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第三章:王都学園編~初年度後期~
特別閑話3-7:聖なる夜のハルナ
「お嬢様! 素敵オーラが溢れ出て、女神化がとどまることを知りませんっ! あれっ?」
思わず周囲を見渡してみたけど、まだ真っ暗ですね。
ということは……久しぶりに、例の夢を見たようです。
やけにリアリティのある、睡眠時間と体感時間がまったく噛み合わない、素敵お嬢様の夢。
今回の夢のお嬢様も、また素敵でした。
冒険者エリーズの時のような立ち振る舞いでしたが、豪華なドレスのような青い鎧を身に纏ったお姿はまるで神話のヴァルキリーのようでした。
背中に翼のようなものも、見えたような気もしますし。
目を閉じれば、はっきりと思い出せます。
最初は、王城内の景色でしたね。
この時点では、お嬢様はまだ登場されてませんでした。
確か……
「東の方向に、正体不明の軍勢が! ステージアを目指して向かっております」
慌てた様子の兵士の発言に、国王であるリチャード陛下が玉座の上で目を閉じて首をふっていましたね。
それから、呟くように言葉を発したんでした。
「来たか……スペアステージア公爵の軍勢だ。愚かにもこの国で謀反を起こすつもりなのだ」
「何も、こんな日にと思わなくはないですけどね……国民どころか、世界のあちらこちら神の存在を祝い祈る日に」
そして、陛下の言葉に対してダリウス殿下が呆れた様子で、答えを返しておりました。
……もう、陛下も殿下も敬称いりますかね?
今回も、かなり良い性格をしてましたし。
好きに語らせてください!
そういう気分なんです!
記憶がはっきりしているうちに、言葉にしてより脳裏に焼き付けたいのです。
「すぐに城内に合図を送れ! それと町にもだ! 予め決めておいた手筈通りに、国民の避難を始めろ! 空いた家には、兵を順次潜ませろ!」
「第三騎士団と、第四騎士団を東門に集結させろ! 迎え撃つ!」
国王が目の前の兵に指示を飛ばし、町で警備に当たっていた者たちに一斉に動かす。
警備兵や衛兵は民衆を避難させたあと、家や建物に潜み奇襲部隊として配置するつもりだったのでしょう。
そして、迎撃軍の指揮はダリウスが取っているようですね。
おっと、玉座の間にあのクソ聖女様が……今のソフィア様は、とてもいい子ですけど。
夢の中の彼女は、馬鹿王子と一緒になってお嬢様を追放しましたからね。
この場に私がいたら、刺し違えてでも殺していたでしょうね。
東に展開されたスペアステージア連合軍は城門まで200m程度のところで進軍を止め、軍を展開させておりました。
先頭には豪華な鎧に身を包んだ、若い男女が。
エレオス、エレオール兄妹ですね。
軍の指揮を任されているのでしょう。
それほどまでに、優秀だったのでしょうね。
「おじいさま、王国軍の対応が随分と早い。やはり、情報が漏れていたみたいだ」
エレオスの言葉に輿に乗っている風格のある男性が白い髭をしごきながら、不敵な笑みを浮かべております。
「それがどうした? 自ら盾を手放した王族などおそるるに足らんだろう」
「……ですね。お兄さま、今の王国軍にまともな戦闘ができるとお思いで?」
公爵の言葉を肯定するように、エレオール嬢も続いて言葉を発してましたがエレオスの表情は硬いままです。
「あまり相手を見くびって、足元を掬われるわけにはいかないだろう。これでも、厳しい訓練を耐え抜いて来た精鋭の集まりだぞ?」
「それは、私たちも同じです」
二人の意見が割れたことで、公爵軍は完全に動きを止めて待機の姿勢です。
本来なら、この時間も惜しいのですけどね。
兵は神速を貴ぶべし、特に奇襲を仕掛けるなら! とはお嬢様のお言葉でしたね。
素晴らしいお言葉だと思いました。
そして、この間に王城内でも着々と迎撃の準備が整えられていきます。
攻城戦の場合、攻め手は守りの三倍の兵力が必要だとか。
お嬢様いわく。
……お嬢様は、なんでこんなことを知っていたのでしょうか。
そして、町から火の手が上がります。
「だから、すでに手は打っておいた」
エレオスが得意そうに笑みを浮かべてます。
王城内の身分至上主義派の貴族を動かしただけですけどね。
それを防げなかった王族が間抜けなだけですね。
「なんだ! 何が起こった!」
