魔王に転生したけど人間に嫌われ過ぎて辛い!~他の追随を一切許さない最強すぎる魔王は毎日が辛い~

へたまろ

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魔王編

魔王が強すぎて辛い~聖教会本部の場合~

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「くっ、犠牲が一人というのは良かったと取るべきか、悪かったと取るべきか」
「しかし、その一人が聖騎士10聖剣の一人ソクシ殿というのがのう」
「魔王はどれほどの力を持っているのやら」

 俺は今、聖教会で司祭達に報告をしている聖騎士の一人の様子を見ている。
 聖教会本部が置かれているのは、西の大陸にある聖教国サンタナマグサ国か……
 聖職者だというのに、コッテリ太った司祭ばかりだな。

「それで……何故貴様らは生きておる?」

 円卓の中央に座る、一際豪華な服を着た男が報告の騎士を睨み付ける。

「それは……ソクシ様がその命と引き換えに我らを逃がしてくれたためで……」
「ふん……お主らも一緒に自爆すれば、傷の一つでも負わせただろうに……聞いた話では魔王は無傷で元気に動き回っておるそうだが」

 なんで知ってるんだ? ってそりゃこんだけ人間を魔国に引き込んだら、中にはスパイも紛れ込んでるに決まってるわな。
 勿論、それが誰かは知ってるし、だからと言ってどうこうするつもりはない。
 徐々に魔国に染めて、自らの罪悪感に押しつぶされるか、いつか他の人間にバレて差し出されるだろうしな。

「コリオグラファー枢機卿……ソクシ殿が命と引き換えに助け出した者達ですぞ。少しは言葉を選ばれたいかがでしょう」
「ふん、相変わらず綺麗事を……だからお主のところは聖騎士が育たんのだ、ライト大神官殿?」

 ふーん、このライトという男は中々に良識がありそうだな……
 なんとなく、親近感も感じるし。
 とはいえ、聖教会の大司教だからなー。

「まあ、確かにソクシ殿の命と引き換えの兵だからのう……総攻撃をかける際には真っ先に敵陣に斬り込んでもらって自爆してもらうかのう」
「……はっ」

 あーあ、報告をしている騎士の顔が真っ青だよ。
 折角生きて帰って来たのに、次は真っ先に死ねって言われたんだもんな。
 そりゃそうなるわな。

「枢機卿……ソクシ殿はきっとそのような事は望んでおられませんぞ」
「お主はいつからそんなに偉くなったのじゃ? 確かに民衆の信頼も厚く、教皇様の覚えも良いかもしれぬが、調子に乗り過ぎではないか? たかが大司教風情が」
「……はっ、出過ぎた真似を致しました」

 コリオグラファーに睨まれたライト大司教が頭を下げて、口を閉ざす。
 他の司教達は全く興味を持っていない様子で、むしろ枢機卿に睨まれたライトを見てほくそ笑んでやがる。
 全く胸糞悪い連中だ。

「それで、エキスタイガー司祭よ、教皇の調子はどうなのだ? 最近では民衆の前どころか我らの前にも姿を現さぬが」
「あまり芳しくは無いかと……女神様との交信も滞っている様子でして、新たな勇者の任命もままならぬかと」
「ふっ、いつまで生きるつもりだ、あの男は……早くその座を私に明け渡せば良い物を」
「枢機卿! それは口が過ぎますぞ」

 またライト大司教だ、本当にこの男はまだ人間にしてはマシな思考が出来るようだな。
 もし人間との和平がなれば、代表として橋渡しをお願いしても良いだろう。
 腹に一物も抱えて無ければだが。
 しかし流石に、枢機卿のこれは酷い。
 事実ライト大司教と一部の司祭は憤りを顕わにしたが、他の司教や司祭共は目を閉じて頷くだけだからな。
 ここで魔法を使って枢機卿を殺すのも面白いか? 
 俺はそっと魔法の矢を転送させて枢機卿の胸に放つ。

