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第3章:覚醒編(開き直り)
第5話:真実
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「アマラ……」
俺が部屋で一人ごちると、すぐに若い男性が姿を現す。
本当に便利だよな、この神様は。
フォルスが即座に跪いているが、アマラは気にした様子もなく部屋にある椅子に腰を下ろす。
「どうした、弟よ? 悩みか?」
「いや……最初の人生で世界が滅びたのは直接的な原因は女神の暴挙だが、俺にも大きな落ち度があったかもしれない」
「ほう?」
俺が立てた仮説をアマラに話すにあたって、少しだけ気がかりな部分も。
「アマラは……俺の同調のスキルの影響は受けないのか?」
「受けまくりだ。お陰で、我は世界を滅ぼすことになったのだぞ?」
アマラの答えに、思わず頭を抱えてしまった。
ある意味で、自業自得だな。
たった一つのボタンの掛け違いでと思わなくはない。
光の女神が余計なことをしなければ、世界は滅びなかった可能性は大きい。
「俺の同調のスキルって、俺の考えに同調させる精神支配系のスキルってことだよな?」
「まあ、実際には現象を直接発動させているから、神力の域に達してはいるな。変化の事象と合わせてルークは最高神の一柱足る資質を秘めているとも」
「それって……」
俺がそこで区切ってためると、アマラがゴクリと唾を飲みこんだのが分かった。
「俺が抱いている印象が、相手の人格に影響したりはしないか?」
「ん?」
「いや、俺が好意を寄せた相手が俺に好意を抱き、嫌いな相手が俺を嫌うと最初は思ったのだが……俺が嫌われていると思ったから、馬鹿にされていると思ったから……周囲にいじめられていたのではないかと思い始めてな」
「ふむ……」
俺の言葉に、アマラが顎に指を当てて考えるそぶりを見せる。
しばらくして、眉間に眉を寄せ始めた。
「確かに、ない話ではないな」
やはりか。
確かに優秀な能力かもしれないが、これは……
自分で制御できないと、かなり厄介な力であることは間違いない。
俺の思った通りの人格になるということならば。
「光の女神も」
「そうだな、あやつこそお主の能力に対してレジストなど到底無理だろう」
今世でもやけに光の女神が、邪魔をしてくると思ったが。
俺が邪魔をするように仕向けていたともとれる。
あいつの印象は最悪だからな。
そしてあいつが俺に対して抱いているであろう印象を考えても、最悪だと想定していた。
俺の中の光の女神の印象は、俺を魔王に仕立て上げてマッチポンプで自分の信仰をあげようとしたやつ。
そう、俺を魔王にした神だという印象が、非情に強い。
そのせいか……
それで、今世でもあいつは俺を魔王にしたのか。
「どうした、深いため息なぞ吐いて」
「ああ、光の女神の暴挙は俺のせいだな。俺が奴に持つ印象は、ルークを魔王にした駄女神って印象だからな」
「ダメ神って、酷いなお主」
「そこ、カタカナしちゃダメだろう」
「ダメ神だけにか?」
お互いに顔を見合わせて笑ったあと、同時に溜息を吐いた。
「色々と納得できてしまうな」
「ああ、リカルドが光の勇者なのも納得ができる」
「うむ、となれば我が眷族に懸想するあの変な女が聖女になる日も近いかもしれないな」
「リーナか」
無い話じゃない。
フォルスにべたぼれだから、可能性は低くなってるかもしれないが。
聖教会が、あそこまで女神に妄信的なのも俺のせいか。
そして、個人的に知り合いでもあるモルダーが妄信的じゃなかったのは、俺が彼の為人を見て信用できると思ったから。
また彼自身、俺を領主の息子としてだけでなく、色々な慈善事業を手掛けた人間としてよく思っていると感じていた。
そう思い込んでいたから……
「今更だな、手遅れかもしれないが気付けたことはよかった」
「まだ、対策が打てる段階ともいえるしのう」
今からリカルドに対する評価を、変えるしかないのかもしれないが。
光の女神も、聖教会もか。
しかし、生半可なことじゃない。
俺の中に、深く根付いてしまっている。
これは、この世界に時がたつほどに凝り固まっていったようにも思える。
