転勤は突然に~ゴブリンの管理をやらされることになりました~

へたまろ

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第1章:赴任

第25話:子宝と食糧

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 集落のゴブリン達が妊娠ラッシュだ。
 最近、毎朝の日課でゴブリンのステータスをいじってるときに、ちょいちょいゴブリンの女性達のステータスに妊娠の文字が出てくるようになった。
 一応母体の安全のことも考えて、その都度教えてはいるが。
 当人たちは気付いていない段階だし。
 
 このことでまたゴブリン達に、神のように崇められてしまって少し照れ臭かったが。
 なんか妊娠を告げる存在とか、あれだよな。
 ゴブリン限定でしか、分からないけど。
 
 集落内にはそれなりの夫婦が出来ている。
 もともと、そういったことに拘りが無かったようだけど。
 子供が産まれたら、皆で育てるというスタイル。
 種族柄母親は分かっても、父親が不明なパターンが多い。
 おそらく、そうだろう相手としばらくは一緒にいるみたいだが。

 俺はやはり、特定の相手と結ばれる方が良いと思う。 
 あと、週刊誌とか女性誌の影響で、結婚に憧れるゴブリンも増えてきた。
 他には器量が上がって、見た目にも個性が出て来ている。
 そういったことも相まって、一生を誓うカップルが増えた。
 
 良いことだと思う。
 俺には春が来る気配はないが。
 この集落には、春が来た。
 ジャッキーさんにも春は来てない。
 この間の合コンも、酷かったらしい。
 割と優良物件だと思うんだけど、やっぱり狼だからかな?
 いや、血統がアレだからか。
 
 そして、そのことで集落内の人手が足りない。
 女性が妊娠で動けなくなってきているので、男性陣が家事をすることが多い。
 カップルが出来上がってしまったせいで、相方の男性も行動が制限されてしまった。
 昔は、妊娠していない女性が集団で妊婦の分も働き、男性陣は我関せずで外に狩りに出たり、これまた生産活動に励んだりと好き放題。
 しかし今回は相手が分かっているうえに、お互いがお互いを大事にしている。
 妊娠した妻のことを世話するのは、当然夫の役割だと覚醒してしまった。
 いや、無理ができないだけで、簡単な家事くらいは任せて……
 うん、良いことだから別に文句はない。

 仕方がないので、残ったメンバーで狩りに出ているが。
 成果は芳しくない。
 ゴブリン達が強くなりすぎたため、他の魔物も警戒している。
 色々とさらに強化を進めはしたが、かなり遠くまで狩りにいかないといけないらしい。

 そうか……移住も視野に、対策を検討すべきか。
 そんなことを思っていたら、集落に予想外の来客が。

 翼の生えた、大きなトカゲ。
 ワイバーンらしい。
 それも、数匹で来た。
 大きい。
 それに精力も付きそうだ。

 しかしなあ……

「あれは、食べられるのか?」
「食べたことがないので……」

 そうか。
 ワイバーンを狩るゴブリンなんて聞いたことないもんな。
 逆に、向こうはこの集落を襲う気満々。
 どうしたものか……

「アスマさん」
「あののう……ゴブリンどもは無理かもしれぬが、お主なら簡単に狩れるであろう?」

 仕方ないから、アスマさんにお願いしようとしたら変な顔をされた。
 そうは言っても。
 俺には、あんな大きな生物を殺すのはちょっと難しい。
 きっと、夢に見る。

「あれを倒したらレベルが大幅に上がるというのに」
「無理無理、目が合ったし。もう殺せないって。知ってる? 屠殺とかで家畜を殺す際も、目は見ちゃダメって話らしいよ? 慣れてても、殺す時に目が合ったら夢見が悪いんだってさ」
「いや、そうかもしれぬが」
「でも、アスマさんなら、目ないし」
「あるわ!」
「どこに?」

 ちょっと、何言ってるか分からないけど。

「あっ、1匹だけでいいから! あとは逃がしてあげて」
「いや、その1匹が可哀そうだとは思わないのか?」
「まあ、思うのは思うけど……仕方ないよね?」
「そういうのは、実際に手を汚す者が言うべきことだと思うが……」

 それでも、やってくれるアスマさんは良い人だと思う。
 人じゃないけど。

「苦しまずに済んだであろう」
「そうかもしれないけど」

 やり方が、割とえげつなかった。
 こちらに向かって滑空してきた個体に、強力な睡眠魔法を掛けてた。
 加速したまま減速も方向転換もせずに、地面に突っ込んで自爆。
 まあ、罪悪感も多少は軽くなるのかな?