「ぐっ! ……誰だ!」

 おっと、軽率だったか……
 宝玉を繋ぎ合わせた首輪から、宝玉が一つ割れると枢機卿の傷が即座に消える。
 身代わりの石を繋ぎ合わせた首輪か……まあこんな奴だから命を狙われる事も多いのだろう。
 枢機卿が立ち上がって辺りを見渡す。
 しょうがない……俺はマーキングした騎士に意識を転送する。

「ふっ……わしじゃよ……2代目魔王タナカじゃ」
「なっ! プロキシ―殿?」
「くっ、付けられておったのか?」
「おい、お主らすぐに枢機卿を避難させよ!」

 辺りの司祭共が慌てて騒ぎ出すと、外から聖騎士が数人部屋になだれ込んでくる。

「無駄じゃよ!」

 俺はそう言って全員を魔法で拘束する。

「くっ! 身体が」
「お前ら何をしておる、早くわしを守らんか!」

 枢機卿が慌てているが、無駄だって……魔王の拘束魔法だぜ? 
 動ける訳ねーだろ。

「なに、ちょっと挨拶に来ただけじゃ! お主なんぞいつでも殺せるぞという自己紹介じゃな」

 俺がそう言うと、枢機卿の顔が真っ青になる。
 プッ、さっきのこいつと立場が逆転してるわ。

「どうした!」

 その時外からまた新たに聖騎士が二人飛び込んでくる。

「フォルゴ殿! シリアス殿! そいつに魔王が」
「ちっ、分かった!」
「任せろ!」

 即座に二人が俺の依代になっているプロキシ―に斬りかかってくる。
 だが剣の軌道は読めているからな……俺は半身で躱そうとしたが避けきれずに肩から袈裟懸けにされる。
 あっ、人間の身体だったわ……
 通りで反応が悪いはずだ。
 御免ねープロキシ―さん。

「ふんっ、中々にやるではないか」

 俺はそう言ってプロキシ―の身体を即時に修復すると、代わりに雷撃魔法を二人に放つ。
 2人とも背負っていた盾を即座に取り出し、雷撃を盾の中心で受ける。
 結構強いなー……それに良い盾をお持ちで。

「くっ! やるな魔王! だがこの程度なら」
「ああ、プロキシーから出てけ」

 そう言って再度二人が斬りかかってくるが、俺は先の反省を生かして相手が動いた瞬間に二歩下がる。
 直後鼻先を二人の剣がかする。
 それから返す刀で二人が二撃目を放つが、動作に入った瞬間に一歩前に出る。
 2人の剣は俺に触れる事なくすれ違う。
 さらに背後から方向転換してフォルゴが横薙ぎに剣を放つのを感じ、その場で一回転しながら前に進む。
 俺の回転に合わせて剣が、俺の後を通り過ぎていく。
 すぐに俺は背中の盾を上に投げると、フォルゴの影から飛び出し上空から斬りかかろうとしていたシリアスが、突然の投擲に対して慌ててガードに転ずる。
 さらに二人に衝撃波を放ち間合いを取る。

「おいおいおい、プロキシ―の身体とは思えねー反応だな」
「まるっきりこっちの動作が読まれてるじゃねーか」

 2人が額に汗を垂らしながらぼやいている。
 まあ、腐っても魔王だからな……身体を言い訳にしても足元を見せる訳にはいかんのだよ。

「何をしておる! あんな下級騎士一人、とっとと切り捨ててしまえ」

 枢機卿の言葉に一瞬二人が怒りを向けかけるがすぐに諦める。
 立場があるしな。

「しょうがない、大将がああおっしゃられてる」
「悪いな魔王、これで決めさせてもらうぜ」

 2人が剣に神気を込める。

『全てを斬り「エレメンタルブレイク」

 2人が技の名前を叫ぶ途中に割り込む形で、属性無効化を放つ。
 即座に神気の聖属性が霧散し、ブレイブスラッシュがただの真空波に変わる。
 俺はそれを風魔法で相殺する。