「アルトが良い兄だったのは、俺が彼から受ける印象を全く変えてしまったからか」
「いや、お主が手を刺し伸べ奴がその手を取ったのがきっかけで、彼が最初の人生の兄とは違うと信じることができたのが大きいじゃろう」
「あれもアルトの本質じゃないかもしれないのか。俺が持つ印象で性格を変えてしまった可能性もあるな」
「最初の人生の兄よりは、よほどましじゃろう」
そこは同意するしかない。
産まれて間もないころに出会った人たちの印象は、概ね最初の人生よりは高評価だ。
となると……
「ああ、歳を重ねるごとに身体に引っ張られていると思ったが、精神年齢の退行だけでなく出会った人間の人物像に対する印象までも引っ張られているのかもしれない」
「時間逆行の結果、最初のルークは消滅したかと思ったが」
「魂の記憶じゃな。最初のルークから魂だけは変わっておらぬからのう……魂が本来あるべき肉体に宿った結果、記憶が呼び覚まされているのかもしれぬ」
この能力はまさに、毒だな。
せっかくのやり直しを、自分の能力に邪魔されることになるとは。
「アマラ、お前を先輩として聞くが、事象を司る能力はどう制御したらいいんだ?」
「ふむ、我も生きておったころは破壊衝動に常に駆られておったからのう。無意識に何かを破壊することも多かったが」
「ある意味では俺よりも厄介な能力だよな」
「まあ、巨大な邪竜じゃったから、生き方としては問題なかったぞ?」
そりゃ、そうかもしれないけどさ。
無意識で何もかもを壊す存在じゃなかったことに、少しでも感謝すべきか?
「我が義父が言われておったのは、神が望むことで事象は行使されるとのことじゃ」
「デウス・ウルト……とは違うか。あれは聖地復活のための戦争時に、民衆が掲げた言葉だったはず……むしろ『光あれ』か」
「そうじゃな、ただお主は同調を望んでおらぬのに、事象が発動しておる。そこにお主の意思が噛んでいることは間違いない」
「無意識に思うことは、望むことと一緒か……」
「まあ、すでにある程度の影響は収まっておるのじゃがな」
アマラの言葉に、思わず変な声をあげてしまった。
「お主が自覚し、望まなくなったことでその影響は止まったようじゃな」
「そうか……自覚することが大事なのか」
「うむ、その事象の主であることを認識するのが、必要なことらしい」
なればこそだな。
変化を司っているということは、俺は最初から知っていたからな。
同調というのは後出しで教えてもらったことではあるし、そもそも最初はアマラ達も知らなかったことだ。
その話を聞かされた時もあまりピンとこなかったし、意識したこともなかった。
ジャスパーたちと話をするまでは。
ということは、とりあえずこれ以上悪化することはないと。
叔父が俺に献身的な理由も納得できたし、最初の人生と照らし合わせて大きく変わった部分の根本が理解できた以上、手の打ち方は色々とあるな。
まずは、俺が俺であることをはっきりと意識しなければならないだろう。
せっかく前世で、人生経験をたくさん積んだというのに。
今世の身体と魂の結びつきによって、最初に人生の頃のルークにだいぶ引っ張られてしまったようだ。
それでも俺の性格が歪まなかったのはアルト達のお陰でもあるし、俺が俺であることをはっきりと自覚していたからだろう。
このままさらに時間を掛けていれば、どうなったかは分からないが。
ふっ……そうじゃな、わしは伊勢海でもあるのじゃ。
100年の人生の前に、たかだか十数年で性格をこじらせて世界を敵に回した小僧の意地など、大したものでもなし。
頭の中が一気にスッキリしていくのを感じる。
かような状況でも世界を恨まずに済んだのは、アマラとアリスのお陰じゃな。
感謝せねばなるまいて。
「すまんの、どうやらわしは自分のなすべきことを、忘れかけておったようじゃわい」
「しゃべり方まで戻らんでも……だが、最初のルークの亡霊は、もはやお主の中にはおらぬようじゃの?」
「うむ、ようやく自分を取り戻せたようじゃ。多少なりとも受けておった影響は、いまは鳴りを潜めておる」
さてと、人生経験豊かな先輩として、わしもなすべきことをなさんとな。
まずはリカルドを救ってやらねばなるまい。
最初の人生でも、今世でも彼の者の人生を大きく歪ませてしまったな。
はて、本来の彼はどのような人物なのであろうな?
