【完結】生意気な黒猫と異世界観察がてら便利屋はじめました。大好きなラノベを読むため必ず帰ってみせます!

樹結理(きゆり)

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本編

第三十六話 ラズにドキドキしてしまった

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 小さくだがしっかりと答えたラズ。

「うん!!」

 ラズを思い切り抱き締め顔を埋め、思う存分スリスリスリスリ。

『お、おい!!』

 ラズは案の定じたばたと抜け出そうとしていたが、そこはがっちりとホールド。フフ、逃がさないわよ。昨夜ラズがいなくて不安だった気持ちを補うかのように、ここぞとばかりに思い切りラズのもふもふを堪能した。

 諦めたのかラズは脱力し、

『おい』

 そう呼ばれラズのもふもふから顔を離し、ラズの顔を見るとおもむろに頬をペロリと舐められた。

「!?」

 初めての行為にちょっと焦る。ざらついた舌がくすぐったくもあり、温かさに何やら恥ずかしくもなり、ちょっとあわあわしてしまった。
 その様子にラズはニヤリとし、驚き緩んだ腕からするりと抜け出した。

『帰るぞ』

 な、何か腹立つ~! 何で猫相手にこんなドキドキせにゃならんのだ! 何か猫らしくないのよ! さっきの台詞といい、頬ペロリの仕草といい、何か……何か……、もー!!

 深い溜め息を吐きつつ、そのままラズの後に続くのだった。


 何だかんだとまたラズとやいやい言いながらも、気持ちが晴れて清々しい気分で帰って来たというのに、部屋には一通の見るからに重々しい手紙が届いていた……。


「こ、これは……もしや……」

 な、何か重々しい! 封蝋っていうやつ? な、なんじゃこりゃ! 何かラノベやアニメの世界みた~い!初めて見た~!
 って喜んでいる場合ではない!

「うわぁ……、これって例のあれよね……きっと……」
『だろうな』
「…………」
『最初に言っておくが、俺は一緒に行かないからな』
「えっ!? 何で!?」
『行きたくないから』
「いやいや、行きたくないからとかそんなの駄目だから!」
『呼ばれてるのはお前だろ! 俺は関係ない!』
「何でよ! 一緒に来てよ! 守ってくれるんじゃなかったの!?」
『うぐっ……い、いや! でも! 城は危険なはずないし!』
「危険じゃなくても側にいてよー!! 一人は絶対嫌!!」

 そんなことを言い合いながら、ラズを抱き締め逃さない。逃がすもんですか!

『と、とにかく封開けろよ!』
「あ、そうだね」

 中身を見ないまま、ラズと行く行かないで格闘してたよ。

 ペーパーナイフで封を切り中身を取り出すと、やはり王の印とやらが入った重々しい手紙だった。
 そして文章はご丁寧に日本語で書かれていた。

 《ユズキヒナタ殿 三日後、○日に王城まで来られたし》

「こ、これだけ? 誰と何をするかとか何も書かれてないんだけど!?」
『まあそんなもんだろ』
「そんなもんなの!?」
『王の命令は絶対だし、拒否する権利はないし、わざわざ詳細を知らせる義務もないしな』
「そ、そうなんだ……」

 さすが王様……、王様かぁ……、ラノベ世界みたいで嬉しい! と思わなくもないけど……、それって所詮他人事だから楽しいのよね……、自分に降りかかると楽しくない!! 緊張しかないわよ!!

「服とか……礼儀とか、どうしよう……」

 無意識にラズを抱き潰していたらしく、『ぐえっ』という声が聞こえたが、それどころではなかった。

『と、とりあえず役所に相談しろ! は、離せ! ぐ、ぐるじぃ……』

 ラズがぐんにゃりした。あ、しまった、絞めすぎた。

「アハ、ごめんごめん」

 そっとラズを膝に座らせ、今度はふんわりと抱き締めた。

『ヒナタ?』

 ラズがどうしたのかと聞く。うん、何かラズが戻って来た安心感とお城への緊張と、何か頭がパンクしそうだったから、一度落ち着きたかった。

「やっぱりラズがいると安心するのよね。戻って来てくれてありがとう」

 ふわふわとしたラズの毛を撫で、ラズの温かさにほっこり落ち着く。と、思っていたら何だかどんどんラズが熱くなってきたような?

