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第5話~思いやる気持ち~
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同じ大学に通ってるとはいえ、僕は二年生でスージーは一年生。常に同じ行動が出来るわけではない。家から大学までの行き帰りとランチタイムは一緒に過ごせるが、それ以外は基本的には別行動だ。
――彼女はもう子供じゃない。
自分にそう言い聞かせながらも、不安な日々を過ごしていた。
学校生活にも慣れた頃、僕はいつもの様に校内の噴水の縁に座り、本を読みながら彼女がやってくるのを待ち詫びていた。目は文字を辿っているが、一向に頭に入ってはいない。
彼女が来たら何を話そうか? バス停の二ブロック手前の角のお店で、たまには君が食べたがっていたワッフルでも食べて帰ろうよって誘ってみようかな? ……いや、待てよ。ダイエット中だからって嫌がりそうだ。
十分細いのに、女性ってのは何故あんなにダイエットに夢中になるのだろう。
結局、そんな事がいつも頭の中を支配して、本を読んでいる‘フリ’になってしまっていた。
彼女が待ち合わせ場所に着いた時に本を片手に待っている僕を見て、少しでも知的に見えたら……。なんて、くだらない事を考えては僕の口元は緩んでいた。
「せんせーい!」
彼女がやって来たことに気付いた僕は、本当はすぐにでも駆け寄りたい気持ちを押し殺し、慌てずパタンと本を閉じてカバンの中にしまい込んだ。
「……スージー遅っ、――!?」
顔を上げて彼女を見つけると、格好つけて冷静に振舞っていた自分に後悔の念が押し寄せた。僕に手を振りながら駆け寄ってくる彼女を見て、心臓が一瞬活動を停止したかと思うほど、僕は今目の前の光景に愕然とする。
「スージー! 走らないで! 走っちゃダメだ!」
僕のかけた言葉が終ると同時に、彼女の表情にも変化が現れる。彼女は走る足を止め、胸を押さえながらその場に崩れ落ちてしまった。
「スージー!!」
震える足で彼女に駆け寄った。
地面にうずくまるスージーの肩に両手をかけ、僕は何度も彼女の名を呼んだ。
「スージー! スージー! ……誰か、――誰か救急車を!!」
周りに居た人達が『なんだ、何事だ?』とチラチラと見ている。次第に人が集まりだした時、あろう事かスージーはがばっと顔を上げて、僕を見て悪戯に笑った。
「なーんてね、びっくりした?」
「っ!?」
「先生、凄い慌てすぎ……」
――パシッ
彼女の言葉を遮るようにして、乾いた音が響き渡った。
周りに居た学生達が僕のした事を見て、「ひゃっ!」っと小さな声を上げている。
スージーは何が起こったのかわからないと言った顔で、自分の頬に指先を触れさせ目を泳がせていた。
「っ! 当たり前じゃないかっ! 僕が何の為にずっと君と一緒に居ると思ってるんだ!? そんなに僕が慌てるのを見るのが楽しいのか!」
「せん、せ……?」
僕はスージーを怒鳴りつけると、彼女を残してその場を去ってしまった。
◇◆◇
「えー、ぶっちゃったのぉ?」
「うん。思わず……ね」
リオは自分の頬をおさえながら、まるで自分が叩かれたかの様に目を丸くしている。僕が人を……ましてや女性を引っぱたくなんて、想像もつかなかった様だ。
僕自身も自分のした事に驚いたのだから、そう思うのも無理も無いだろう。咄嗟にやってしまったこととはいえ、あの時の僕はスージーを許すことが出来なかった。
◇◆◇
その日の夜。僕は中々寝付けなくてベッドの中で何度も寝返りをうっては、昼間の事を思い出していた。
こんな大きな手で殴られたら痛いだろうな。
自分の手の平をじっと見つめ、ぎゅっと握り締めては大きく息を吐く。僕は幾度と無くそれを繰り返していた。
喉が渇き、水を飲みに行こうと体を起こすと暗い家の中をトボトボと歩き出す。
キッチンに入り冷蔵庫の扉を開けようと手を掛けたとき、何処からか少しひんやりした風が吹いてきたのを感じた。その風の流れを辿っていくと、リビングのカーテンが風になびいて揺らめいているのを見つけた。
閉め忘れか、無用心だなぁ。
カーテンに手を掛けて施錠しようとした時、目の前の小高い丘に人影が見えた。
「……スージー?」
扉から出てその人影に近づいて行く。小高い丘の上に小さなレジャーシートを広げ、星を見上げていたのはやはりスージーだった。
