公爵一族の御令嬢に転生? 努力が報われる異世界で、可愛いもののために本気出します

へたまろ

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1巻

1-1




 第一話 主人公エルザ


「本当に、エルザはすごいね」

 私――エルザ・フォン・レオハートの作り出した火球の魔法を見て、私の二番目の兄さま、クリス兄さまがめてくれます。
 上空を漂う火の玉は、周りの空気を陽炎かげろうのように揺らめかせながら回転してますわね。
 兄さまの言葉に天狗てんぐになった私は、ここからさらに魔力を込めて出力を上げていきます。
 どうせなら、いま出せるだけのありったけの魔力を込めてみましょう。

「いや、そろそろ」

 兄さまが私の作り出した火球を見て青いひとみを揺らしながら、十分であることを告げてきました。
 まだ、私の持つ魔力的には三分の一も込めていないのですが。
 やりすぎは、よくないということでしょう。
 いや、これ以上は魔力のむだ遣いということですね!
 分かりましたわ!

「なるほど! この魔法であればこのくらいの大きさで、十分という意味ですね」
「違う! そうじゃな……」

 兄さまの言葉を最後まで聞くことなく、大きな火球を思いっきり前に向かって放つと、十メートルくらい先の地面に着弾したそれは大きな音とともに大爆発……これ、まずいですわね。
 兄さまが、予想外の結果にフリーズしていた私の前に立って、咄嗟とっさに抱きしめてかばってくれました。

「大丈夫? 怪我はないかい?」
「はい! 兄さまがかばってくれましたので」

 兄さまも私も、おそろいの金色の髪が爆風でボサボサになってしまいました。
 髪の毛も大爆発ですわ。
 ちょっと、魔力を込めすぎたようです。
 兄さまも、もう少し早めに制止をかけてくださればよかったのに。
 いや、着弾地点が近すぎただけですわね。

「少しやりすぎだと思うよ。これなら、上に向けて放った方がよかったかもね。でも、すごいよ! さすが、私の妹だ」

 兄さまが頭をでてくれるので、思わずニンマリとしてしまいました。
 髪の毛を整えてもらいながら、笑顔で兄さまを見上げます。
 兄さまは、まだボンバーヘッドのままですわね。
 せっかくの美少年っぷりが台無しですわよ。

