魔王となった俺を殺した元親友の王子と初恋の相手と女神がクズすぎるので復讐しようと思ったけど人生やり直したら普通に楽しかった件

へたまろ

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第2章:王都学園編

第13話:リックとデート

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「へえ、これは凄いね」
「そうですね。概ね、私が期待した通りの物が届きましたよ」
「概ね? ということは、完全に満足しているわけではないんだね?」

 俺はいま、リック殿下と向かい合わせに座って馬車を満喫している。
 うちから、王城に送るだけだが。
 新型馬車、凄いよ新型馬車。
 ほとんど揺れない。
 シートも柔らかくて、ふわふわだ。
 この中にもスプリングコイルが入っていて、上等なソファのような作りになっている。
 大人3人並んで座れるスペースを、2人分に削って肘置きを大きくしてある。
 それから、カップフォルダーも作ってもらった。
 ただ窓が……ガラスだと強度が足りないらしく、割れやすいからということで木窓だ。
 面白くない。
 馬車に搭載できる、強化ガラスの製造が急がれるな。

 あとは、思った以上にヌルッと動くので、浮遊感になれるのに少し時間が掛かりそうだ。
 リクライニング機能もつけてあるから、オットマンも用意すればよかった。
 上下に高さが変えられる固定式とかどうだろうか?
 
「まだまだ、改良の余地ありってところかな?」
「そうですね。実際に使ってみると、色々と気になるところはあります。ただ、これはこれで一つの結果としては上々ですが」

 俺の言葉に対して、リック殿下が顎に指を当てて何か考えるそぶりをする。
 はあ……どうせ、私にも作ってくれとかった話だろう?

「これを、商品として買おうと思ったらどれほどかかるかな?」

 ほら。
 分かりやすい。

「心臓となる蓄魔石だけで、500万エンラですね。サスペンションが、販売用で考えると1本あたり50万エンラ、このシートもスプリングコイルを使ってますので、片側だけで80万エンラ……車体以外ですでに900万エンラくらいはいきますね。それから、魔力増幅用の魔石や回路、設計費に車体の材料費……2000万くらいにはなるかと」

 まあ、1500万でも利益はでるが、どうせならとことん高級仕様にこだわりたい。

「ふむ……」
 
 考え込むってことは、それだけの価値は認めてもらえたってことかな?
 
「今度陛下も乗せてみてくれないかな?」

 父ではなく、陛下か。
 ということは、余所行きの商談になるってことか。
 個人的に乗せろと言われたら断りたいところだが、商売ならやぶさかじゃない。

「また、そういう顔をする。構えることはないよ。周りにも体験してもらった方が、話が早いと思ってね」
「ということはクライス伯爵も?」
「そうだな、彼にも体験してもらった方がいいかもしれないな」

 クライス伯爵は、オラリオの祖父で財務省のトップだ。
 いわゆる、この国の金庫番だからな。
 これほど、高価なものとなれば口を出してくるはずだ。
 しかし、これを機にオラリオ対策が進まないかな?
 難しいかな?

 そして、殿下を王城に送り届けて、お暇する。

「どうかな? お茶でも」
「お誘いは大変ありがたいのですが、あいにくと予定を入れてしまっていて」
「ふふふ、王族より優先される予定が、この王都にあったとは知らなかったよ」

 ナチュラルに嫌なことを言う。
 あるんだよ。
 個人的に、王族より優先度の高いことなんかいくらでも。
 王族なんかと深く関わっても、面倒ごとを押し付けられるだけ……ってこともないか。
 今のところリック殿下もロナウド殿下も、よくできた人だとは思う。
 リカルドは……よく分からんな。
 ちょっと、こじらせているってことだけは分かる。

 ミレーユ殿下も、人懐っこくて可愛いし。
 ジェニファも王族だな。
 奇麗な人だ。
 弟のバルザックはちょっとあれだが。
 馬鹿だが。
 言葉を選ぼうと思ったが、他に思いつかなかった。

 明日、明後日と学校が休みだから、そろそろ本格的に王都を見て回りたいんだ。
 そのためにも、色々と準備が。
 ビレッジ商会にはフォルスが向かって、お金をもらってきているはずだし。
 
「まだ、少しは時間があるのだろう? 少し話をしながら、歩かないか?」
「ええ、そのくらいでしたら」

 お茶を飲む時間はないが、立ち話ならそこまで長引かないだろう。
 それにしても、アルト抜きでの話か。
 碌な予感がしない。

「なぜ、ルークは領主の座を望まないのかな?」

 その話か。
 逆に俺が聞きたい。 
 なぜ、皆俺が領主になりたいと思うと考えるのだろうか。

「君ほどの才をもって領民の心も得ており、周辺領主の覚えもいいとなれば野心くらい抱きそうだがな。兄に代わってと思わなくはないか?」
 
 父にも同じことを言われたな。
 真剣な表情で。

***
「お前は、本当に今の立場でいいのか?」
「とおっしゃいますと?」

 父は俺の目をジッと見つめる。
 真剣な話なのだろう。
 俺も居住まいを正して、話に耳を傾ける。

「アルトに代わって領主になろうとは思わぬのか? 才を誇示するわりには、野心が全く見えぬ。それを屋敷の者も訝しがっている。傅役も、お主は危ういようでいて野心が全くないと言っている」
「ふふふ」

