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第2章:風の調べとゴブリンとコボルトと
閑話2:ランドールと里帰り
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『なぁ、どこに行くんだ?』
「我の実家よ」
空を飛ぶランドールに咥えられた鈴木が、不満そうに質問をする。
現在彼らは、凄い速さで西へと移動していた。
ランドールは地竜だが、だからといって空を飛ぶのが苦手というわけではない。
竜種は種族問わず、空を自由に飛び回る。
流石にスカイドラゴンには劣るが、ワイバーンごときに後れをとることはないだろう。
途中彼とすれ違った、飛行種の魔物たちが慌てた様子で離れていったりしていた。
それを横目で見つつ、スキルが美味しそうだなと鈴木は呑気に考えていた。
『俺を咥えてるから口が常に半開きで、よだれが凄いぞ?』
「そうか? 気にするな」
『いや、俺は気にする……せっかくゴブリンスミスが作ってくれた鞘が、よだれまみれだ』
「はっはっは、これでも我のよだれは高級品なのだぞ?」
『……』
自身満々にそんなことをのたまうランドールに、鈴木が胡乱げな視線を向ける。
いや、剣である鈴木に目はないが。
「そんな目をするな……」
『目がないのに、どんな目をしてるっていうんだ?』
「ふんっ、我が肌で感じるのよ……お主の、そのいかんとも表現しがたい視線をな」
よく分からん理屈だが、なかなかに鋭いと鈴木は変なところで感心する。
そうこうしてるうちに、周囲の気配ががらりと変わる。
端的にいうと、小さな生物の気配が消える。
これはサイズ的なものではなく、力的なものだ。
ある一定の力を持った魔物や生物の気配しか感じなくなったことに、鈴木が少しだけ身構える。
「我が、祖父の結界内に入っただけだ。気にするな」
『なるほど、これが本物の竜の気配か』
「……我も、本物なのだけど」
鈴木の皮肉にランドールが傷ついた様子で呟くが、彼の耳には届かなかったようだ。
鈴木はランドールを無視して、俯瞰の視点の範囲を広げ周囲を広く観察しはじめる。
まあ、そもそも鈴木に耳はない。
そして不自然に雲が渦を巻いて頂を隠している山が視界に入ってくる。
なるほど、どう考えても怪しい。
隠すつもりがあるのかどうかは別として、あそこまで主張が激しい場所ともなれば。
見れば気になって、近寄りたくもなるかもしれない。
そして、そこに一直線に向かうランドール。
あそこに彼の祖父がいるのだろう。
「おじいちゃん、また来たよ!」
「おお、ランドールか! 元気だったか?」
「うん、こないだ帰ってきたばっかりじゃん!」
おじいちゃん?
さっきまで、我とか祖父とか言ってた竜と同一人物とは思えぬほどの、無邪気な様子に鈴木が何か見てはいけないものを見てしまったような気持ちになる。
「これが、このあいだ話した僕の友達。鈴木さんっていうんだ」
「そうかそうか、よう来たのう」
僕?
鈴木さん?