「私の髪も整えてくれるのかい? エルザは優しいね」

 私が一生懸命いっしょうけんめいに背伸びをして手を伸ばしていると、兄さまが髪の毛を整えられるようにしゃがみ込んで少し頭を前に出してくれました。

「ごめんなさい、次は爆風に指向性を持たせられるよう、さらに精進しょうじんいたしますわ」
「うん、言ってる意味が分からないね」

 ちょっと困ったような笑みが、相変わらずすてきですわね。
 整った顔立ちに、流れるような金髪……いまは実験に失敗した博士みたいになってますが。
 恵まれた体躯たいくで、同世代の子よりも背は高いと思います。
 あまり、兄さまと同世代の方が一緒にいるのを見かけることはありませんが。
 町で見かける子たちよりは、大人びて見えますわね。
 それによくきたえ込まれているからか、ウエストがキュッとしまった細身ながら、胸にはやや厚みがあります! その上、足もスラリと長く伸びてます。
 こんな外国人の少年モデルのようなすてきな兄が手に入るなんて。
 それに私にはもう一人、ギルバート兄さまという一番上の兄さまもいます。筋骨隆々きんこつりゅうりゅうで背も高く、瞳は私とお揃いの翠眼すいがん。王都の学園に通っているのでなかなか会えませんが。
 それにしても、今世の私は恵まれすぎてます。
 そう、何を隠そう……私はなんと! 前世の記憶を持って、いわゆる異世界転生を果たしたのです!
 二度目の人生は、まさにバラ色と言ってもいいものです。
 というのも、私が転生を果たしたレオハート家は、このステージア王国の公爵こうしゃくの一族。
 国王陛下の叔父おじだった私のおじいさまが、長く続くレオハート公爵家に婿むことして迎え入れられ、公爵となっています。
 つまり、私は王族の端くれということですね。
 なのに、第一王子の婚約者らしいです。
 はとこなので近親婚にはならないのでしょうが、少し抵抗はありますわね。これは前世の感覚のせいですね。
 話がれました。
 いまの私は六歳ですが、生まれたときから前世の記憶があったので、これは異世界転生だとはっきりと認識していました。
 しかし改めて考えてみると、本当に異世界転生なのでしょうか?
 というのも、前世の自我というものがあやふやで、記憶というより知識に近い感じがします。
 客観的に当時の自分が物事をどう捉えてどう考えていたかを理解はしているのですが、それが本当に自分の感情だったのか。記憶は鮮明ですが、実感がないんですよね。
 六年の月日が、記憶の中の自分が過ごした世界とこの世界の差違で、違和感を生んだせいかもしれませんね。
 そもそも、私は本来こんなお嬢様みたいな口調ではないはずですわ!
 ……生まれた時から翻訳ほんやくスキルを持っているのですが、それで勝手にこういう口調で思考するようになってしまっているのかもしれません。
 公爵一族の令嬢というビジュアル的には合っているのですが……
 ……時が来たら、馴染なじんでくるのでしょうか。
 そして、前世の記憶があるということで、人格がこの肉体に憑依ひょういしたのかも、とも考えたことがあるのですが、どちらでも変わらないという結論に達しました。
 生まれたときから記憶があったので、おぎゃーと生まれた瞬間に、どこここ? 状態でしたのよ……
 しかし、改めて考えてみても、貴族家の令嬢に異世界転生だなんて、ありふれた設定に思わず溜息ためいきいてしまいますね。
 ちなみに、それとなく家族に聞いてみたことがあるのですが、前世の他人の記憶を持っているなんて、稀有けうなことどころか、ありえない話のようです。
 本当でしょうか? というのも、前世で見知ったものが、この世界にチラホラとあったりするのです。
 偶然の一致とは思えない施設や商品とか……たまたまと言うには、ちょっと数が多いです。
 私の周りの方たちが、前世の記憶を持っている人を知らないだけで、案外とこの世界には他にも私のような方がいそうな気がしますわね。
 それに前世の世界でも、記憶を持った子どもの話というのは、いくつもあったみたいですし。

