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第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編
第190話 ルギニアスの決意
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ルギニアスはむくりと起き上がり、座り込むと眠るルーサの顔を見詰めた。
「アリシャ……」
ルギニアスはルーサの頬に手を伸ばし触れる。温かい頬に安心する。生きていることに安心する。
いつも目の前でこの手から零れ落ちる命。いつもどうすることも出来なかった。
魔物たちのこともそうだった。王として乞われ戦ったが、死んでいく仲間を見ると、王として軍を率いたことが正解だったのかが分からなくなった。
殺したくはない、というあいつの言葉を聞きながら、どうすることも出来なかった自分にも苛立った。
「今度こそ……俺は守れるのか?」
泣きながら封印したあいつはあのときなにを思っていたんだろうか。なぜ謝ったのだろうか。アリサにそれを聞いたことはなかった。いや、一度だけ聞いたことがあったか……。
『んー? なんでだろうね。忘れちゃった』
そう言って笑って誤魔化された。おそらく忘れている訳ではないと分かった。しかし、あいつは微笑むだけで、なにも言わなかった。
そして自分のことよりもいつも「あの子のことをお願いね」と、そう言っていた。まるでこのあとに起こることを知っていたかのように……。あれは「サクラを守れ」という意味ではなかったんだろうか。
サクラがルーサとして生まれ変わることを分かっていたのではないかとすら思ってしまう。
サクラの転生に巻き込まれ、こちらの世界に戻って来たことにもなにか意味があるのだろうか。アシェリアンは一体なにがしたい。
「もうお前が死ぬところなんて見たくないんだよ……」
ルギニアスはルーサの頬に再び触れる。小さい身体のままだと、頬に触れる手は小さい。しかし、それでもしっかりと温かさは感じられる。
今まで魔石のなかで歯痒い思いをしてきたが、今はもう自由だ。アシェリアンがなにを考えているのかは分からないが、もう二度と失うつもりはない。
ルギニアスは風を巻き上げ大きくなった。ギシッとベッドが軋み、片手を付き、ルーサの顔を覗き込むように覆い被さると、長い髪がはらりと肩から滑り落ち、ルーサの髪と重なる。
手を伸ばし、撫でるように前髪を掻き分け、そしてルーサの額に顔を近付けたかと思うと、なにかを呟き、そっと口付けた。唇が触れたその額にはポウッと赤く小さな光。淡く光ったそれはすぐさま消え、跡形もなくなった。
「今度こそ守る……」
囁くように言ったルギニアスは身体を起こし、ルーサの頭を大きな手でふわりと撫でた。
そして再び小さくなるとルーサの傍で眠ったのだった。
翌朝、部屋で朝食を摂り、ヴァドと共に王城へと向かった。
「すぐに面会出来るかは分からないから、その場合は城のなかに滞在許可をもらうよ」
「え、城に!?」
皆が驚いた顔をする。宿はすでに引き払い荷物を全て持って出て来てはいたが、まさか城に泊まることになろうとは!
「まあどちらにしろ……色々時間がかかりそうだからな」
「?」
ヴァドはそう言いながらもスタスタと歩いて行ってしまうため、どういう意味なのかを聞く暇がなかった。
城へは少し距離があるらしく、魔導車に乗っての移動となった。流しで走っている魔導車を捕まえ、ヴァドが城まで乗せてくれ、と頼んでいた。案の定、運転手はヴァドのことが分かったらしく、にこやかに了承していた。
魔導列車に乗ったときの方角とは違う方向へと走って行く魔導車。街の奥へと進み、様々な店を眺めつつ、次第に店が減って来たかと思うと、大きく開けた場所に出た。魔導列車の駅があったところよりもさらに開けている。
というか、駅があった場所は周りには建物が多く連なっていたため、その場所自体は開けていたが、周りを見回すと色々なものが目に入り、開けている場所という認識はあまりなかった。
しかし、今見えるこの場所は本当になにもないのだ。急に街並みが途切れたかと思うと、切り取られたかのように広い空間が現れ、石畳が広がるだけだった。
そして、その広々とした石畳の広場の先には高い塀が現れ、その塀の上に見えるそれは……
「す、すごっ」
「おぉ、でっかいなぁ」
圧倒的に大きいガルヴィオの王城が現れた。いくつもの棟が連なり、広大な敷地。さらには何階建てなんだろうか、高さもアシェルーダの城よりも高そうだ。そして……
「黒いわね……」
大きさもさることながら城の建物全てが真っ黒。そのことに皆衝撃を受け茫然。リラーナが呟いた言葉に頷く。
「黒いね……」
「黒いな……」
「ブッ、それしか感想ないのかよ」
ヴァドが噴き出し、ハハハッ、と声を上げて笑った。
「いやぁ、城と言えば白いイメージしかなかったから、かなり意外で驚いた」
「あぁ、アシェルーダの城は白いもんな」
「ヴァドってアシェルーダのお城に行ったことあるの?」
疑問に思ったが、そういえばヴァドは王子だった。ということは城に行ったことがあってもおかしくはないか。
