転勤は突然に~ゴブリンの管理をやらされることになりました~

へたまろ

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第1章:赴任

第63話:働くオーク

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 この二日間は割とバタバタした。
 まずは押し掛けてきた、オーク達の受け入れ準備。
 いや、受け入れる必要は無かったんだけど、雪の中を一生懸命ここまでやってきたと聞いてしまった。
 断るから帰れとは言いづらい。
 仕方ないから、雪解けまで村の中で過ごしてもらうことに。

 対価がまだ決まってなかったので、当面は労働力として。
 といっても、あまり与えられる仕事が無かった。
 
 肉体労働を主にやってもらっているが、うちのゴブリンよりも力が弱い。
 下手したら、新参のゴブリン以下だ。

 幸いにして、ある程度の食糧は自分たちでもってきていたので、そこまでの負担は無かった。
 
「これから、女子供達も来る」

 オークの族長が、そんなことを言っていた。
 まずは族長率いる先遣隊が来て、交渉を。
 その後、集落に残した精鋭が、女性や子供、老人たちを連れてくる手はずだったらしい。

 交渉?

「ちゃんと、頼んだではないか」

 いやいや、交渉というか……ほぼほぼ居直りのような印象だったのだが。
 まあ、受け入れると決めたからにはゴチャゴチャ言わない。
 だから、お前も働け。

「ふむ……わしの分も、部下たちをこき使ってくれ」

 こいつだけ、村の外に放り出そうかと思ってしまった。
 
「待て待て! 話せば分かる」

 というか、放り出していた。
 ユリアンが微妙な表情で父親を見ていたが、助ける気はないらしい。 
 そそくさと暖を取りに、迎賓館へと戻っていった。
 一応女性だから、他のオークとは扱いを分けたわけだが。
  
 当初は、俺の家に来たがっていた。
 全力でお断りした。
 それはもう、必死に。

「奥ゆかしい方」

 などと言われてしまったが、いくら喋れると言っても猪を家に入れる気はない。
 ノミとか気になるし。
 これは、言わなかった。
 そのくらいの分別は……猪相手に気遣いは必要なのだろうか?

「話を聞いてくれ!」

 外で、オークの族長が騒いでいるが。
 話をしたけど、伝わらないし分からないから放り出したのだが?

「族長? 一人で、外で何をしているのですか?」

 しばらく放置していたら、後発隊が到着した。
 外でふてくされて座り込んだ、オークの族長に声を掛けていたが。
 とりあえず子供や老人もいるということで、仕方なしにさっさと中に入れる。

「だが、お前はダメだ!」

 しれっと、そこに混じって入ろうとしてきたオークの族長を、外に向かって思いっきり蹴り飛ばす。
 後発隊の面々がビクッとなって、族長の方を見ていたが。
 開いた門から見えた村の様子と見比べて、そそくさと中に入ってきた。
 
「とりあえず仕方がないので、皆さんを受け入れます。食料は持参したものから、消費していってください。取り急ぎ、女性と子供と老人の方を受け入れるための居住地を用意しますので、力自慢の方は手伝ってください」

 俺の言葉に、オーク達が頷いている。

「それと、食料が足りなくなった場合は、提供します。ただし、こちらは後ほど返してもらうか、労働で支払ってもらいます」

 全員がしっかりと頷いている。

「子供たちには労働は課しません。自由に子供らしく過ごしてもらえたら、大丈夫です。うちの子たちとも、仲よくしてください」

 大人のオーク達が笑顔になった。
 子供たちは、少し緊張している様子だ。
 流石にウリボーみたいなオークは、可愛い。
 残念なことに、子ゴブリンよりもよほどに……

「それとは別に家賃代わりに、労働をしてもらいます。各々得意なことを、あちらのゴブートに伝えてください」

 ゴブートは長老の一人だ。
 笑顔で頷いているが、人の好さがにじみ出ている。
 オーク達が、少し安心した様子だ。

「ちなみに労働を拒否すると……」

 そう言って、俺は外でまた喚きだしたオークの族長がいるであろう方向を指さす。

「ああなります」

 全員が、そちらを振り返っている。

「ですので、なるべく何かしらの仕事をしてください」

 全員が、全力で首を縦に振ってくれたので、ようやく俺も安心できた。

 オーク達は、割とみんな真面目に働いてくれている。
 役に立っているかどうかは別としても、一生懸命さは伝わってくる。
 それだけで十分だ。

 それに、全く役に立たないわけでもないし。
 イッヌよりは、肉体労働では役に立っている。

 オークの族長が、その後素直に謝ってきたので中に入れた。

「さきほどは、申し訳ありませんでした。私でも何かお役に立てればと思います」

 態度が180度変わったけど、よほどに外が寒かったのかな?

 違った。
 ユリアンが言うには、彼の奥さん……そう、ユリアンの母親に怒られたらしい。

「強い者に己を曲げずに挑む姿はかっこいいですが、恩人に傲慢に振舞うのは違うでしょ!」
「いや、あいつは俺よりもはるかに強いぞ? だからこそ、強気に……痛いではないか」
「人に物を頼む姿勢というものがあるでしょう! 強いとか弱いとか関係ありません!」

 うん、いや……
 分かりたくないけど、分かったというか。
 相手が自分より強ければ強いほど、強気な姿勢で対応する自分に酔っていたというか。
 チキンレースの一種と言うか。
 ただ、引き際を弁えず突き進み続けるのは、チキンレースではないぞ?
 それはただの、自殺行為だと思う。

 とりあえず、オーク達は真面目に働いている。
 一部、子供たちにまとわりつかれて、仕事にならないものもいるが。
 大体が大柄で、人の良さそうなオークだ。

 体温が高いから、少し肌寒いと感じてたゴブリンの子供たちが、抱き着いてあったまっているらしい。
 困った様子のオークと目が合う。

 働きたいんですが、この状況だと……追放ですか?
 
 と怯えた様子で視線で訴えてきたので、笑顔で首を横に振る。

「子供たちの面倒も、仕事のうちだぞ」

 と声を掛けると、ホッとした様子で子供たちにされるがままになっていた。
 あれって、結構体力使うしな。
 役に立っているということで。
 
 いくら結界の内部とはいえ、微妙に肌寒い日もあるしな。


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