錆びた剣(鈴木さん)と少年

へたまろ

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第4章:鬼

第3話:理不尽

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 夕飯を終えた一行は、またも町に繰り出す。
 夜は夜で、色々なことをやっているらしい。
 演劇とか、音楽会とか。
 でもって、今回一行が向かうのは音楽会。
 街で、芸人の人達が演奏をしているのは聞いたことあるが。
 オーケストラのようなものは、一度もないからな。
 前世でも、テレビくらいでしか聞いたことない。

 ホールとなった会場は200人くらいがゆったりと座れる、この町でもかなり大きめの建物だった。
 ステージに向かって扇形に広がった観客席は、固めの木のベンチのようなものだったが。
 そっか、日本のホールみたいに肘置きが収納された、柔らかいクッションのついた椅子じゃないのか。
 俺は別に……入り口で没収された。
 武器の持ち込みは禁止らしい。

 ニコがソワソワしてるけど、俺はモヤモヤしてる。
 武器差別だ!
 俺だって、生演奏が聞きたかったのに。

「良かったね」
「うん、音が大きくてびっくりしました」

 2人を含め、観客の人達がガヤガヤと感想を言い合いながら出てくる。
 俺も一応聞いたけど、壁越しだから音がくぐもってて感動もへったくれもない。
 虚しい。
 これほど、剣に転生したことを恨んだ日は無いだろう。

「大丈夫?」
『別に』

 物も食べられないし俺だって観光を楽しみたいのに、2時間近くも鍵付きの棚に閉じ込められてたからって、別に拗ねてねーし。
 別に、なんとも思ってねーし。

「だいぶ、ご機嫌斜めみたい」
「うーん、主でも楽しめる場所があればいいのですが」

 俺の様子に肩をすくめて、フィーナを見るニコ。
 ちょっ、別になんとも思ってねーから!
 フィーナも、真剣に剣が楽しめそうな場所を考えてくれてる。
 剣が相手だけに、真剣につってな……つまんねーよ!

 いいよもう。
 ニコが寝た後で、勝手にお出かけするから。
 割と良い時間なので、一旦ホテルに戻ることに。

「なんでいないんすかもー!」

 ホテルに帰ったニコを待ち受けていたのは。
 ロビーで貧乏ゆすりしながら、爪を噛んでいるちょっとよさげな服を着た男性だった。
 ニコたちがホテルに入ると従業員の人に声を掛けられてこっちを見て、大股で近づいてきたわけだが。

 いやいや本人の許可も採らずに、勝手に押しかけてきた人に宿泊客の情報を漏らすとか。
 このホテルの企業倫理が気になるところだが。
 理想としてはいったん裏口から部屋に通してもらって、そこでこういう人が訪ねてきてますが知り合いですか?
 とか、約束はありましたかとかって聞いてもらいたかったが。
 
 そこに対するクレームはあとでいいだろう。
 
「メノウの領主様の手紙の内容知ってたんでしょ? なんで、その場で待ってないんですか!」
「ええ」
「ていうか、なんで少しホテルで待ってくれないんですか!」

 ゴタロウが従業員にきくと、ニコ達がホテルから出て割とすぐに尋ねてきたらしい。
 血相を変えて。

「遠くない街で、領主夫人による簒奪未遂にオークキングの侵入、嫡男によるクーデターでの代替わりとかをふわっと書いた書状を渡されても、旦那様も困ってらっしゃいます」
「そんなこと言われても、手紙を渡されただけだし……」
「いやいや、割と中心人物じゃないですか! あなたもそこの執事の方」
「じゃあ、ゴタロウだけでいい?」
「皆さんもその時に滞在してたんでしょ?「あっ、私はずっと外にいたけど?」」
「えっと……いやいや、大丈夫! あなたもあとから町に乗り込んだって書いてありましたし」

 何が大丈夫か分からないけど、男性がうんうん頷きながらニコ達をスムーズに外に誘導していってる。
 おいおい……
 付いて行って大丈夫なのかね?

「あの、うちの旦那様が是非夕飯をご一緒にと」
「えっ? もう食べましたよ?」
「ですよねー」

 というか、食事も一緒にする予定だったのか。
 だったら、もう少し早く来いよ。
 夕飯食べてから出かけたし。
 というか……

「でも、旦那様も食べずに待ってますので」

 おい、ポンコツか!
 夕飯食べて出かけたの、ホテルの人誰も伝えてないのか?
 知ってたら、屋敷に戻って先に食べてもらえただろうし。

「まあ、皆さんが食べたのは知ってましたが……あの、人使いの荒い領主様が空腹と戦いながら、皆さんを待ってるところを想像するだけで私は楽しくってですね」

 もっとひどかった。
 この人、この町の領主に不満か恨みでもあるのかな?

