錆びた剣(鈴木さん)と少年

へたまろ

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第4章:鬼

第12話:リュウキ

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「こっちで、あってるんだよね?」
「ええ、そのまま真っすぐで大丈夫ですよ」
「本当に行くんですか?」

 森の中をニコが、どんどんと進んでいく。
 ゴタロウに道案内をさせつつ。
 その後ろを、不安げな様子でついてくリュウキ。
 そして……

「はぁ……」

 ちょっと、不満げなフィーナ。
 リュウキがオドオドしているのに、少し苛立っているようだ。
 といってもいまのリュウキは身長130cm前後の、年相応の人間の背格好。
 鬼になって巨大化するのか、人になって縮むのかはわからない。 

「お主、もっとシャキッとせんか!」

 さらに、その後ろで偉そうに腕を組んでついてくる大男。
 そう、ランドールだ。
 相変わらずのストーカー気質で過保護なこの地竜は、ニコ達の様子を隠れて窺ていったらしい。
 ニコ達が野営というか、普通に森の小屋であれこれ今後の方針について話し合っていたら急に現れた。
 うんうん……
 ニコに甘いやつの筆頭だな、もう。
 いや、本人が目立ちたいという部分も大きいが。
 
 役に立って、尊敬されたいという思惑がひしひしと伝わってくる。 
 基本、お節介な性格だが、その裏に見え隠れする良く思われたいという想いが漏れ出てて、素直に褒められない。
 そのためなら、相手の都合などお構いなしな部分もあるしな。

 今回もそうだ。
 リュウキの姿は、完全に固定されたというか。
 確定されてしまったわけだが、その背景にはランドールがある。

「まあ、これでも飲んで元気を出せ」
「はぁ……あの、あなたは?」
「わしは、こやつの……まあ、兄貴分のようなものかな?」
「お兄さんですか……」

 完全に兄貴ポジションに落ち着いたらしい。
 末っ子だからか、弟や妹に憧れももっていたらしい。
 年齢と口調の割には、ガキなんだよな。

「うぅ……」
 
 そしてリュウキがランドールに渡された赤い液体を飲んで、呻いている。
 あれだな……

「これは、なんですか?」
「わしの血だ」
「ブーッ!」

 ランドールの言葉を聞いて、リュウキが口の中の液体を吐き出していた。
 まあ、普通はそういう反応になるか。
 分かってて飲むのと、飲んでから教えられるのは違うらしい。
 竜の血だって伝えてから渡すと、魔物たちは恐る恐るだが好意的な感覚で飲んでいた気がしたが。
 まあ、いまは正体を隠しているつもりらしいから。
 ニコの兄で、人と思われているのだろう。
 
「なんてもの……を?」

 そして、リュウキが自分の身体の変化を確認する。
 いや、劇的な変化といった方がいいか?

 力が溢れてくるのだろう、手を開いたり握ったりして……あっ、なんか口を半開きで遠くを見つめてる。
 っと、びくっと一度痙攣したかと思ったら首を横に振って、左斜め下を見て一度動きがとまり、右斜め上を見て動きが止まる。
 ずっと、口が半開きだ。
 大丈夫かな?
 
 そして何かに気付いたかのように正面を見て、あっ、ようやく目の焦点があった。
 目の前のランドールを視界に捕えたのがはっきりと分かる。

「ちょっと、外に出ても良いですか?」
「うむ」
「どうしたの?」

 リュウキが慌てた様子で外に出ていくのを、ランドールとニコが追いかける。
 フィーナも少し興味があるのか、その後ろをゆっくりとついていった。

「これ……」
 
 何をしたのか分からないが、リュウキが力を入れるような仕草をしたら昨日の鬼の姿に変化した。
 いや、微妙に違う。
 まず角が少しだけ伸びた。
 それと、ガリガリだった身体もしっかりと栄養が行き渡っているような、そんな体つきだ。 
 どちらかというと、細マッチョというか……少し、ガリマッチョよりかな。

