魔王に転生したけど人間に嫌われ過ぎて辛い!~他の追随を一切許さない最強すぎる魔王は毎日が辛い~

へたまろ

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魔王編

マイが実は可哀想な子だった……辛い

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「タナカ! 覚悟―!」

 とうとう、こいつは寝室にまで襲いに来るようになったか。
 こうやって文字にすると、どことなーくエロい感じが……しないですね、はい。
 暗殺者という言葉がピッタリですわ。

「朝っぱらからやかましいわ!」

 俺はそう言って、布団をマイに投げつける。
 ついでに、風魔法を操って吹き飛ばしておく。
 ある程度の距離まで詰めると、一気に踏み込んでくるからな。

「いったーい!」

 マイが壁にぶつかってもんどりうっている。
 いや、布団がクッションになってるからそこまで痛くは無いと思うが。

「もっと手加減してよ!」

 布団から顔だけ出してふくれっ面をしているが知ったこっちゃない。

「うっさい! 寝てるとこに不意打ちかまして、殺されなかっただけマシだと思え!」

 とりあえず、ベッドから降りてマントを羽織るとマイに手を差し出す。
 マイがその手を掴んで立ち上がる。

「隙あり!」
「ねえわ!」

 そのまま剣で斬りかかってきたので、手を放したらマイが思いっきり尻もちをつく。

「いったーい!」

 こいつ一体どんな教育を受けて来たんだ!
 親の顔が見てみたいわ!
 ……見ようと思えば見えるな。

 人のプライバシーを勝手に詮索しても碌な事は無い。
 俺はこの時の自分に教えてやりたいわ。
 マイの頭に手を置いて、記憶を読み取ろうとするが抵抗力が強いのか、ガードが掛かっているのかぼんやりとしか見る事が出来ない。

「ママー!」
「このバカ! 何度言ったら分かるんだよ! 近付かないで!」
 ドカッ!

「あんたなんか生まれてこなかったら良かったのに……そしたら私ももっと……」
 バシッバシッ
「ママ……痛いよー! やめてよー! ゴメンなさーい……」

「ニコちゃん? 新しいパパに挨拶しなさ~い……なんなのよその目は」
「いいじゃん、可愛いね! こっちおおいで……」
「いや……」
「いやって! あんたはもー!」
 バシッ
「おいっ! やめろよ! こんな幼い子に」
「うぇーん……」


「あー、ちょっと彼氏のとこ行ってくるからこれでなんか食べてて……2~3日で戻るから」
「これ100円しか……」
「なに?」
「ううん、行ってらっしゃい……」

「ママ……ママ……お腹空いたよ……ママ……いつ戻って来るの……ママ……」
 シクシク

 うわぁぁぁ!
 俺は慌ててマイの頭から手をどける……
 親の顔は見えなかったが、基本的に母親が怒鳴るところと、殴るところしか読み取れなかった。
 どうやら父親は居ないらしいが、あまり良くない環境にしか思えない。
 なんで? こんなに明るいのに……

「どうしたの?」

 マイが不思議そうにこっちを見上げてくる。

「いや、なんでもない……」

 なんでも無い事も無いが、なんだこの過去……
 これマ? って状態だ……

「変な奴……取りあえずやる事やったし、朝ご飯にしよーよ!」

 無邪気な笑みをこちらに向けてくるマイを見てるとなんとも言えない気分になったが、どうにか微笑み返すとマイを連れて食堂に転移する。

「そうだな、今日はマイの好きな物を出してやろう……というか他の連中は?」
「眠いからパスだって! 薄情だよねー? それより、本当に好きな物出してくれるの? どういう風の吹き回し?」

 流石にこのくそ寒いのに、こんな朝早くに不意打ちなんて付き合いたくもないか。
 今の俺なら、付き合ってやっても良いかなとかって思えるけど。
 まあ、普段の俺からしたらありえないサービスだが、流石にあんなもん勝手に見たとは言えないしなー。
 というか、今更ながら見るんじゃなかったと後悔した……けど時すでにお寿司だなうん。

「じゃあ、食パンと目玉焼きと、ベーコンと、サラダ! それにヨーグルト! 飲み物はサイダーね!」
「えらく普通だな……飲み物以外は!」
「ふふっ、今日は私だけだしね、普通が一番! 普通って大事な事だよ? 飲み物はサイダー以外譲りません!」

