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第1章《因果律》編
第5話 魚料理
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様々な色の魔石、リラーナが色々と説明をしてくれるのをふむふむと聞きながら、いつまでたっても終わりがないため、お父様が呆れたように溜め息を吐いたかと思うと肩を叩かれた。
「いい加減、そろそろおしまいにするよ。夕食を食べに行かないと。明日は朝が早いんだから」
「えぇ、もうちょっと眺めてたいのに」
ぶすっと膨れてみせると、お父様もお母様も苦笑していた。
「洗礼式が終わったらまたゆっくりと来たら良いじゃない」
それを見兼ねてかリラーナが笑いながら言った。
「ルーサの神託が何だったのかも聞きたいし!」
ニッと笑ったリラーナ。
「うん、そうね、明日洗礼式が終わったらまた報告に来るわ!」
「待ってるわよ」
リラーナは私をぎゅっと抱き締め、「また明日ね」と囁いた。
お父様とお母様は少し心配なのかなんだか微妙な顔をしていたが、私は明日が楽しみで仕方なかった。
ダラスさんとリラーナに別れを告げ、店の外に出ると、辺りはもうすっかりと夜になっていた。
「あれ、真っ暗」
「当たり前だ! あんな長いこと魔石を眺めていたんだからな」
お父様は呆れ顔、お母様はクスクスと笑っている。
そんなに長いこと見ていたのかしら。
「だって、石を眺めていると時間を忘れてしまうんですもの」
「はぁぁあ、お前は本当に石が好きだな」
苦笑するお父様は私の頭に大きな手を置くとガシガシと撫でた。
「さて、他の店も色々見るつもりだったのに、ルーサのせいで時間がなくなってしまったから、今日はもう夕食にするぞ」
私のせいにされるのは納得がいかないけれど、確かにお腹も空いたしね。ここは黙っておこう。
王都に来たときにはいつも同じ宿に泊まり、同じ店に食べに行く。昼は街をぶらぶらと歩きながら新しい店に入ったりもするのだが、夜は必ずお父様お気に入りの店に行く。
そこの魚料理が最高に美味しいのだそうだ。
ローグ伯爵領は王都に近いとはいえ、そこそこ田舎のため新鮮な魚は食べられないのだ。近くに海があるわけでも川があるわけでもない。海なんかは本で読んだり話に聞いたりするだけで、実際見たこともない。だからローグ伯爵領で魚料理が食べられることはほぼないのだ。
王都の場合、海が近いわけではないが、なにやら流通が整っているらしいと勉強したことがある。港町から魚が運ばれてくるらしいのだが、空輸されてくるとかなんとか。さっぱり分からなかったけど、王都には何かしら凄い技術があるのだろう、と納得させた。
滅多に食べられない魚料理を、王都に来たときには必ず食べたいのだ、とお父様は必ずそう言い、おススメのお店に行く決まりになっている。
いつものようにお父様に手を繋がれ、歩いて行くとそこかしこに良い匂いを漂わせる店がいっぱいある。
すでに夜となり真っ暗となった王都だが、さすが王都というべきか、夜でも昼間と同じくらい明るく、街灯がたくさん灯され街を照らす。城の周りに広がる運河は街灯の灯りが映り込みキラキラとして綺麗だ。
明るく活気のあった街は夜の街灯に照らされ一気に幻想的な雰囲気となった。
運河沿いの道を歩き、一つの店へと入る。特別大きな店でもないが、石造りの三階建てで一階と二階部分が店となっている。一階は大衆向けにテーブルが多く並び、大勢の人ですでに賑わっていた。
二階は半個室のようになっていて、静かに食事をしたい人用になっている。お父様はいつも二階の半個室を利用していた。いわく「落ち着いて魚料理を堪能したいのだ」そう。
何度も来ているため常連だ。いつものように二階へと案内され席に着く。
「アグナ様、お久しぶりですね。いつもの料理でよろしいですか? 今日は珍しい料理もありますよ?」
この店では家名は名乗っていないらしい。貴族だとか知られて違う料理を出されるのが嫌なのだそうだ。そこは変なこだわりのお父様。