「……?」
近づく僕の草を踏みしめる音で、彼女は振り向くと驚いた顔をしている。
「何してるの? こんな所で」
「あ、あの……。眠れなくて少し風にあたりに来たの」
「少し? にしては、レジャーシート迄準備して用意周到だね」
「へへ……」
昼間の事を気にしているのか、スージーは僕と目を合わそうとはしなかった。
「隣、座っていい?」
「う、うん、どうぞ」
スージがー横にずれ、小さいレジャーシートになんとか二人座れるスペースを作ってくれた。
しばらく二人とも無言で星を見たり手をさすったりと、なんとも間が持たないと言った感じだった。
「昼間は――」「あの、今日」
意を決して話し出すと、どうやらスージーと被ってしまったようだ。同じ事を話そうとしていたのがわかり、先に謝りたいと思った僕は自分から先に話しだした。
「あの、昼間はごめんね」
スージーは頭を大袈裟に横に振りながら、
「ううん! 私の方こそ……。ごめんなさい」
少し俯き加減でそう言って、スージーは更に言葉を続けた。
「何の為に一緒に居てくれるのかなんて考えても見なかった。ずっと側に居てくれるのが当たり前に感じていたから……。叩かれて初めて気付いたの。先生は私の病気のせいでいつも側に居るんだって。それが先生の仕事なんだって」
「……スージー?」
「ごめんね先生、私なんかの為に人生棒に振っちゃったね」
俯いた顔にかかる髪の隙間から、彼女の悲しそうな顔が見える。
自分のせいで僕を縛り付けていると思った彼女は、そう言いながらもきっと僕にその事を否定して欲しかったのだろう。
「そんな事ないよ」
彼女の頭をそっと撫で、僕は彼女の望むであろう言葉を呟いた。
「僕は君とずっと一緒に居れて楽しいんだ。確かに仕事ではあるけど、仕事じゃなくてもきっとほっとけないよ」
彼女の目じりが下がり始めるのを見て、僕もほっとした。
手の甲で彼女をぶった頬をそっと触ると、スージーは思わずピクッと体を震わせる。その仕草を見て、僕はなんて事をしてしまったのだろうと、出来ることなら自分を殴りつけてやりたかった。
「痛かった、……よね? 本当にごめんね」
頬に触れた僕の手を彼女が握り、僕の肩に頭をもたげてくる。スージーは何も言わなかったが多分許してくれたのだと思う。
僕もそれ以上何も言わず、彼女の頭に自分の頭を重ねた。
――彼女はもう子供じゃない。
自分にそう言い聞かせながらも、不安な日々を過ごしていた。
学校生活にも慣れた頃、僕はいつもの様に校内の噴水の縁に座り、本を読みながら彼女がやってくるのを待ち詫びていた。目は文字を辿っているが、一向に頭に入ってはいない。
彼女が来たら何を話そうか? バス停の二ブロック手前の角のお店で、たまには君が食べたがっていたワッフルでも食べて帰ろうよって誘ってみようかな? ……いや、待てよ。ダイエット中だからって嫌がりそうだ。
十分細いのに、女性ってのは何故あんなにダイエットに夢中になるのだろう。
結局、そんな事がいつも頭の中を支配して、本を読んでいる‘フリ’になってしまっていた。
彼女が待ち合わせ場所に着いた時に本を片手に待っている僕を見て、少しでも知的に見えたら……。なんて、くだらない事を考えては僕の口元は緩んでいた。
「せんせーい!」
彼女がやって来たことに気付いた僕は、本当はすぐにでも駆け寄りたい気持ちを押し殺し、慌てずパタンと本を閉じてカバンの中にしまい込んだ。
「……スージー遅っ、――!?」
顔を上げて彼女を見つけると、格好つけて冷静に振舞っていた自分に後悔の念が押し寄せた。僕に手を振りながら駆け寄ってくる彼女を見て、心臓が一瞬活動を停止したかと思うほど、僕は今目の前の光景に愕然とする。
「スージー! 走らないで! 走っちゃダメだ!」
僕のかけた言葉が終ると同時に、彼女の表情にも変化が現れる。彼女は走る足を止め、胸を押さえながらその場に崩れ落ちてしまった。
「スージー!!」
震える足で彼女に駆け寄った。
地面にうずくまるスージーの肩に両手をかけ、僕は何度も彼女の名を呼んだ。
「スージー! スージー! ……誰か、――誰か救急車を!!」
周りに居た人達が『なんだ、何事だ?』とチラチラと見ている。次第に人が集まりだした時、あろう事かスージーはがばっと顔を上げて、僕を見て悪戯に笑った。
「なーんてね、びっくりした?」
「っ!?」
