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第1章:ジャストール編
第9話:ルークの日常2(前編)
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時は2年前に遡るかな?
領都である、ジャストールの町の視察の時のことだ。
領主邸の付近や、目抜き通りなんかはそれなりに発展していてきれいだった。
道も石畳が敷かれていて、いかにも町といった感じだった。
ただ、あくまでも目に見える範囲というか。
人の目に触れる場所だけの話だ。
父ゴートに連れられて、兄と2人で馬車に乗って街並みを見る。
裏に続く路地から、みすぼらしい恰好をした子供がこっちをジッと見ていた。
ひどく痩せこけていて、ボロボロのシャツから覗く身体は骨が浮き出ていた。
「兄上、あの子は?」
「ああ、孤児だろうな」
父ではなく横に座っているアルトに聞く、とさもつまらなさそうに答えが返ってきた。
興味がないのだろう。
父も、街の中の主要な施設の説明や、街の治安維持を行う警備兵の説明を簡単な言葉で教えてくれている。
まるで、あの寂しそうな子供が目に映っていないかのようだ。
「孤児とは、親がいない子のことですよね?」
「そうだぞ。7歳なのによく知ってるな」
「まあ、そのくらいは……町に孤児院とかはないのでしょうか?」
俺の言葉に、アルトが首をかしげる。
知らないようだ。
父に声を掛けようとしたアルトの袖を引っ張って、やめさせる。
「つまらないことを聞きました。それよりも、町の景色を楽しみましょう」
「そうだな。父上が、お店にもよってくれると言ってたし、楽しみだな」
話題をそらすように視察の続きのことを話すと、すぐに食いついた。
本当に興味がなかったのだろう。
ゴートも俺たちに、キラキラしたものを見せたくて連れだしたのだろう。
水を差すのも悪かったので、結局は見て見ぬふりをした。
「町を見てきます」
「昨日行ってきたばかりではないか?」
「ええ、すごく楽しかったので、次は自分の足で見て回りたいと思いました」
翌日、父に頼んで外出許可をもらう。
護衛にランスロットと、若い騎士がついてきた。
リベルという20歳になったばかりの青年。
腕はまあ……ランスロットが万が一の時に対処する間、俺を身体を盾にして守る役割と。
うん、分かった。
自分の身は自分で守れるから、心配はしてないけど。
ランスロットも、たぶんそう思ってるのだろう。
自動で動く俺用の便利な盾として、リベルを用意したのかもしれない。
勝手に動かれて、魔法で誤射するのも嫌だから普通の盾でいいんだけど?
「ねえ、きみ」
町に出てすぐに裏路地に入ると、目に付いた子供に声をかける。
「ルーク様!」
「そのようなものに話しかけてはなりません」
ランスロットとリベルが焦った様子で引き留めにきたが、意に介さず笑顔を少年に向ける。
「き……貴族様が、おいらに何の用だよ」
おいらとか……本当に、そんなしゃべり方する子がいたことの方が衝撃だ。
「いや、家はこの辺りなのかなと思って」
「い……家なんか、ないやい」
やっぱり家はないらしい。
孤児というか、ホームレスというか。
「じゃあ、どこで寝てるの?」
「あ……あんたには関係ないだろう!」
「こら、ガキ! 領主様のご子息になんて口を利くんだ」
俺の質問にそっぽを向いて答えた少年に向かって、リベルが睨みつけて近づこうとする。
「やめろ。私が話しかけてるんだ」
「で……ですが」
不安そうにこっちを見てくるリベルを、もう一度睨んで黙らせる。
それから少年の方に向き直る。
「君たちみたいな子は、いっぱいいるのかな?」
「こ……この辺……おいらたちは、8人。ほかにもいくつかグループがある」
結構な数の孤児がいそうだ。
この分だと、大人のホームレスもいそうだな。
「ありがとう、分かったよ」
「……ん」
もう満足したので、手を振って別れを告げようとしたら目の前の少年が掌を差し出してきた。
なるほどね……情報料をよこせってことかな?