「外交関係で行くことがあるからな。俺も遊んでばっかりじゃないんだよ。ハハ」
そう言いながら笑った。別に遊んでばっかりとは……思ってたかも……。
「アリシャ……」
ルギニアスはルーサの頬に手を伸ばし触れる。温かい頬に安心する。生きていることに安心する。
いつも目の前でこの手から零れ落ちる命。いつもどうすることも出来なかった。
魔物たちのこともそうだった。王として乞われ戦ったが、死んでいく仲間を見ると、王として軍を率いたことが正解だったのかが分からなくなった。
殺したくはない、というあいつの言葉を聞きながら、どうすることも出来なかった自分にも苛立った。
「今度こそ……俺は守れるのか?」
泣きながら封印したあいつはあのときなにを思っていたんだろうか。なぜ謝ったのだろうか。アリサにそれを聞いたことはなかった。いや、一度だけ聞いたことがあったか……。
『んー? なんでだろうね。忘れちゃった』
そう言って笑って誤魔化された。おそらく忘れている訳ではないと分かった。しかし、あいつは微笑むだけで、なにも言わなかった。
そして自分のことよりもいつも「あの子のことをお願いね」と、そう言っていた。まるでこのあとに起こることを知っていたかのように……。あれは「サクラを守れ」という意味ではなかったんだろうか。
サクラがルーサとして生まれ変わることを分かっていたのではないかとすら思ってしまう。
サクラの転生に巻き込まれ、こちらの世界に戻って来たことにもなにか意味があるのだろうか。アシェリアンは一体なにがしたい。
「もうお前が死ぬところなんて見たくないんだよ……」
ルギニアスはルーサの頬に再び触れる。小さい身体のままだと、頬に触れる手は小さい。しかし、それでもしっかりと温かさは感じられる。
今まで魔石のなかで歯痒い思いをしてきたが、今はもう自由だ。アシェリアンがなにを考えているのかは分からないが、もう二度と失うつもりはない。
ルギニアスは風を巻き上げ大きくなった。ギシッとベッドが軋み、片手を付き、ルーサの顔を覗き込むように覆い被さると、長い髪がはらりと肩から滑り落ち、ルーサの髪と重なる。
手を伸ばし、撫でるように前髪を掻き分け、そしてルーサの額に顔を近付けたかと思うと、なにかを呟き、そっと口付けた。唇が触れたその額にはポウッと赤く小さな光。淡く光ったそれはすぐさま消え、跡形もなくなった。
「今度こそ守る……」
囁くように言ったルギニアスは身体を起こし、ルーサの頭を大きな手でふわりと撫でた。
そして再び小さくなるとルーサの傍で眠ったのだった。
翌朝、部屋で朝食を摂り、ヴァドと共に王城へと向かった。
「すぐに面会出来るかは分からないから、その場合は城のなかに滞在許可をもらうよ」
「え、城に!?」
皆が驚いた顔をする。宿はすでに引き払い荷物を全て持って出て来てはいたが、まさか城に泊まることになろうとは!
「まあどちらにしろ……色々時間がかかりそうだからな」
「?」
ヴァドはそう言いながらもスタスタと歩いて行ってしまうため、どういう意味なのかを聞く暇がなかった。
城へは少し距離があるらしく、魔導車に乗っての移動となった。流しで走っている魔導車を捕まえ、ヴァドが城まで乗せてくれ、と頼んでいた。案の定、運転手はヴァドのことが分かったらしく、にこやかに了承していた。
魔導列車に乗ったときの方角とは違う方向へと走って行く魔導車。街の奥へと進み、様々な店を眺めつつ、次第に店が減って来たかと思うと、大きく開けた場所に出た。魔導列車の駅があったところよりもさらに開けている。
というか、駅があった場所は周りには建物が多く連なっていたため、その場所自体は開けていたが、周りを見回すと色々なものが目に入り、開けている場所という認識はあまりなかった。
しかし、今見えるこの場所は本当になにもないのだ。急に街並みが途切れたかと思うと、切り取られたかのように広い空間が現れ、石畳が広がるだけだった。
そして、その広々とした石畳の広場の先には高い塀が現れ、その塀の上に見えるそれは……
「す、すごっ」
「おぉ、でっかいなぁ」
圧倒的に大きいガルヴィオの王城が現れた。いくつもの棟が連なり、広大な敷地。さらには何階建てなんだろうか、高さもアシェルーダの城よりも高そうだ。そして……
「黒いわね……」
大きさもさることながら城の建物全てが真っ黒。そのことに皆衝撃を受け茫然。リラーナが呟いた言葉に頷く。
「黒いね……」
「黒いな……」
「ブッ、それしか感想ないのかよ」
ヴァドが噴き出し、ハハハッ、と声を上げて笑った。
「いやぁ、城と言えば白いイメージしかなかったから、かなり意外で驚いた」
「あぁ、アシェルーダの城は白いもんな」
「ヴァドってアシェルーダのお城に行ったことあるの?」
疑問に思ったが、そういえばヴァドは王子だった。ということは城に行ったことがあってもおかしくはないか。
「外交関係で行くことがあるからな。俺も遊んでばっかりじゃないんだよ。ハハ」
そう言いながら笑った。別に遊んでばっかりとは……思ってたかも……。
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