軽いめまいを覚えつつ、彼の祖父を見つめる鈴木。
なるほど……ランドールとは全然違う立派な竜がそこには鎮座している。
顎には見事な髭を貯え、第81代内閣総理大臣のようなふさふさの眉毛が特徴的だ。
全てのサイズ感がランドールより一回り以上大きく、漏れ出るオーラだけで思わず気圧されそうになる。
『ランドール?』
「どうしたの?」
ランドールの喋り方の変化や彼の祖父の存在感に困惑気味の鈴木が思わず名前を呼ぶと、そこにいたあどけなさを醸し出す若い竜がこてっと首を傾げて見せる。
鈴木は、今度こそ頭痛を覚える。
「おじいちゃん、この魔石を板状に出来るかな?」
「ん? どうしてじゃ?」
「鈴木さんの鞘に、目立たないようにつけようと思って」
「ほう……剣が、魔石を欲すると」
ランドールのお願いに、彼の祖父は鋭い視線を鈴木に向ける。
が当の本人は、ランドールの甘えたような喋り方に悪寒すら感じ、それどころではなかった。
「ふむ……我の威圧に反応すら示さぬか。よほどの愚か者か……それとも、竜に匹敵する大物か?」
さっきのはただ単に睨みつけただけ。
今度は本気の威圧を放つランドールの祖父。
だが、その程度の威圧では、ランドールの喋り方に嫌悪感を感じ色々と消化不良に陥った鈴木を正気に戻すには足りなかった。
呆然とランドールを見つめ、完全な思考停止に陥っていた。
「ふぁっふぁっふぁっ! なるほどなるほど! ランドールが懐くわけじゃ! いかな強者であれど飲み込む我の威圧を一身に受けて、身じろぎすらせぬとは」
何やら盛大な勘違いを起こしているが、そもそも金属であり剣である彼が身じろぎできるはずもない。
誰かに振るわれない限り。
「して、我が愛する可愛い孫に与えた魔石を、何故欲す?」
『えっ? ああ、えっとランドールが自信満々にくれたのはいいけど、すでに魔石は一つあるからゴテゴテと飾り付けるのもどうかと』
「えっ? あれ、あげちゃったの?」
物理的に大きな笑い声に刺激を受け、ようやく聞く姿勢が出来た鈴木。
その後に続いたランドールの祖父の質問に、思わず声をあげ状況を説明。
孫のためにあつらえた魔石のつもりだったが、あっさりと鈴木に渡したことにまったく似たような声をあげてしょんぼりする、威厳ある竜。
いや、今だけはその威厳もしぼんでしまっているが。
「言ったじゃん! 友達にあげるって」
「そうだったっけ? おじいちゃん、お前に強請られて張り切って話をよく聞いてなかったわい」
一人称がおじいちゃんの、やけに強そうな竜。
……
色々な価値観を崩壊させつつも、当初の予定通り魔石を板状に加工してもらうことは出来た。
だが、その後予定外の展開に。
「ちょっと、おじいさまに魔力込めてもらってくる」
「……おじいちゃん?」
ランドールの祖父が、妙に張り切って板状になった魔石を持って飛び立とうとする。
右手にランドールを抱え、左手で鈴木を掴んで。
この時鈴木は思った。
ランドールの手でも、俺を掴めたよね?
だったら、わざわざ咥えて移動しなくても……
普通の魔物と比べ、大きく逸脱した巨躯を誇るランドールを小脇に抱える彼の祖父。
それだけで、規格外ということが分かるだろう。
その偉大なる竜が、全速力で空を飛ぶ。
それはもうランドールの比ではないわけで。
鈴木の俯瞰の視点をもってしても、目まぐるしく景色が変わる。
三半規管も無ければ、胃もない鈴木が乗り物酔いを覚えることもなく。
線のように連なって流れる景色に幻想的なものを感じていたら、一気に地面に向かって突っ込んでいく。
そこには大きな穴が空いていて、中からありえない量の魔力の奔流を感じる。
『ちょっと?』
「我が祖父は、あそこにおるのじゃ」
「おじいちゃんのおじいちゃんで、ランドルフ様?」