楽しみが、出来たわい。
俺が部屋で一人ごちると、すぐに若い男性が姿を現す。
本当に便利だよな、この神様は。
フォルスが即座に跪いているが、アマラは気にした様子もなく部屋にある椅子に腰を下ろす。
「どうした、弟よ? 悩みか?」
「いや……最初の人生で世界が滅びたのは直接的な原因は女神の暴挙だが、俺にも大きな落ち度があったかもしれない」
「ほう?」
俺が立てた仮説をアマラに話すにあたって、少しだけ気がかりな部分も。
「アマラは……俺の同調のスキルの影響は受けないのか?」
「受けまくりだ。お陰で、我は世界を滅ぼすことになったのだぞ?」
アマラの答えに、思わず頭を抱えてしまった。
ある意味で、自業自得だな。
たった一つのボタンの掛け違いでと思わなくはない。
光の女神が余計なことをしなければ、世界は滅びなかった可能性は大きい。
「俺の同調のスキルって、俺の考えに同調させる精神支配系のスキルってことだよな?」
「まあ、実際には現象を直接発動させているから、神力の域に達してはいるな。変化の事象と合わせてルークは最高神の一柱足る資質を秘めているとも」
「それって……」
俺がそこで区切ってためると、アマラがゴクリと唾を飲みこんだのが分かった。
「俺が抱いている印象が、相手の人格に影響したりはしないか?」
「ん?」
「いや、俺が好意を寄せた相手が俺に好意を抱き、嫌いな相手が俺を嫌うと最初は思ったのだが……俺が嫌われていると思ったから、馬鹿にされていると思ったから……周囲にいじめられていたのではないかと思い始めてな」
「ふむ……」
俺の言葉に、アマラが顎に指を当てて考えるそぶりを見せる。
しばらくして、眉間に眉を寄せ始めた。
「確かに、ない話ではないな」
やはりか。
確かに優秀な能力かもしれないが、これは……
自分で制御できないと、かなり厄介な力であることは間違いない。
俺の思った通りの人格になるということならば。
「光の女神も」
「そうだな、あやつこそお主の能力に対してレジストなど到底無理だろう」
今世でもやけに光の女神が、邪魔をしてくると思ったが。
俺が邪魔をするように仕向けていたともとれる。
あいつの印象は最悪だからな。
そしてあいつが俺に対して抱いているであろう印象を考えても、最悪だと想定していた。
俺の中の光の女神の印象は、俺を魔王に仕立て上げてマッチポンプで自分の信仰をあげようとしたやつ。
そう、俺を魔王にした神だという印象が、非情に強い。
そのせいか……
それで、今世でもあいつは俺を魔王にしたのか。
「どうした、深いため息なぞ吐いて」
「ああ、光の女神の暴挙は俺のせいだな。俺が奴に持つ印象は、ルークを魔王にした駄女神って印象だからな」
「ダメ神って、酷いなお主」
「そこ、カタカナしちゃダメだろう」
「ダメ神だけにか?」
お互いに顔を見合わせて笑ったあと、同時に溜息を吐いた。
「色々と納得できてしまうな」
「ああ、リカルドが光の勇者なのも納得ができる」
「うむ、となれば我が眷族に懸想するあの変な女が聖女になる日も近いかもしれないな」
「リーナか」
無い話じゃない。
フォルスにべたぼれだから、可能性は低くなってるかもしれないが。
聖教会が、あそこまで女神に妄信的なのも俺のせいか。
そして、個人的に知り合いでもあるモルダーが妄信的じゃなかったのは、俺が彼の為人を見て信用できると思ったから。
また彼自身、俺を領主の息子としてだけでなく、色々な慈善事業を手掛けた人間としてよく思っていると感じていた。
そう思い込んでいたから……
「今更だな、手遅れかもしれないが気付けたことはよかった」
「まだ、対策が打てる段階ともいえるしのう」
今からリカルドに対する評価を、変えるしかないのかもしれないが。
光の女神も、聖教会もか。
しかし、生半可なことじゃない。
俺の中に、深く根付いてしまっている。
これは、この世界に時がたつほどに凝り固まっていったようにも思える。
「アルトが良い兄だったのは、俺が彼から受ける印象を全く変えてしまったからか」
「いや、お主が手を刺し伸べ奴がその手を取ったのがきっかけで、彼が最初の人生の兄とは違うと信じることができたのが大きいじゃろう」