 過去を知った今、その言葉は重みがあり過ぎだから。
 普段なら、アホだな! とかお前が言うなって突っ込みを入れるとこだが、普通じゃない環境で育ったこいつにとっての普通を考えるととてもじゃないが馬鹿には出来ない。

「ああ、そうだな」

 俺はそう言ってリクエスト通りの品を出す。
 そう言えば、こいつの母親がこいつの事ニコって呼んでたけど、マイじゃねーのか?
 ニコって……

「これこれ!」

 マイがそう言って、俺の出した食べ物に手を付ける。

「こういうのに憧れてたんだよねー!」
「えっ?」

 マイの発言に、俺が思わず声をあげるとマイが固まる。
 それから笑いながら首を振る。

「違う違う、うちはほらっ! 和食派だったからさ! パン派の友達の話とか聞いて憧れてて」
「そ……そうか」

 なんて分かりやすい嘘を。
 ええんやでー! もっと甘えてええんやでー!
 と思いつつも、普段から何故かこいつにはかなり甘々だった事を思い出す。
 というか、ナチュラルにめっちゃ甘えてくるし。

「もう! 今日のタナカなんか変だよ!」
「そうか?」
「なんていうか、心ここにあらずというか……また何かあったの? また胸貸してあげようか?」

 うん! 全然そういう気分にはならないわ。
 少なくとも、ここに居る間くらいは幸せに過ごして欲しいからな……
 でも、自分から話してくれても良いのにな。
 俺だって、自分の暗い過去を話した訳だし……

「いや、そういう訳じゃないんだけどさ……そうそう、何か欲しい物とか無いか?」
「何急に? 気持ち悪いんだけど……もしかして、私に何かした?」

 はっ! 不自然過ぎたか……取りあえず、このことは忘れないといつかボロを出してしまいそうだ。
 自分に記憶消去の魔法を、くそっ! 完全状態異常無効が良い仕事しやがる。
 自発的な行動には、発動しないはずなのに。
 受動攻撃でしか発動しない完全状態異常無効が発動するってことは、よほど危険なのかな?

「いや、寝起きで頭が上手く働かなくてさ……変な事言ったわ。気にすんな」
「本当に変なタナカ」

 マイが、こっちを胡散臭そうな目で見てくるが。
 普通に接するのがこんなに難しいとは。
 無暗に人のプライバシーや過去を覗くもんじゃないな……
 これは、大いに反省だわ……

「まあいいや、それじゃあさ! 一緒に城下町歩こうよ!」
「えっ?」
「でさっ! 欲しい物が見つかったら買って」
「いや、言えば作り出せるけど?」
「ううん、作るんじゃなくて買ってもらいたいの」

 まあ、マイがそれが良いって言うんなら、それでも良いか……

「分かった! じゃあ、飯食ったら城下町に乗り出すか」
「おー! 急いで食べないと!」
「コラッ! ご飯はゆっくり噛んで食べなさい!」

 一気に目玉焼きを口に放り込もうとするのを止める。

「何もう! お母さんみたい」

 お母さんみたい……お母さんみたい……お母さんみたい……お母さんみたい……
 頭の中でマイの言葉がリフレインする。
 お前のお母さんそんなんじゃないだろう……辛い……

「何泣いてんのよ! 冗談だから! ちゃんと噛むから! 本気で今日のタナカ変だよ!」

 気が付いていたら泣いていたみたいだ。

「あっ! タナカのお母さんってそう言えば、普通じゃなかったもんね! ごめん、無神経な発言して……」

 なんでお前が謝ってんだよー!
 大体、無神経な発言なんて今に始まった事じゃないのに、なんで今日に限ってそんな事言うんだよ!
 ヤメテ! 俺のライフはゼロよ!

 結局30分くらいかけて朝食を終えてから、マイと城下町に出る。

「これ美味しいね!」

 早速露店の鰐おばさんに貰ったフィンガーライムを二人で半分に分けて食べている。
 本当に変わった果物を良く扱っているお店だ。
 半分に割ると、中からプチプチとした粒粒の果肉が出て来て、味はライムに近いが食感と言いとても面白い。
 食後のデザートにぴったしだな。

「あっ! そのバンクル」

 マイが俺の腕にはめられたバンクルを指さす。
 そうだ、マイに貰ったミスリルのバンクルは、デザインも悪くないので良く着けている。
 何故か、マイに貰った事が妙に嬉しかったというのもあるが。