「そういえば、レベルはいくつになったんだい?」

 少しばかり身の上を振り返っていたら、兄さまが楽しそうに聞いてきました。

「はい! 百七十八になりました」


 私の言葉に、兄さまがほおをひくっと引きらせてしまいました。

「この間まで、二けたじゃなかったかな?」
「いい狩場に、おじいさまに連れていってもらえるようになりましたので」
「あの人は……」

 兄さまが困ったように苦笑いをしています。
 おじいさまは、私には甘々ですからね。
 多少の危険があっても、お願いすれば連れていってくれます。
 そうそう、この世界、レベルも魔法もある、とても素晴らしい世界なんです!
 しかも、レベルは天井知らず!
 魔物を倒すことで、経験値が手に入り、レベルが上がっていき、体力や膂力りょりょく敏捷びんしょうといった能力が上がっていきます。まるでゲームみたいですね。
 ちなみにこの王国で公式に記録されている歴史上、ひと種の最高レベルは六百十二と言われていました……しかしついこの間、おじいさまが記録を塗り替えました。いまは七百目前だと聞いています。
 ただ、おじいさまから聞いたのですが、やはり人類最高峰ではないそうです。
 非公式の情報ではありますが、四桁のレベルに到達した人もいるみたいです。
 うそか誠か……私も、四桁はとりあえず目指しましょう。
 ということで、私は日々、レベル上げにいそしんでいるのです。
 私が魔法を使えるようになり、魔物を狩り始めたのが二歳。
 いまは六歳なので、四年以上狩ってきました。
 雑魚ざこの代名詞のスライムですら、倒せば経験値が僅かながらにでももらえます。
 他のより強い魔物なら、もっと多くの経験値を得られるのです。
 仮にスライムの経験値を一とするなら、その辺にいるウサギの魔物なら十は経験値があるでしょう。他にも一匹で一万以上もらえる、おいしい魔物も! ……狩ったことはありませんが。
 狩りを毎日やってきたわけではありませんし、一日に十匹も倒さない日もあれば、百匹近く倒す日もありました。
 この世界の一年は三百日。一ヶ月が三十日で、それが十ヶ月です。
 例えば、経験値が十の魔物を一日で百匹倒していれば、この四年で百二十万もの経験値が溜まっていることになります。
 もっと強い魔物も倒していますし、もっと経験値を手に入れていることでしょう。
 なんて、ここまで言っててあれですが……次のレベルに必要な経験値も分からなければ、魔物一匹の経験値も、数値化なんてされていません。
 前世でのゲーム経験からの推測で、経験値なんてものを勝手に言っているだけで、この世界の他の人には言っても通じません。
 とはいえ、強い魔物を倒すほどレベルアップしていたので、きっとこの推測も間違ってはいないのでしょう。
 最近では効率的な狩りも覚えましたし、ぐんぐんレベルが上がっています。
 このレベルですが、教会やギルドなどの各公共機関に行くことで知ることができます。これらの場所では、鑑定の魔道具の用意があったり、鑑定士を雇用したりしているそうです。
 特に冒険者ギルドや商業ギルドなんかは、人のレベルを確認する以外にも、素材を調べるのにも鑑定スキルを使うので、スキル持ちの人は重宝されています。
 そういった場所に行かなくても、鑑定スキル持ちの人に個人的にお願いすることもあります。
 私の場合は、自前の鑑定スキルを使用していますけどね。
 この世界にはやはりゲームよろしく、ダンジョンと呼ばれるものがあります。洞窟どうくつなどの構造物や草原のような自然地形などで、魔物を大量に生成するエリアをそう呼んでいるのです。
 ダンジョンには核となるものがあり、ダンジョンコアと呼ばれております。
 これが魔物なのか、人工物なのか……はたまた、自然現象なのかは解明されておりません。
 そのダンジョンで魔物が集まっている部屋に、入り口から手だけを出して、火炎の魔法を放つ……というのが、最近やっている効率的な経験値稼ぎの方法です。
 だいたいは火で焼け殺せますし、炎に耐性があっても、一酸化炭素中毒で大概の魔物は死にます。アンデッドには一酸化炭素中毒はないみたいですが、その後に浄化魔法を放つので一緒に消えてしまいます。
 これのおかげで、百七十八までレベルが上がりました!
 この世界で英雄と呼ばれるような方々はレベル三百台が多いので、私が彼らに追いつくにはもう少し時間が掛かりそうですね。
 ただそれでも、レベル百七十八もあれば、私一人でダンジョンを探索できるくらいの実力にはなりますし、そこらの兵士よりもはるかに強いです。
 まあ、ダンジョンに行くときには、おじいさまや家の人がついてきますが。
 家の人と言っても、家族ではなく、使用人の方々です。
 少し、おかしな気もしますが、騎士ではなく、使用人の方々。
 というのも、一族を最も傍で守る存在として、おじいさまが手ずから鍛えた使用人なので、騎士顔負けの精鋭なんですよね。
 そもそも私が魔物を狩ることに興味を持ったとき、おじいさまの命令で、彼らが手伝ってくれることになりました。
 彼らは私のことをおじいさまに逐一ちくいち報告しており、その結果として、おじいさまも私に興味を持ったようです。
 それで、少し前から、おじいさまとも一緒に狩りに出るようになりました。
 私に付き合うようになったおじいさまは、いつも私より多くの魔物を倒しております。
 必然、おじいさまもレベルが上がっていくため、私はおじいさまの後塵こうじんを拝することになってしまったのです。
 同じように魔物を倒していては、追いつくどころか差は開く一方ですね。
 時には見守ることも必要だと思うのですが……孫の前でいいところを見せようと張り切る祖父を、こちらの方が黙って見守るのが正解でしょう。まあ、別にそれは構わないのですが。
 それにしても、人生バラ色とは言いましたが、貴族の娘というものは、色々としがらみも多いのです。
 もっと、自由な立場の子に生まれたかったですわ。
 どうせなら、冒険者とかもやってみたかったです。
 そう、この世界にも、魔物を狩ることや未開地の探索、護衛や輸送のような仕事を生業なりわいとしている、冒険者という職業があるのです。
 やはりファンタジーの王道ですし、私のいた日本では色々と心躍こころおどる物語が、読み物やゲームであふれかえっていましたし、あこがれの職業ですわよね。
 そんな私の希望をみ取ってくれて、つい先日、おじいさまが冒険者ギルドに話をつけてくださりました。
 そのおかげで冒険者登録はできたのですが……家族と使用人と一緒の、ごっこ遊びの延長線上のようなものでした。
 そう……最初から、保護者と一緒のパーティを決められて申請されてしまったという意味で。
 周りの子が友達同士でアトラクションを楽しむ中で、親に手を引かれて参加するようなガッカリ感がありますね。
 形だけではなく、冒険者としての人生を少し歩んでみたかったのですが……
 そうそう、翻訳スキルとかレベルについて考えていましたが、転生してきたときにお約束になりつつある鑑定スキルも手に入れています。
 この世界にも、レベルを確認するために鑑定のスキルが存在するのですが、私の鑑定スキルはちょっと違いました。
 いわゆるゲーム的なステータスを見ることができるのです。
 体力とか魔力とか、魔法攻撃とか魔法防御とかの数値が設定されてるみたいです。
 そういえば、翻訳スキルも怪しいところがあります。
 動物や虫たちの考えていることが、微妙に伝わってきているような気がすることが多々あったり……空耳だと思ってスルーしております。
 ちなみに、収納魔法や、インベントリなんてものはさすがにありませんでした。
 なので、父さまにおねだりして、庭に私専用の倉庫を作ってもらっています。私専用といっても、父さまや母さまも自由に出入りできますが。
 珍しい素材や、町で見かけて買った宝物は、そこにしまっています。
 いずれはどこか遠くに倉庫を作って、転移魔法を鍛えて物だけを送り込んだり取り出したりできるようになりたいですね。
 一応、いまも転移の魔法は使えるのですが、視界の範囲内に自分ごと転移するというものなので、理想の使い方とは異なります。
 ちなみに、見た目以上に荷物が入る魔法のかばん――マジックバッグはありました。かなりの高級品ですが。
 といっても、容量が無制限なわけではありませんし、中に入れた物の時間を止めるような効果もありません。
 私は時間を操る魔法――時空魔法を少しだけ使えるので、時間の経過を緩やかにする遅延魔法をかけてから、マジックバッグの中に物を入れています。そのうち、時間停止の魔法を使えるようになりたいですね。


