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ボリジの章
⑫ 某HRゲームはたぶんこうやって生まれたんじゃないか劇場
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みんなの注目を得られた。このままクラス中、引っ張りこむ!
『クラスの結束を固めるまでは、また、教科書が準備できるまでは、授業を変則的に行うわ。何らかの活動と共に言葉を交わして、自然な意思疎通を目指しましょう!』
勢いで言ってしまった自覚はある。でも、トライアンドエラーは新参者の基本!
『先生! ゲームってたとえば何ですか!?』
よし、食いついた。子どもはゲームが好きよね?
『それは……みんなで考えるのよ。全員で楽しめるレクリエーションを!』
『なら先生!』
大柄な生徒が立ち上がった。ずいぶん逞しい体格の男子、このクラスの3分の1はそういった生徒だ。
『異種格闘技戦だ! 男と男は肉体でぶつかり合うのみィィ!!』
目に闘志を抱いている。およそ3分の1の生徒たちが『うおおおお』と同意の雄たけびを上げる。
『そんなわけにいくか! 武官の家の者たちに有利すぎる!』
次に立ち上がったのは、どちらかというとスリムな体型の眼鏡男子。
事前情報では、このクラスは本来なら学び舎を分けられる文官、武官の子息らがひとまとめにされている。武官の系譜であっても、大使として諸外国に出る可能性は十分にあるからだ。
そして、この2派閥には壁が存在する。文官子女の方がより、位が上であったりするせいか。
それもクラス運営の難しさのひとつだと聞いた。
『そうね、女子もいるから格闘技はちょっと……。それに、このクラスには8歳の子から17歳までがいる』
25歳の例の生徒は置いておく。
『体格や腕力で勝負がついてしまう試合はダメね』
『何ィ先生! それでは試合なんて何もできやしませんよ!?』
『何もということはないでしょ。それを今からみんなで考えるのよ!』
私はハッタリをかます気分で、みんなに向かってまっすぐに指を差し睨みつけた。すると男子たちはまた、『うおおおお』と雄たけびを上げる。
少し10代男子の扱いが分かってきたかも……?
この時間は、教師による一方的な講義でなく、学生同士で議論を行う学級会にすることに。
なら、円卓でお互いに対面できるのがいい。机を教室の隅に避け、椅子を円状にして着席してもらおう。
生徒の性格も、行動ひとつひとつから把握していこう。こういう時に仕切るタイプは、と……
『はいはい、早く、机つって──』
おちょぼ目、おちょぼ口の可愛い女子生徒が、手拍子で男子たちを動かしている。名簿で確認っと。
『ええと、ヨルズさん? “机つって”って何?』
『あっ、私の出身地では、机を引きずって移動させることを“机をつる”って言うんです。言いグセが出てしまいました』
えっ。それって、いわゆる……方言!