なかなかに逞しい。
「ん? お友達になりたいの?」
「ルーク様!」
「触れてはなりません!」
あえて気付かないふりをして、少年の手を掴んだら全員がびっくりしていた。
少年が慌てて手を引っ込める。
「違うのかい?」
「か……金を寄越せ」
「きさま!」
「無礼者!」
少年が恐る恐る漏らした言葉に対して、ランスロットとリベルが激昂して剣の柄に手をかけている。
脅しにしてもやりすぎだろう。
「ひぃっ」
少年が慌てた様子で振り返ると、急いで逃げようとして足をもつれさせて転ぶ。
まあ、確かに金を寄越せという言葉もどうかと思うが。
子供のやったことに、大人がそんなにムキになるなよとも言いたい。
脅すだけにしても、武器を使うのはどうかと思う。
とりあえず、こっちに目もくれず地面を這うように逃げようとしている少年の肩をつかむ。
「ルーク様!」
うるさいな、こいつらイチイチ。
「ひいいいいい」
この少年も、そんなに怯えなくてもいいだろうに。
急に肩を掴まれたからだろうが、とりあえず無理やりこっちを向かせて俺もしゃがんで目線を合わす。
すぐに横に顔ごと、目線をそらされた。
仕方なし手を掴んで、掌に自分の手を重ねる。
「ごめんごめん、冗談だよ。はい、情報料」
とりあえず、小遣いの入った袋から取り出した大銅貨を1枚。
これだけあれば、美味しいものが食べられる。
一番安いパンなら、5個くらいは買えるだろうし。
「こ、こんなに?」
現金なもので、自分の手に握らされたお金を見た後、こっちにキラキラとした目を向けてくる。
無邪気だな。
その表情に妬みや嫉妬といった感情が込められていないことに、少しだけホッとする。
そこまでやさぐれていないようだ。
「まあ、今後も何か聞きたいことがあったら頼るかもしれないし」
「あー……でも、そんなに大したこと知らない」
「だったら、いつか来るそのときのために、いろいろと町のことを勉強したり、人の話をこっそり盗み聞きしておくのも悪くないと思うよ?」
「うん」
「じゃあ、もう行っていいよ」
俺の言葉に、今度こそ少年が逃げるように立ち去って行った。
それから、俺はゆっくりと振り返る。
「ルーク様! あのような薄汚い子に……」
リベルが何か言いかけて、口をつぐむ。
ランスロットは……俺が不機嫌なことに気づいたらしく、無表情でシレッと立っていた。
「薄汚い?」
「え……えっと、自分、何か気に障ることでも言いましたでしょうか?」
リベルが緊張した面持ちになったところで、ため息を吐く。
いろいろと思うところ、言いたいところはあるが。
「年端もいかない子供を相手に、なにをいちいちムキになっているんだ」
「で……ですが、あの子供はこともあろうに、ルーク様にたかろうと「私も含めてだ。私も年端もいかない子供だが? いちいち子供同士のやり取りに、大人が出しゃばるなと言っているんだが?」
俺の言葉にリベルがキョトンとしている。
こいつは、少し抜けているところでもあるのかな?
「昨日の視察でも思ったが、この町には少なくない孤児がいる。そしておそらく家のないホームレスも少なくはないのだろう?」
「そ……そのようなことは「領主の息子だからと、奇麗なところばかり見せられてもな。町にそして領民の暮らしに問題があるなら、それを解決するのも領主の仕事ではないかな?」
「お父上の仕事に、不備があるとでも?」
流石に今度の言葉には、ランスロットの方が反応した。
自分の仕える主をとぼされてムッとしたのかもしれないが。
「いろいろな理由があってホームレスになったものは仕方ない。それに大人なら自分たちで、どうにかすべきだろう。だが子供は別だろう?」
「大多数のものが、問題なく暮らしております」
「子供が貧しく、また不幸な目にあっておるのだ。年長者なら、それを見て見ぬふりしてはだめだろう」
「流石に、言い過ぎでは?}
「……お前らにも言ってるんだが?」
流石に領主に対する不平不満は、実の子供相手でも許す気はないみたいだが。
ランスロットが、言い聞かせるように言ってきた言葉に対して、少し語気を強めて言い返す。
俺も、お前らを許す気がないんだけど?
