【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

文字の大きさ
98 / 247
第3章《試験》編

第95話 森の最奥地

しおりを挟む
「俺たちはフェスラーデの森はこの辺りで退散するよ」

 ライたちは結局同じアシェリアンの泉で夜を明かし、朝になってそう告げた。

「リースの脚の怪我は治ったが、次も似たような状況になった場合、俺たちだけじゃ対処出来ないかもしれないしな。それよりも確実性の高い砂漠へ行くよ」
「そっか」

 荷物を片付けながらそう言ったライ、そしてリースも晴れやかな顔だった。

「ルーサも気を付けてね」
「うん」

 そうやって挨拶を交わし、ライとリースは森を去って行った。



「俺たちはまた先に進むか」

 ライたちと別れたあと、再び森の奥地を目指す。ライたちの前では姿を消していたルギニアスが再び現れ、私の肩の上に乗った。
 今まで通ったことのある道を最短で進んで行く。途中で見かけた魔獣も今手に入れている魔石よりも強いものではなさそうならば、見付からないようにやり過ごし進んで行く。
 そうやって効率良く進んで行くと、ついに山の麓までたどり着いた。

 たどり着いた麓は木々が少なく、岩肌が剝き出しになった切り立った崖が目の前に立ち塞がった。見上げると遥か上のほうには再び木々が広がっているようだった。

「これ、やっぱりここで行き止まりってことかしら」
「うーん、そうだなぁ。ちょっと周りを散策してみるか?」
「そうだね」

 岩肌に沿って歩いてみるがどこもずっと崖が続いているだけだった。魔獣や魔蟲の姿もない。

「ねえ、魔獣と魔蟲もいないのはなんでだろう?」
「そういやそうだな」

 辺り一帯が静まり返り、魔獣や魔蟲の気配もない。それが逆に不気味に感じる。今までこの場所にたどり着くまでに遭遇した魔獣たちの数に比べたら、明らかに異質だ。アシェリアンの泉とは違う違和感。

「なにか嫌な予感がするな……」

 イーザンが眉間に皺を寄せながら言った。それに応えるようにルギニアスが叫んだ。

「来るぞ!!」

 その瞬間、頭上から大きな影が落ちた。

「「「!?」」」

 三人とも勢い良く一斉に空を見上げた。森の木々が切れ、崖がそびえ立つその場所。頭上の空は広く、青い空が広がっていた。しかしそれを視界から隠すように影を落としたのは……


「「「ドラゴン!?」」」


 圧倒的な大きさの身体に黒々とした漆黒の鱗が艶やかに光り、大きく翼を羽ばたかせ、真紅の鋭い眼でこちらを睨み付けている。

「な、なんでこんなところにドラゴンが!?」

「そんなことはどうでもいい!! 距離を取れ!!」

 ディノは驚きの声を上げ、イーザンは焦ったように退避を促した。私は初めて見る巨大なドラゴンに身体が強張り動けなかった。

「「ルーサ!!」」

 ディノとイーザンが叫び、そしてルギニアスが私の髪を引っ張った。

「動け!!」

 耳元で叫ばれたルギニアスの声にようやく身体が動いた私は、まだ強張るからだを無理矢理動かし走った。

「な、なんなのあれ、フェスラーデの森にドラゴンがいるなんて聞いたことない!!」

 叫んだ言葉はディノたちにも届き同様に驚愕の顔でドラゴンを見る。

『グルゥゥァァァァアアアア!!』

 ドラゴンが咆哮を上げる。ビリビリと空気が震えた。それと同時に森の木々が揺れ、鳥たちが一斉に飛び立った。魔獣たちがこの付近にいなかった理由はこのドラゴンのせいだったのね!

「く、くそっ、あんな奴、戦って勝てるか!?」

「厳しいな……しかしすでに標的になっている。逃げ切れるとも思えない」

 ディノとイーザンからは焦りの表情。ど、どうしよう!! まさかこんな相手に遭遇するなんて……。

 必死に森のなかへ身を隠そうと走る。大きく羽ばたいたドラゴンの翼からは激しい風が巻き起こり、私たちの身体を吹き飛ばす。

「「「!!」」」」

 激しく地面に叩きつけられ転がった私たちは、しかしそれを気にしている場合でなく、すぐさま立ち上がり森を目指す。
 ドラゴンはそれを分かっているのか、空高く舞い上がったかと思うと、大きく旋回し急降下。私たちの目の前の森の木々を薙ぎ倒していく。
 目の前を巨体が横切り、先頭にいたディノはドラゴンの翼に弾かれた。

「ディノ!!」

 ディノは瞬間的に剣を抜き、ドラゴンの翼が自身に当たるのを防いだ。しかし、当たった衝撃は免れなく、背後に吹き飛ばされる。

「ぐあっ!!」

 なんとか受け身を取り体勢を整えたディノ。その姿にホッと息を吐く。

 薙ぎ払われた木々を目の前で確認したイーザンは覚悟を決めた目で振り返る。

「ルーサは離れていろ、戦う」

「!!」

 イーザンはドラゴンに向き直り、魔導剣を抜いた。ディノもそれを目にし、自身も覚悟を決めたようだった。同様に剣を構えた。

 あぁ、どうしよう……私のせいだ……私のせいで二人の命が危険に……こんな奥地まで来なければ……私の判断ミスだ……どうしよう……二人が死んでしまったら……。
 リースにあんな偉そうに言っておいて、私、今後悔してる……。覚悟を持ってここに来たつもりだった……でも……でも二人の命を懸けてまで魔石が欲しい訳じゃない……。

 涙が込み上げそうになるのを必死で堪える。情けない。泣いている場合じゃないのに。

「目を逸らすな。逃げるな。あいつらはお前のせいだなんて思っていない。あいつらはまだ諦めていないのに、お前が否定するな」

 ルギニアスが私の肩の上、二人を真っ直ぐ見据えたまま言った。

「ルーちゃん……ありがとう……」

 そうよ……私が諦めてどうするのよ……目を逸らしちゃいけない。

 強張る身体。ぐっと拳を握り締める。私は真っ直ぐ二人を見詰めた。

しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

処理中です...