「やあご主人、お久しぶり。珍しい料理? それはどんな!?」
お父様の目が輝いた。その顔に笑いそうになり、お母様とこっそり二人でクスクスと笑った。
「生魚の料理です」
「生魚!?」
「はい」
店主はニコリと笑い、お父様は驚愕の顔。ナマザカナ? ってなにかしら。
「ねえ、お母様、ナマザカナってなに?」
こっそりとお母様に耳打ちする。
「うーん、なにかしらね。生というくらいだから、焼いてないお魚かしら」
「焼いてない!? そんなの食べられるの!?」
「普通食べられないわよね。どんな料理なのかしらね」
お母様は半信半疑のようだった。
「つい先程届いたばかりの新鮮な魚です。本来ならば生で食べることなどありませんが、水揚げされたばかりの本当に新鮮な魚ならば生でも食べられるそうなのです。料理長が港町の出身なので、地元ではよく食べていたそうなのですよ」
「それはぜひ食べてみたい!」
「フフ、かしこまりました。では、本日はそちらの料理をご用意させていただきますね」
興奮するお父様に店主もご機嫌だわ。ニコニコしながら店主は厨房へと戻って行った。
「楽しみだなぁ! 生魚なんて初めてだよ」
「本当に食べられるのでしょうか……」
お母様は少し不安そう。私はというと……興味津々よね! 食べたことがないものは気になる! 食べてみたーい!
お父様と二人でウキウキしながら、お母様は苦笑し、しばらく待つと大きな皿を抱えた店主、それに後ろからも同じくらいの大きな皿を抱えた店の人がやって来た。
「お待たせ致しました。キトキトという魚です。タレを付けてお召し上がりください」
テーブルに置かれた大皿には白く半透明なものが一口サイズほどの大きさに薄く切られていて、まるで花が咲くように綺麗に並べられていた。
「わぁ、凄い! 綺麗ね!」
思わず声を上げると店主は嬉しそうに笑った。
他にもたくさんの皿が置かれ、サラダや焼き魚、肉料理にスープとパン。どれも美味しそうな匂いを漂わせていた。
好きな料理を好きなように自分で取り分けて食べるという、これまた屋敷では体験出来ない食べ方に思わずワクワクしてしまう。
「いい加減、そろそろおしまいにするよ。夕食を食べに行かないと。明日は朝が早いんだから」
「えぇ、もうちょっと眺めてたいのに」
ぶすっと膨れてみせると、お父様もお母様も苦笑していた。
「洗礼式が終わったらまたゆっくりと来たら良いじゃない」
それを見兼ねてかリラーナが笑いながら言った。
「ルーサの神託が何だったのかも聞きたいし!」
ニッと笑ったリラーナ。
「うん、そうね、明日洗礼式が終わったらまた報告に来るわ!」
「待ってるわよ」
リラーナは私をぎゅっと抱き締め、「また明日ね」と囁いた。
お父様とお母様は少し心配なのかなんだか微妙な顔をしていたが、私は明日が楽しみで仕方なかった。
ダラスさんとリラーナに別れを告げ、店の外に出ると、辺りはもうすっかりと夜になっていた。
「あれ、真っ暗」
「当たり前だ! あんな長いこと魔石を眺めていたんだからな」
お父様は呆れ顔、お母様はクスクスと笑っている。
そんなに長いこと見ていたのかしら。
「だって、石を眺めていると時間を忘れてしまうんですもの」
「はぁぁあ、お前は本当に石が好きだな」
苦笑するお父様は私の頭に大きな手を置くとガシガシと撫でた。
「さて、他の店も色々見るつもりだったのに、ルーサのせいで時間がなくなってしまったから、今日はもう夕食にするぞ」
私のせいにされるのは納得がいかないけれど、確かにお腹も空いたしね。ここは黙っておこう。
王都に来たときにはいつも同じ宿に泊まり、同じ店に食べに行く。昼は街をぶらぶらと歩きながら新しい店に入ったりもするのだが、夜は必ずお父様お気に入りの店に行く。
そこの魚料理が最高に美味しいのだそうだ。
ローグ伯爵領は王都に近いとはいえ、そこそこ田舎のため新鮮な魚は食べられないのだ。近くに海があるわけでも川があるわけでもない。海なんかは本で読んだり話に聞いたりするだけで、実際見たこともない。だからローグ伯爵領で魚料理が食べられることはほぼないのだ。
