錆びた剣(鈴木さん)と少年

へたまろ

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第4章:鬼

第6話:久々の依頼

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「とりあえず本日は、昇級おめでとう」
「ありがとうございます」

 ベクターさんの事情聴取が終わって、ニコがようやく解放されるという段でお祝いのお言葉が。
 素直にお礼をいうニコに対して、ニコニコと微笑みを向けるベクターさん。

「でですね」
「えっと、まだ何か?」
「リンドの街を出てから、ずっと依頼を受けてませんよね?」
「あー、はい……」
「そろそろ、冒険者としてのお仕事も頑張ってもらいたいのですが」

 あー、そういえばメノウの町ではなんいもしてなかったからな。
 冒険者としての実績も必要ということだろうか?

「下で適当な依頼でも受けてもらえたらそれでいいので」
「分かりました」
 
 そうだよな。
 お金もあるから、無理に仕事をしなくてもいい状況だったもんな。
 冒険者といえば聞こえはいいが、実際は日雇いのフリーターみたいなものか。
 まあ仕事内容は多岐にわたるし、収入も成果報酬だから上をみたらかなり良いものもあるから。
 なんだろう……
 日本にもこういうシステムがあったら良いのにと、思わなくもない。

 日雇い派遣ギルドみたいな。
 仕事をこなすほど実績になって、ランクがアップ。
 上のランクほど、時給や日当のいい仕事を受けやすく。
 また技能系や、技術系はさらに手当も。
 
 うーん、なんか悪くない気がしてきた。
 派遣会社で、ランクシステムの導入。
 さらには研修制度を充実させて、資格試験のバックアップも行って。
 労働者は働きたいときに働くと。
 仕事や勤務態度に不備があったら、罰金。
 最悪はランクダウンみたいな。

 ……そんな会社あったら、とりあえず今の仕事を続けつつ休日で余裕があるときは冒険感覚でバイトとかしたくなるかも。
 収入が増えるのもだけど、ランクを上げていくのは楽しそうだし。
 技術や資格を取って、ライセンスに色々と特記事項が増えたりするのも良いね。

「あっ、A級派遣員の鈴木さんだ」
「すげーよな、こないだなんか大型トラックで大阪鹿児島間を往復しつつ、途中福岡で観光ガイドもやったっていうんだからさ」
「あの人、どれだけ資格とってんだよ」
「保険の販売とかもできるらしいぜ?」

 みたいな?

 こっちの世界でもいける……ああ、冒険者ギルドがあるからあれか。
 一応お店のお手伝いとかも依頼でくるし、猫を探したり新作の試食なんてのもあるみたいだし。
 こうやって考えると、優れたシステムだよな。

 で、うちの可愛い派遣員はなんの仕事を……

 ニコ、流石に薬草採取は違うんじゃないか?

「えっ? でも、僕このくらいしか得意じゃないし」

 いや、お前得意というより、苦手だろう。
 いつまでたっても、薬草の特徴を覚えないし。

「鈴木さんが手伝ってくれるから」

 俺は、 別に薬草採取に特化してるわけじゃないからな?
 あと、ずっと声に出してるけど、気付いてる?

『ごめん』

 幸い、側に人が居なかったから目立ちはしなかったけど。
 ちょっと離れた壁に背中を預けてた獣人の男性の耳がぴくぴく動いてたから、確実に聞かれてたな。
 まあ、この町に長居するわけでもないから、いいけどさ。

 このシャバニ村の調査とかどうだ?

『えっと……』

 シャバニ村で害獣被害。
 畑の作物や、家畜が襲われて少なくない被害が出ているらしい。
 おそらく人型の魔物の可能性が高いとのこと。

 畑に大型の足跡が残っていたらしいが、どうも人のそれに似ていたらしい。
 また歩幅的にも二足歩行だろうと。

 ゴブリンよりは大きいと予想される。

 これはあれかな? 
 オークとか、オーガ……下手したらトロルとかか?

 ゴタロウなら分かるかもしれないが。

『これ、でも結構日数掛かりそうだよね? しかもC級以上推奨らしいし』

 別に何が出ても負ける気はしないよ。

『鈴木さんはそうかもしれないけど、僕は不安だな』

 ええい、うだうだ言ってないでとっとと受けてこい!
 たまには、村みたいなところで住人と交流を図るのも良いだろ。

 まあ、単純に田舎の農村の暮らしを見てみたいっていう、好奇心だけだったり。
 別に相手がたとえ竜だろうと、後れをとるつもりはないし。

 ということで、デモデモだってを繰り返すニコを強引に説き伏せて、依頼を受けさせる。

「早速調子に乗ってますか?」
「えっ?」
「C級になったその日に、最低でC級ランク……できれば、それ以上のランクをもつ冒険者が望ましい依頼書をもってくるとか」

 ちょっとペーターさんが、不機嫌。
 さっき、あっさりと負けたからかな?
 それとも、純粋にニコが天狗になったと思ったのかな?
 ダークサイドに堕ちたか?

