継いでいるようだな。クナム副団長自身は次男で家を継ぐ必要はなかったんだが、どうやら家で不幸が続いたらしくてな」
「不幸?」
「あぁ、父上のカーヴァイン侯爵閣下が病で亡くなり、長男が侯爵家を継いだらしいのだが、それもまた数年で事故に遭われて亡くなられたそうだ」
「え……」
「そのためにクナム副団長が魔導師団を退団して、侯爵家を継いだ、ってことらしい」
「そ、そうなんだ……じゃあ今はカーヴァイン侯爵閣下という訳ね」
「あぁ」
「ということは、クナム副団長はラシャ様の事故や婚約とは関係ないのかしら……」
「「…………」」
お互い顔を見合わせるが、正解が分からない。クナム副団長は関係ないような気もする。しかし絶対そうだと言い切れるかは分からない。
いつまで経ってもはっきりとしたものがなくもどかしい。
「ま、とりあえずはソルファス侯爵家で話を聞いてから考えたら良いだろ」
そう言いながらノアは私の頭にポンと手を置いた。
「うん、そうだね」
そして数日後、私たちは王都にあるソルファス侯爵家の屋敷を訪れることになった。
ラシャ様の実家であるソルファス侯爵家へ行く、とはさすがにアシェルト様には言えなかった。だからまた魔導師団へ早めに向かう、ということにしようかと思っていたのだが、ノアから面会の日取りを聞いたときにハッとし頭を抱えた。ここで失念していた事態にぶち当たってしまったのだ。
侯爵家へ向かう、ということはそれなりに正装が必要となる。さすがに普段の服装のままで出向くなんてことが出来るはずもなく。
私は一応貴族ではあるのだが、学園では制服、その後すぐに魔導師団へ入団し魔導師団の隊服、そしてアシェルト様の元へと転がり込んだ今は平民服にローブといった身からすると、ドレスなんてものは持ち合わせていないのだ。
「ど、どうしよう、仕方ないから買いに行くかな……うぅ、予定外の出費……」
20
あなたにおすすめの小説
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
憧れと結婚〜田舎令嬢エマの幸福な事情〜
帆々
恋愛
エマは牧歌的な地域で育った令嬢だ。
父を亡くし、館は経済的に恵まれない。姉のダイアナは家庭教師の仕事のため家を出ていた。
そんな事情を裕福な幼なじみにからかわれる日々。
「いつも同じドレスね」。「また自分で縫ったのね、偉いわ」。「わたしだったらとても我慢できないわ」————。
決まった嫌味を流すことにも慣れている。
彼女の楽しみは仲良しの姉から届く手紙だ。
穏やかで静かな暮らしを送る彼女は、ある時レオと知り合う。近くの邸に滞在する名門の紳士だった。ハンサムで素敵な彼にエマは思わず恋心を抱く。
レオも彼女のことを気に入ったようだった。二人は親しく時間を過ごすようになる。
「邸に招待するよ。ぜひ家族に紹介したい」
熱い言葉をもらう。レオは他の女性には冷たい。優しいのは彼女だけだ。周囲も認め、彼女は彼に深く恋するように。
しかし、思いがけない出来事が知らされる。
「どうして?」
エマには出来事が信じられなかった。信じたくない。
レオの心だけを信じようとするが、事態は変化していって————。
魔法も魔術も出て来ない異世界恋愛物語です。古風な恋愛ものをお好きな方にお読みいただけたら嬉しいです。
ハッピーエンドをお約束しております。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる
玉響
恋愛
平和だったカヴァニス王国が、隣国イザイアの突然の侵攻により一夜にして滅亡した。
カヴァニスの王女アリーチェは、逃げ遅れたところを何者かに助けられるが、意識を失ってしまう。
目覚めたアリーチェの前に現れたのは、祖国を滅ぼしたイザイアの『隻眼の騎士王』ルドヴィクだった。
憎しみと侮蔑を感情のままにルドヴィクを罵倒するが、ルドヴィクは何も言わずにアリーチェに治療を施し、傷が癒えた後も城に留まらせる。
ルドヴィクに対して憎しみを募らせるアリーチェだが、時折彼の見せる悲しげな表情に別の感情が芽生え始めるのに気がついたアリーチェの心は揺れるが………。
※内容の一部に残酷描写が含まれます。
皇帝とおばちゃん姫の恋物語
ひとみん
恋愛
二階堂有里は52歳の主婦。ある日事故に巻き込まれ死んじゃったけど、女神様に拾われある人のお世話係を頼まれ第二の人生を送る事に。
そこは異世界で、年若いアルフォンス皇帝陛下が治めるユリアナ帝国へと降り立つ。
てっきり子供のお世話だと思っていたら、なんとその皇帝陛下のお世話をすることに。
まぁ、異世界での息子と思えば・・・と生活し始めるけれど、周りはただのお世話係とは見てくれない。
女神様に若返らせてもらったけれど、これといって何の能力もない中身はただのおばちゃんの、ほんわか恋愛物語です。
氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!
柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」
『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。
セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。
しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。
だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる