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第4章《旅立ち~獣人国ガルヴィオ》編
第204話 特別な存在
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身体が重い……私は……? 寒い。苦しい。怖い。そんな不安。
私は……なにか大事なことを忘れているような……。大切なものがあったような……。
心は暗く、寒く、冷え切っていた……。しかし、そんなときに、なにか温かいものに包まれたような気がした……。
でもそれがなにか分からない……。
懐かしいような……嬉しいような……緊張するような……、そんなそわそわふわふわとした気分。でも、なんだかそれがとても幸せだ……。
私はこの温かい存在を知っているはず……。
『おい、やめておけ。死ぬぞ?』
? 誰? 私は……?
小さな身体に小さな手。ここは? 見覚えが……。
きょろりと周りを見回すと狭い部屋に見えるのはテレビにテーブル、キッチンも見える。あちこちに散らばるおもちゃに年季の入った扇風機。
ベランダへと続く窓ガラスの向こうには……お母さん!!
お母さん!! お母さん!!
ぺちぺちと窓ガラスを叩くと、お母さんが振り向いてニコリと笑った。しかし、すぐに再び向き直り洗濯物を干している。
先程の声は誰なんだろう、ときょろりと再び周りを見回すと、テーブルの上に紫の綺麗な石があった。お母さんがいつも大切そうに持っている綺麗な石。それがテーブルの上にある。
普段見せてはくれるが触ったことはなかった。お母さんはこの石を触らせてくれたことは一度もなかった。そう思い出しドキドキしながら手を伸ばす。
『触るな、お前は駄目だ』
『どうして?』
『お前にはまだ扱えるだけの力がない』
『ちから? あなたはだあれ?』
綺麗な紫の石から聞こえてくる不思議な声。不思議だけれど怖くはない。どうしてだか分からないけれど、でも全く怖くはなかったの。
『…………俺は……何者でもない……』
『? なにものでもない?』
『……あぁ……』
『ふーん? おかあさんのおともだち?』
『は? あいつの友達な訳があるか』
『そうなの? でもたのしそうにはなしてた』
『…………』
そうだ、以前お母さんが誰かと話していた男の人の声。その声だ。この石から聞こえてたのかぁ。
『じゃあ、わたしとおともだち!』
『は?』
『わたしとおともだちだからね! やくそく! だからいつかすがたをみせてね! ぜったいね!』
あぁ、そうか……あれはルギニアス……。私……前世でルギニアスと話していたことがあるんだ……。
ルギニアスはあのときの約束を守ってくれたのね……。前世では叶わなかったけれど、今……サクラではなく、今の私の前で、姿を見せてくれたんだ……。
ルギニアス…………私の一番大切な人。
もちろん家族も大切だし、リラーナやディノたち、ダラスさんや街の人たちも大切。今まで出会った人たちみんな、私には大切な人たち。
でも……違うのよ……。やっぱりそのなかにも一番が……。みんなとは違う大切さ……特別な存在……。
ルギニアス……。
「ルーサ……ルーサ……目を開けろ……起きろ……いつまでも寝ているな……お前は両親を探すんだろう? こんなところで寝ていてどうする……ルーサ……頼むから……」
あぁ、ルギニアスの声。ルギニアスの不安そうな声。心配をしている声。
早く目を開けないと。きっと心配をしてくれている。
重い瞼を必死に開ける。薄っすらと開いた目からは眩しい光が差し込み、思わず再び閉じてしまう。それを再び必死にこじ開ける。
「……ル……ごほっ!」
声を出そうとして上手く言葉に出来ず咽てしまった。
「ルーサ!!!!」
温かいものが私の頬を包んでいることに気付く。それに触れようと力の入らない手を必死に伸ばす。そして、頬に触れるそれに自身の手を添え包む。ゆっくりとなんとか瞼を開いていくと、そこには悲痛な顔のルギニアスがいた。
「ルーサ!!!!」
私の頬を包むルギニアスの手。間近で見詰めるルギニアスの目からは涙が落ちた。ポタポタと私の頬に落ちた涙は、ルギニアスの手を包む私の手を濡らした。
あぁ、なんて悲しそうな顔。私はこんなにもルギニアスに心配をかけてしまったのね。こんなにも不安にさせてしまったのね。
ぎゅうっと胸が締め付けられた。
私は力の入らない手を必死に伸ばし、ルギニアスの首元にしがみ付いた。
「心配させてごめん。不安にさせてごめん」
今出来る力の限り、ルギニアスを抱き締めた。生きているということをルギニアスに伝えたかった。
ルギニアスの身体は震えていた。
「助けてくれてありがとう、ルギニアス」
そう言い、さらに力を込めて抱き締めた。
ルギニアスは震える身体を抑えるように、私を抱き締め返す。
背中に手を回し抱き起し、頭に手を添え、苦しいくらいに抱き締められる。ルギニアスはなにも言わなかった。その代わり、震えが治まるまで、ルギニアスはただきつく私を抱き締めた。
私は……なにか大事なことを忘れているような……。大切なものがあったような……。
心は暗く、寒く、冷え切っていた……。しかし、そんなときに、なにか温かいものに包まれたような気がした……。
でもそれがなにか分からない……。
懐かしいような……嬉しいような……緊張するような……、そんなそわそわふわふわとした気分。でも、なんだかそれがとても幸せだ……。
私はこの温かい存在を知っているはず……。
『おい、やめておけ。死ぬぞ?』
? 誰? 私は……?