「いえ、これがパーティでの受注ならまだいいのですが、ニコさんソロですよね?」
「はあ、まあ……」
「でも特に気負った様子もないみたいですし……実際のところ、どのくらいまでならいけるんですか?」
「どのくらいとは?」
「まあ、聞いた話だとコボルトであれば、まず問題無いでしょうね……いや、よく考えたらコボルトロードをテイムしたことになってますし、亜人種ということで自信がおありなのでしょう」
「あれはランドール……知り合いがテイムしたついでに、僕にも従う感じなっただけだけど」
「まあ、良いでしょう。ただし、誰かに同行してもらった方が良いかもしれませんが」

 うーん、別にニコだけでも良いけどね。
 どうせ、フィーナとゴタロウもついてくるだろうし。

「あ、冒険者じゃない連れが付いてくると思うんで大丈夫です」
「その人たちは、強いのですか?」
「僕よりも、遥かに」
「そうですか……じゃあ、是非紹介してください」
「えっ?」
「でもって、冒険者登録しましょう! ニコさんより遥かに強いのであれば、実力的にB級やA級ってことですよね?」
「たぶん」

 たぶんだけど、A級冒険者よりもはるかに強い気がする。
 こないだの、ミランダだっけ?
 亜人特化のA級冒険者の反応を見た限りだと。

 どうにか誤魔化しつつ、リバーサイドホテルに戻る。

「おめでとうございますニコ様」
「えっ?」

 部屋に入るなり、満面の笑みでフィーナが出迎えてくれた。
 なにごと?

「C級冒険者に昇進されたとか」
「うん、なんで知ってるの?」
「ゴタロウの配下のものが、教えてくださりました。冒険者ギルドに忍び込んでいたようです」

 へぇ……
 って、知ってたけどさ。
 3人ほど見覚えのある気配があったから。
 2人は冒険者に変装してて、1人は依頼人に変装してたみたいだけど。
 気配を読み取るまで、俺でも気付かなかった。
 なかなかどころか、かなり優秀。

「今夜はお祝いですね」
「ありがとう」
「といっても、私は実は少し不満だったり」

 そう言って、口をとがらせるフィーナ。
 
「ニコ様なら、S級冒険者どころかギルドマスターでも良いと思います」

 あー、それは無理があるよな。
 知識面でも実力面でも。
 そもそも、人見知りだし。
 気弱だし。

「主は、ニコ様を侮りすぎです」

 俺の方が、お前より付き合い長いんだけど?
 一緒にいる時間も。

「自慢ですか?」

 なんでだよ!

「惚気ですか?」

 もっと、なんでだよ!

 若干面倒くさくなりつつあるフィーナを適当にいなしつつ、ちょっとよさげなお店で夜食事を取る予定に。
 その予定は、実行されなかったけど。

 また、来た。
 この町の領主様の右腕。
 リャーマさん。

「まだ、食事を済ませてないので?」
「はい」
「チッ」

 思いっきり舌打ちしたよ、この町の上級幹部が。
 観光客に対して。
 感じ悪いな。

「えっ?」

 ニコも驚いている。

「いえ、ビルビング様が昨夜馳走し損ねたということで、今夜にでも改めて夕食に招待したいとのことです」
「はあ」
「なので、先にどこかでお食事を済ませてこられてはいかがでしょう」

 どれだけ、上司のことが嫌いなんだよこの人は。
 流石に、心配になってくる。
 こんなので、町の運営がきちんとできているのか。
 出来ているから、領主さんも扱いに困ってるんだろうけど。

「流石に、それを聞いた後で食べに出るのは」
「2日続けてのお誘いなら、断れないですよ」

 ニコが苦笑いをしている。
 そして、驚いたことにフィーナが乗り気だ。
 基本ニコ以外の人間を見下しているはずのフィーナが、人の事情を鑑みて発言するとは。
 何か、裏でもあるのではかろうか。

『流石に、失礼ですよ……ニコ様に相応しい人脈を作るのは、私のプライドよりも優先すべきことですから』

 成長したなフィーナも。
 人の社会の立場や、人間関係なんか犬にでも食わせてろみたいな考えだったはずなのに。
 これも、ニコと一緒に旅をした影響か?

『リンドの街であれだけ住人の方と深く付き合えば、人というものも分かりますよ。私が人のふりをしていたからというのもあるでしょうが、優しい人が多くて驚きましたし』

 あれは、リンドの街だからだと思うぞ?
 ニコの生まれた町は、それはそれは酷かったんだからな?

『いずれ、滅ぼしに行きましょう』

 極端だなおい!

『というのは10分の1くらい冗談で、私も付き合いもせずに毛嫌いするのはやめたんですよ』

 本当に、フィーナが成長したようだ。
 嬉しい。
 ゴタロウたちは、最初から出来ていたんだけどな。
 まあ、彼らの場合は仕事を円滑に行うために、人のふりをして人とのつながりを作っていたんだろうけど。
 色々と、配下のゴブリンの異質さを感じつつ、目の前で領主の拳を全て躱すリャーマを見つめつつ、感慨にふける。

「自ら来るなら、いちいち伝令の私を使わないでください!」
「半分嫌がらせ、半分は確認だ」
「嫌がらせっていった! 堂々と、部下に嫌がらせしてますっていった!」
「お前だって不安に思ってきてみたら、ニコ殿に飯を食ってこいなんて言ってたじゃないか!」
「それは、貴方を待ちぼうけにさせて悔しそうにする顔を見て、自分を慰めるためですよ!」
「最悪だ! この部下、最悪だ!」
「だったら、クビにしてはいかがでしょう?」
「それは無理だから、殴らせろ!」
「暴力反対!」

 リャーマがきちんとニコを招待するか不安で、わざわざついてきたらしい。
 だったら、最初から自分でくればいいのにとそこはリャーマに同意。
 だけどまあ、流石に立場的に色々とあるんだろうな。
 
 それにしても、本当に仲いいなこいつら。
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