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第1章:赴任

第18話:タワーディフェンス前編

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 うーん、俺の仕事を振り返ってみて気付いた。
 なんか、既視感があると思ったら、これタワーディフェンスだな。
 某有名最終冒険の第7作目のミニゲームでしか、やった記憶にないけど。
 あっ、あれの15だかのアプリの体験版でもやったっけ?
 敵が襲ってくるのを迎撃するだけのゲーム。

 侵略待ちなのもどうかと思う。
 基本受け身なのだが、現実世界でこの状況が是かと問われると首を傾げるしかない。
 そのことでジャッキーさんに相談したら、打って出るのは早いと言われてしまった。
 というか、別に人に対して積極的に害を加える必要はないらしい。
 牽制というか、人勢力のこれ以上の拡大を防ぐのが目的であって、減らすことまでは考えてないらしい。
 攻めてくるなら、容赦なく滅ぼしてもいいとは言われたけど。
 物騒だな。
 流石は狼。

 戦争になったら、相手に嘗められたら負けだといわれた。
 強気にガンガン行けと。
 いやいや、80匹しかゴブリンいないんだから、一個大隊でも送り込まれたらそれなりにやばい。
 防げるかもしれないけど、こっちにも被害が出る。
 補充がきかないから、2回3回と攻められたら戦力が減ってる分、被害は雪だるま式に大きくなるはず。
 というか、一個師団とか旅団で来られたら、もう一発アウトだろう。

 まあ、そうならないように、色々と対策してたんだけど。
 うん、こんなことを思って考えたからか人が来た。
 ガード達じゃない。
 武装した人間が、十数人。
 一個小隊かな?
 統一された装備に、統率された動き。
 ふふ……
 余計なこと、考えるんじゃなかった。
 フラグが立ってしまったようだ。

 ……でも、これ撃退したら結構な成果報酬を貰えそうな気がする。
 さてさて、どう対処したものか。
 人数的にはこっちの方が圧倒的に多い。
 しかし、殺さずに制圧ともなると。
 しかも、きっと生きて帰ったらもっと数を増やして襲ってくるに決まってる。

「これは流石に、厳しいかと」
「殺しに来る相手に、殺さずに対応するとなると」

 うーん……
 相手側の指揮官を無力化して、こっちに引き込めばなんとかなりそうかな?
 いや、指揮官の身分と立場次第かな?

「こ……ここは、本当に話にあったゴブリンの集落か?」
「冒険者ギルドで聞いた話と、少し様子が違うようだが」

 うわぁ、噂になってるのか。
 しかし、なんで冒険者じゃなくて軍が来たんだ?

「冒険者達が来るのを待った方がいいのでは?」
「しかしなぁ……あまり乗り気じゃないんだろ?」
「ビーストという冒険者連中が、こちらから手を出さなければ問題はないと言っていた。あいつら、何か隠してる様子だったぞ」
「最初は、この場所のことすら隠していたからな」

 そうか……ギイ達はかばってくれていたのか。
 しかし、口を割らざるを得なかったのか。
 まあ、下っ端の辛いところだな。

「一番最初にここを見つけた冒険者達から、裏は取れてたのにな」
「脅威に対する虚偽の報告による冒険者資格剥奪処分と脅されてしまえば、どうしようもないでしょう」

 すごいなー。
 誰に説明するでもなく、詳細を説明してくれてありがとう。
 これなら、ギイ達のことを恨まなくても済む。
 なんだか、ある意味でご都合主義的な性格の敵さんだこと。

「やあやあ、私はミスト王国王国騎士団、第二騎士団所属のミレーネと言うものだ! この巣の代表の者と話がしたい」

 なんか、いきなり名乗りを始めたけど。
 てか、ゴブリンと会話が出来るとでも思ってるのかな?
 後ろの騎士たちも、一瞬ザワついてたけど。

「ゴブリンは人の言葉を理解しません」
「そうか? これほどの立派な巣を作り上げるなら、知恵のあるものもおるかもしれんぞ?」

 いや、いないいない。
 ここの集落は特別として、たぶん教えてくれる人がいない状況では無理じゃないかな?
 そもそも、デフォのゴブリンって馬鹿だし。

 しかし、どうしよう……
 会話に乗っかってみるの悪くない。

 ゴブリンの代表か。
 どちらかというと、俺はコンサルみたいなもんだしな。
 代表なら、ゲソチを出したらいいのかな?
 それとも最長老さんかな?