 見当はずれな意見に、思わず笑い声が漏れてしまった。
 才を誇示しているわけではない……好きなことをしているだけだ。
 いきなり笑い出した俺に対して、父は唖然とした様子だったが。

「私はやりたいことをやっているだけです」
「それは分かるが……しかし、家中の者や領民の中にはそなたを領主にと望む声もある。アルトも悩んでおる。お主を領主にして、自分が補佐に着いた方がいいのではないかと」
「……それは、兄の願望ですね。私は次男ですから、いずれは家から出ます」
「アルトの望み?」

 父は納得がいかないといった表情をしている。
 だが、俺にははっきりとアルトの考えていることが分かる。
 俺を領主にでもしなければ、俺は糸の切れた凧のようにどこかに飛んでいくと思われているのだろう。
 まあ、他国にも興味を示しているからな。
 見分の旅に出るとでも思われていそうだが。
 いずれはいってみたいが。

「私を屋敷に閉じ込めて自分が補佐に着くことで、手元から離したくないのだと」
「お前たち兄弟は、本当に仲がいいからな」
「ええ……ただ、先ほども言いましたが私はやりたいことをしているだけで……その中に、領主という仕事は含まれてませんから」
「ふーむ」

 父が頭を抱えてしまった。
 理解できないのかな。

「欲がないといっていいのか、貪欲といっていいのか。もしかしたら、心変わりして領主をやりたくなることも」
「その時は、実力でどこか別の領地を得ようと思います。たぶん、兄弟で争うということは私は一生したいと思わないでしょうから」
「……そうか。父上と叔父上とは違うのだな」

 そうだな。
 祖父と大叔父は当主の座を巡って、激しく争ったと聞いた。
 ただ、いまの彼らの関係は良好だから……やはり、もともと仲が良いのは確かだろう。
 誰かに叔父が唆されたか……はたまた、他に理由があったか。

「ということを考えれば、兄のスペアである次男という立場も……ですので、ヘンリーとサリアが望めば私は継承権は4番手でも十分です」
「お前というやつは」

 正直に答えたまでだ。
 本音だからな。
 一応は、それで父上は納得してもらえたが。

「ということで、万が一私が家を出ることになったら、兄と母の説得はお願いしますね」
「うーむ」
 
 あっ、唸ってしまった。

「話が終わりなら、これで失礼いたします」
「うーむ」

 こういうときは、逃げるに限る。
 父が我に戻る前に。

***
「私がやりたくないだけですので。私はやりたいことをやっているだけで、結果として成果を出して領民が喜んでいるだけです。まあ、領民を喜ばせたいというのもやりたいことでしたが……領主というのはやりたいものに入ってませんから」
「そういうものか?」
「そういうものですね。私が領主になりたいといえば兄は譲ってくれるでしょうし、協力も惜しまないでしょう。常々彼もそう言ってますから……ただ私も弟や妹が領主になりたいといいだせば、全力で協力するつもりです。あはは……どうもうちの家は、後に生まれた者の方が立場が強いようで」

 俺の答えに、リック殿下がポカンとした表情を浮かべる。
 とてもじゃないが、王族の顔じゃない。
 少しの間があいて、大声で笑い出した。
 中庭に響き渡ったことで、庭師の人や衛兵が何人か様子見に来たが。
 殿下の様子を見て安心したのか、苦笑いしながら仕事に戻っていった。

「はははは、本当に君の家は……」
「まあ、初代様もあまり出世欲というのは無かったみたいです。たぶん、面倒な立場を嫌うのは生来のものぐさでご先祖様譲りのようで」
「ふふふ、なるほど。安心した」
「できれば責任は全て父や兄に押し付けて、領内で好き放題やりたいですね」
「まあ、結果が出てるうちは、誰も何も言えないか」
「結果の不確かな実験も、ゆくゆくは」

 俺の言葉に、殿下が動きを止める。
 少し剣呑な目つきになっているが。
 そんなおかしなことを言ったかな?
 領地に不利益なことや、悪い影響を与える実験を考えたのかな?

「勿論、民を富ませるためのものですよ」
「いや、その心配はしてない。ただ今までのことは、全部結果が出せる自信があったのかと思ってね……少し戦慄しただけだよ」

 正直だな。
 戦慄したと言われたら、あまり良い気はしない。
 そこは、感心したとか吃驚したと言ってもらいたい。

「では、そろそろこの辺りで」
「ああ、今日は色々と楽しかったよ。また、今度遊びに来るといい」
「いえ、あまり気楽に訪れるような場所でもないのですが」
「君の兄の親友の家だ。気にすることは無い」

 言い方を変えればそうだが。
 変えなければ、陛下のおわす居城だ。
 無理無理。
 何も考えずに来て良い場所じゃない。
 謁見の予約を入れて、なおかつ出立前に先ぶれを送って服装と馬車を伝えないといけないような場所だ。
 そうだ、暇だから遊びに行こうと思って行ったら、滅茶苦茶怒られるだろう。

「では、その時には兄にあらかじめ伝えておきます」
「いきなり来てもいいんだよ?」
「流石に、他の方に迷惑が掛かりますので」
「ふふ、裏口を用意しておこう」

 どれだけ来てほしいんだ、この人は。
 まあ、良い。
 とりあえず、リック殿下の前から辞去すると馬車で町の方へと向かう。
 少し予定が押してしまったが、まあいいか。
 我が家には、特別門限があるわけでもないし。 
 御者も連れているからな。
 フォルスも同行するから、問題ないだろう。
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