リベルがオロオロとしているが、ランスロットもちょっと困った顔になった。
「リベルはそこまで多い賃金をもらってるわけではないだろうが、独身だから多少は余裕あるだろ? ランスロットおまえはどうだ? 子供も手が離れただろうし、困ってるわけじゃないだろう」
俺の言葉に、2人が少し居心地悪そうにする。
確か、この世界にも冒険者ギルドはあったな。
子供でもできそうな依頼を、募集するようにさせよう。
何でも屋だな。
もともと清掃や、ちょっとした雑用なんかが依頼にきてたはずだし。
ああいった、孤児向けの仕事の募集も大々的にやってもらえば。
「幸いにも私は領主の息子として生を受けた。運がよかったのだろう。だが、彼らは短命の両親、もしくは貧しい家に生まれてしまった。運が悪かったのだろう」
「ルーク様、何を?」
「察しが悪いな。あの子と私の違いは、ないということだよ。たまたまた生まれた家の差というだけで、巡りあわせによっては私があの子だったかもしれないということだ」
俺の言葉に、ランスロットが困ったような表情を浮かべている。
「私があの子だったら、お前らに守られることも、可愛がられることもないだろう」
「そんなこと……」
「ないとは言えないだろう」
ようやく言わんとしてることが分かったらしい。
いや、元から分かっていて、認められなくて分からないふりをしていたのかもしれないが。
「スラムにいるホームレスの大人どもはどうでもいい。そこまで甘やかすつもりはない。だがなあ……子供たちくらいはなんとかしてやりたいと思ってな」
「さ……流石です、ルーク様。なんとお優しい」
「えっ? えっと、す……すごいですね」
ここまできてランスロットがようやく、自分を誤魔化すのをやめた。
少し目に涙を浮かべて、俺の手を取って見つめてくる。
うん、まあそんな風に思うなら、少しは素直に……リベルは駄目だな。
いろいろと、先がなさそうだ。
とりあえず、さっきの少年でもいいけど孤児たちの現状調査と、彼らの生活改善の対策を考えないとな。
孤児院の設立がもっとも望ましいけど、やってくれそうな人もいないし。
そもそも、そういったところは必ずしもいいものとは限らない。
子供を家畜同然の労働力として考えているところもあれば、違法奴隷の仕入れもとになる可能性もある。
であれば、領主主導でしっかりと裏が取れているものに任せるしかない。
となると、箱はこっちで用意しないといけないだろうし。
うーん、何か俺も金を稼ぐ手段があった方がいいな。
異世界で定番の金もうけのアイテムといえば……流行を生み出して、その商品を専売するか。
リバーシとか定番だけど、あれはブームを起こすところから始めないといけない。
その後、道具を作って販売する形にしても、実際に金になるまでに相当な時間が掛かるだろうし。
そもそも、簡単にまねされるだろうしな。
食品関係、料理か……
店を用意するのは大変だから、最初は屋台からだけど。
屋台も中古であったりとかするのかな?
大体が手作りっぽいから、基本は屋台をやっている人が自分で作っているか、得意な人にお願いしているのだろう。
木工業者にお願いすると、これまた元手と時間が。
「ルーク様?」
「ん?」
「そろそろ、戻りませんか? 何度もお呼びしたのですが」
「ああ、すまん。ちょっと考え事をしててな」
どうやら、ランスロットが何度も呼びかけてくれていたようだ。
すぐすぐ良いアイデアは出てこんな。
『だから、あれほど転移、転生物の作品を読めといっておいただろう』
邪神が何やらのたまっているが、多少は読んできたぞ?
選択肢はたくさんあると思ったのだがな……
マヨネーズ……はサルモネラ菌や、賞味期限、腐敗の問題もあるし。
この世界にないもので金を稼ごうと思ったら、ブームを起こすところだからな。
2~3日で結果が出るものは……
まあ、作りたいものでいえばラガーとかが真っ先に思い浮かぶが。
いま作っても、なんで子供がと言われそうだし。
そもそもエールどころか、この世界だとメインはパンを水にひたして作るビールだからな。
貴族、大商人でようやくエールを口にできる。
話が大きくそれてしまった。
魔物でも捕まえて、冒険者ギルドに売りに行くか。
一人で出かけるようにならないといけないか……
全身を魔力コーティングしたあとで、形を変えて色を着けたら大人の姿になれないかな?
