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ボリジの章
⑭ 罪つくりなおとこ
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私たちはシアルヴィの指示により、観測結果を図表にまとめる作業を進めながら、朝の事件について話していた。
クラスの生徒たちはまだ交友関係ができていないということだったが、シアルヴィとイリーナは被害生徒と親しかったのだ。
『今朝倒れた彼のことで……』
聞き込みをしてみよう。
『こう言ってはなんだけど、彼の家は政財界でそれほど重要ではない伯爵家。彼自身も末子で、あえて狙われる立場でもないかな』
『無差別の犯行ということ?』
聞き耳を立てているダインスレイヴ様の、眼帯で隠れていない方の目は、研ぎ澄まされた眼光を放っている。必ずしも彼の管轄というわけではないようだけど、目の前で被害者が出たのだ。おそらくご自身で解決するおつもりでいる。
『政財界での地位がどうとかでなくて、私的なイザコザの線は?』
私の繰り出す質問に、シアルヴィは物憂いげな様子で答える。
『それもないですね。彼は敵を作るタイプではなかったし。それにこの犯人は』
『北、エリヴァーガルからの刺客に違いありませんわ!』
先ほどからウズウズしていたらしきイリーナが、シアルヴィをぐいっと押しのけ、顔面で主張してきた。
『刺客??』
『我々貴族の子女の間でさえ、周知の事実ですの。我が国とエリヴァーガル国は、遅かれ早かれ戦争が始まるって……』
イリーナの目線が斜め下にスライドした。不安の表れだ。ダインスレイヴ様を振り向いたら、彼も視線をずらしている。
『私の祖国とやっと協定を結んだところなのに……』
『むしろ北との関係の影響により、長年の断交に幕を下ろしたのですからね』
つまり、この国は南ウルズと協定を結ぶことで、北を牽制したのね。
『でもその雪解けの結果、余計、北に火を付けてしまったのよ』
『どういう意味?』
『第三王子ダインスレイヴ殿下が南からお妃様を迎えてしまったから……』
……ん??
『エリヴァーガルのアリアドネ女王がおかんむりなのですわ』
『どういうこと?』
『女王は、殿下にずっと秋波を送っていたのだもの』
海を渡る秋波?
『それを殿下が、他国でろくに実権もない王配になって種馬扱いされるのつまんね~~とかで断り続け、このたび他の女性と結婚してしまったから、戦争が始まりそう……』
続々と解説を繰りだしたイリーナが、とうとう言葉を詰まらせた。
「………………」
私はダインスレイヴ様の方を見た。
『………………』
彼は机上作業もそこそこに、先ほど額をぶつけた窓の上枠をハンマーで壊している。ついでに口笛も吹いている。
────あなたが戦争の火種なのですか!??
シアルヴィ、イリーナは続けて話してくれた。
この話はもはや上流貴族の間で筒抜けとのこと。10年以上前、北の王家の娘・アリアドネ姫がこの国に留学生としてやってきて、この学院で学んでいた。
その中で、後輩であったダインスレイヴ様を大層気に入り、課程を終えた年、国に連れ帰ろうとしたが固辞され断念。その時点では、アリアドネ姫は継承権5位の王女で、それほどの強制力はなかった。
その北国の王家で4年前、下剋上が成る。若い第一王子が病没したのを期に宰相の一族が第五王女を祭り上げ、御家騒動を起こしたということだ。
それは宮殿を血で染めつつも実を結び、久方ぶりの、女の王が誕生する。
当初はお飾りであったはずの女王だったが──その手腕を存分に発揮し意のままに周囲を操り、彼女を盛り立てた宰相一族を罷免にしたことで、今ではひとり権勢を欲しいままにしている。
そしてかねてから気に入りであったスクルド第三王子に、恋の奴隷……ではなく王配として、身柄を献上するよう再三要請するが、彼は無視を決め込む。それどころか、このたび成婚!