 二人の顔を見ようと振り返ったら、全員がこっちを見てた。
 えっ? 俺?
 アスマさんの方を振り返る。
 彼もまた、少し呆れた様子でこっちを見てる。

「俺? 俺は、別に代表とかじゃないだろう。お前らの主というか、上司ってだけだし。どちらかというとアドバイザーというか、管理者というか……」
「それを人の世では、代表というのではないか?」

 そうかな?
 いや、でも……

「代表っていったら、このグループのリーダーじゃないのか?」
「それは、屁理屈というものだろう」

 うーん……だって、面倒くさそうなんだもん。
 しかも、相手側のリーダーは女性と来た。

「ふん、誰も出てこぬか。臆病者の集まりのようだな」

 いや、俺が出ていく必要を微塵も感じないんだけど。
 とりあえず、外壁の上に投擲部隊と魔法部隊は配備したけど。
 正門には筋肉重視のマッスル部隊。

 ゴブエモンはとりあえず、進化したゴブリン達をまとめて遊撃部隊として配備。
 あとは……

「アスマさん、精神攻撃とかお願いしてもいい?」
「いや、それは別に構わないが」

 使えるものはなんでも使っていく。
 立ってるものは、親でも使うスタイル。

「どうやら、知恵回りは良さそうですが、その分慎重になっているのでしょう。ここはひとつ、殿下の剣の錆にでもしてしまいましょう」

 殿下?
 えっ? 王族なの?
 馬鹿なの?
 こいつら、馬鹿なの?
 なんで、得体もしれない相手のところに、王族よこしてんの?
 てか、もう攻撃するって宣言いただいたこれ? 
 野蛮すぎるだろ。
 押し込み殺人集団、こわっ。
 こっちは、人じゃないけど。
 野蛮だわー、ゴブリンより野蛮だわー。

「ええ、冒険者ギルドが芋を引いた案件を、ミレーネ殿下が率いる精鋭が片付けることで市井の者たちの評判はきっと上がるでしょう。最近では戦争もあまりないため、軍より冒険者の方がよほど役に立つなどという連中もいますし」

 布陣を見て、お姫様がここにいることになんとなく納得。
 そして側に控えてる騎士が、お姫様を持ち上げている理由も。

 こいつら、もしかしなくてもお姫様を殺したい派閥の者なのかな?
 でも、お姫様が死んだ場合、お前ら生きて帰れると思ってるのかな?
 隊長はそのお姫様かもしれないけど、お前ら部下兼護衛として用意されたとは考えて無さそうだな。
 完全に捨て駒だな。
 積極的にお姫様に話しかけてるやつが、本当のこの部隊の責任者なのだろう。
 そして、お姫様派閥に敵対する派閥の、下っ端貴族の子弟とかかな?

「私のレベル上げに付き合わせて申し訳ないな。ゴブリンどもなど物の数ではないが、多勢に無勢ということもあるからな。退屈な作業かもしれぬがミスト王国の誇りであるお主たちの剣の輝き、しかと見せてくれ」
「はっ、殿下の背中は命に代えても守らせていただきます」

 お姫さんが振り返って、笑いながら味方を鼓舞している。
 背中がら空きなんだけど。
 今一斉に攻撃したら、
 うん、だんだんミレーネの呼び方が、あれになってくる。
 口を開けば開くほど、残念さが伝わってくるからね。
 お姫様からお姫さん、次はお嬢ちゃんとかかな?

 とりあえず、言葉戦いに付き合うつもりはない。
 えっと……
 そうだな、まずは様子見で。
 確証も得たいし。
 お姫さんの立ち位置と、こいつらのお馬鹿加減と、実力と。

 とりあえず、お姫さんの背中に石を数発ぶつけてみた。
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