考えるだけで1日が終わってしまいそうだ。
領都である、ジャストールの町の視察の時のことだ。
領主邸の付近や、目抜き通りなんかはそれなりに発展していてきれいだった。
道も石畳が敷かれていて、いかにも町といった感じだった。
ただ、あくまでも目に見える範囲というか。
人の目に触れる場所だけの話だ。
父ゴートに連れられて、兄と2人で馬車に乗って街並みを見る。
裏に続く路地から、みすぼらしい恰好をした子供がこっちをジッと見ていた。
ひどく痩せこけていて、ボロボロのシャツから覗く身体は骨が浮き出ていた。
「兄上、あの子は?」
「ああ、孤児だろうな」
父ではなく横に座っているアルトに聞く、とさもつまらなさそうに答えが返ってきた。
興味がないのだろう。
父も、街の中の主要な施設の説明や、街の治安維持を行う警備兵の説明を簡単な言葉で教えてくれている。
まるで、あの寂しそうな子供が目に映っていないかのようだ。
「孤児とは、親がいない子のことですよね?」
「そうだぞ。7歳なのによく知ってるな」
「まあ、そのくらいは……町に孤児院とかはないのでしょうか?」
俺の言葉に、アルトが首をかしげる。
知らないようだ。
父に声を掛けようとしたアルトの袖を引っ張って、やめさせる。
「つまらないことを聞きました。それよりも、町の景色を楽しみましょう」
「そうだな。父上が、お店にもよってくれると言ってたし、楽しみだな」
話題をそらすように視察の続きのことを話すと、すぐに食いついた。
本当に興味がなかったのだろう。
ゴートも俺たちに、キラキラしたものを見せたくて連れだしたのだろう。
水を差すのも悪かったので、結局は見て見ぬふりをした。
「町を見てきます」
「昨日行ってきたばかりではないか?」
「ええ、すごく楽しかったので、次は自分の足で見て回りたいと思いました」
翌日、父に頼んで外出許可をもらう。
護衛にランスロットと、若い騎士がついてきた。
リベルという20歳になったばかりの青年。
腕はまあ……ランスロットが万が一の時に対処する間、俺を身体を盾にして守る役割と。
うん、分かった。
自分の身は自分で守れるから、心配はしてないけど。
ランスロットも、たぶんそう思ってるのだろう。
自動で動く俺用の便利な盾として、リベルを用意したのかもしれない。
勝手に動かれて、魔法で誤射するのも嫌だから普通の盾でいいんだけど?
「ねえ、きみ」
町に出てすぐに裏路地に入ると、目に付いた子供に声をかける。
「ルーク様!」
「そのようなものに話しかけてはなりません」
ランスロットとリベルが焦った様子で引き留めにきたが、意に介さず笑顔を少年に向ける。
「き……貴族様が、おいらに何の用だよ」
おいらとか……本当に、そんなしゃべり方する子がいたことの方が衝撃だ。
「いや、家はこの辺りなのかなと思って」
「い……家なんか、ないやい」
やっぱり家はないらしい。
孤児というか、ホームレスというか。
「じゃあ、どこで寝てるの?」
「あ……あんたには関係ないだろう!」
「こら、ガキ! 領主様のご子息になんて口を利くんだ」
俺の質問にそっぽを向いて答えた少年に向かって、リベルが睨みつけて近づこうとする。
「やめろ。私が話しかけてるんだ」
「で……ですが」
不安そうにこっちを見てくるリベルを、もう一度睨んで黙らせる。
それから少年の方に向き直る。
「君たちみたいな子は、いっぱいいるのかな?」
「こ……この辺……おいらたちは、8人。ほかにもいくつかグループがある」
結構な数の孤児がいそうだ。
この分だと、大人のホームレスもいそうだな。
「ありがとう、分かったよ」
「……ん」
もう満足したので、手を振って別れを告げようとしたら目の前の少年が掌を差し出してきた。
なるほどね……情報料をよこせってことかな?
