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EX章1:学園編

第4話:およばれ

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 王族との疲れる面談の翌日、ジャスパーも交えた早朝訓練が再開された。
 そして、ジャスパーの兄であるガーラント様も。
 騎士団長のご子息が、我が家に出張訓練。
 なんとも贅沢な話だ。

 訓練を受ける側ではなく、与える側だけど。

「さてと、今をときめくS級冒険者様の実力を拝ませてもらおうか」
「はは、肩書なんてのは結果でしかないよ。それで、何かが変わるわけじゃない」

 いや、色々と変わると思う。
 特権的なものから、周囲の反応とか。
 良くも悪くも、我が兄は浮世離れしている部分がある。

「ルークにそう思われるとは、心外だね」

 ……同調を切ってても、こっちの考えを読み当てるところとか含めて。

「アルト、もうお前の実力は分かったからな」
「それは、怖いね」
「だから、とりあえず俺と互角に渡り合える程度に、力を押さえてくれ。何割くらいだ?」
「そういう意味かい?」

 うん、様子見は終わりだとばかりのセリフだったけど、そういう意味だよね?

「2割弱……くらいかな?」
「本当は?」
「……1割」

 1割の力でやっても、アルトの方が強いと思う。
 無加護の未成年と、神の加護持ちの未成年。
 しかもかたや、神とも渡り合える実力者。
 それでも、過剰戦力だ。
 
「スキル、魔法無し、右手で剣のみを扱うという条件で」
「そ……そうか」

 そこまでで、訓練にはなるかな?

「ル……ルークは、俺に見合った訓練を考えてくれたらいいから」
「そう? じゃあ、まずはカーラたちと鬼ごっこかな? 全員にリボンを付けるからそれを取ったら終わりね」

 ジャスパーは良くも悪くも己を知ってるから、安心だ。
 まずは反射神経と、反応速度、瞬発力に敏捷、さらには重心の移動等と身体を上手に使う訓練をした方がいいだろう。

「い……犬と駆けっこか?」
「狼だけどね。あと、4匹同時だからね?」

 少し面食らった様子だけどすぐに気を取り直して準備運動を始めるあたり、素直なのは良い事だ。
 今日はこれだけで終わったりしそう。

「はあ、はあ……10回やって、2本か」

 おお、ガーラント様はアルトから2本は有効打を決められたのか。
 これは、凄いと思う。

「うん、この調子で1週間鍛えたら、10本全部取られそうだね。そうなったら、次の段階かな?」
「一週間でようやくか。まあ、一週間いまと同じ強さでやるなら、なんとかなるな。ただ、その間も素のお前は成長するんだろう?」
「どうかな? 弟が本気で付き合ってくれたら、まだまだ強くなれると思うけど」

 目下のところ、ラスボスは倒したんだけど?
 これ以上、強くなったところで使い道はあるのかな?
 兄が闇落ちして、裏ボスルートとか勘弁願いたい。

「くぅ……ケールのしか取れなかった」

 そして俺の足元で仰向けに倒れこんでるジャスパーの顔を、しゃがんで覗き込む。

「うん、クーラね」
 
 1時間程度追いかけっこをしたけど、1匹から取るのだけが精一杯か。
 それもそうかな?
 俺が同調の力を使って、4匹に行動を指示していたから。
 急な方向転換や、足元に横合いから他の子を突っ込ませたりと。
 機敏な反応と動作が求められたことだろう。
 さらにはバランスを崩さないための体重移動や、身体の動かし方など。
 かなり良い訓練になったはずだ。

「流石は騎士の子だね。なかなかの体幹だった思うけど、もう少し柔軟性も欲しいところだね。特に膝と股関節に関してはね。あとは、肩と腰の可動域ももう少し」
「体感? 体験の間違いか?」

 まずは人体について、あれこれと教えるのが先かな?
 こう見えても、前世では毎年2月~6月まではガッツリ鍛えてたからね。
 そういった知識は、少しはもっている。

 まあ面倒だから、もう少し様子を見てから言葉で教えよう。
 いまは、感覚だけで充分だろう。

「じゃあ朝食を準備させてるので、屋敷に戻りましょうか」
「いや、そこまで世話になるのは申し訳ない」

 俺の提案を、ガーラント様が首を横に振って断ってきた。
 だが、そういうわけにはいかない。

「ああ、言い直しましょう。訓練の成果を高めるための食材を使った料理を用意してます。食べるところまで含めて、訓練ですから」
「そ……そうなのか? じゃあ、今日はお言葉に甘えるとして、食材や調理法を教えてもらえば次から家で用意させておく」