 どこから、その肉をかき集めたのかしらないが。
 ガリマッチョって、ちょっと気持ち悪いんだよな。
 細くて筋肉が浮き彫りになってるけど、その頭と体のバランス感とか。
 あと、見た目の割に力がなくて、凄いガッカリするというか。
 いや、運送のバイトしてたときに、見た目薄いのに脱いだらムキムキで期待の新人かと思ったのに……
 学校の本棚を2人で持つときに持ち上がりませんって言われたあげくに、指が抜けなくなりましたとか言われた時は脱力が……
 
 リュウキは見た目通りの膂力を、発揮してくれそうだけど。
 ただ足りない肉をどこから補ったのか。
 生物として、その進化の仕方は……今更か。

「えっと……これがハーフ形態です」

 そのリュウキが遠慮がちに、言葉を漏らす。

「ハーフ形態?」
「ふむ」

 ハーフ形態ってなんだ?

「そして、これが鬼の状態ですね」

 そこから、さらに変化した。
 角がしっかりと太く長く伸びたうえに、色が茶色から黒色に変化している。
 身長もさっきのハーフ形態が160cmくらいだったが、180cmを超えている。
 しかも、こんどはゴリマッチョよりの細マッチョ。

 圧が凄いな。
 魔力が渦巻いてみえる。
 属性は風と雷?

「さらに、もう1つ……」

 まだ、上があるのか。
 もう良いだろう。
 この状態でも、魔力が漏れ出て目立ってると思うし。

「うん、もういいよ」

 ニコに止めさせる。
 このまま変身を続けたら、どうなるか分からないし。
 
「そうですか……」

 ちょっと残念そうだけど、凄い強化だな。
 ニコにもその血を飲ませたら、進化しないかな?

「人間はどうも、魔族とは進化条件が違うみたいだな。力が上がったり、寿命が延びたりはするが種族的にかわることは無いようだ」
 
 残念。
 まあ、ずるして強くなったところでと、思うところはあるし。
 ニコは、まず内面から鍛えていかないとな。

 そして、劇的な進化を遂げたリュウキだが。

「うぅ……怒られる」

 相変わらず、気弱なままというか。
 まあ、なんなんだろうな。

「たぶん、お主の方がその父より強いと思うぞ?」
「それでも、怖いもんは怖いよ……父さんに怒られると思うだけで、震えが」
「情けない」

 そんなリュウキの言葉に対して、フィーナが吐き捨てるように言葉を掛ける。

「せっかく村でも仲良くしてくれる人が増えてきたのに、あんたのせいで追い出されたんだからね! しっかりと、里での問題を解決しなさいよ」
「うぅ」
「うぅ」
「なんで、ニコ様まで?」

 リュウキと同じように、ニコも頭を抱えてしまった。
 生まれた街でのトラウマが蘇ってきてるのだろう。
 自分と重なることが多いからだろうな。

「それにしても、魔物も動物もいませんね」
「そりゃあ、まあ……」

 リュウキの疑問に、ニコが視線で応える。
 彼の後ろにいるランドールに、リュウキも目を向ける。
 納得したようだ。
 ランドールの血を飲んで進化したさいに、ランドールが地竜ということは理解できたようだったし。 
 なにより本人からも、どや顔で後出しの自己紹介があったわけだし。

「なんと、わしは由緒正しき竜なのだ!」
「えっ?」
「なんだ、その気の抜けた返事は」
「えっ、いや……その……はっ?」

 気の抜けたというか、気が抜けてるな。
 色々とランドールに振り回されているが、他のメンバーは慣れたもの。
 いつものことかとばかりい、ぼやっとその様子を微笑ましいものを見るかのように暖かい視線を送っていた。

 というか血統は凄いが、由緒正しいかどうかというと疑問だな。
 本人は、まだなんの実績もあげてない、ただのガキだもんな。

「鈴木よ……それは、あんまりではないか?」

 俺からの評価に、ランドールがショックを受けたかのような表情を浮かべて苦笑いをしている。
 うんうん……ニコだけじゃなく、ランドールにも成長が求められているな。
 そして、リュウキも成長しないと。
 といっても、肉体的な進化は終わってるし。

 あとは、里で自分の意思をはっきりと伝えられ……
 ん?
 そういえば、リュウキの希望ってなんなんだ?