小さな身体に小さな手。ここは? 見覚えが……。
きょろりと周りを見回すと狭い部屋に見えるのはテレビにテーブル、キッチンも見える。あちこちに散らばるおもちゃに年季の入った扇風機。
ベランダへと続く窓ガラスの向こうには……お母さん!!
お母さん!! お母さん!!
ぺちぺちと窓ガラスを叩くと、お母さんが振り向いてニコリと笑った。しかし、すぐに再び向き直り洗濯物を干している。
先程の声は誰なんだろう、ときょろりと再び周りを見回すと、テーブルの上に紫の綺麗な石があった。お母さんがいつも大切そうに持っている綺麗な石。それがテーブルの上にある。
普段見せてはくれるが触ったことはなかった。お母さんはこの石を触らせてくれたことは一度もなかった。そう思い出しドキドキしながら手を伸ばす。
『触るな、お前は駄目だ』
『どうして?』
『お前にはまだ扱えるだけの力がない』
『ちから? あなたはだあれ?』
綺麗な紫の石から聞こえてくる不思議な声。不思議だけれど怖くはない。どうしてだか分からないけれど、でも全く怖くはなかったの。
『…………俺は……何者でもない……』
『? なにものでもない?』
『……あぁ……』
『ふーん? おかあさんのおともだち?』
『は? あいつの友達な訳があるか』
『そうなの? でもたのしそうにはなしてた』
『…………』
そうだ、以前お母さんが誰かと話していた男の人の声。その声だ。この石から聞こえてたのかぁ。
『じゃあ、わたしとおともだち!』
『は?』
『わたしとおともだちだからね! やくそく! だからいつかすがたをみせてね! ぜったいね!』
あぁ、そうか……あれはルギニアス……。私……前世でルギニアスと話していたことがあるんだ……。
ルギニアスはあのときの約束を守ってくれたのね……。前世では叶わなかったけれど、今……サクラではなく、今の私の前で、姿を見せてくれたんだ……。
ルギニアス…………私の一番大切な人。
もちろん家族も大切だし、リラーナやディノたち、ダラスさんや街の人たちも大切。今まで出会った人たちみんな、私には大切な人たち。
でも……違うのよ……。やっぱりそのなかにも一番が……。みんなとは違う大切さ……特別な存在……。
ルギニアス……。
「ルーサ……ルーサ……目を開けろ……起きろ……いつまでも寝ているな……お前は両親を探すんだろう? こんなところで寝ていてどうする……ルーサ……頼むから……」
あぁ、ルギニアスの声。ルギニアスの不安そうな声。心配をしている声。
早く目を開けないと。きっと心配をしてくれている。
重い瞼を必死に開ける。薄っすらと開いた目からは眩しい光が差し込み、思わず再び閉じてしまう。それを再び必死にこじ開ける。
「……ル……ごほっ!」
声を出そうとして上手く言葉に出来ず咽てしまった。
「ルーサ!!!!」
温かいものが私の頬を包んでいることに気付く。それに触れようと力の入らない手を必死に伸ばす。そして、頬に触れるそれに自身の手を添え包む。ゆっくりとなんとか瞼を開いていくと、そこには悲痛な顔のルギニアスがいた。
「ルーサ!!!!」
私の頬を包むルギニアスの手。間近で見詰めるルギニアスの目からは涙が落ちた。ポタポタと私の頬に落ちた涙は、ルギニアスの手を包む私の手を濡らした。
あぁ、なんて悲しそうな顔。私はこんなにもルギニアスに心配をかけてしまったのね。こんなにも不安にさせてしまったのね。
ぎゅうっと胸が締め付けられた。
私は力の入らない手を必死に伸ばし、ルギニアスの首元にしがみ付いた。
「心配させてごめん。不安にさせてごめん」
今出来る力の限り、ルギニアスを抱き締めた。生きているということをルギニアスに伝えたかった。
ルギニアスの身体は震えていた。
「助けてくれてありがとう、ルギニアス」
そう言い、さらに力を込めて抱き締めた。
ルギニアスは震える身体を抑えるように、私を抱き締め返す。
背中に手を回し抱き起し、頭に手を添え、苦しいくらいに抱き締められる。ルギニアスはなにも言わなかった。その代わり、震えが治まるまで、ルギニアスはただきつく私を抱き締めた。
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