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第3章:覚醒編(開き直り)

第27.9話:緊急避難

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「まさか、こんなことになるなんて」

 私はクリスタ。
 クリスタ・フォン・オーバルハイデン。
 一応、伯爵家の娘という大層な身分を持っているけども。
 中身はそこら辺の女の子と大差ないという自覚はある。
 そう、普通の女の子だ。
 馬車に揺られながら……全然揺れないけど、快適な馬車の中で不安に頭を抱えることになっていた。

 今日の昼まで、ミラーニャの町で何もしらずにのほほんと観光を楽しんでいただけなのに。
 急遽、ミラーニャの町を昼過ぎに出発することになった。
 なんでも隣国から、騎士団が侵攻してくるとのこと。
 国境からは少し離れているものの、目的地はジャストール領との情報だった。
 案内をしてくれていたジャストール男爵のご子息が教えてくれた。
 この兄弟も、色々とおかしいけど。
 今をときめく、ジャストール家の麒麟児……嘘か誠か、兄弟4人とも麒麟児とのこと。
 お互いがお互いに、妹弟の方が優秀だとか兄の方が優秀だとか言い合っているけど。
 羨ましい。
 私のお兄様方は、喧嘩してばかりだ。
 その2人が、とある情報筋から入手したらしい。

 隣国の辺境伯、ポルトガフ辺境伯からアイゼン辺境伯へと宛てた手紙らしい。
 なぜ、その内容を知っていると思ってしまったけど、おかしい兄弟だから仕方ない。

 いや、情報が詳細過ぎて、本当に手紙の内容からだけなのかと疑ってしまったけど。
 しかし、戦争なんて話でしか聞いたことなかったから。
 恐怖と緊張で、口が乾く。

 横を見るとエルザが、幸せそうな表情で眠っていた。
 相変わらずの大物っぷりに、思わずため息が出てしまった。
 なんでこの状況で、寝てられるのかな?
 まあ、ここに来てから全力で楽しんでいたから、疲労が溜まっていたのかもしれないけど。

 そして後ろの席では公爵令嬢のジェニファ様が、必死に何かを呟いている。
 ルークに、淡い恋心を抱いているかもしれない、大物ご令嬢。
 かなり本気っぽいけど。

「光の女神以外の全ての神様……どうか、ルーク様をお守りください……光の女神……光の愚神以外の神様!」

 神にルークの無事を祈っているようだ。
 本当に、本気なのかしら?
 ちょっと、鬼気迫る様子に引いてしまった。
 あと、光の女神様に対する姿勢というか、まあ分からなくもないけど。
 でも光の女神様というより、教会が勝手に言ってるだけの可能性も。
 呪詛めいた雰囲気で神に祈りをささげる彼女の方に、視線を向けるのは怖くてできなかった。

 前の方では、どんよりとした空気を纏っている兄弟が。
 ブレード侯爵家のご子息兄弟。
 騎士団長を代々輩出している、国内最強の家門だ。
 そこのご子息であられるジャスパーとガーラント様も、険しい表情だ。
 2人ともアルト様に手助けを申し出ていたが、きっぱりと断れらていた。
 そして、はっきりと足手まといだとも……
 身も蓋もないし、侯爵家のご子息相手に男爵家の子息が言って良い言葉じゃない……はずなのに、2人とも悔しそうな表情を浮かべて飲み込んでいた。
 納得するんかーい! って突っ込みそうになったけど、堪えた私はまだ冷静だったのだろう。

 その前にいる姉弟は、ほんわかとした雰囲気を放っている。 
 どこか冷めたような空気でありながら、暖かなオーラを出す不思議な姉弟。
 キャスパル侯爵家の、子息令嬢。
 そのマリア様とキーファは、今回は宥める側だった。
 全員を前向きにするように、積極的にポジティブに明るい感じで声を掛けていた。
 その後でキーファがルークに何やら耳打ちをして、凄く嫌な顔をされていた。
 大体、想像はつくけど。
 おそらく、貸し的なことを言ったのだろう。
 本気ではないだろうし、距離の詰め方が独特なお方だから。
 これも、コミュニケーションの一環としか思っていないんだろうけど。
 立場が違いすぎて、シャレになっていないことに彼は気付いているのやら。
 気付いていて、からかっている節はあるのだけども。
 いまいち、本音が分からない子だ。

 問題はビンセント様。
 ビンセント・フォン・アイゼン様。
 アイゼン辺境伯のご子息だ。
 実家が最初に侵攻されるわけだから、気が気じゃないはずだ。
 必死にアルト様に、連れて行ってくれるようにお願いしていたけど。
 こっちも、色々と説得されて唇を噛みながら馬車に乗っていた。

 もう一人問題になりそうなリック殿下は……近衛の人達が迎えに来ていたけど、なぜかこの馬車に乗ってる。
 自発的にさっさと、この馬車に乗っていた。
 行きに乗せてもらった馬車よりも、新しい型らしい。
 うん……
 いや、2人を心から信頼しているということだろう。
 ただ、悪い笑みを浮かべているところから、含むところはありそうだ。
 というか、中継地点とかでふらりと消えたりして。
 そうなったら、ジャストール家の責任問題になるだろうけど。
 分かってても、やりそう。
 そのうえで、上手く収めてしまいそうなしたたかさはあるお方。

 ちなみに話の流れから分かると思うけど、アルト様とルークは……なぜかアイゼン辺境伯領に向かうことになっていた。
 エアボードで。
 超速度特化型のエアボードがあるらしく、乗り合い馬車で一日かかる距離を1時間で飛ぶとか。
 それなりの魔力と才能がいるらしいけど。
 実用できているのは、まだ2人だけと言われると……

 はあ……溜息を吐いて、意識を戻す。
 しかしこの馬車……凄い速度で走っているのに、本当に全然揺れない。
 3人掛けのシートが5列、15人乗れる仕様でかなりの大型。
 座席は全て前を向いているけど、中は驚くほど静かだったりする。
 そして、進行を妨げるものがないから、ひたすら真っすぐキオニ領に向かっているけど。
 これ、騒ぎにならないかな?

「ブフォ!」

 いや……大きな地竜が引く馬車ってどうなの?
 というか、馬車じゃなくて竜車?
 地竜を従魔にしてるとか、聞いてないんですけど?

 ジャスパーが竜騎士とかって呟いていたけど、エアボードに乗る方が戦いやすいと一蹴されていた。
 地竜が地味に凹んでいるのが、可愛かったけど。

 とりあえず、私もルークの無事を祈っておこう。
 あと、ミラーニャの町に残った、リーナさんのことも。
 彼女の場合、ご家族も一緒だったから。
 家族で避難するつもりらしい。
 一応、ルークが馬車と馬を使えるよう、紹介状を渡していたけど、
 最悪馬車じゃなく、馬で早駆けで逃げた方がいいと言っていた。
 
 それはそうと、御者台のおじいさんは誰なんだろう?
 なんか、あの人……凄く闇が深い気が……

 雰囲気の話だけど。
 あと、魔力も……
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