 里で過ごしたいのかな?
 漫然とそう考えてニコが行動してるのを、黙って見てたけど。
 これって、本人の意思なのかな?

「そろそろ、里の領域に入ります」
「ってことは、もう少しってこと?」
「いえ、結界の内部ということです。里まではまだ少しあります」

 結界?

「結界って?」

 ニコが、俺の思った疑問をそのまま伝えてくれた。

「ここから里のものにしか分からない術が施してあります。ひとつは、道に迷いやすくする軽度の幻惑魔法が掛かってます」
「幻惑魔法?」
「本当に大したものではないのですが、合わせて道にも色々と物理的に細工がしてありますので……合わせると馬鹿にできない効果が」
「なんで、そんなものが」
「まあ、外敵対策です」

 外敵対策って……
 この森で、オーガより上位の魔物がそんなにいるのかな?

「現在進行形で里に向かってる、僕たちのような存在を排除するためのものでもあります」
「そっか」

 言われてしまえばそうか。
 俺達は、その隠れ家的な里に向かっているわけだからな。
 里の場所がばれて、人が送り込まれたりしたら闘いになるわけで。
 いくら鬼とはいえ物量で勝る人を相手に、いつまでも里を守り通せるとは思えないもんな。

「それと、察知の術ですね。この結界に入った瞬間に、僕たちのことは里にばれてます」
「そうなんだ。だったら、話は早そうだね」
「ふん、フィーナならどうにか出来るんじゃないか?」
「はい。すでに幻術は解除しております。それと、気配の方はゴタロウが全員分きっちり隠してるみたいですよ?」
「あれほど分かりやすい結界でしたし、何が組み込まれているかもすぐにわかりましたので範囲隠蔽魔法で周りの気配と同化させております」
「……」

 なんでもないことのようにのたまうフィーナとゴタロウに、リュウキが絶句している。

「魔力自体に細工が施してなかったので、私のように目が利くものなら薄い半透明の壁のような形で視認できているに等しいですよ」
「流石だなゴタロウ。まあ、我も気付いておったが」

 本当かな……
 こいつの場合、おおざっぱすぎて絶対に気付いてないと思えるのだが。
 まあ、突っ込んだところで否定する……こっち見んな。
 ランドールが眉をよせてこっちを見ていたので、手で追い払……手がないので威圧をちょっと放って追い払う。

「本当に、どういう人たちなんでしょう」
「大丈夫、リュウキももう片足こっち側に突っ込んでるから」
「いやいや、僕なんか全然」
「我の血を飲んで大きく進化しておきながら、なんか・・・とは随分な物言いよな」
「いえ、そういう意味じゃ」

 おい、ランドール。
 腹いせにって、リュウキに八つ当たりするな。
 とはいえ、こいつの自信を少しは回復……
 生まれたときからこんな扱いじゃ、自信なんかもったことなかったかもしれないな。
 じゃあ、自信を持たせてやりたいな。

『ふん、だからわしが進化させてやったのに』

 急に力を得ても、実感はわかないだろうよ。
 下手したら、その力に振り回されてダメな方向に進むこともあるだろうし。

『そうなのか? 強くなったらかっこいいし、小さなことは気にしなくなるのではないのか?』

 そうとは限らんだろう。
 その力を試してみたいと思うだろうし、それを強い相手にぶつけるならいいが……
 
『うーむ』

 ゴブリン達の強化に対するフォローは俺がやったし、コボルト共にはそのゴブリンがついているから暴走することはなかったが。
 勝手に外で、どんどん進化させるなよ?
 心が伴わないと、力ではなく暴力が生まれることになるぞ?

『むぅ』

 歯切れが悪いな。
 もう手遅れか?
 まあ、別に俺の周りに影響がなければ、どうでもいいが。

『むぅ……』

 念話で唸るな、鬱陶しい。

「むぅ……」

 そういう、意味じゃない。
 はぁ……代わりにため息が出るわ。
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