「そうじゃぞ! 我が地竜の主流の祖であられるランドルフ様だ! 彼のお方の曾祖父が始祖様であるランドリオン様である」
「神龍なんだよね?」
「よく知ってるのう! 齢3万をこえる、世界竜のひとりであらせれらる」
意外とランドールが由緒正しいドラゴンであることに驚きつつも、地中深くに向かう一行。
外が明るいことに、鈴木は疑問を覚えたが。
そして俯瞰の視点に広がる眩いばかりの光景に、思わず声を失う。
そこに広がるのは、透明度の高い鉱石の柱や塊。
金剛石、ダイヤモンドと呼ばれる現代地球の世界最高峰の鉱物だ。
そこにある大地の至る所に、それらが生えている。
全体から見れば、1~2%程度かもしれないが。
100㎡なら、そこにある地表の1㎡から2㎡がダイヤモンドなのだ。
いかに、凄いことから分かるだろう。
しかもそれまでぐんぐんと上がっていた熱量も、落ち着いて生物が生きていける程度にまで下がっている。
地球にもそのような場所は存在するといわれている。
約200kmの地下にあるクラトンと呼ばれる、地表核の根に当たる場所に。
人が決してたどり着けない場所だ。
ということは、この場所は地上から100kmは優に超えた地下かもしれない。
それなのに温度が低いことは、そこにいる青い竜の影響であることは窺い知れる。
「あれは、ランドリオン様の古い友人のフリザリオン様だ」
「氷竜の世界竜様だね」
ランドールの祖父よりもさらに一回り大きな竜が1体、その竜を囲むように身体を丸めている青い竜が1体寝そべっている。
鈴木は頭では理解できない状況だが、漠然と凄い体験をしていることだけは自覚する。
ランドールの祖父に聞けばフリザリオンは、ランドリオンの曾孫であるランドルフが古龍となったお祝いにこの地をプレゼントしたらしい。
そして、いまは生活に適した場所になるよう温度調整を行っているところと。
現時点で800年……
あと500年ほどで、安定した気候になるとか、
なんとも気の長い計画と思えるが。
ランドルフは古龍としては新参の若い竜となるらしい。
いわゆる若い古龍。
ふふ、字面が凄く馬鹿っぽいから、他に言い方考えた方が良いぞと内心思いつつも鈴木はそれを口にしない。
ランドールや彼の祖父とは、明らかに次元が違う強さを肌で感じているからだ。
「おじい様! 孫の友人のために魔力を分けてください」
「何を藪から棒に」
つくやいなやそんなことを口走るランドールの祖父に、ランドルフがため息を吐く。
「フリザリオン様、我が孫が申し訳ない」
「ふふ、あなたの孫なら私にとってみれば子孫のようなもの。見ればまだ赤子のような若い竜、気にすることはありませんよ」
地を響かせる重低音のランドルフに対して、フリザリオンの声は凛となる鈴の音色のような澄んだ声色。
聞くだけで涼やかな印象を受ける。
ただ双方とも、声から感じる圧は生身の人間が耐えられるようなものではない。
それが分かったからこそ、鈴木は背筋が凍るような思いだった。
「いいでしょ、おじいさま?」
……それよりも、ランドールの祖父が普通におじいちゃんに甘えるように話しかけていることの方が、薄ら寒いと感じてしまっていたが。
「なかなかに、図太いというか……まあ、見所はありそうだな」
そんな鈴木の心境を読み取ったのか、ランドルフは少し呆れた様子。
それでもお眼鏡に適ったらしい。
これが、鈴木が古龍の魔力を込めた魔石の板を手に入れた顛末。
孫がおじいちゃんに甘えて、そのおじいちゃんがさらにおじいちゃんに甘えた結果だ。
こっそりとフリザリオンも魔力を込めていたわけだから、実質無限機関に近い魔石に仕上がっているが。
久しぶりに孫の一人が顔を出したことに気を良くしたランドルフが、2日間ほど彼らを拘束してあれこれと話を聞きたがったのはランドールの想定外だったらしい。