「ネガエール伯爵と、コザイク伯爵が私兵を使って暴動を起こしております!」
「なにっ! あの二人には、見張りをつけておいたはず!」
当然、身分至上主義派閥にはそれなりに対策はしていたのでしょう。
しかし……愚かですね。
本当に、この親子は。
「西にも軍勢が現れました! 旗印はレオハートのものです!」
「援軍か!」
本当に愚かですね。
「馬鹿なことを……」
慌ただしくなってきた城内の様子に異変を察知した王妃殿下が、入室して早々に冷たい視線を国王とダリウスに向けて投げやりのような言葉を掛けておりますね。
その気持ちは、よく分かりますが。
「何を愚かなことを……そこの、たかだか聖属性が扱えるだけの小娘にのぼせ上って、自ら守護者を裏切ったくせに」
続いて出たのは、心の奥底からひねりだしたかのような昏く冷たい声です。
「は……母上?」
「王妃、何を?」
私からすれば、本当に二人が分かっていないことが不思議でしかたありませんよ。
第三者視点で見ていると。
「貴方たちが手放したあの素晴らしい少女が、誰の孫かもう忘れたのですか?」
「お、叔父上は国難に私情を挟むような方ではない」
王妃殿下の言葉に国王が焦った様子で言い返していますが、帰ってきたのは扇子をパシリと力強く閉じる音でした。
「そうですよ? だから、この国の平穏にとって一番の障害となるであろう貴方たちを見限って、兵をあげたのですよ」
「そ……それは、スペアステージア「王子……貴方は本当に愚かですね。いま、一番の脅威はスペアステージアではなく、レオハートです! 現実を見なさい!」
おお……王妃殿下は、流石としか言いようがないですね。
やはり、三人の中でも一番、まともだったかも。
「スペアステージア軍と、我が軍が衝突しました! いまは、こちらがまだ押しております!」
「城内の逆賊は全て捉えました! コザイク伯爵は討ち死に、ネガエール伯爵は捕縛しております」
「そうか……」
その後、室内に飛び込んで来た兵によってもたらされた情報に、国王が少し落ち着きを取り戻してますが。
王妃の表情は冷笑と呼ぶに相応しい状態ですね。
それもそうでしょうね。
そもそも二人につけた見張りを手配したのは、レオハート公爵ですからね。
王都内の守りに関して、色々と手筈を整え兵を鍛え上げたのも。
そして王妃は、そのことを重要視してます。
普通は、そうでしょう。
エルザ様との婚約を破棄し追放した時点で、そこは一番最初に見直すべきところだったのに。
まあ、指揮官と部下。
教官と、訓練兵の関係程度にしか、国王は考えてなかったのでしょう。
レオハート公爵の人望とカリスマ性を見誤りましたね。
英雄というものを。
「西側に、次々と兵が終結しております! ニシェリア侯爵軍、レオブラッド辺境伯軍の旗も見えます」
「お……王妃の言う通り……なのか?」
「母上! 大叔父上は本当に裏切ったのですか?」
続く方向に、二人の顔が青くなってますが。
王妃は楽しそうですね。
「裏切ったのは貴方たちでしょう? 公爵は、見限っただけですよ。もしかしたら、先王にも報告に行ってるかもしれませんね」
「行動が早すぎる……」
「この城内に、どれだけ公爵を信望するものがいると? 全て、公爵の……いえ、この手口はエルザ嬢のものね。おおかた、スペアステージア公爵家も利用されているだけですね。彼らが今日ここに来るように誘導したのも、彼女でしょう」
「あ、あの悪女……悪知恵だけは回る」
ああ、ダリウスを殺したくなってきました。
これ、現実であっても、殴ってしまいそうです。
おそらく、罪のない民衆は無事に見逃してもらえたでしょうね。
衛兵や警備の兵の中にもレオハートの手の者が多くいるでしょうし。
建物内に潜んでいるとのことですが、どうあってもスペアステージア軍が侵入したら対応は無理でしょう。
「悪知恵……武略というものですよ。貴方たちは、それを手放したのです」
「ダリウス! お前は西に回れ! 第二騎士団を連れていけ! それと、待機中の騎士団も全てだ!」
「第一騎士団は?」
「あれは、叔父上が鍛え上げた軍だ! もはや、期待はできん! かといって、手出しもできん! 知らぬふりで、待機を命ずるしかあるまい」
「……」
国王の言葉にダリウスが唖然とした表情を浮かべてますが、随分とのんびりとしてますね。
そして、ここで場面がお嬢様の方に切り替わりました。
待ってました!
「相変わらず愚鈍な方々ですね」
「そう言ってやるな。守られるだけの人間に、戦にて才を振るえというほうが酷であろう」
お嬢様とギース公が轡を並べて、軽口を叩いております。
ようやく、城壁に投擲部隊が集まり始めた状況を見てお嬢様が溜息を吐いております。
いくら、スペアステージアを陽動に使って、東に兵力を集めさせたとはいえ時間が掛かり過ぎたようですね。
「ふふっ……戦場に女連れとは。相も変わらず、仲の宜しいことで」
そして、そこに現れたダリウスとソフィアの姿を見て、心底馬鹿にしたかのようにお嬢様が笑みを浮かべております。
それから右手の人差し指を天高く掲げ、一気に振り下ろしました。
「薙ぎ払え!」
次の瞬間、お嬢様の背後に控えていた砲撃兵から一斉に、火の玉が放たれます。
お嬢様が手ずから鍛え上げた、魔法部隊ですね。
100人ほどの部隊ですが、こうやって同時に魔法を放つのを見ると圧巻の光景でした。
「被害は!」
「城壁の上の兵が数人負傷しました! あとは、外壁に罅が」
「くそっ! 次が来る前に矢を放て! どうせ、鎧も身に付けられないような、非力な魔法部隊だ! 物理に対する対策は甘いはずだ! 第二騎士団が門から出撃するまで、なるべく減らして道を作るのだ!」
城壁から一斉に矢が放たれますが……お嬢様が、その程度の攻撃でどうこうなるような柔な鍛え方をするはずないじゃないですか。
「ふんっ、教科書通りの対応だな。遠距離から魔導士を運用するのに、対策を用意してないわけないだろう」
お嬢様が、さもつまらなさそうに鼻で笑ったあとで顎をしゃくります。
それだけで、100人の魔法部隊はすぐに次の行動を取ります。
4人一組による、集合魔法。
【ハリケーン】ですね。
巨大な竜巻があちらこちに発生して、矢を巻き上げて中央に集めてしまいました。
地面に、多数の矢が散乱した状態です。
「せっかく大量の矢弾を提供して頂いたんだ。私が有効活用させていただこう!」
そして、お嬢様が得意の闇魔法でそれらの矢を浮かび上がらせると、一斉に城壁に向かって打ち返しました。
相手の放った矢を、そのまま再利用するなんて。
なんて、コスパのいい魔法の運用を思いつくのでしょうか。
流石、お嬢様。
英知が留まることをしりません。
「負傷者多数! 第二騎士団、突撃準備完了しております!」
「城門を……開けろ」
「殿下! このまま、出撃させても悪戯に被害が増えるばかりです! もう少し、相手を引き付けた方が」
ダリウスの言葉に、士官の男性が意見をしていました。
彼は苦虫を嚙み潰したような表情で、そのまま進撃を指示しましたわね。
とことん、悪手を選ぶと思いましたよ。
いや、お嬢様が先を読みすぎなだけかもしれません。
「チャールズ、頼む……死ぬなよ」
そして、友人を死地に送り出すこの非情さ。
あー……だめだ。
夢の中の殿下は、本当にだめだ。
受け付けない。
生理的に受け付けないというやつですね。
次から次へと放たれる魔法に、第二騎士団の騎士たちが次々と倒れていますが、それでも確実にレオハートの軍へと近づいて行ってます。
いや、別にレオハート軍が対応する必要もないのですが。
後ろに下がって、ニシェリア侯爵軍かレオブラッド辺境伯軍に任せても。
というか、兵力差がかなりえぐいのに。
この反撃は何のためなのでしょうか?
ダリウスが逃げる様子もありませんし。
王族が逃げる時間稼ぎではなければ、本気で勝てると思っての行動なのでしょうか?
どれだけ、お花畑なのでしょう。
頭の中が。
「わ! 私も、手伝います!」
そして、さっきまで空気だったソフィアが、杖を取り出して何やら祈りを込めてますね。
「ソフィア」
「広範囲に回復魔法を掛けます! なるべく、近くに集まるように伝えてください」
「分かった! 聖女ソフィアが癒しを行う! 負傷者を集めろ! 他の者も近くに寄れ」
うわぁ……
お嬢様の顔が引きからズームされるような映像になったかと思ったら、凄く悪い笑みを浮かべてます。
かなり……かなりお美しい。
氷の女神モードのお嬢様です。
「的が小さくなって、逆に楽になるなんて……まるで、あべこべね」
わぁわぁわぁ!
なんて、悪いことを。
一か所に集まってくれたから、一網打尽にするのも簡単でいいわぁって意味ですか?
悪い!
凄く悪い事を考えてます。
「とりあえず、素敵な景色を用意してあげますわね」
そしてお嬢様が左手を水平に身体の真横に持ってくると、ゆっくりと右に向かって薙ぎ払うような動作をします。
手からはキラキラと闇に星をちりばめたような魔力が漏れ出てて、本当に素敵です。
「【事象反転】」
あっ、酷い……
ソフィアの杖から降り注ぐ緑色のドーム状の光の下に、お嬢様の手の動きに合わせて半透明の黒い幕が張られました。
これはあれですね……魔法を防ぐ魔法でしょうか?
まさかの、回復を阻害……ああっ! いや! これは、もっと酷いです。
幕を通過した光は、かなり濁った緑色に変化していました。
もう、見るからにヤバイ色です!
毒薬みたいな色です!
「痛い! なんだこれは」
「うぎゃあああ、皮膚が! 皮膚がぁ!」
「き……傷が! 傷が膿んで」
「腕がぁっ! 俺の腕がっ」
そして、そのドームの下では阿鼻叫喚の地獄絵図が。
まっ……まさかの、反転魔法。
それをけが人に向けて放たれた、広範囲回復魔法に使うとか。
悪魔の所業です。
お嬢様の素敵が留まることを知りません。
「せ、聖女様」
「く……苦しい」
全員が、ソフィアに向かって苦悶の表情を……あっ、目が溶け落ちたりとか、傷口から出る血までどす黒く変色し始めてて……なんか、本当に酷い。
「ひっ! なっ、なんで、わ……私は、普通に回復を……どうして! もっと、もっと力を込めないと」
「ソフィア! 一度魔法を止めるんだ!」
パニックになって、さらに魔力を込めるとか。
どおりで、急激に状況が悪化していったわけですね。
この状況で、普通それやりますか?
察するでしょう……
やっぱり、聖女も愚かで悪魔だったみたいですね。
あー……もう、周囲は死に体状態というか、死にたい状態というか。
とにかく、生きてるのが辛いほどの重症の兵だらけ。
元気な兵まで一か所に集めてまとめて処分。
それも、自分の魔力は少ししか使わず、ほぼソフィアの魔力でそれを行うとか。
本当にお嬢様のやることは、コスパが良いですね。
いいぞ! もっと、やれ!
と、ついつい応援してしまいました。
そして、さらに悪い報告が。
「第二騎士団、接敵しました!」
いやいや、後方が壊滅状態なんだから、敵に突っ込んでる場合じゃないでしょう!
戻って、王子の周りを固めるとか……考えてないんでしょうね。
「よしっ! 魔法使いなら、近接は出来ないはずだ! しかし、騎士が迫っても下がらせないとは……何か、思惑があるのか?」
そして、ダリウスのこの発言……
なんだろう……この人、ここまで馬鹿でしたっけ?
いや、これだけボコボコにされてて、そもそも嫌な予感とかしないんですか?
直観が働かないんですか?
といっても罠でもなんでもないから、そういうこともあるかもしれませんが。
「第二騎士団、押されております」
ですよねぇ……
「はあっ?」
「全員が杖に、剣を仕込んでおりまして……」
ふふ……ふふふ、ふふふふふ! だからぁ、お嬢様が鍛えた兵がそんな柔なわけないじゃないですか。
「魔法使いは接近戦が苦手? 私が弱点をいつまでも放置しておくような、愚か者に見えましたか?」
「エルザ!」
そして、お嬢様自身は魔法で空を飛んで、ダリウスのすぐそばに降り立ちました。
すでに大勢は決しているわけですし、ギース公も兵を下がらせ始めてますね。
「当然、接近戦も鍛えているに決まってるでしょうに」
「いままで、どこに……それよりも、なんでこんなことを!」
愚門ですね。
貴方がエルザ様を捨てて、ソフィアに乗り換えたからですよ。
というか、そこまでなら良かったのですが。
そのまま修道院に飛ばすフリをして、途中で殺そうとしたからに決まってるでしょう。
「なんで? すぐ死ぬ人に、教える必要はないでしょう……何も知らずに殺される方が、貴方みたいな愚か者には相応しいですからね」
「貴様っ!」
残念ながら、すでにダリウスはお嬢様の魔法で、身体を拘束されてしまったみたいですね。
そして、お嬢様はソフィアに近づいて耳元で何やら囁いてました。
まあ、すでにソフィアは自分の魔法で兵たちを死においやったことで、かなり精神的にきてたみたいですし。
まあ、そこからはちょっと口にするのも憚られるような、本当の地獄絵図といいますか。
思い出しても、身震いするほど芸術的な光景でした。
お嬢様がそこにいるだけで、あの残酷な映像も神秘的な光景に代わるのですから、お嬢様は本当に女神様ですね。
「聖なる夜が聖女の命日なんて、素敵じゃない?」
それが、最後の言葉でしたね。
奇しくも、この日は創造神が世界に降り立った日といわれる日でしたから。
だから、国民全員の祝日だったわけですが……
この日を敢えて選んだのも、お嬢様でしたよね。
しかし……
「薙ぎ払え!」
凄く、かっこいい!