「お主の考え方を真似しただけだ」
「いや、あんな酷い事は考えたことないけど?」
「お主ならきっと、自分も相手も楽にと考えるであろう? こないだの、どこぞの軍勢が襲ってきたときのお主の指示で学んだことだ」

 そんな斜め上の発想、したことないんだけど。
 とりあえず食糧問題は解決しそう。

「おいっ」
「うわっ!」

 墜落したワイバーンに近づいていったら、アスマさんに大きな声で呼び止められた。
 同時に上空から風を切る音が聞こえるとともに、自分の周囲に大きな影も差す。
 上を見上げると、他のワイバーンが突っ込んできてた。
 とりあえず受け止めて、首筋を撫でる。

「グアアアッ?」

 何やら驚いているけど、地面に突っ込まなくてよかった。
 全言語理解をもってしても、凄く驚いていることしか鳴き声からは伝わらなかったけど。
 二匹もいらないからな。
 こんなに大きければ、一匹で十分。
 肩のあたりをトントンと叩いて、優しく声を掛ける。

「ほら、怖くない。怖くないよ」
「グアアアアア!」

 優しく声を掛けたのに。(こえーよ!)と言われてしまった。
 今度はちゃんと、意味が理解できた。
 うん、悲しい。
 とりあえず、虫を逃がすように空に向かって放り投げる。
 
「グアアアアアアアアア!」

 言葉の意味が、悲鳴としか理解できなかったけど。
 途中で体勢を整えて、凄い勢いで他の仲間と飛んで行ったから大丈夫だろう。
 横でアスマさんが、凄い顔してたけど。

「出鱈目じゃのう」
「とりあえず、凍らせておくからゴブリン達に処理は任せよう」
「ワイバーンは美味いぞ」
「へえ、そうなんだ」

 喜べお前ら。
 あのトカゲ美味しいらしい。

「俺は食べないけど」
「徹底しておるな。まあ、わしも食わんが」
「そうなの?」
「お主の出す、鶏の方が美味いて」
「そうなんだ。ふーん……今日は、から揚げにしよう」
「うむ」

 やっぱり、催促されてたのね。
 しゃれこうべの表情が変わるはずないのに、俺には満面の笑みに見える。
 でも、今日のアスマさんは頑張ってくれてたから、全然いいと思う。
 
「では、今日はわしもビールにするかのう」
「いいねえ、めでたいことも続いているし。ちょっとくらい飲みすぎても良いかな?」

***
「あいつ出鱈目だな」
「サトウさんですから」

 ワイバーンの突進を受け止めていたサトウを見ていたミレーネが、思わず身震いする。
 ジニーが何かを諦めたような笑みで、投げやりに答えている。
 いくら人に近い容姿とはいえ、ロードであることをまざまざと見せつけられた思いであった。

「いや、あれが特別なだけじゃ。わしでも、ワイバーンの突進を生身で受け止めるなんぞ無理な芸当よ」
「そうなのですか?」

 サトウから離れたアスマが、ミレーネに声を掛ける。
 その言葉に、ミレーネが神妙な表情を浮かべる。

「あの人と、貴方だとどちらが強いのですか?」
「この状態じゃと……あやつかのう。本気を出して五分五分かもしれんのう」
「そうですか」

 国滅のアスマと呼ばれるエルダーリッチと、同等のゴブリンロードがいる集落。
 どうあってもミスト王国が敵対して生き残るのは、無理かなと思い始めたミレーネ。

「まあ、今は私はこちら側だし、どうでもいいか」

 いつの間にか、当然の如く市民権を主張するミレーネに、アスマが少し呆れていた。
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