ああ困ったわ。方言まではノーチェックだった。
『あ、あの、方言について、教えてくれないかしら……』
『なにっ……先生とマンツーマン相互レッスンだと!?』
ここで男子たちがわらわらっと迫ってきた。
『僕がビフレスト地方の方言をお教えします! 次に来るのはビフレストじゃけえのぉ!』
『オラはユーダリル方言が得意だんべ! ぜひマンツーマンで!!』
『エルムト弁ならおいに任せるでごわす!』
そうか、方言って地方の数だけあるんだ! そんなの無理だわ、網羅できない。
『みんな、お願い。教室では標準語を話して?』
いつかは方言マスターも視野に入れるけど、しばらくは余裕ないわ……。
全員が、真剣に向き合う議会が始まった。
『ゲームといえば、カードです。殴る蹴るなんて野蛮なことは御法度です。ここは頭脳プレーでいきましょう』
発言主は明らかに文官のたまごといった風貌の眼鏡男子。
『それは前提からしてアンフェアだ。カードなど、対戦相手を嵌めて陥れる、なんて駆け引きばかりに長けた文官がパーティーで楽しむもの』
こちらの発言主は……言わずもがな。
『カードは一度にせいぜい数人の対決だろう。クラスで試合というなら、全員で戦えるイベントであるべきだ。』
そうよね。年齢差、性差のあるクラスメイト全員が同時に、かつフェアに楽しめる種目で。
『殴る蹴るがダメなら、頭突きはどうだ!』
『それは暴力だ! これだから武官の家の者は!』
『相手を直接攻撃しないのは絶対として……。なら、何かを取り合うのはどうだろう』
『陣取り合戦? またはボール? それは力技では』
『取るのに手も足も出さない。もちろん頭突きもしない』
わぁ、議会が成り立ってる……私も10代の頃に、こういう環境に入っていきたかった。
『手も足も頭も使えないならどこが使えるっていうのだ!』
ふむ……あっ。
『はい!』
『『『はい、先生!』』』
あ、入っていってしまったわ。
『お尻』
『『『…………』』』
ええぇ……。みんな黙ってしまった。だって人体を消去法で考えたら残るのは……。
『尻で突いたら、体格の小さい者が吹き飛ばされてしまう!』
確かに!
『いいえ、待って。突くんじゃなくて取り合うって話だったわ』
『尻で? どうやって取るんですか?』
『どうやって、じゃなくてまず、何を、取るかって話では』
『うーん。尻で取れるものと言ったら、そりゃあ……』
『『『椅子!!』』』
みんなの言葉が揃った。一体感が生まれているように見える。
『でも全員で取り合うって、総当たり戦か、勝ち抜き戦だよね?』
『こういうのはどうだ? 人数分より一脚少ない椅子を用意するんだ』
『取れなかったひとりから脱落していくってこと? 座って取るというなら全員が椅子から平等の距離じゃないと』
『それって、まさにこの陣形じゃないか』
『そうだ。すなわち、円!』
すごい。続々とアイデアが出てくる。私も黙っていられない!
『じゃあ何か合図が必要ね』
『よーいドンの合図で待ち構えるのは野暮です。何かこう、貴族的に』
『貴族といえば宮廷音楽さ。僕がこの素晴らしきイベントのために、得意のヴァイオリンを演奏しましょう』
あ、それだ。
『音楽に合わせて、円形に並んだ椅子の周りをみんなでぐるぐる廻りましょう。演奏が急に止まったら、それが合図、一斉に座るの。座れなかった者から脱落していって最後まで残っていた参加者が優勝よ』
これなら8歳でも25歳でも、男でも女でも問題ないわ!
『すごいっ』『そんなゲーム初めて!』
明日の午後の部、学級活動の時間をそれに当てることにした。
賞品も用意しなくては。何がいいかな、ラスに相談しよう。ああ楽しみだわ。
『明日が楽しみです!』
『負けませんから!』
各々からもう敢闘精神のオーラが湧きたっている。なんとなくここ、負けず嫌いの集まりだなぁ……。
「もう、どっと疲れたわ……」
一日の授業の終わりを告げるベルが鳴る。私はヨレヨレと廊下の壁を伝いながら、部活動が始まっている部屋へと足を運ぶ。
「放課後も教師は業務続行なのね……」
窓から差す日の光が、私の影の背丈を伸ばす。明日の授業の準備は、部活動を見て帰宅してから……寝る時間、ちゃんと確保できるかしら?
「ここ、か」
この目に映る部室の扉は、やけに物々しい。
私は任された部の内容について特に造詣が深いわけではないので、顧問として出張ってもお荷物かもしれない。何か部員の役に立てることがあればいいのだけど。
「失礼するわね」
多少の緊張感を携え、扉を開けた。音を立てずに、ゆっくりと……。
「!!」
部屋を間違えた?