────女王、おかんむり! 《今ココ!》という矢印が私の脳内に流れてきた。
『宮殿に密偵を送り込んで機密情報を得る、または中枢を混乱に陥れる……その礎として併設の学院に潜入する、というのは考えられることですわ』
『国の警備システムを突破するエリヴァーガルの諜報力か』
シアルヴィは自身の研究を邪魔されない環境なら別にどうでも、といった様子だが。
『そこに今度の大使養成クラスの編成……密偵としてはこれ以上のチャンスはないでしょう。南の人間にも急接近できるのだから』
……それって、つまり。
『先生は確実にターゲットですわね』
『南の人間をこの国の人間のふりして闇討ちすれば、また南北を断交時代に巻き戻せるからなぁ』
『この国を掌握するつもりなら南には黙ってていただきたいですものね。まぁ先生、顔が蒼いですわ』
「…………」
言葉が出ない。
クラスの生徒たちはまだ交友関係ができていないということだったが、シアルヴィとイリーナは被害生徒と親しかったのだ。
『今朝倒れた彼のことで……』
聞き込みをしてみよう。
『こう言ってはなんだけど、彼の家は政財界でそれほど重要ではない伯爵家。彼自身も末子で、あえて狙われる立場でもないかな』
『無差別の犯行ということ?』
聞き耳を立てているダインスレイヴ様の、眼帯で隠れていない方の目は、研ぎ澄まされた眼光を放っている。必ずしも彼の管轄というわけではないようだけど、目の前で被害者が出たのだ。おそらくご自身で解決するおつもりでいる。
『政財界での地位がどうとかでなくて、私的なイザコザの線は?』
私の繰り出す質問に、シアルヴィは物憂いげな様子で答える。
『それもないですね。彼は敵を作るタイプではなかったし。それにこの犯人は』
『北、エリヴァーガルからの刺客に違いありませんわ!』
先ほどからウズウズしていたらしきイリーナが、シアルヴィをぐいっと押しのけ、顔面で主張してきた。
『刺客??』
『我々貴族の子女の間でさえ、周知の事実ですの。我が国とエリヴァーガル国は、遅かれ早かれ戦争が始まるって……』
イリーナの目線が斜め下にスライドした。不安の表れだ。ダインスレイヴ様を振り向いたら、彼も視線をずらしている。
『私の祖国とやっと協定を結んだところなのに……』
『むしろ北との関係の影響により、長年の断交に幕を下ろしたのですからね』
つまり、この国は南ウルズと協定を結ぶことで、北を牽制したのね。
『でもその雪解けの結果、余計、北に火を付けてしまったのよ』
『どういう意味?』
『第三王子ダインスレイヴ殿下が南からお妃様を迎えてしまったから……』
……ん??
『エリヴァーガルのアリアドネ女王がおかんむりなのですわ』
『どういうこと?』
『女王は、殿下にずっと秋波を送っていたのだもの』
海を渡る秋波?
『それを殿下が、他国でろくに実権もない王配になって種馬扱いされるのつまんね~~とかで断り続け、このたび他の女性と結婚してしまったから、戦争が始まりそう……』
続々と解説を繰りだしたイリーナが、とうとう言葉を詰まらせた。
「………………」
私はダインスレイヴ様の方を見た。
『………………』
彼は机上作業もそこそこに、先ほど額をぶつけた窓の上枠をハンマーで壊している。ついでに口笛も吹いている。
────あなたが戦争の火種なのですか!??
シアルヴィ、イリーナは続けて話してくれた。
この話はもはや上流貴族の間で筒抜けとのこと。10年以上前、北の王家の娘・アリアドネ姫がこの国に留学生としてやってきて、この学院で学んでいた。
その中で、後輩であったダインスレイヴ様を大層気に入り、課程を終えた年、国に連れ帰ろうとしたが固辞され断念。その時点では、アリアドネ姫は継承権5位の王女で、それほどの強制力はなかった。
その北国の王家で4年前、下剋上が成る。若い第一王子が病没したのを期に宰相の一族が第五王女を祭り上げ、御家騒動を起こしたということだ。
それは宮殿を血で染めつつも実を結び、久方ぶりの、女の王が誕生する。
当初はお飾りであったはずの女王だったが──その手腕を存分に発揮し意のままに周囲を操り、彼女を盛り立てた宰相一族を罷免にしたことで、今ではひとり権勢を欲しいままにしている。
そしてかねてから気に入りであったスクルド第三王子に、恋の奴隷……ではなく王配として、身柄を献上するよう再三要請するが、彼は無視を決め込む。それどころか、このたび成婚!
────女王、おかんむり! 《今ココ!》という矢印が私の脳内に流れてきた。
『宮殿に密偵を送り込んで機密情報を得る、または中枢を混乱に陥れる……その礎として併設の学院に潜入する、というのは考えられることですわ』
『国の警備システムを突破するエリヴァーガルの諜報力か』
シアルヴィは自身の研究を邪魔されない環境なら別にどうでも、といった様子だが。
『そこに今度の大使養成クラスの編成……密偵としてはこれ以上のチャンスはないでしょう。南の人間にも急接近できるのだから』
……それって、つまり。
『先生は確実にターゲットですわね』
『南の人間をこの国の人間のふりして闇討ちすれば、また南北を断交時代に巻き戻せるからなぁ』
『この国を掌握するつもりなら南には黙ってていただきたいですものね。まぁ先生、顔が蒼いですわ』
「…………」
言葉が出ない。
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