「遅いのう……」

 この身体では素早く動くのは無理なので転移で二人の背後に移動する。

「二人とも後ろだ!」

 ライトが叫ぶが、これでチェックメイトだ。
 俺は二人の背中に手を当てて、内臓に直接衝撃波を送り込む。
 2人が思いっきり弾き飛ばされて吐血する。

「ぐはっ……」
「馬鹿な……早すぎる」

 そりゃ早いだろうね。
 なんてたって転移だから。
 タイムレスの移動だからね。

「で、こいつらはどの程度なのじゃ?」
「くっ……」

 ライトが黙り込んでいる。
 プロキシ―の記憶を読むと、フォルゴが十聖剣の一人で8位、シリアスが4位か……まだ上に3人も居るのかよ。

「ふん、これで4位と8位か……案外大した事ないのう? こんな凡庸な身体でも相手出来る程度とは」
「くそっ」
「ちっ」

 俺の言葉に二人が歯噛みするが、正直人間でここまで鍛え上げているのは感嘆に値するな。
 早い話が見栄だよ、見栄。
 本当は教皇の面を拝みに来たのに、どうやら病気で伏せっているみたいだな。
 この枢機卿だけは殺してやりたがったが、かりにプロキシ―がどうこうされても98人はマーキングされてるからな。
 それに生かして泳がせた方が、何かと後がやりやすいかもしれないしな。
 よし、帰るか。

「まあいい、これ以上お主らに興味は無いからのう」

 俺はそう言ってコリオグラファー枢機卿の心臓に矢を8連続で突き刺す。
 首の宝玉が砕け散って残り一つになる。

「うわぁぁぁぁ! 殺される! お主ら自爆でもなんでもしてわしを助けるのじゃ!」

 やべー猛烈に殺したいわ……
 あかんあかん、きっとこいつの事だから生かしておいたら報復で全軍で掛かって来てくれるだろう。
 そこを一網打尽にした方がきっと楽だからな。
 ここでこいつを殺して、他の連中に警戒されると返って時間がかかりそうだし。
 こういう分かりやすい奴は、扱い安いしな。

「ほれ? この矢をお主の心臓に刺せば終わるのう」

 そう言って俺が心臓の手前で矢を止めると、枢機卿が泡を吹いて気絶する。
 プッ、枢機卿の奴股間が匂うぜ? 
 こんだけ恥をかかせてやったら、きっとこいつは全力で俺を潰しにくるだろうな。
 分かっていれば対応を取るのは簡単だしな。

「プロキシ―といったか? こいつは連れて帰るぞ? ここに置いておいたら、殺されるだけだろうからのう」

 俺はそう言ってプロキシ―ごと、魔国に転移する。

 ――――――――――――
「あ……あれが魔王……」

 俺が転移して呪縛が解かれた連中がガタガタと震えている。
 まあ、他のマーキング済みの聖騎士からの情報だ。
 マーキングだけは直接俺の身体で行う必要があるからな。
 こいつでも使えたら、コリオグラファーにマーキングしたんだけどな。

「つ……強すぎるだろ?」
「動きはプロキシ―の普段の動きだったが……攻撃が全て読まれていた」
「その上できっちり反撃までしてくるとはな……」

 中々に上手くいったみたいだ。
 ここまで圧倒的な力の差が出れば、慎重派はすぐには動かないだろうからな。
 強制的に攻撃をしたコリオグラファーとの間に軋轢が生まれて、きっと揉めるだろうな。
 それでも総攻撃は確定だろう。
 乗り気じゃない連中から潰していけば、簡単に終わるだろう。
 といってもすぐに準備が済むわけじゃないだろうから、暫くはゆっくりできそうだ。

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