だって、真っ暗。一筋の光も漏れない暗黒の世界。廊下の光をもってしても先が見えない……。
『どなたですか? こちらへどうぞ』
「!?」
闇から声が。
少年とも少女ともつかない、やや高い声に誘われた私は、まず扉を閉めた。この暗闇に外の光を混ぜてはいけない気がして。
完全な密室になったその瞬間────。
『クラスの結束を固めるまでは、また、教科書が準備できるまでは、授業を変則的に行うわ。何らかの活動と共に言葉を交わして、自然な意思疎通を目指しましょう!』
勢いで言ってしまった自覚はある。でも、トライアンドエラーは新参者の基本!
『先生! ゲームってたとえば何ですか!?』
よし、食いついた。子どもはゲームが好きよね?
『それは……みんなで考えるのよ。全員で楽しめるレクリエーションを!』
『なら先生!』
大柄な生徒が立ち上がった。ずいぶん逞しい体格の男子、このクラスの3分の1はそういった生徒だ。
『異種格闘技戦だ! 男と男は肉体でぶつかり合うのみィィ!!』
目に闘志を抱いている。およそ3分の1の生徒たちが『うおおおお』と同意の雄たけびを上げる。
『そんなわけにいくか! 武官の家の者たちに有利すぎる!』
次に立ち上がったのは、どちらかというとスリムな体型の眼鏡男子。
事前情報では、このクラスは本来なら学び舎を分けられる文官、武官の子息らがひとまとめにされている。武官の系譜であっても、大使として諸外国に出る可能性は十分にあるからだ。
そして、この2派閥には壁が存在する。文官子女の方がより、位が上であったりするせいか。
それもクラス運営の難しさのひとつだと聞いた。
『そうね、女子もいるから格闘技はちょっと……。それに、このクラスには8歳の子から17歳までがいる』
25歳の例の生徒は置いておく。
『体格や腕力で勝負がついてしまう試合はダメね』
『何ィ先生! それでは試合なんて何もできやしませんよ!?』
『何もということはないでしょ。それを今からみんなで考えるのよ!』
私はハッタリをかます気分で、みんなに向かってまっすぐに指を差し睨みつけた。すると男子たちはまた、『うおおおお』と雄たけびを上げる。
少し10代男子の扱いが分かってきたかも……?
この時間は、教師による一方的な講義でなく、学生同士で議論を行う学級会にすることに。
なら、円卓でお互いに対面できるのがいい。机を教室の隅に避け、椅子を円状にして着席してもらおう。
生徒の性格も、行動ひとつひとつから把握していこう。こういう時に仕切るタイプは、と……
『はいはい、早く、机つって──』
おちょぼ目、おちょぼ口の可愛い女子生徒が、手拍子で男子たちを動かしている。名簿で確認っと。
『ええと、ヨルズさん? “机つって”って何?』
『あっ、私の出身地では、机を引きずって移動させることを“机をつる”って言うんです。言いグセが出てしまいました』
えっ。それって、いわゆる……方言!