もう一回、見たい!
二度寝したら、見られるでしょうか?
寝れるかな?
凄く興奮してます。
思わず周囲を見渡してみたけど、まだ真っ暗ですね。
ということは……久しぶりに、例の夢を見たようです。
やけにリアリティのある、睡眠時間と体感時間がまったく噛み合わない、素敵お嬢様の夢。
今回の夢のお嬢様も、また素敵でした。
冒険者エリーズの時のような立ち振る舞いでしたが、豪華なドレスのような青い鎧を身に纏ったお姿はまるで神話のヴァルキリーのようでした。
背中に翼のようなものも、見えたような気もしますし。
目を閉じれば、はっきりと思い出せます。
最初は、王城内の景色でしたね。
この時点では、お嬢様はまだ登場されてませんでした。
確か……
「東の方向に、正体不明の軍勢が! ステージアを目指して向かっております」
慌てた様子の兵士の発言に、国王であるリチャード陛下が玉座の上で目を閉じて首をふっていましたね。
それから、呟くように言葉を発したんでした。
「来たか……スペアステージア公爵の軍勢だ。愚かにもこの国で謀反を起こすつもりなのだ」
「何も、こんな日にと思わなくはないですけどね……国民どころか、世界のあちらこちら神の存在を祝い祈る日に」
そして、陛下の言葉に対してダリウス殿下が呆れた様子で、答えを返しておりました。
……もう、陛下も殿下も敬称いりますかね?
今回も、かなり良い性格をしてましたし。
好きに語らせてください!
そういう気分なんです!
記憶がはっきりしているうちに、言葉にしてより脳裏に焼き付けたいのです。
「すぐに城内に合図を送れ! それと町にもだ! 予め決めておいた手筈通りに、国民の避難を始めろ! 空いた家には、兵を順次潜ませろ!」
「第三騎士団と、第四騎士団を東門に集結させろ! 迎え撃つ!」
国王が目の前の兵に指示を飛ばし、町で警備に当たっていた者たちに一斉に動かす。
警備兵や衛兵は民衆を避難させたあと、家や建物に潜み奇襲部隊として配置するつもりだったのでしょう。
そして、迎撃軍の指揮はダリウスが取っているようですね。
おっと、玉座の間にあのクソ聖女様が……今のソフィア様は、とてもいい子ですけど。
夢の中の彼女は、馬鹿王子と一緒になってお嬢様を追放しましたからね。
この場に私がいたら、刺し違えてでも殺していたでしょうね。
東に展開されたスペアステージア連合軍は城門まで200m程度のところで進軍を止め、軍を展開させておりました。
先頭には豪華な鎧に身を包んだ、若い男女が。
エレオス、エレオール兄妹ですね。
軍の指揮を任されているのでしょう。
それほどまでに、優秀だったのでしょうね。
「おじいさま、王国軍の対応が随分と早い。やはり、情報が漏れていたみたいだ」
エレオスの言葉に輿に乗っている風格のある男性が白い髭をしごきながら、不敵な笑みを浮かべております。
「それがどうした? 自ら盾を手放した王族などおそるるに足らんだろう」
「……ですね。お兄さま、今の王国軍にまともな戦闘ができるとお思いで?」
公爵の言葉を肯定するように、エレオール嬢も続いて言葉を発してましたがエレオスの表情は硬いままです。
「あまり相手を見くびって、足元を掬われるわけにはいかないだろう。これでも、厳しい訓練を耐え抜いて来た精鋭の集まりだぞ?」
「それは、私たちも同じです」
二人の意見が割れたことで、公爵軍は完全に動きを止めて待機の姿勢です。
本来なら、この時間も惜しいのですけどね。
兵は神速を貴ぶべし、特に奇襲を仕掛けるなら! とはお嬢様のお言葉でしたね。
素晴らしいお言葉だと思いました。
そして、この間に王城内でも着々と迎撃の準備が整えられていきます。
攻城戦の場合、攻め手は守りの三倍の兵力が必要だとか。
お嬢様いわく。
……お嬢様は、なんでこんなことを知っていたのでしょうか。
そして、町から火の手が上がります。
「だから、すでに手は打っておいた」
エレオスが得意そうに笑みを浮かべてます。
王城内の身分至上主義派の貴族を動かしただけですけどね。
それを防げなかった王族が間抜けなだけですね。
「なんだ! 何が起こった!」
「ネガエール伯爵と、コザイク伯爵が私兵を使って暴動を起こしております!」
「なにっ! あの二人には、見張りをつけておいたはず!」
