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第2章《修行》編
第40話 魔蟲の魔石
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「それは……お聞きしないほうが良いですか?」
気になるけれど、言いたくない話なら申し訳ない。ミスティアさんはアハハと頭を掻いた。
「あー、まあ、なんというか、そんな楽しい話じゃないしね……まあ、私が魔導師団で戦えなくなっただけさ」
そう言ったミスティアさんの顔が少し悲しそうな顔に見えて気になったが、ミスティアさんはすぐに踵を返してしまい、何も言えなくなってしまった。
「そんなことよりも魔石付与が見たいんだろ? そういや君たち、ダラスのところの子たちだったか?」
振り向いたミスティアさんはもう先程の複雑そうな表情ではなく、最初に出会ったときの姿に戻っていた。クリスさんはいまだに複雑そうな顔で眉間に皺を入れているけれど……。
「「はい」」
「ダラスの娘のリラーナと申します。こちらは弟子のルーサです」
「ハハハ、ダラスもようやく弟子を取ったのか! 彼はこのまま誰も弟子を取らないのかと思っていたが」
アハハと笑いながら私の頭に手を置いたミスティアさん。
「しかもこんなに可愛い子を弟子にするとはねぇ。意外だよ」
「あの……師匠……いえ、ダラスさんが弟子を取るのってそんなに意外なんですか?」
そういえばウィスさんもロンさんも滅茶苦茶驚いていたな、ということを思い出した。
「そりゃ意外だよ! 彼の魔石には私も昔から世話になっているが、あの偏屈! あ、娘の前で申し訳ない、ハハハ」
「あー、いえ、うちの父は偏屈ですよ、ハハハ」
リラーナが苦笑した。ミスティアさんはしかしダラスさんを嫌いだとかそういった感情があるようには見えない。親しみがあるからこその発言のよう。
「ほんとうちの父は頑固だし、魔石のことばかりだし、人の意見は聞かないし……」
ブツブツとリラーナの愚痴が始まってしまった。
「アッハッハッ! だよなぁ、ダラスは本当に頑固だ! 弟子は取らないのとかと聞いたこともあるが、いつも「いらん」としか言わなかったからな! 一人で全てをこなすには大変だろうに頑なに弟子はいらんって言っていたからな」
「そうなんですよ、魔石の採掘や魔獣からの採取なんて危ない作業も、一人だと大変だから弟子を取れば? って言ってるのに全く聞かないし!」
「まああれは他人と上手くやっていく自信がないだけかもしれんがなぁ」
ワハハと笑いながらミスティアさんが言うとリラーナが溜め息を吐いた。
「でも私を弟子にしてくれた……」
お父様がかなり無理を言ったんだろうなぁ……なんだか申し訳ない。
「ハハ、だから本当に驚いたよ。まさか弟子! しかもこんな可愛らしい子を! ダラスのむっつりめ!」
「え、あ、あの、ダラスさんは私の父に頼みこまれて仕方なく!」
ダラスさんの名誉が!!
「んー? あー、ハハ、冗談冗談! ルーサは良い子だな! ハハハ!」
豪快に笑ったミスティアさんに背中をバシバシと叩かれる……。
「さてと、ダラスのことはどうでもいいさ。魔石付与を見せよう。こちらにおいで」
ひとしきり笑い終わったミスティアさんが話を戻した。クリスさんはやれやれと言った顔で、ミスティアさんの後に続く。
ミスティアさんはカツカツとヒールの音を鳴らしながら、作業をしている魔導師さんたちの傍へと向かった。
魔導師さんたちは声を掛けられると、皆作業の手を止めこちらに挨拶をしてくれた。皆が「ダラスさんにはお世話になっています」とリラーナや私ににこやかに言ってくれる。ダラスさんの魔石ってやっぱり凄いのね。国の魔導師団で使われる魔導具に採用されているんだものね。本当に凄いわ。
魔導師さんたちは今行っている付与作業を見せてくれた。何人かは私でも理解出来る天然魔石だったが、一人だけ明らかに違う魔石に付与を施している人がいた。
見るからに大きさが大きく、大人の掌で隠せないほどの大きさだった。
「あれは……もしかして魔獣とかの魔石ですか?」
「そう、よく分かったね。あれは魔蟲の魔石だよ」
「魔蟲……」
大きく黄色い魔石。キラキラと綺麗。
「魔蟲の魔石って体液から出来るんでしたっけ?」
「そうだよ、まだ教わってないかな?」
「はい、まだ精製魔石の段階で」
アハハ、と苦笑したが、ミスティアさんは私の頭を撫でると微笑んだ。
「うん、魔蟲もだが、魔獣などの魔石は危険だからな。きっとルーサがもう少し大人になってからになるんじゃないか?