ああ困ったわ。方言まではノーチェックだった。
『あ、あの、方言について、教えてくれないかしら……』
『なにっ……先生とマンツーマン相互レッスンだと!?』
ここで男子たちがわらわらっと迫ってきた。
『僕がビフレスト地方の方言をお教えします! 次に来るのはビフレストじゃけえのぉ!』
『オラはユーダリル方言が得意だんべ! ぜひマンツーマンで!!』
『エルムト弁ならおいに任せるでごわす!』
そうか、方言って地方の数だけあるんだ! そんなの無理だわ、網羅できない。
『みんな、お願い。教室では標準語を話して?』
いつかは方言マスターも視野に入れるけど、しばらくは余裕ないわ……。
全員が、真剣に向き合う議会が始まった。
『ゲームといえば、カードです。殴る蹴るなんて野蛮なことは御法度です。ここは頭脳プレーでいきましょう』
発言主は明らかに文官のたまごといった風貌の眼鏡男子。
『それは前提からしてアンフェアだ。カードなど、対戦相手を嵌めて陥れる、なんて駆け引きばかりに長けた文官がパーティーで楽しむもの』
こちらの発言主は……言わずもがな。
『カードは一度にせいぜい数人の対決だろう。クラスで試合というなら、全員で戦えるイベントであるべきだ。』
そうよね。年齢差、性差のあるクラスメイト全員が同時に、かつフェアに楽しめる種目で。
『殴る蹴るがダメなら、頭突きはどうだ!』
『それは暴力だ! これだから武官の家の者は!』
『相手を直接攻撃しないのは絶対として……。なら、何かを取り合うのはどうだろう』
『陣取り合戦? またはボール? それは力技では』
『取るのに手も足も出さない。もちろん頭突きもしない』
わぁ、議会が成り立ってる……私も10代の頃に、こういう環境に入っていきたかった。
『手も足も頭も使えないならどこが使えるっていうのだ!』
ふむ……あっ。
『はい!』
『『『はい、先生!』』』
あ、入っていってしまったわ。
『お尻』
『『『…………』』』
ええぇ……。みんな黙ってしまった。だって人体を消去法で考えたら残るのは……。
『尻で突いたら、体格の小さい者が吹き飛ばされてしまう!』
確かに!
『いいえ、待って。突くんじゃなくて取り合うって話だったわ』
『尻で? どうやって取るんですか?』
『どうやって、じゃなくてまず、何を、取るかって話では』
『うーん。尻で取れるものと言ったら、そりゃあ……』
『『『椅子!!』』』
みんなの言葉が揃った。一体感が生まれているように見える。
『でも全員で取り合うって、総当たり戦か、勝ち抜き戦だよね?』
『こういうのはどうだ? 人数分より一脚少ない椅子を用意するんだ』
『取れなかったひとりから脱落していくってこと? 座って取るというなら全員が椅子から平等の距離じゃないと』
『それって、まさにこの陣形じゃないか』
『そうだ。すなわち、円!』
すごい。続々とアイデアが出てくる。私も黙っていられない!
『じゃあ何か合図が必要ね』
『よーいドンの合図で待ち構えるのは野暮です。何かこう、貴族的に』
『貴族といえば宮廷音楽さ。僕がこの素晴らしきイベントのために、得意のヴァイオリンを演奏しましょう』
あ、それだ。
『音楽に合わせて、円形に並んだ椅子の周りをみんなでぐるぐる廻りましょう。演奏が急に止まったら、それが合図、一斉に座るの。座れなかった者から脱落していって最後まで残っていた参加者が優勝よ』
これなら8歳でも25歳でも、男でも女でも問題ないわ!
『すごいっ』『そんなゲーム初めて!』
明日の午後の部、学級活動の時間をそれに当てることにした。
賞品も用意しなくては。何がいいかな、ラスに相談しよう。ああ楽しみだわ。
『明日が楽しみです!』
『負けませんから!』
各々からもう敢闘精神のオーラが湧きたっている。なんとなくここ、負けず嫌いの集まりだなぁ……。
「もう、どっと疲れたわ……」
一日の授業の終わりを告げるベルが鳴る。私はヨレヨレと廊下の壁を伝いながら、部活動が始まっている部屋へと足を運ぶ。
「放課後も教師は業務続行なのね……」
窓から差す日の光が、私の影の背丈を伸ばす。明日の授業の準備は、部活動を見て帰宅してから……寝る時間、ちゃんと確保できるかしら?
「ここ、か」
この目に映る部室の扉は、やけに物々しい。
私は任された部の内容について特に造詣が深いわけではないので、顧問として出張ってもお荷物かもしれない。何か部員の役に立てることがあればいいのだけど。
「失礼するわね」
多少の緊張感を携え、扉を開けた。音を立てずに、ゆっくりと……。
「!!」
部屋を間違えた?
だって、真っ暗。一筋の光も漏れない暗黒の世界。廊下の光をもってしても先が見えない……。
『どなたですか? こちらへどうぞ』
「!?」
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