転勤は突然に~ゴブリンの管理をやらされることになりました~

へたまろ

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第1章:赴任

第61話:酔っ払いs

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「ジャッキーさんって、本当に神様なんですかー?」
「にゃにおー! 私は、由緒正しい血筋の神様です!」

 にゃにおーって……
 あんたは、猫じゃなくて狼だろう。
 やばいな……
 ジャッキーさんに勧められるがままに、吞んでしまった。
 状態異常無効は流石に野暮なので、切っているけど。
 ほろ酔いを通り越してそう。
 いつの間にかビールがワインになって、それが焼酎になって……
 いまは熱燗を呑まされているところ。

「わたしの祖父も曾祖父も凄い神様なんですよ!」

 目の前の狼ほどではないけど。
 神様って、案外酒に弱いのかもしれない。

「そうそう、北欧神話! ちょっと、興味あったりするんですよね」
「ほう! ほうほうほう! それはぜひ、聞いてください! こう見えても血縁者なのでそれなりに裏話は知ってますよ!」

 いや、表向きの話なんだけど。
 神様の裏事情とかは、特に興味ないというか。
 それはそれで、興味あるけど。

「北欧神話の神様って、意外と下衆い人多いですけどね」
「……いきなり、批判から入りますか? 身内を前にして」

 思ったことを伝えたままなのに。
 まあ、いいや。
 色々と謎が多いというか、不思議な立ち位置の曾祖父の話でも振っとくか。
 良い酒の肴になりそうだし。

「ロキさんって、どういう人なんですか?」
「人じゃないですけどね……うーん、陽キャ? いや、チャラ男ですかね? まあ、リア充ではありますけど」

 この人も、大概酷いこと言うな。
 まあ、なんとなくイメージ湧かなくもないけど。
 やってることはスケールでかいけど、軽いイメージは確かにある。

 それから、色々と身内の話をしてくれた。
 親族会では、蛇や6本足の馬も来るから会場が面倒と言ってたけど。
 サイズが調整できるのが、せめてもの救いとのこと。
 スレイプニルさんの血縁も、ポニーのサイズにまで小さくなれるとか。
 ヨルムンガルドさんの血縁は、小さくなっても大蛇らしい。
 ヘルさんとこは、割と色々と腐ってるって言ってたかな?
 ナリさんとヴァーリさんは、ロキさんがあんなんだから根暗だとか……
 それで、知名度無さ過ぎて、いっつも誰それってってなってるらしい。
 酔った勢いで、凄いこと言ってたな。

 ペラペラしゃべっているけど、大丈夫かな?

「ヘル大叔母さんは、日本のイザナミ様と仲良くってですね! 婦女子連合なるものを作ってましたよ! で、腐ってないのにスキュラおばさんが無理矢理参加させられてて」

 いや腐女子連合じゃなくて、婦女子連合なら参加資格あるんじゃないですか?
 それにしても、スキュラおばさんって……

「クッキー作りが得意だったりする?」
「よく分かりましたね! 幼い頃にハロウィンの時に何度かお邪魔したことがありまして」

 そうなのか。
 イメージが全然湧かない。
 スキュラ……下半身犬の人。
 だからかな?

「あはは……分かりますよ、言いたいこと。ギリシャ組の中では一番私を可愛がってくれましたし」

 そういうことらしい。
 てか、巨人同士の間になんで狼と蛇が産まれたんだろう?
 というか、もしかしなくても托卵……

「酷いこと考えますね! ちゃんと曾祖父の血統です!」
 
 そうですか。
 村のあちこちで、酔っ払い共がはしゃいでいるが。
 一部、怪しい集団も。
 キノコマルを中心とした集団。
 車座になって、真ん中にお香を焚いているけど。
 絶対にあれだよね?
 ハッピーになるやつだよね?

「違います。魔物避けと、酔い軽減のあるお香です。皆さんが酔ってる時に、襲撃受けたらどうするんですか?」

 お……おおう。
 真面目か。
 逆に酔ってるんじゃないかなって思うのは、流石に考えすぎだろうか?
 あと、キノコマル以外、全員が目が逝ってるけど?

「まあ、私たちも魔物ですからね」

 ……じゃあ、駄目じゃん。
 とは、言えない雰囲気。
 キリっとした表情で、真面目そのもの。
 担がれてる?

「心外です! いつも、ふざけてばかりだと思わないでください!」

 なんだろう。
 正論だし、やってることは正しいのに。
 こいつにそれを言われるのは腹が立つ。
 やっぱり、呑みすぎたかな?