なかなかに逞しい。
「ん? お友達になりたいの?」
「ルーク様!」
「触れてはなりません!」
あえて気付かないふりをして、少年の手を掴んだら全員がびっくりしていた。
少年が慌てて手を引っ込める。
「違うのかい?」
「か……金を寄越せ」
「きさま!」
「無礼者!」
少年が恐る恐る漏らした言葉に対して、ランスロットとリベルが激昂して剣の柄に手をかけている。
脅しにしてもやりすぎだろう。
「ひぃっ」
少年が慌てた様子で振り返ると、急いで逃げようとして足をもつれさせて転ぶ。
まあ、確かに金を寄越せという言葉もどうかと思うが。
子供のやったことに、大人がそんなにムキになるなよとも言いたい。
脅すだけにしても、武器を使うのはどうかと思う。
とりあえず、こっちに目もくれず地面を這うように逃げようとしている少年の肩をつかむ。
「ルーク様!」
うるさいな、こいつらイチイチ。
「ひいいいいい」
この少年も、そんなに怯えなくてもいいだろうに。
急に肩を掴まれたからだろうが、とりあえず無理やりこっちを向かせて俺もしゃがんで目線を合わす。
すぐに横に顔ごと、目線をそらされた。
仕方なし手を掴んで、掌に自分の手を重ねる。
「ごめんごめん、冗談だよ。はい、情報料」
とりあえず、小遣いの入った袋から取り出した大銅貨を1枚。
これだけあれば、美味しいものが食べられる。
一番安いパンなら、5個くらいは買えるだろうし。
「こ、こんなに?」
現金なもので、自分の手に握らされたお金を見た後、こっちにキラキラとした目を向けてくる。
無邪気だな。
その表情に妬みや嫉妬といった感情が込められていないことに、少しだけホッとする。
そこまでやさぐれていないようだ。
「まあ、今後も何か聞きたいことがあったら頼るかもしれないし」
「あー……でも、そんなに大したこと知らない」
「だったら、いつか来るそのときのために、いろいろと町のことを勉強したり、人の話をこっそり盗み聞きしておくのも悪くないと思うよ?」
「うん」
「じゃあ、もう行っていいよ」
俺の言葉に、今度こそ少年が逃げるように立ち去って行った。
それから、俺はゆっくりと振り返る。
「ルーク様! あのような薄汚い子に……」
リベルが何か言いかけて、口をつぐむ。
ランスロットは……俺が不機嫌なことに気づいたらしく、無表情でシレッと立っていた。
「薄汚い?」
「え……えっと、自分、何か気に障ることでも言いましたでしょうか?」
リベルが緊張した面持ちになったところで、ため息を吐く。
いろいろと思うところ、言いたいところはあるが。
「年端もいかない子供を相手に、なにをいちいちムキになっているんだ」
「で……ですが、あの子供はこともあろうに、ルーク様にたかろうと「私も含めてだ。私も年端もいかない子供だが? いちいち子供同士のやり取りに、大人が出しゃばるなと言っているんだが?」
俺の言葉にリベルがキョトンとしている。
こいつは、少し抜けているところでもあるのかな?
「昨日の視察でも思ったが、この町には少なくない孤児がいる。そしておそらく家のないホームレスも少なくはないのだろう?」
「そ……そのようなことは「領主の息子だからと、奇麗なところばかり見せられてもな。町にそして領民の暮らしに問題があるなら、それを解決するのも領主の仕事ではないかな?」
「お父上の仕事に、不備があるとでも?」
流石に今度の言葉には、ランスロットの方が反応した。
自分の仕える主をとぼされてムッとしたのかもしれないが。
「いろいろな理由があってホームレスになったものは仕方ない。それに大人なら自分たちで、どうにかすべきだろう。だが子供は別だろう?」
「大多数のものが、問題なく暮らしております」
「子供が貧しく、また不幸な目にあっておるのだ。年長者なら、それを見て見ぬふりしてはだめだろう」
「流石に、言い過ぎでは?}
「……お前らにも言ってるんだが?」
流石に領主に対する不平不満は、実の子供相手でも許す気はないみたいだが。
ランスロットが、言い聞かせるように言ってきた言葉に対して、少し語気を強めて言い返す。
俺も、お前らを許す気がないんだけど?