「ん? ラズ?」

 身体を離しラズの顔を見ると、ぐりん! と思い切り逸らされた。どれだけ顔を見ようとしても、そのたびにぐりん! ぐりん! と反対方向に顔を向ける。ムム、何なのよ。

「ちょっと! せっかく仲直り? いや、喧嘩してたわけじゃないけど、せっかく戻って来たのに何で顔逸らすのよ!」
『気にするな! 意味はない!!』
「はぁ!? 意味はないって、ただ私の顔を見たくないだけってこと!?」
『はぁ!? 違う! い、良いからもう離せ! 役所に行くんだろ!?』
「あ、そうだった」

 ラズを下ろし、手紙をカバンに入れると、森から戻って来た道のりをまた戻る。

「あー、この道を今日だけで何往復するのかしらね」

 がっくりしながら長い道のりを歩く。すっかり昼に差し掛かって来ていたため、あちこちから良い匂いが漂って来ていた。

「お昼食べてから行こうか」

 どこかの店でお昼を食べに行こうかとぶらぶらしていると、背後から声が聞こえた。

「あれ? ヒナタ?」

 振り向くとジークがいた。

「ヒナタも昼飯か?」

 ジークが手を振りながら駆け寄って来た。

「うん、ジークも?」
「あぁ、今日は俺も休みなんでな、街でぶらぶらしようかと思ってな」

 聞けばジークは氷の切り出しのような重労働の仕事ばかりを請け負っているらしい。今日は次の仕事へ行く合間の休日。

「一緒に昼飯食べないか?」

 そういえば約束したよね、と思ったけど、何となくラズをチラリと見た。いつも危機感を持てと言われ続け、今回私自身もこれからもっと気を付けると約束をしたのだ。
 ジークを警戒する必要はないと思うが、一緒に食事に行くことはラズ的に許せることなのか気になった。

 私がチラリとラズを見ていることに気付いたのか、ジークが慌てて言う。

「あ、もちろんラズも一緒にな!」

 ラズはムスッとした顔ながらも、私の脚に絡みついて来た。んん? 何だろうか。
 身体を摺り寄せ、尻尾を絡ませ、顔をスリスリとさせる。な、何なのよ、どうしちゃったの、ラズ。

 ラズを抱き上げると『ニャー』と一声鳴いて、私の頬を舐めた。

「ラ、ラズ?」

 また舐めて来た! しかも何度も! 何なのよ急に! ずっとスリスリ、まさに猫なで声で甘えたような鳴き声を出しながら纏わり付く。

 それを見たジークの顔が若干引き攣っているような?

「ア、アハハ……、ラズはヒナタが大好きなんだな」
「えぇ!?」

 ラズは一瞬ピクリとしたが、そのままスリスリスリスリ。本当にどうしちゃったのよ、今まで私がスリスリしていたら怒ったくせに。

「と、とりあえず昼飯行くか!」
「あ、うん、そうだね」

 何だかよく分からないまま、ラズはいまだに私の首に顔を埋めている。ラズの吐息やら毛並みが首をさわさわとし、くすぐったく少し身をよじる。

「ラズ、どうしたの?」

 ジークの後ろに続いて歩きながら、小声で聞いた。するとラズは私の耳に口を近付けたかと思うと、低い声で囁いた。

『お前は俺が守るって言っただろ』

「!?」

 耳元で吐息がかかるように囁かれゾクッとする。

 な、な、何なのよ!! 何そのくさい台詞!! ラズってばどうしちゃったのよ!! 何か分からないけどドキドキして鼻血出そう!! 何で猫に!! ラズのくせに!! きぃー!! 猫にドキドキするなんて意味分からーん!! ラズの馬鹿!!

 何だか耳元やら首元がゾワゾワする。
 目当ての店に着いたのか、ジークが立ち止まりおもむろに振り返った。

「ん? ヒナタ、どうかしたか?」
「え? 何で?」
「え、いや、顔が赤いから……」
「え! いや! 何もないよ? 大丈夫!」
「そ、そうか?」

 あわわ、顔赤いのか! ヤバい! 何か恥ずかしいし、ドキドキするし、ラズはしれっとしてるし! もう! ラズの馬鹿ー!!
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