当然、身分至上主義派閥にはそれなりに対策はしていたのでしょう。
しかし……愚かですね。
本当に、この親子は。
「西にも軍勢が現れました! 旗印はレオハートのものです!」
「援軍か!」
本当に愚かですね。
「馬鹿なことを……」
慌ただしくなってきた城内の様子に異変を察知した王妃殿下が、入室して早々に冷たい視線を国王とダリウスに向けて投げやりのような言葉を掛けておりますね。
その気持ちは、よく分かりますが。
「何を愚かなことを……そこの、たかだか聖属性が扱えるだけの小娘にのぼせ上って、自ら守護者を裏切ったくせに」
続いて出たのは、心の奥底からひねりだしたかのような昏く冷たい声です。
「は……母上?」
「王妃、何を?」
私からすれば、本当に二人が分かっていないことが不思議でしかたありませんよ。
第三者視点で見ていると。
「貴方たちが手放したあの素晴らしい少女が、誰の孫かもう忘れたのですか?」
「お、叔父上は国難に私情を挟むような方ではない」
王妃殿下の言葉に国王が焦った様子で言い返していますが、帰ってきたのは扇子をパシリと力強く閉じる音でした。
「そうですよ? だから、この国の平穏にとって一番の障害となるであろう貴方たちを見限って、兵をあげたのですよ」
「そ……それは、スペアステージア「王子……貴方は本当に愚かですね。いま、一番の脅威はスペアステージアではなく、レオハートです! 現実を見なさい!」
おお……王妃殿下は、流石としか言いようがないですね。
やはり、三人の中でも一番、まともだったかも。
「スペアステージア軍と、我が軍が衝突しました! いまは、こちらがまだ押しております!」
「城内の逆賊は全て捉えました! コザイク伯爵は討ち死に、ネガエール伯爵は捕縛しております」
「そうか……」
その後、室内に飛び込んで来た兵によってもたらされた情報に、国王が少し落ち着きを取り戻してますが。
王妃の表情は冷笑と呼ぶに相応しい状態ですね。
それもそうでしょうね。
そもそも二人につけた見張りを手配したのは、レオハート公爵ですからね。
王都内の守りに関して、色々と手筈を整え兵を鍛え上げたのも。
そして王妃は、そのことを重要視してます。
普通は、そうでしょう。
エルザ様との婚約を破棄し追放した時点で、そこは一番最初に見直すべきところだったのに。
まあ、指揮官と部下。
教官と、訓練兵の関係程度にしか、国王は考えてなかったのでしょう。
レオハート公爵の人望とカリスマ性を見誤りましたね。
英雄というものを。
「西側に、次々と兵が終結しております! ニシェリア侯爵軍、レオブラッド辺境伯軍の旗も見えます」
「お……王妃の言う通り……なのか?」
「母上! 大叔父上は本当に裏切ったのですか?」
続く方向に、二人の顔が青くなってますが。
王妃は楽しそうですね。
「裏切ったのは貴方たちでしょう? 公爵は、見限っただけですよ。もしかしたら、先王にも報告に行ってるかもしれませんね」
「行動が早すぎる……」
「この城内に、どれだけ公爵を信望するものがいると? 全て、公爵の……いえ、この手口はエルザ嬢のものね。おおかた、スペアステージア公爵家も利用されているだけですね。彼らが今日ここに来るように誘導したのも、彼女でしょう」
「あ、あの悪女……悪知恵だけは回る」
ああ、ダリウスを殺したくなってきました。
これ、現実であっても、殴ってしまいそうです。
おそらく、罪のない民衆は無事に見逃してもらえたでしょうね。
衛兵や警備の兵の中にもレオハートの手の者が多くいるでしょうし。
建物内に潜んでいるとのことですが、どうあってもスペアステージア軍が侵入したら対応は無理でしょう。
「悪知恵……武略というものですよ。貴方たちは、それを手放したのです」
「ダリウス! お前は西に回れ! 第二騎士団を連れていけ! それと、待機中の騎士団も全てだ!」
「第一騎士団は?」
「あれは、叔父上が鍛え上げた軍だ! もはや、期待はできん! かといって、手出しもできん! 知らぬふりで、待機を命ずるしかあるまい」
「……」
国王の言葉にダリウスが唖然とした表情を浮かべてますが、随分とのんびりとしてますね。
そして、ここで場面がお嬢様の方に切り替わりました。
待ってました!
