【完結】魔石精製師とときどき魔王 ~家族を失った伯爵令嬢の数奇な人生~

樹結理(きゆり)

文字の大きさ
240 / 247
最終章《因果律》編

第237話 聖女の血を継ぐ魔石精製師

しおりを挟む
 私の手のひらから溢れ出るかのように拡がっていく魔力。私の魔力ではない。しかし、この魔力は私の身体にとても馴染んでいた。温かい優しい魔力。

 アシェリアンが私にしか扱えないと言っていた意味が分かった気がする。

 アリシャの魔力、それを解いていき、再構築する。魔石精製師としての能力、そして、おそらく私の血。私のなかに流れるアリシャとアリサの血と記憶がアリシャの魔石を扱うことを許した。

 それが今ハッキリと分かった気がする。それくらいこの魔力は私の味方だった。

 まるでアリシャが後ろにいるような。そんな力を感じる。


「ルギニアス!! 結界を!!」

 その言葉に反応するように、ルギニアスは大きく手を振り上げ、そして叫ぶ。

「ルーサが穴を塞ぐ!! 俺の結界解除と同時に魔物が入り込むかもしれない!! 気を付けろ!!」

 皆はこちらに向くことなく、その言葉だけで理解してくれたのか、「おぉ!!」と雄叫びを上げた。そして魔物と戦闘しつつ大穴に意識を持っていく。

「行くぞ!!」
「うん!!」

 ルギニアスは振り上げていた手を一気に振り下ろした。

 その瞬間、大穴に張っていたルギニアスの結界が一気に消失する。魔物たちは突然消えた結界に一瞬躊躇する。その瞬間を見逃さない!

 私の手のひらに集まる魔力を一気に大穴に向けて放った。

 大きく拡がった魔力は虹色の輝きを放ち、一気に大穴まで到達する。躊躇い留まっていた魔物たちは落ち着きを取り戻し、再びこちらへ突入しようとしていた瞬間、虹色の膜に再び行く手を遮られる。

『グルァァァアアアアア!!!!』

 雄叫びを上げた魔物たちは怒り狂うように、その膜へと攻撃を繰り返すが、その虹色の膜が傷付くことは一切なかった。

 魔力が押し返されないように必死に抑え込む。特殊魔石を精製するときとは正反対だ。引っ張るのではなく、こちらから圧倒的な魔力を流し込むように、両手を掲げ、私の魔力と共に大穴へと流し込んで行く。

 激しい反発を感じる。押されるような感覚。ここで押されては駄目よ! 抑え込むのよ!! このまま……このまま……

 そのとき背後から抱き締められた。

「ル、ルギニアス!!」

 掲げる両手をルギニアスが支えてくれる。そこからルギニアスの魔力も感じた。それはアリシャとは違う温かい魔力。泣きそうになるほどの温かい魔力。

「俺がお前を支える!! だから最後まで踏ん張れ!!」

 背中に感じるルギニアスの体温、そして腕から感じるルギニアスの魔力。

「うん」

「ルーサ!! 頑張って!!」

 リラーナの声がする。

「ルーサ!! やっちまえ!!」
「やれ!!」
「ルーサなら大丈夫だ!!」
「後ろは任せな!」

 ディノ、イーザン、ヴァドにオキまで……フフ、皆ありがとう……大好きよ、皆。

「ルーサ、来てくれてありがとう」
「ルーサ」

 お父様……お母様も……顔色は悪いままだけれど、お父様に支えられ、お母様も私を見守ってくれている。

 あぁ、泣いてしまいそう。

 でも、まだ駄目よ。まだ終わっていない!! 大穴を完全に塞ぐまで!!

「ルギニアス、貴方の魔力も私にちょうだい」

 きっと私の魔力だけでは足らない。大穴を塞ぎきるまで、このアリシャの魔力を維持出来ないと意味がない。

「あぁ」

 そう耳元で呟かれた言葉に、ルギニアスへ振り向くと、そこには優しく、しかし力強く微笑むルギニアスの顔。

 うん、きっと大丈夫。

 私たちは大穴を見上げた。ルギニアスの強大な魔力が私の魔力と合わさり流れていく。それは爆発的な力を生んだ。

 大穴に張り巡らされた虹色の膜が大きく揺らぐ。

『ズズズズズズ……』

 鈍い地鳴りのような音が響き渡った。辺り一面の地面も揺れ動いているような。小さな小石が浮かび上がる。まるで大穴に引き寄せられるように、空気の流れが変わった。

 大穴へと強風が流れていく。転がっていた小石諸共、倒れていた魔物たちの遺体は吸い上げられていき、大穴へと吸い込まれていく。

「なにかに掴まれ!!」

 オルフィウス王が叫んだ。引き寄せられるのは魔物だけではない。私たちの身体も引き寄せられるように、強風で煽られる。

 ディノたちはリラーナたちの元へと駆け寄り、全員が一塊となった。そしてお互いが飛ばされないよう、岩の影へと避難する。司教たちもそれに倣い、岩の影へと隠れたようだ。

 オルフィウス王は全員の周りにいまだ結界を張り続けてくれている。

 私はルギニアスが必死に抱き止めてくれている。ルギニアスの長い黒髪が大きく揺らぎ、大穴に向かって吸い上げられているのが分かる。

 早く……早く閉じて……

 激しい風が吹きすさぶなか、必死に祈った……。

しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

処理中です...