すぐに帰るつもりだった彼は、鈴木を離してしまったニコのことを考えてソワソワしては彼の祖父に注意されていた。
ランドルフとフリザリオンはそんな落ち着きのない玄孫に対して、赤子を見るような暖かな視線を送る。
実際彼らからすれば、そうなのかもしれないが。
鈴木はここぞとばかりに、ランドルフとフリザリオンに血を強請って場を凍らせる場面もあったりしたが。
それなりに全員にとって楽しい時間だったともいえる。
帰り際にランドールに言って、ダイヤモンドを少しだけくすねていたが。
ランドルフ達にとってみれば、そこら辺の石コロのようなもの。
特に咎められることもなく、隠し財産を手に入れてホクホクだったのはいうまでもない。
ランドルフは子孫との久方ぶりの交流を持て。
ランドールの祖父は、孫から尊敬のまなざしを向けられ。
ランドールは思った以上の成果を手にし。
そのランドールの成果を全て享受した鈴木。
全員がWINWIN……いや、鈴木の一人勝ちだろう。
そんな無粋なことを言う鈴木ではないが。
彼に顔があったなら、きっと悪い笑みを浮かべていたことだろう。
「我の実家よ」
空を飛ぶランドールに咥えられた鈴木が、不満そうに質問をする。
現在彼らは、凄い速さで西へと移動していた。
ランドールは地竜だが、だからといって空を飛ぶのが苦手というわけではない。
竜種は種族問わず、空を自由に飛び回る。
流石にスカイドラゴンには劣るが、ワイバーンごときに後れをとることはないだろう。
途中彼とすれ違った、飛行種の魔物たちが慌てた様子で離れていったりしていた。
それを横目で見つつ、スキルが美味しそうだなと鈴木は呑気に考えていた。
『俺を咥えてるから口が常に半開きで、よだれが凄いぞ?』
「そうか? 気にするな」
『いや、俺は気にする……せっかくゴブリンスミスが作ってくれた鞘が、よだれまみれだ』
「はっはっは、これでも我のよだれは高級品なのだぞ?」
『……』
自身満々にそんなことをのたまうランドールに、鈴木が胡乱げな視線を向ける。
いや、剣である鈴木に目はないが。
「そんな目をするな……」
『目がないのに、どんな目をしてるっていうんだ?』
「ふんっ、我が肌で感じるのよ……お主の、そのいかんとも表現しがたい視線をな」
よく分からん理屈だが、なかなかに鋭いと鈴木は変なところで感心する。
そうこうしてるうちに、周囲の気配ががらりと変わる。
端的にいうと、小さな生物の気配が消える。
これはサイズ的なものではなく、力的なものだ。
ある一定の力を持った魔物や生物の気配しか感じなくなったことに、鈴木が少しだけ身構える。
「我が、祖父の結界内に入っただけだ。気にするな」
『なるほど、これが本物の竜の気配か』
「……我も、本物なのだけど」
鈴木の皮肉にランドールが傷ついた様子で呟くが、彼の耳には届かなかったようだ。
鈴木はランドールを無視して、俯瞰の視点の範囲を広げ周囲を広く観察しはじめる。
まあ、そもそも鈴木に耳はない。
そして不自然に雲が渦を巻いて頂を隠している山が視界に入ってくる。
なるほど、どう考えても怪しい。
隠すつもりがあるのかどうかは別として、あそこまで主張が激しい場所ともなれば。
見れば気になって、近寄りたくもなるかもしれない。
そして、そこに一直線に向かうランドール。
あそこに彼の祖父がいるのだろう。
「おじいちゃん、また来たよ!」
「おお、ランドールか! 元気だったか?」
「うん、こないだ帰ってきたばっかりじゃん!」
おじいちゃん?
さっきまで、我とか祖父とか言ってた竜と同一人物とは思えぬほどの、無邪気な様子に鈴木が何か見てはいけないものを見てしまったような気持ちになる。
「これが、このあいだ話した僕の友達。鈴木さんっていうんだ」
「そうかそうか、よう来たのう」
僕?
鈴木さん?