「相変わらず愚鈍な方々ですね」
「そう言ってやるな。守られるだけの人間に、戦にて才を振るえというほうが酷であろう」
お嬢様とギース公が轡を並べて、軽口を叩いております。
ようやく、城壁に投擲部隊が集まり始めた状況を見てお嬢様が溜息を吐いております。
いくら、スペアステージアを陽動に使って、東に兵力を集めさせたとはいえ時間が掛かり過ぎたようですね。
「ふふっ……戦場に女連れとは。相も変わらず、仲の宜しいことで」
そして、そこに現れたダリウスとソフィアの姿を見て、心底馬鹿にしたかのようにお嬢様が笑みを浮かべております。
それから右手の人差し指を天高く掲げ、一気に振り下ろしました。
「薙ぎ払え!」
次の瞬間、お嬢様の背後に控えていた砲撃兵から一斉に、火の玉が放たれます。
お嬢様が手ずから鍛え上げた、魔法部隊ですね。
100人ほどの部隊ですが、こうやって同時に魔法を放つのを見ると圧巻の光景でした。
「被害は!」
「城壁の上の兵が数人負傷しました! あとは、外壁に罅が」
「くそっ! 次が来る前に矢を放て! どうせ、鎧も身に付けられないような、非力な魔法部隊だ! 物理に対する対策は甘いはずだ! 第二騎士団が門から出撃するまで、なるべく減らして道を作るのだ!」
城壁から一斉に矢が放たれますが……お嬢様が、その程度の攻撃でどうこうなるような柔な鍛え方をするはずないじゃないですか。
「ふんっ、教科書通りの対応だな。遠距離から魔導士を運用するのに、対策を用意してないわけないだろう」
お嬢様が、さもつまらなさそうに鼻で笑ったあとで顎をしゃくります。
それだけで、100人の魔法部隊はすぐに次の行動を取ります。
4人一組による、集合魔法。
【ハリケーン】ですね。
巨大な竜巻があちらこちに発生して、矢を巻き上げて中央に集めてしまいました。
地面に、多数の矢が散乱した状態です。
「せっかく大量の矢弾を提供して頂いたんだ。私が有効活用させていただこう!」
そして、お嬢様が得意の闇魔法でそれらの矢を浮かび上がらせると、一斉に城壁に向かって打ち返しました。
相手の放った矢を、そのまま再利用するなんて。
なんて、コスパのいい魔法の運用を思いつくのでしょうか。
流石、お嬢様。
英知が留まることをしりません。
「負傷者多数! 第二騎士団、突撃準備完了しております!」
「城門を……開けろ」
「殿下! このまま、出撃させても悪戯に被害が増えるばかりです! もう少し、相手を引き付けた方が」
ダリウスの言葉に、士官の男性が意見をしていました。
彼は苦虫を嚙み潰したような表情で、そのまま進撃を指示しましたわね。
とことん、悪手を選ぶと思いましたよ。
いや、お嬢様が先を読みすぎなだけかもしれません。
「チャールズ、頼む……死ぬなよ」
そして、友人を死地に送り出すこの非情さ。
あー……だめだ。
夢の中の殿下は、本当にだめだ。
受け付けない。
生理的に受け付けないというやつですね。
次から次へと放たれる魔法に、第二騎士団の騎士たちが次々と倒れていますが、それでも確実にレオハートの軍へと近づいて行ってます。
いや、別にレオハート軍が対応する必要もないのですが。
後ろに下がって、ニシェリア侯爵軍かレオブラッド辺境伯軍に任せても。
というか、兵力差がかなりえぐいのに。
この反撃は何のためなのでしょうか?
ダリウスが逃げる様子もありませんし。
王族が逃げる時間稼ぎではなければ、本気で勝てると思っての行動なのでしょうか?
どれだけ、お花畑なのでしょう。
頭の中が。
「わ! 私も、手伝います!」
そして、さっきまで空気だったソフィアが、杖を取り出して何やら祈りを込めてますね。
「ソフィア」
「広範囲に回復魔法を掛けます! なるべく、近くに集まるように伝えてください」
「分かった! 聖女ソフィアが癒しを行う! 負傷者を集めろ! 他の者も近くに寄れ」
うわぁ……
お嬢様の顔が引きからズームされるような映像になったかと思ったら、凄く悪い笑みを浮かべてます。
かなり……かなりお美しい。
氷の女神モードのお嬢様です。
「的が小さくなって、逆に楽になるなんて……まるで、あべこべね」
わぁわぁわぁ!
なんて、悪いことを。
一か所に集まってくれたから、一網打尽にするのも簡単でいいわぁって意味ですか?
悪い!
凄く悪い事を考えてます。
「とりあえず、素敵な景色を用意してあげますわね」
そしてお嬢様が左手を水平に身体の真横に持ってくると、ゆっくりと右に向かって薙ぎ払うような動作をします。
手からはキラキラと闇に星をちりばめたような魔力が漏れ出てて、本当に素敵です。
「【事象反転】」
あっ、酷い……
ソフィアの杖から降り注ぐ緑色のドーム状の光の下に、お嬢様の手の動きに合わせて半透明の黒い幕が張られました。
これはあれですね……魔法を防ぐ魔法でしょうか?