「えっ?」
「わたしもう100日間休みなしで働いておりまして、このくらいの仕返しは問題ないかと」

 驚いた様子のニコに対して、光の消えた目で遠くを見つめながらつぶやく男性が少し心配になったが。

「というか、あなたは?」
「おっと、名乗っておりませんでしたね! この町の領主であるビルビング・フォン・ジェジェ様に仕える、リャーマと申します」
「リャーマさんですか」
「ええ、親しみを込めてリャーさんと呼んでください」
「えっと、そのリャーマさんが来たのは、領主様が僕たちを呼んでいるからってことでいいですよね」
「はいですとも!」
「急いで行かなくてもいいんですか?」
「良いんですよ! 待たせておいて! 空腹で料理を前にしてよだれを垂らしながら、待ってたらいいんですよ!」
「はあ……」

 嬉しそうにそんなことをのたまうリャーマに対して、ニコが首を傾げている。
 ロビーの向こうにある扉がドアマンによって音もなく開かれているのを見つつ。
 そこから2人の衛兵に脇を固められた、がっしりとした体形の立派な衣装の男性が入ってくる。
 40手前くらいだろうか?
 背筋をびしっと伸ばしているのに、衛兵をその場に止めて1人で足音を消して近づいてきた。

「だったら、急いでお屋敷の方にいったほうが良いんじゃないですか? リャーマさんもその方が早く仕事が終わるでしょう?」
「おや、もっと気さくにリャーさんと呼んでもらっていいんですよ? それに皆様をお待ちしている間、そこの椅子でゆったりとお茶を頂きましたので。久方ぶりのゆったりとした時間に、身体も休ませていただきましたから」
「ほう……」
「ここのものが、すぐに探しに行くとおっしゃってましたが、そこまで迷惑かけられないので待たせてもらったのはこちらですし」

 その割には、イライラした様子だったけど。

「まあ音楽会に行かれてたのは知ってましたし、いつ頃戻るかというのも……できれば、もう少し観光して戻ってくるかと思ってたのですが……時間が迫るにつれてまだ休みたいという感情が」
「ふむ……」
「でも、いちおう最初に迎えが来る可能性があるにもかかわらず、外出したことを咎めたことを全面に押し出しつつ脳筋領主に謝ってもらえたら、リャーさん感激……っ!」

 そこまでいったところでリャーマがしゃがんだ。
 そして風を切る音が。
 リャーマの後ろにゆっくりと近づいていた男が、剣を横なぎに払ったからだ。

「領主様、ホテル内で刃傷沙汰は困ります」
「ちいっ、せっかく気配を消して近づいたのに、殺気が抑えられんかった」
「これはこれは、親愛なる旦那様! なぜ、このようなところに? それと、盗み聞きは感心致しませんが?」
「くそがっ、また殺し損ねたわ! そして口と性格の悪い優秀過ぎる部下を持った、わしが不憫すぎる」
 
 どうやら、この大柄の金持ちっぽい男がこの町の領主か。
 いきなり斬りかかるとは、あながちリャーマの脳筋という評価も遠からずといったところかも。
 最初にニコに文句を言ったのは、自分を守るためのポーズだったんだろうけど。
 完全にバレバレの状態で、どう言い訳をするんだろう。

「そうですね、私も考えるのが苦手な上司の代わりに、脳みそから湯気を出して働かされてクールダウンのための休みすら貰えなくて不憫です」
「だったら、永久に退職させてやろうか?」
「旦那様が困らないのでしたら、どうぞ?」
「それがな困るから、困っておるのだ! だから、せめてもの嫌がらせにお主を休ませんようにしとるだけだ」
「うわぁ! 皆さん聞きました? これが、領主様の言葉ですよ! 領民の為に働くべき領主様が、領民である私を酷使して奴隷のように扱ってるんですよ?」
「ふん、お前1人の犠牲で、この町の領民全てが幸せに過ごせてるんだ。胸を張って、誇るべきだろう?」
「私も、幸せにしてくださいよ」
「そういうのは、若い女性に言われたいものだ」

 唐突に領主と部下が喧嘩を始めたけど、どうしたら……
 あっ、ホテルの従業員の人達が仕事に戻った。
 なれてるのかな?

 宿泊客の人達は、遠巻きに楽しそうに見てるけど。
 珍しいよね。
 領主と部下がもめてるところって。
 しかも爵位持ちの領主様。
 国家反逆罪や不敬罪てきなものに当たらないのかな?
 当たっても殺せないほど、優秀なのかな?

「では、屋敷に戻って晩餐会でも? 皆さんはもうお済みのようですが」
「わしもとっくに食ったわ! ホテルの従業員がわざわざ伝えに来てくれたからな」
「チッ」
「おまえ、やっぱり殺す!」
「横暴だ―! 乱心! 領主様が乱心なされた!」

 いや、乱心じゃないよね?
 明らかに殺されても、文句言えないくらい酷いわこの人。
 その後、落ち着いて話し合いのテーブルにつくまで相当時間が掛かったため、翌朝に持ち越しとなった。
 夜更かししたら、まずいかな?
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