「あれもアルトの本質じゃないかもしれないのか。俺が持つ印象で性格を変えてしまった可能性もあるな」
「最初の人生の兄よりは、よほどましじゃろう」
そこは同意するしかない。
産まれて間もないころに出会った人たちの印象は、概ね最初の人生よりは高評価だ。
となると……
「ああ、歳を重ねるごとに身体に引っ張られていると思ったが、精神年齢の退行だけでなく出会った人間の人物像に対する印象までも引っ張られているのかもしれない」
「時間逆行の結果、最初のルークは消滅したかと思ったが」
「魂の記憶じゃな。最初のルークから魂だけは変わっておらぬからのう……魂が本来あるべき肉体に宿った結果、記憶が呼び覚まされているのかもしれぬ」
この能力はまさに、毒だな。
せっかくのやり直しを、自分の能力に邪魔されることになるとは。
「アマラ、お前を先輩として聞くが、事象を司る能力はどう制御したらいいんだ?」
「ふむ、我も生きておったころは破壊衝動に常に駆られておったからのう。無意識に何かを破壊することも多かったが」
「ある意味では俺よりも厄介な能力だよな」
「まあ、巨大な邪竜じゃったから、生き方としては問題なかったぞ?」
そりゃ、そうかもしれないけどさ。
無意識で何もかもを壊す存在じゃなかったことに、少しでも感謝すべきか?
「我が義父が言われておったのは、神が望むことで事象は行使されるとのことじゃ」
「デウス・ウルト……とは違うか。あれは聖地復活のための戦争時に、民衆が掲げた言葉だったはず……むしろ『光あれ』か」
「そうじゃな、ただお主は同調を望んでおらぬのに、事象が発動しておる。そこにお主の意思が噛んでいることは間違いない」
「無意識に思うことは、望むことと一緒か……」
「まあ、すでにある程度の影響は収まっておるのじゃがな」
アマラの言葉に、思わず変な声をあげてしまった。
「お主が自覚し、望まなくなったことでその影響は止まったようじゃな」
「そうか……自覚することが大事なのか」
「うむ、その事象の主であることを認識するのが、必要なことらしい」
なればこそだな。
変化を司っているということは、俺は最初から知っていたからな。
同調というのは後出しで教えてもらったことではあるし、そもそも最初はアマラ達も知らなかったことだ。
その話を聞かされた時もあまりピンとこなかったし、意識したこともなかった。
ジャスパーたちと話をするまでは。
ということは、とりあえずこれ以上悪化することはないと。
叔父が俺に献身的な理由も納得できたし、最初の人生と照らし合わせて大きく変わった部分の根本が理解できた以上、手の打ち方は色々とあるな。
まずは、俺が俺であることをはっきりと意識しなければならないだろう。
せっかく前世で、人生経験をたくさん積んだというのに。
今世の身体と魂の結びつきによって、最初に人生の頃のルークにだいぶ引っ張られてしまったようだ。
それでも俺の性格が歪まなかったのはアルト達のお陰でもあるし、俺が俺であることをはっきりと自覚していたからだろう。
このままさらに時間を掛けていれば、どうなったかは分からないが。
ふっ……そうじゃな、わしは伊勢海でもあるのじゃ。
100年の人生の前に、たかだか十数年で性格をこじらせて世界を敵に回した小僧の意地など、大したものでもなし。
頭の中が一気にスッキリしていくのを感じる。
かような状況でも世界を恨まずに済んだのは、アマラとアリスのお陰じゃな。
感謝せねばなるまいて。
「すまんの、どうやらわしは自分のなすべきことを、忘れかけておったようじゃわい」
「しゃべり方まで戻らんでも……だが、最初のルークの亡霊は、もはやお主の中にはおらぬようじゃの?」
「うむ、ようやく自分を取り戻せたようじゃ。多少なりとも受けておった影響は、いまは鳴りを潜めておる」
さてと、人生経験豊かな先輩として、わしもなすべきことをなさんとな。
まずはリカルドを救ってやらねばなるまい。
最初の人生でも、今世でも彼の者の人生を大きく歪ませてしまったな。
はて、本来の彼はどのような人物なのであろうな?
楽しみが、出来たわい。
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