魔獣や魔蟲、それに魔魚もだが、死んだ瞬間から血や体液が腐敗していく。だから死んですぐじゃないと魔石が採取出来ない。どうやるのかは知らんが魔石精製師は血や体液を結晶化させる力があるらしいからな。死んだ瞬間にそれを行うのだそうだ」
「死んだ瞬間に結晶化……なるほど」
結晶化といえば精製魔石も同じ。あれは直接触れながら魔力を送る。魔獣たちが死んだ直後に血に触れて魔力を送るのかしら……うぐっ。少し不快になってしまった……。
気になるけれど、言いたくない話なら申し訳ない。ミスティアさんはアハハと頭を掻いた。
「あー、まあ、なんというか、そんな楽しい話じゃないしね……まあ、私が魔導師団で戦えなくなっただけさ」
そう言ったミスティアさんの顔が少し悲しそうな顔に見えて気になったが、ミスティアさんはすぐに踵を返してしまい、何も言えなくなってしまった。
「そんなことよりも魔石付与が見たいんだろ? そういや君たち、ダラスのところの子たちだったか?」
振り向いたミスティアさんはもう先程の複雑そうな表情ではなく、最初に出会ったときの姿に戻っていた。クリスさんはいまだに複雑そうな顔で眉間に皺を入れているけれど……。
「「はい」」
「ダラスの娘のリラーナと申します。こちらは弟子のルーサです」
「ハハハ、ダラスもようやく弟子を取ったのか! 彼はこのまま誰も弟子を取らないのかと思っていたが」
アハハと笑いながら私の頭に手を置いたミスティアさん。
「しかもこんなに可愛い子を弟子にするとはねぇ。意外だよ」
「あの……師匠……いえ、ダラスさんが弟子を取るのってそんなに意外なんですか?」
そういえばウィスさんもロンさんも滅茶苦茶驚いていたな、ということを思い出した。
「そりゃ意外だよ! 彼の魔石には私も昔から世話になっているが、あの偏屈! あ、娘の前で申し訳ない、ハハハ」
「あー、いえ、うちの父は偏屈ですよ、ハハハ」
リラーナが苦笑した。ミスティアさんはしかしダラスさんを嫌いだとかそういった感情があるようには見えない。親しみがあるからこその発言のよう。
「ほんとうちの父は頑固だし、魔石のことばかりだし、人の意見は聞かないし……」
ブツブツとリラーナの愚痴が始まってしまった。
「アッハッハッ! だよなぁ、ダラスは本当に頑固だ! 弟子は取らないのとかと聞いたこともあるが、いつも「いらん」としか言わなかったからな! 一人で全てをこなすには大変だろうに頑なに弟子はいらんって言っていたからな」
「そうなんですよ、魔石の採掘や魔獣からの採取なんて危ない作業も、一人だと大変だから弟子を取れば? って言ってるのに全く聞かないし!」
「まああれは他人と上手くやっていく自信がないだけかもしれんがなぁ」
ワハハと笑いながらミスティアさんが言うとリラーナが溜め息を吐いた。
「でも私を弟子にしてくれた……」
お父様がかなり無理を言ったんだろうなぁ……なんだか申し訳ない。
「ハハ、だから本当に驚いたよ。まさか弟子! しかもこんな可愛らしい子を! ダラスのむっつりめ!」
「え、あ、あの、ダラスさんは私の父に頼みこまれて仕方なく!」
ダラスさんの名誉が!!
「んー? あー、ハハ、冗談冗談! ルーサは良い子だな! ハハハ!」
豪快に笑ったミスティアさんに背中をバシバシと叩かれる……。
「さてと、ダラスのことはどうでもいいさ。魔石付与を見せよう。こちらにおいで」
ひとしきり笑い終わったミスティアさんが話を戻した。クリスさんはやれやれと言った顔で、ミスティアさんの後に続く。
ミスティアさんはカツカツとヒールの音を鳴らしながら、作業をしている魔導師さんたちの傍へと向かった。
魔導師さんたちは声を掛けられると、皆作業の手を止めこちらに挨拶をしてくれた。皆が「ダラスさんにはお世話になっています」とリラーナや私ににこやかに言ってくれる。ダラスさんの魔石ってやっぱり凄いのね。国の魔導師団で使われる魔導具に採用されているんだものね。本当に凄いわ。
魔導師さんたちは今行っている付与作業を見せてくれた。何人かは私でも理解出来る天然魔石だったが、一人だけ明らかに違う魔石に付与を施している人がいた。
見るからに大きさが大きく、大人の掌で隠せないほどの大きさだった。
「あれは……もしかして魔獣とかの魔石ですか?」
「そう、よく分かったね。あれは魔蟲の魔石だよ」
「魔蟲……」
大きく黄色い魔石。キラキラと綺麗。
「魔蟲の魔石って体液から出来るんでしたっけ?」
「そうだよ、まだ教わってないかな?」
「はい、まだ精製魔石の段階で」
アハハ、と苦笑したが、ミスティアさんは私の頭を撫でると微笑んだ。
「うん、魔蟲もだが、魔獣などの魔石は危険だからな。きっとルーサがもう少し大人になってからになるんじゃないか?
魔獣や魔蟲、それに魔魚もだが、死んだ瞬間から血や体液が腐敗していく。だから死んですぐじゃないと魔石が採取出来ない。どうやるのかは知らんが魔石精製師は血や体液を結晶化させる力があるらしいからな。死んだ瞬間にそれを行うのだそうだ」
「死んだ瞬間に結晶化……なるほど」
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