「先生、凄い慌てすぎ……」
――パシッ
彼女の言葉を遮るようにして、乾いた音が響き渡った。
周りに居た学生達が僕のした事を見て、「ひゃっ!」っと小さな声を上げている。
スージーは何が起こったのかわからないと言った顔で、自分の頬に指先を触れさせ目を泳がせていた。
「っ! 当たり前じゃないかっ! 僕が何の為にずっと君と一緒に居ると思ってるんだ!? そんなに僕が慌てるのを見るのが楽しいのか!」
「せん、せ……?」
僕はスージーを怒鳴りつけると、彼女を残してその場を去ってしまった。
◇◆◇
「えー、ぶっちゃったのぉ?」
「うん。思わず……ね」
リオは自分の頬をおさえながら、まるで自分が叩かれたかの様に目を丸くしている。僕が人を……ましてや女性を引っぱたくなんて、想像もつかなかった様だ。
僕自身も自分のした事に驚いたのだから、そう思うのも無理も無いだろう。咄嗟にやってしまったこととはいえ、あの時の僕はスージーを許すことが出来なかった。
◇◆◇
その日の夜。僕は中々寝付けなくてベッドの中で何度も寝返りをうっては、昼間の事を思い出していた。
こんな大きな手で殴られたら痛いだろうな。
自分の手の平をじっと見つめ、ぎゅっと握り締めては大きく息を吐く。僕は幾度と無くそれを繰り返していた。
喉が渇き、水を飲みに行こうと体を起こすと暗い家の中をトボトボと歩き出す。
キッチンに入り冷蔵庫の扉を開けようと手を掛けたとき、何処からか少しひんやりした風が吹いてきたのを感じた。その風の流れを辿っていくと、リビングのカーテンが風になびいて揺らめいているのを見つけた。
閉め忘れか、無用心だなぁ。
カーテンに手を掛けて施錠しようとした時、目の前の小高い丘に人影が見えた。
「……スージー?」
扉から出てその人影に近づいて行く。小高い丘の上に小さなレジャーシートを広げ、星を見上げていたのはやはりスージーだった。
「……?」
近づく僕の草を踏みしめる音で、彼女は振り向くと驚いた顔をしている。
「何してるの? こんな所で」
「あ、あの……。眠れなくて少し風にあたりに来たの」
「少し? にしては、レジャーシート迄準備して用意周到だね」
「へへ……」
昼間の事を気にしているのか、スージーは僕と目を合わそうとはしなかった。
「隣、座っていい?」
「う、うん、どうぞ」
スージがー横にずれ、小さいレジャーシートになんとか二人座れるスペースを作ってくれた。
しばらく二人とも無言で星を見たり手をさすったりと、なんとも間が持たないと言った感じだった。
「昼間は――」「あの、今日」
意を決して話し出すと、どうやらスージーと被ってしまったようだ。同じ事を話そうとしていたのがわかり、先に謝りたいと思った僕は自分から先に話しだした。
「あの、昼間はごめんね」
スージーは頭を大袈裟に横に振りながら、
「ううん! 私の方こそ……。ごめんなさい」
少し俯き加減でそう言って、スージーは更に言葉を続けた。
「何の為に一緒に居てくれるのかなんて考えても見なかった。ずっと側に居てくれるのが当たり前に感じていたから……。叩かれて初めて気付いたの。先生は私の病気のせいでいつも側に居るんだって。それが先生の仕事なんだって」
「……スージー?」
「ごめんね先生、私なんかの為に人生棒に振っちゃったね」
俯いた顔にかかる髪の隙間から、彼女の悲しそうな顔が見える。
自分のせいで僕を縛り付けていると思った彼女は、そう言いながらもきっと僕にその事を否定して欲しかったのだろう。
「そんな事ないよ」
彼女の頭をそっと撫で、僕は彼女の望むであろう言葉を呟いた。
「僕は君とずっと一緒に居れて楽しいんだ。確かに仕事ではあるけど、仕事じゃなくてもきっとほっとけないよ」
彼女の目じりが下がり始めるのを見て、僕もほっとした。
手の甲で彼女をぶった頬をそっと触ると、スージーは思わずピクッと体を震わせる。その仕草を見て、僕はなんて事をしてしまったのだろうと、出来ることなら自分を殴りつけてやりたかった。
「痛かった、……よね? 本当にごめんね」
頬に触れた僕の手を彼女が握り、僕の肩に頭をもたげてくる。スージーは何も言わなかったが多分許してくれたのだと思う。
僕もそれ以上何も言わず、彼女の頭に自分の頭を重ねた。
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