王都の場合、海が近いわけではないが、なにやら流通が整っているらしいと勉強したことがある。港町から魚が運ばれてくるらしいのだが、空輸されてくるとかなんとか。さっぱり分からなかったけど、王都には何かしら凄い技術があるのだろう、と納得させた。
滅多に食べられない魚料理を、王都に来たときには必ず食べたいのだ、とお父様は必ずそう言い、おススメのお店に行く決まりになっている。
いつものようにお父様に手を繋がれ、歩いて行くとそこかしこに良い匂いを漂わせる店がいっぱいある。
すでに夜となり真っ暗となった王都だが、さすが王都というべきか、夜でも昼間と同じくらい明るく、街灯がたくさん灯され街を照らす。城の周りに広がる運河は街灯の灯りが映り込みキラキラとして綺麗だ。
明るく活気のあった街は夜の街灯に照らされ一気に幻想的な雰囲気となった。
運河沿いの道を歩き、一つの店へと入る。特別大きな店でもないが、石造りの三階建てで一階と二階部分が店となっている。一階は大衆向けにテーブルが多く並び、大勢の人ですでに賑わっていた。
二階は半個室のようになっていて、静かに食事をしたい人用になっている。お父様はいつも二階の半個室を利用していた。いわく「落ち着いて魚料理を堪能したいのだ」そう。
何度も来ているため常連だ。いつものように二階へと案内され席に着く。
「アグナ様、お久しぶりですね。いつもの料理でよろしいですか? 今日は珍しい料理もありますよ?」
この店では家名は名乗っていないらしい。貴族だとか知られて違う料理を出されるのが嫌なのだそうだ。そこは変なこだわりのお父様。
「やあご主人、お久しぶり。珍しい料理? それはどんな!?」
お父様の目が輝いた。その顔に笑いそうになり、お母様とこっそり二人でクスクスと笑った。
「生魚の料理です」
「生魚!?」
「はい」
店主はニコリと笑い、お父様は驚愕の顔。ナマザカナ? ってなにかしら。
「ねえ、お母様、ナマザカナってなに?」
こっそりとお母様に耳打ちする。
「うーん、なにかしらね。生というくらいだから、焼いてないお魚かしら」
「焼いてない!? そんなの食べられるの!?」
「普通食べられないわよね。どんな料理なのかしらね」
お母様は半信半疑のようだった。
「つい先程届いたばかりの新鮮な魚です。本来ならば生で食べることなどありませんが、水揚げされたばかりの本当に新鮮な魚ならば生でも食べられるそうなのです。料理長が港町の出身なので、地元ではよく食べていたそうなのですよ」
「それはぜひ食べてみたい!」
「フフ、かしこまりました。では、本日はそちらの料理をご用意させていただきますね」
興奮するお父様に店主もご機嫌だわ。ニコニコしながら店主は厨房へと戻って行った。
「楽しみだなぁ! 生魚なんて初めてだよ」
「本当に食べられるのでしょうか……」
お母様は少し不安そう。私はというと……興味津々よね! 食べたことがないものは気になる! 食べてみたーい!
お父様と二人でウキウキしながら、お母様は苦笑し、しばらく待つと大きな皿を抱えた店主、それに後ろからも同じくらいの大きな皿を抱えた店の人がやって来た。
「お待たせ致しました。キトキトという魚です。タレを付けてお召し上がりください」
テーブルに置かれた大皿には白く半透明なものが一口サイズほどの大きさに薄く切られていて、まるで花が咲くように綺麗に並べられていた。
「わぁ、凄い! 綺麗ね!」
思わず声を上げると店主は嬉しそうに笑った。
他にもたくさんの皿が置かれ、サラダや焼き魚、肉料理にスープとパン。どれも美味しそうな匂いを漂わせていた。
好きな料理を好きなように自分で取り分けて食べるという、これまた屋敷では体験出来ない食べ方に思わずワクワクしてしまう。
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