まさかの、回復を阻害……ああっ! いや! これは、もっと酷いです。
幕を通過した光は、かなり濁った緑色に変化していました。
もう、見るからにヤバイ色です!
毒薬みたいな色です!
「痛い! なんだこれは」
「うぎゃあああ、皮膚が! 皮膚がぁ!」
「き……傷が! 傷が膿んで」
「腕がぁっ! 俺の腕がっ」
そして、そのドームの下では阿鼻叫喚の地獄絵図が。
まっ……まさかの、反転魔法。
それをけが人に向けて放たれた、広範囲回復魔法に使うとか。
悪魔の所業です。
お嬢様の素敵が留まることを知りません。
「せ、聖女様」
「く……苦しい」
全員が、ソフィアに向かって苦悶の表情を……あっ、目が溶け落ちたりとか、傷口から出る血までどす黒く変色し始めてて……なんか、本当に酷い。
「ひっ! なっ、なんで、わ……私は、普通に回復を……どうして! もっと、もっと力を込めないと」
「ソフィア! 一度魔法を止めるんだ!」
パニックになって、さらに魔力を込めるとか。
どおりで、急激に状況が悪化していったわけですね。
この状況で、普通それやりますか?
察するでしょう……
やっぱり、聖女も愚かで悪魔だったみたいですね。
あー……もう、周囲は死に体状態というか、死にたい状態というか。
とにかく、生きてるのが辛いほどの重症の兵だらけ。
元気な兵まで一か所に集めてまとめて処分。
それも、自分の魔力は少ししか使わず、ほぼソフィアの魔力でそれを行うとか。
本当にお嬢様のやることは、コスパが良いですね。
いいぞ! もっと、やれ!
と、ついつい応援してしまいました。
そして、さらに悪い報告が。
「第二騎士団、接敵しました!」
いやいや、後方が壊滅状態なんだから、敵に突っ込んでる場合じゃないでしょう!
戻って、王子の周りを固めるとか……考えてないんでしょうね。
「よしっ! 魔法使いなら、近接は出来ないはずだ! しかし、騎士が迫っても下がらせないとは……何か、思惑があるのか?」
そして、ダリウスのこの発言……
なんだろう……この人、ここまで馬鹿でしたっけ?
いや、これだけボコボコにされてて、そもそも嫌な予感とかしないんですか?
直観が働かないんですか?
といっても罠でもなんでもないから、そういうこともあるかもしれませんが。
「第二騎士団、押されております」
ですよねぇ……
「はあっ?」
「全員が杖に、剣を仕込んでおりまして……」
ふふ……ふふふ、ふふふふふ! だからぁ、お嬢様が鍛えた兵がそんな柔なわけないじゃないですか。
「魔法使いは接近戦が苦手? 私が弱点をいつまでも放置しておくような、愚か者に見えましたか?」
「エルザ!」
そして、お嬢様自身は魔法で空を飛んで、ダリウスのすぐそばに降り立ちました。
すでに大勢は決しているわけですし、ギース公も兵を下がらせ始めてますね。
「当然、接近戦も鍛えているに決まってるでしょうに」
「いままで、どこに……それよりも、なんでこんなことを!」
愚門ですね。
貴方がエルザ様を捨てて、ソフィアに乗り換えたからですよ。
というか、そこまでなら良かったのですが。
そのまま修道院に飛ばすフリをして、途中で殺そうとしたからに決まってるでしょう。
「なんで? すぐ死ぬ人に、教える必要はないでしょう……何も知らずに殺される方が、貴方みたいな愚か者には相応しいですからね」
「貴様っ!」
残念ながら、すでにダリウスはお嬢様の魔法で、身体を拘束されてしまったみたいですね。
そして、お嬢様はソフィアに近づいて耳元で何やら囁いてました。
まあ、すでにソフィアは自分の魔法で兵たちを死においやったことで、かなり精神的にきてたみたいですし。
まあ、そこからはちょっと口にするのも憚られるような、本当の地獄絵図といいますか。
思い出しても、身震いするほど芸術的な光景でした。
お嬢様がそこにいるだけで、あの残酷な映像も神秘的な光景に代わるのですから、お嬢様は本当に女神様ですね。
「聖なる夜が聖女の命日なんて、素敵じゃない?」
それが、最後の言葉でしたね。
奇しくも、この日は創造神が世界に降り立った日といわれる日でしたから。
だから、国民全員の祝日だったわけですが……
この日を敢えて選んだのも、お嬢様でしたよね。
しかし……
「薙ぎ払え!」
凄く、かっこいい!
もう一回、見たい!
二度寝したら、見られるでしょうか?
寝れるかな?
凄く興奮してます。
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