 まあ、そうは言ってもなし崩し的に毎朝一緒に食べることになるだろう。
 食材は用意できても、調味料までは用意できないだろうからな。

 プロテインドリンクとか、粉をうちから卸さないと無理だろうし。
 とくにジャスパーには、早く成長してもらいたいしな。

「ではカーラたちは私が預かりましょう」

 そう言って側に控えていたジェファードが、4匹の子狼を連れて行く。
 まさか、ジェファードが動物好きとは思わなかったが。
 彼もアリス同様に、この4匹にメロメロになってしまった。
 おかげで、屋敷内なら一人の時間がどうにか少しは用意できるくらいに。
 良い事だ。

***
「で、エルサのところには結局行くのか?」
「うん、ジャスパーとキーファも一緒に行くでしょ?」
「まあ、行かないといけないだろうな。お前ひとりを行かせたら、ジェニファー様が大変そうだ」

 そう、なんと同級生の家にお呼ばれしたのだ。
 しかも女子の家。
 今まで、そんなことなかったから、普通に嬉しい。
 あっ、日本に居た頃は……うーん、小中はたまにあったか。
 高校は……部屋に押し掛けてくる子はいたけど、女子の部屋に入った記憶は無い気がする。
 うん、無いな。
 
「まあ、他にも何人かクラスの子が行くみたいだけどね」
「クラスの子以外にも、他にも子供たちが来るのだろう?」
「まあ、パーティだからね。誕生日を祝う」

 うん、エルサのお誕生日会。
 といえば、子供らしくて可愛らしいイメージだけどさ。
 大人を交えてた正式な社交の場のパーティというわけではないので、デビュタントではないが。
 そのための、予行演習のようなものだ。
 あちらこちらで、開催される小規模なパーティではあるが。
 これも、十分に社交の場といえなくは無い気がする。
 
「どっちにしろ、ルークは強制参加だもんな」
「どちらかというと、うちの料理人が……かな?」

 俺の場合は、手土産不要とのことだった。
 代わりに料理人を連れて来てくれと。
 それで、エルサの家の料理人は気分を害したりしないのかとも思ったが。
 彼らからの要望とのことらしい。

 ジャスパーとキーファが行くなら、生半可なものは出せないもんね。
 うちの料理をよく知ってるだけに。

 とはいえ、言葉通りに手ぶらってわけにはいかないだろうし。
 うん、ジャストールから持ってきたあれを、手土産に持っていこう。
 きっとエルサもクリスタも喜ぶだろう。

 巾着ではなく、留め金式のハンドバック。
 ピンクのウレタン素材の。
 ゴムの生成に拘ったおかげで、様々な樹脂の活用法を伝えることが出来たからね。
 イメージだけだけど。
 それを実際に形にするのは職人さんたちだけど、その中の一つがエナメル。
 ちなみにジェニファーには先に渡してあるので、抜かりはない。

 まあ貴族が自分で荷物を持つことはあまりないせいか、鞄に関してはそこまで注視していなかった。
 それでも、まあある程度の鞄はあることから、やはり地球とは違う世界のようだ。
 ただ鞄の多様性で行けば、現代地球の方が遥かに先をいっている。
 ということで、色々な鞄の構想をしていたなかで作り出した商品の一つだ。
 それなりの身分の貴族の子が使えば、良い宣伝になるだろうし。
 だから、製品化として問題ないものをいくつか持って来てたんだけど。
 早速使う機会がきてくれて嬉しい。

「俺はまだ何も用意していないから、このあと予定が無ければ買い物に付き合ってくれないか?」
「別に構わないけど、お兄様たちはどうされます?」

 ジャスパーに買い物に誘われたので、とりあえず快諾しつつアルトたちの予定を確認。

「ん? お前がリックに伝えたんだろ? 俺たちはこのあとビンセントのところに行って、全員でボードパークだ」

 ああ、早速か。
 それなら、別行動で問題ないだろう。
 じゃあ、ジャスパーと2人でデートだな。
 いや、ジェファードも付いてくるか。
 ジェファード……明日は、どうするんだ?
 呼ばれてないけど、従者の体で付いてくるのかな?
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