軽いめまいを覚えつつ、彼の祖父を見つめる鈴木。
なるほど……ランドールとは全然違う立派な竜がそこには鎮座している。
顎には見事な髭を貯え、第81代内閣総理大臣のようなふさふさの眉毛が特徴的だ。
全てのサイズ感がランドールより一回り以上大きく、漏れ出るオーラだけで思わず気圧されそうになる。
『ランドール?』
「どうしたの?」
ランドールの喋り方の変化や彼の祖父の存在感に困惑気味の鈴木が思わず名前を呼ぶと、そこにいたあどけなさを醸し出す若い竜がこてっと首を傾げて見せる。
鈴木は、今度こそ頭痛を覚える。
「おじいちゃん、この魔石を板状に出来るかな?」
「ん? どうしてじゃ?」
「鈴木さんの鞘に、目立たないようにつけようと思って」
「ほう……剣が、魔石を欲すると」
ランドールのお願いに、彼の祖父は鋭い視線を鈴木に向ける。
が当の本人は、ランドールの甘えたような喋り方に悪寒すら感じ、それどころではなかった。
「ふむ……我の威圧に反応すら示さぬか。よほどの愚か者か……それとも、竜に匹敵する大物か?」
さっきのはただ単に睨みつけただけ。
今度は本気の威圧を放つランドールの祖父。
だが、その程度の威圧では、ランドールの喋り方に嫌悪感を感じ色々と消化不良に陥った鈴木を正気に戻すには足りなかった。
呆然とランドールを見つめ、完全な思考停止に陥っていた。
「ふぁっふぁっふぁっ! なるほどなるほど! ランドールが懐くわけじゃ! いかな強者であれど飲み込む我の威圧を一身に受けて、身じろぎすらせぬとは」
何やら盛大な勘違いを起こしているが、そもそも金属であり剣である彼が身じろぎできるはずもない。
誰かに振るわれない限り。
「して、我が愛する可愛い孫に与えた魔石を、何故欲す?」
『えっ? ああ、えっとランドールが自信満々にくれたのはいいけど、すでに魔石は一つあるからゴテゴテと飾り付けるのもどうかと』
「えっ? あれ、あげちゃったの?」
物理的に大きな笑い声に刺激を受け、ようやく聞く姿勢が出来た鈴木。
その後に続いたランドールの祖父の質問に、思わず声をあげ状況を説明。
孫のためにあつらえた魔石のつもりだったが、あっさりと鈴木に渡したことにまったく似たような声をあげてしょんぼりする、威厳ある竜。
いや、今だけはその威厳もしぼんでしまっているが。
「言ったじゃん! 友達にあげるって」
「そうだったっけ? おじいちゃん、お前に強請られて張り切って話をよく聞いてなかったわい」
一人称がおじいちゃんの、やけに強そうな竜。
……
色々な価値観を崩壊させつつも、当初の予定通り魔石を板状に加工してもらうことは出来た。
だが、その後予定外の展開に。
「ちょっと、おじいさまに魔力込めてもらってくる」
「……おじいちゃん?」
ランドールの祖父が、妙に張り切って板状になった魔石を持って飛び立とうとする。
右手にランドールを抱え、左手で鈴木を掴んで。
この時鈴木は思った。
ランドールの手でも、俺を掴めたよね?
だったら、わざわざ咥えて移動しなくても……
普通の魔物と比べ、大きく逸脱した巨躯を誇るランドールを小脇に抱える彼の祖父。
それだけで、規格外ということが分かるだろう。
その偉大なる竜が、全速力で空を飛ぶ。
それはもうランドールの比ではないわけで。
鈴木の俯瞰の視点をもってしても、目まぐるしく景色が変わる。
三半規管も無ければ、胃もない鈴木が乗り物酔いを覚えることもなく。
線のように連なって流れる景色に幻想的なものを感じていたら、一気に地面に向かって突っ込んでいく。
そこには大きな穴が空いていて、中からありえない量の魔力の奔流を感じる。
『ちょっと?』
「我が祖父は、あそこにおるのじゃ」
「おじいちゃんのおじいちゃんで、ランドルフ様?」
「そうじゃぞ! 我が地竜の主流の祖であられるランドルフ様だ! 彼のお方の曾祖父が始祖様であるランドリオン様である」
「神龍なんだよね?」
「よく知ってるのう! 齢3万をこえる、世界竜のひとりであらせれらる」
意外とランドールが由緒正しいドラゴンであることに驚きつつも、地中深くに向かう一行。
外が明るいことに、鈴木は疑問を覚えたが。
そして俯瞰の視点に広がる眩いばかりの光景に、思わず声を失う。
そこに広がるのは、透明度の高い鉱石の柱や塊。
金剛石、ダイヤモンドと呼ばれる現代地球の世界最高峰の鉱物だ。