 なんか、話しかけにくい雰囲気だったので、ジャッキーさんの方に戻る。
 あっ、女性のゴブリンに囲まれてご満悦そう。
 ちょっと、風に当たってくるかな?

 そんなことを思っていたら、ジソチが声を掛けてきたのでキノコマルのことを聞く。

「ああ、あれですか? また、材木置き場でハッピーマッシュ量産して、ゴブサクさんとゴブオさんがブチ切れて全部焼き払ってしまって」

 そうか……なんとなく感じたけど。
 それで哀愁漂う背中になってたのか。
 拗ねてるだけだと分かって、一安心。
 また、一時したらおバカなキノコマルに戻るだろう。

 うわぁ、悪い顔して魔物避けのお香、おかわりしてる。
 完全に闇落ちした顔だ。
 もう拗ねてるというより、やさぐれてるな。
 グレてドラッグが絶てるなら、いいことだと思うが。
 あっ……

「痛いっす!」

 なんだ……と?
 ゴブオが背後から忍び寄って、キノコマルの頭にげんこつを落としていた。
 そして、それが当たっていたことにびっくり。

「ゴブオさんは、必中スキルの一つ親方のげんこつ持ちですから」

 そうなの?
 そんなスキルあったのか?
 俺も欲しいんだけど?

「ユニークスキルのなかでも、最上級にレアなスキルみたいですよ? アスマ先生が長い人生の中で必中スキルを見たのは、ゴブオで2人目だと言ってましたし」

 いや、長い人生というか。
 長すぎるうえに、人ですらないというか。

 とりあえず、皆が飲みすぎなのは分かったけど。

 明日は酷いことになってそうだな。
 やっぱり、状態異常を多少は軽減させておこう。
 
 うーん、ジャッキーさんがまたトッロトロになってるけど。
 回収した方がいいかな?
 てか、もう5時過ぎたけど会社に連絡とか?

「今日は半休とって明日も有給にしたので、オールナイトでいきますよー!」

 いや、そんな自由なの?
 ホワイトだなー……
 重役だからかな?
 それとも、俺以外はそうなのかな?

「うちは育休も取れますし、超絶ホワイトですよ?」

 絶賛、俺がブラック勤務に近いのですが?
 まあ、業務内容が仕事っぽくないから、別にきつくはないですけど。

「ふふ……時間の流れが違うので、別にあっちの世界の個人的都合は気にしなくてもいいですよー」

 いや、でもテレビの放送内容とか……

「タイムシフトで転移陣に戻るときには、転移した時間軸に近い時間に戻りますよ!」

 そういうものなのか。
 まあ、神の成せる業だな。
 それにしても……

「俺って、なんか物語の主人公っぽいですよね? 転生転移系の」
「どっちかっていったら、ラスボス系じゃないですか?」

 いや、なんで?

「戦力とステータスが凶悪過ぎて。骸骨やら魔王やら、交友関係がブラック過ぎて笑えます」

 そう言って爆笑してる狼を見ていると、考えるのがあほらしくなってくる。
 交友関係がブラックって、そういう意味なのだろうか?
 そういった点では、黒い大きな狼と懇意にしているこの関係が、黒い交際の筆頭だと思う。

「上手い事いいますねー!」

 まあ、あほなことを考えた。
 ただの社畜が、物語の主人公だとか。
 笑えない。
 よーし、今夜はとことん飲むぞ!

 敢えて口に出して宣言したら、周りから歓声があがる。

「これは、ワンチャンあるかも!」
「ロードの子種!」

 あっ、やっぱり状態異常解除して、一度リセットしておこう。
 なんか、背筋がゾワゾワしたし。

「無粋ですねー」

 いや、貴方が一番気を付けた方がいいと思うんですけど。
 既成事実作られて、異世界婚とか……曾祖父さんのこと笑えなくなるけど?

「じゃんじゃん飲みましょー! そうだ、会社の若い子も仕事終わるんで呼んでもいいですか?」

 うーん……ややこしい人じゃなければ。

「人じゃないですけどね」

 うん、ぜひ先に素面しらふの時に紹介してください。
 いきなり、飲み会に呼び出すのはお互い迷惑ですよ!

「一緒にお酒飲んだら、無問題モーマンタイ!」

 なぜ、中国語?
 あとそれ、アルハラだから。

「あははは、それ言ったら私が日本語使ってる自体がおかしいでしょう」

 笑うところ、そこ?
 
 
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