「ああ、結構気に入ってるんだぜ!」
「良かったー」

 俺の正直な感想に、マイが喜ぶ。
 今日は着けてて良かったと思えたわ。
 なんというか、マイには笑っていて貰いたいからな……

 それからこの間、マイだけ連れて行かなかったステーキハウス、おどろきドンキーに連れていく。
 そして、まだ昼前だというのにすでに長蛇の列が……
 でも、こいつにも食わせてやりてーしな。

「えっ? こんなに並ぶの?」
「うーん、美味いんだけどなぁ……流石にこれは待てないか」

 そんな会話をしながら店を後にしようとすると、またまた俺を見つけた店員が、慌てて近付いて来る。

「もしかして、お客様のお名前はタナカ様では?」
「そうだよ! ってか知ってるだろ! 知ってて聞いてるよな?」

 俺がそう言うと、ポケットからクラッカーを取り出してパーンッと鳴らす。

「おめでとうございます! 幸運な方! 今日はタナカという名前の方優先デーです!」
『わー! いいなー!』

 並んでいた他の客から一斉に拍手が巻き起こる。
 なんだよその優先日! タナカってこの国じゃ俺しか居ねーじゃん!

「タナカ……お前?」

 マイがジトっとした目を向けてくる。

「こんな事に魔王の権威を使うのは、いけない事だと思います!」

 やけにまともな事を言うじゃねーか!
 でも俺が頼んだ訳じゃないからな?

「なあ、なんだよそのイベント? 俺以外無理なやつじゃね?」
「いいからいいから! 2名様ご案内です!」

 強引に店員に店内に背中を押されて連れていかれる。
 それから、席に座らされ次々とコース料理が運ばれてくる。
 最初は前菜のサラダ、次にコーンポタージュっぽい何か、そしてメインのステーキが運ばれる。
 何故にハンバーグじゃない!
 この店ではまだ米は取り扱っていないから、パン一択だ。

「確かにこれは美味しいね」
「だろっ! 俺も初めて来たときから気に入ってさ! めったに来れないけど、今日はマイにも食べてもらいたくて」
「もしかして、惚れた?」
「んなわけあるか!」

 すぐに調子に乗る。
 だが、そういう所も今となって健気だなと、温かい眼差しで見てしまう。
 調子狂うわぁ……

「あー、美味しかった」
「ああ、また来ような」

 それから、少し早めの昼食を済ませ二人でまた町に乗り出す。
 露店街や、店の入った建物をいくつか回る。
 それから、こないだマイが頑張って補修した公園へと向かう。
 結局残りは俺がやって、噴水やモニュメントも俺が作ったが……
 マイが疲れたと言っていたので、ベンチに腰掛けサイダーを作り出して渡す。

「これこれ、分かってんじゃんタナカ!」
「まあ、あんだけ会うたびにサイダーを強請られたらね。ところで欲しい物何かあったか?」
「うーん、別に特には無いかなー……どっちかっていうと、こうやってのんびり二人で過ごすのも悪くないね」

 何それ? 告白?
 なんか俺達夫婦みたいんだ……って雰囲気はこいつとはありえないか。
 それから、再度露店街に戻って二人で色んな露店を覗いたり、アクセサリーショップを見たりしたが、特にマイが欲しいものを見つける事も出来ないまま、段々と日が傾き始める。

「そろそろ、戻る?」
「ああ、そうだな」

 マイに言われて、城に戻る事にする。
 だが、その前に……

「そうだ、これをやろう」

 俺はそう言って、先のアクセサリーショップで見つけた天使の羽を象ったペンダントをプレゼントする。
 2人で入った時に、何回もチラチラ見てたのを見逃さなかった俺マジ優秀!

「あっ! これ! ユウちゃんが比嘉さんに貰ったやつ! なにこれ、魔国では女性にプレゼントするのに流行ってるの?」
「えっ?」

 それで、何回もチラチラ見てたのか―……
 マジ俺馬鹿! 俺の馬鹿野郎!
 しかも、比嘉と被るとか最悪やー!

「あっ、やっぱそれ無しで!」
「いーや! せっかく貰ったんだし、正直嬉しいよ! やっぱり自分で選ぶのも良いけど、選んでもらうのも嬉しいしね」

 そう言って、マイがこっちを振り返る。
 夕日に照らされた笑顔が、よりいっそう映えて見えてとても綺麗だった。
 こうやって、初めての二人っきりのデート? は綺麗に幕を下ろす……俺はそう思っていた……
 しかし、儚くも次の瞬間にこの幸せな時間は音を立てて崩れ去った……
 聖教国から立ち上る巨大な神気の波動によって……

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