そこにある大地の至る所に、それらが生えている。
全体から見れば、1~2%程度かもしれないが。
100㎡なら、そこにある地表の1㎡から2㎡がダイヤモンドなのだ。
いかに、凄いことから分かるだろう。
しかもそれまでぐんぐんと上がっていた熱量も、落ち着いて生物が生きていける程度にまで下がっている。
地球にもそのような場所は存在するといわれている。
約200kmの地下にあるクラトンと呼ばれる、地表核の根に当たる場所に。
人が決してたどり着けない場所だ。
ということは、この場所は地上から100kmは優に超えた地下かもしれない。
それなのに温度が低いことは、そこにいる青い竜の影響であることは窺い知れる。
「あれは、ランドリオン様の古い友人のフリザリオン様だ」
「氷竜の世界竜様だね」
ランドールの祖父よりもさらに一回り大きな竜が1体、その竜を囲むように身体を丸めている青い竜が1体寝そべっている。
鈴木は頭では理解できない状況だが、漠然と凄い体験をしていることだけは自覚する。
ランドールの祖父に聞けばフリザリオンは、ランドリオンの曾孫であるランドルフが古龍となったお祝いにこの地をプレゼントしたらしい。
そして、いまは生活に適した場所になるよう温度調整を行っているところと。
現時点で800年……
あと500年ほどで、安定した気候になるとか、
なんとも気の長い計画と思えるが。
ランドルフは古龍としては新参の若い竜となるらしい。
いわゆる若い古龍。
ふふ、字面が凄く馬鹿っぽいから、他に言い方考えた方が良いぞと内心思いつつも鈴木はそれを口にしない。
ランドールや彼の祖父とは、明らかに次元が違う強さを肌で感じているからだ。
「おじい様! 孫の友人のために魔力を分けてください」
「何を藪から棒に」
つくやいなやそんなことを口走るランドールの祖父に、ランドルフがため息を吐く。
「フリザリオン様、我が孫が申し訳ない」
「ふふ、あなたの孫なら私にとってみれば子孫のようなもの。見ればまだ赤子のような若い竜、気にすることはありませんよ」
地を響かせる重低音のランドルフに対して、フリザリオンの声は凛となる鈴の音色のような澄んだ声色。
聞くだけで涼やかな印象を受ける。
ただ双方とも、声から感じる圧は生身の人間が耐えられるようなものではない。
それが分かったからこそ、鈴木は背筋が凍るような思いだった。
「いいでしょ、おじいさま?」
……それよりも、ランドールの祖父が普通におじいちゃんに甘えるように話しかけていることの方が、薄ら寒いと感じてしまっていたが。
「なかなかに、図太いというか……まあ、見所はありそうだな」
そんな鈴木の心境を読み取ったのか、ランドルフは少し呆れた様子。
それでもお眼鏡に適ったらしい。
これが、鈴木が古龍の魔力を込めた魔石の板を手に入れた顛末。
孫がおじいちゃんに甘えて、そのおじいちゃんがさらにおじいちゃんに甘えた結果だ。
こっそりとフリザリオンも魔力を込めていたわけだから、実質無限機関に近い魔石に仕上がっているが。
久しぶりに孫の一人が顔を出したことに気を良くしたランドルフが、2日間ほど彼らを拘束してあれこれと話を聞きたがったのはランドールの想定外だったらしい。
すぐに帰るつもりだった彼は、鈴木を離してしまったニコのことを考えてソワソワしては彼の祖父に注意されていた。
ランドルフとフリザリオンはそんな落ち着きのない玄孫に対して、赤子を見るような暖かな視線を送る。
実際彼らからすれば、そうなのかもしれないが。
鈴木はここぞとばかりに、ランドルフとフリザリオンに血を強請って場を凍らせる場面もあったりしたが。
それなりに全員にとって楽しい時間だったともいえる。
帰り際にランドールに言って、ダイヤモンドを少しだけくすねていたが。
ランドルフ達にとってみれば、そこら辺の石コロのようなもの。
特に咎められることもなく、隠し財産を手に入れてホクホクだったのはいうまでもない。
ランドルフは子孫との久方ぶりの交流を持て。
ランドールの祖父は、孫から尊敬のまなざしを向けられ。
ランドールは思った以上の成果を手にし。
そのランドールの成果を全て享受した鈴木。
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