リベルがオロオロとしているが、ランスロットもちょっと困った顔になった。
「リベルはそこまで多い賃金をもらってるわけではないだろうが、独身だから多少は余裕あるだろ? ランスロットおまえはどうだ? 子供も手が離れただろうし、困ってるわけじゃないだろう」
俺の言葉に、2人が少し居心地悪そうにする。
確か、この世界にも冒険者ギルドはあったな。
子供でもできそうな依頼を、募集するようにさせよう。
何でも屋だな。
もともと清掃や、ちょっとした雑用なんかが依頼にきてたはずだし。
ああいった、孤児向けの仕事の募集も大々的にやってもらえば。
「幸いにも私は領主の息子として生を受けた。運がよかったのだろう。だが、彼らは短命の両親、もしくは貧しい家に生まれてしまった。運が悪かったのだろう」
「ルーク様、何を?」
「察しが悪いな。あの子と私の違いは、ないということだよ。たまたまた生まれた家の差というだけで、巡りあわせによっては私があの子だったかもしれないということだ」
俺の言葉に、ランスロットが困ったような表情を浮かべている。
「私があの子だったら、お前らに守られることも、可愛がられることもないだろう」
「そんなこと……」
「ないとは言えないだろう」
ようやく言わんとしてることが分かったらしい。
いや、元から分かっていて、認められなくて分からないふりをしていたのかもしれないが。
「スラムにいるホームレスの大人どもはどうでもいい。そこまで甘やかすつもりはない。だがなあ……子供たちくらいはなんとかしてやりたいと思ってな」
「さ……流石です、ルーク様。なんとお優しい」
「えっ? えっと、す……すごいですね」
ここまできてランスロットがようやく、自分を誤魔化すのをやめた。
少し目に涙を浮かべて、俺の手を取って見つめてくる。
うん、まあそんな風に思うなら、少しは素直に……リベルは駄目だな。
いろいろと、先がなさそうだ。
とりあえず、さっきの少年でもいいけど孤児たちの現状調査と、彼らの生活改善の対策を考えないとな。
孤児院の設立がもっとも望ましいけど、やってくれそうな人もいないし。
そもそも、そういったところは必ずしもいいものとは限らない。
子供を家畜同然の労働力として考えているところもあれば、違法奴隷の仕入れもとになる可能性もある。
であれば、領主主導でしっかりと裏が取れているものに任せるしかない。
となると、箱はこっちで用意しないといけないだろうし。
うーん、何か俺も金を稼ぐ手段があった方がいいな。
異世界で定番の金もうけのアイテムといえば……流行を生み出して、その商品を専売するか。
リバーシとか定番だけど、あれはブームを起こすところから始めないといけない。
その後、道具を作って販売する形にしても、実際に金になるまでに相当な時間が掛かるだろうし。
そもそも、簡単にまねされるだろうしな。
食品関係、料理か……
店を用意するのは大変だから、最初は屋台からだけど。
屋台も中古であったりとかするのかな?
大体が手作りっぽいから、基本は屋台をやっている人が自分で作っているか、得意な人にお願いしているのだろう。
木工業者にお願いすると、これまた元手と時間が。
「ルーク様?」
「ん?」
「そろそろ、戻りませんか? 何度もお呼びしたのですが」
「ああ、すまん。ちょっと考え事をしててな」
どうやら、ランスロットが何度も呼びかけてくれていたようだ。
すぐすぐ良いアイデアは出てこんな。
『だから、あれほど転移、転生物の作品を読めといっておいただろう』
邪神が何やらのたまっているが、多少は読んできたぞ?
選択肢はたくさんあると思ったのだがな……
マヨネーズ……はサルモネラ菌や、賞味期限、腐敗の問題もあるし。
この世界にないもので金を稼ごうと思ったら、ブームを起こすところだからな。
2~3日で結果が出るものは……
まあ、作りたいものでいえばラガーとかが真っ先に思い浮かぶが。
いま作っても、なんで子供がと言われそうだし。
そもそもエールどころか、この世界だとメインはパンを水にひたして作るビールだからな。
貴族、大商人でようやくエールを口にできる。
話が大きくそれてしまった。
魔物でも捕まえて、冒険者ギルドに売りに行くか。
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