青空の下で君を想う時

まる。

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第3話~成長~

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 スージーが中学校に通学出来る様になり、ほっとしたと同時に一抹の不安を覚えた。学校に通えると言う事は、もう僕は必要ないんじゃないだろうか。彼女は優秀だし、学校の授業についていけないと言う事もないだろう。
 いつフランクに肩を叩かれるのか、ビクビクしながら毎日を過ごしていた。
 それと、もう一つ僕が感じた事も、さらに追い討ちをかけた。

 ある日の朝、朝食を済ませた僕は先に部屋へ戻り調べ物をしていると、扉を叩く軽い音が聞こえた。振り返ると、開いた扉からポニーテールを揺らしたスージーがひょこっと顔を出した。

「どうしたの? 早く学校行かなきゃ」
「先生、お薬塗って」

 さらに扉を開き、スージーは部屋の中へ滑り込んでくる。首も、肩も、二の腕も露出させた服を着ている彼女の姿を見て、僕は唖然とした。

「なに!? まさかその格好で学校に行くつもりじゃないだろうね?」
「これで行くのよ? かわいいでしょ?」

 スージーは嬉しそうな顔をしてその場でくるりと回って見せる。そんな彼女とは対照的に、僕は真剣な表情になり諭すように彼女に言って聞かせた。

「ダメダメ! いくら薬塗れば大丈夫だからって範囲が広すぎるよ。一、二時間しか持たないから塗りなおすの面倒になってどうせサボるだろ? ちゃんと長袖を着なさい」
「いいじゃない! これ今流行ってるんだから!」
「ダーメ!」

 腰に手を置き眉間に皺を寄せた。
 僕がこう言うと彼女はいつも諦める……はずだった。

「お願い! 今日一日だけ! ねっ?」

 顔の前で両手を合わせ、片目を瞑りながら自分の意思を通そうとした。
 これも成長の証なのだろうか。
 彼女はもう十三歳。お洒落を楽しみたい年頃だろう。僕は彼女の言葉を信じて眉間の皺を緩めた。

「貸して」

 彼女に手を差し出した時のスージーの嬉しそうな顔を見ると、僕の選択は間違いではないと思った。
 スージーは薬の入ったボトルを渡すどころか、そのまま僕に抱きつくことで喜びを表した。

「先生! 有難う!」
「今日だけだからね。――、……」

 いつもより薄着な彼女を抱きしめると、僕はある事に気が付いてしまった。
 胸元にかすかに触れるわずかな二つのふくらみ。
 僕はスージーの肩を持ち少し距離を取ると、きょとんとしている彼女に気付かれないように、平静を装った。

「塗らなくていいの?」

 そう尋ねると、慌てて薬のボトルを僕に差し出した。
 彼女の手の届かない背中に薬を塗りながら、僕の感じた事をスージーに理解出来る様に説明した。

「……スージー。これからはお母様か、他のメイドさんに頼むんだよ」
「どうして?」

 僕が言葉を選んでいると、スージーは一瞬下を向いた。
 ちょこんと申し訳程度に膨らんだ、二つの小さな膨らみ。薄い布切れ1枚でしか覆われていないソレは、まだ小さいながらも確かにここにあるのだと言う存在感を、どうやっても隠しきれるものではない。

「――おっぱい?」

 そうハッキリ言われて一瞬戸惑ったが、世の中の常識を教えてあげるのも僕の役目。躊躇せず、ちゃんと彼女に伝えることにした。

「……うん。君は大人の女性の体になりつつあるんだよ。君は平気でも、周りから見ると誤解を受けかねないんだ」
「……わかった」

 寂しそうな声でポツリと呟いた。
 お互い表情は見えなかったが、彼女の顔は曇っていただろう。僕もそうだったから。

 大人になると言う事は時として残酷だ。
 今まで通り抱きしめたり、キスをしたり、一緒にベッドで眠る事も成長するとある日を境に白い目で見られてしまう。
 そして誰にもその成長を止める事は出来ないのだ。


 ◇◆◇

 もう家庭教師は必要ない事、彼女が大人の女性になりつつある事。この二つの事が僕にはとても気がかりだった。そして、もやもやした気持ちのままで居座る事が出来ないと思った僕は、とうとう直接フランクに話をする事にした。

「ほ? そんな事気になさらなくて結構ですよ?」

 あっさりとそう言われて、少し拍子抜けする。

「でも……」
「お辞めになりたいのですか?」
「いえ! そういうワケじゃないんです」
「ならいいじゃありませんか。お嬢様は貴方様をお慕いなさっておられます。ミックさんが居なくなったら、私がクビになりますよ」

 フランクは微笑みながらそう言うと、何も聞かなかったかの様に庭の花に水をやっていた。

「有難う、御座います」

 胸の支えが取れ、ほっとして空を見上げる。大きな入道雲がその存在を気付かせるかのようにゆったりと流れ、夏の訪れを告げていた。





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