「すごい音がしていましたが、大丈夫ですか?」

 レベル上げの経緯と密かな野望について思いをせていたら、涼やかでありながらも溌溂はつらつとした声が聞こえてきます。

「お母様!」

 リーナ・フォン・レオハート。
 私の母です。
 私や兄さまと一緒のブロンドヘアに、お人形さんのような大きな青い瞳がよく似合う別嬪べっぴんさん。
 顔立ちも私たちによく似ています。
 いや別に、母さまが別嬪さんで、その母さまに似ているからと、自分が可愛いとアピールしているわけではありませんよ?
 実際、鏡で見ていても、私は可愛いのです!
 やはり、顔立ちの整った外国人の子どもは天使のようですね。
 前世の私の幼少時代に比べても、身にまとう気品もビジュアルもレベルが違います。
 厳しい淑女教育も受けていますしね。
 もっとも、町にいる子どもや知り合いの子どもたちも、全部天使ちゃんに見えるのですけれどもね。
 美形な家族や可愛い子どもたちに囲まれて幸せです。
 まぁ、見た目は天使の私ですが、中身は残念極まりないとしか言いようがないですけれども……身内の前では、少々お転婆てんばが過ぎることもありますし。
 ちなみに父さまの名前は、ジェームス・フォン・レオハート。
 現在はレオハート伯爵はくしゃくです。
 おじいさまが持っているレオハート公爵の位は、将来的に父さまが継ぐことになります。
 というのも、公爵家、侯爵家、一部の伯爵家には、身内に与える用の爵位が用意されているのです。
 なぜならば貴族社会において、仮に高位貴族の家族でも、本人が爵位を持たなければ、爵位を持つ方が優先されることになります。
 極端な話、爵位を持たない公爵家の嫡男ちゃくなんより、子爵の方が社会的には偉かったりするのです。
 とはいえ、上位貴族の家族を侮るような馬鹿は、そうそう社交界にはいません。
 それでもやりにくさがあるため、そういった身内用の爵位が存在するのです。
 もちろん、形骸的けいがいてきなものではなりません。
 おじいさまは地方の男爵位や準男爵位を自分の子や孫に与えて、統治させております。
 それで父さまは伯爵の位を持っているわけですね。

「あらあら」

 母さまと父さまのことについて考えていたら、そんな母さまの声が聞こえました。
 そちらに顔を向けると、少し離れた場所で黒くなって煙を上げている庭の一部を見て、あごに手を当てて首をかしげていました。
 そして困った子を見るような視線を私に向けた後、まゆを寄せて兄さまを見ます。
 なんていうか……絵に描いたような、ほんわかいやし系ママです。

「庭を焦がしちゃったの? クリス……あなたもお兄ちゃんなんだから、ちゃんと見ててあげないと。二人とも、怪我はない?」

 母さまが心配そうにこちらをうかがってきたので、満面の笑みでうなずきます。
 兄さまのボンバーヘッドを見た母さまのあのお顔は、心配そうにしつつも笑いをこらえていますわね。

「レベルが上がって、魔法防御魔防も大きく伸びてます! あの程度の魔法では、火傷すら負わないですわ!」
「そうなのお? すごいわねえ……マボウって何かしら? クリス知ってる?」
「さあ?」

 兄さまも微妙な反応を返してましたが、母さまはすぐに話を切り替えました。

「さあさあ、お父様がお腹を空かせてますよ。早く、食堂に行きましょう! お父様が我慢できずに、二人の分を食べちゃう前にね」

 母さまがそう言って手をたたきます。
 もう、お食事の時間だったようです。
 空を見上げると、太陽がほぼ真上にいました。昼食時ですね。
 この世界では、お昼ごはんがメインの食事という扱いで、一番量が多いです。もちろん、朝食も夕食もとりますが。
 前世での感覚だと、夕飯がメインなんですけどね。
 ただ、庶民の方々は朝食を食べず、昼にしっかり食べるそうです。
 たしか元の世界の中世ヨーロッパでは、そんな感じの食事だったと聞いたことがあります。
 ちなみに昔の日本では昼を抜くことが多かったと聞いたことがありますが、それとはちょっと違うみたいです。
 ……このあたりのバランスは、なんとも言えないですね。個人的に、朝ごはんは大事だと思うんですけどね。
 昼にしっかり食べるぶん、夕飯は……時間は結構早いんですが、そこまでの量はありません。
 それでも、私たち貴族のような裕福な人々は、朝食もしっかりとることが多いです。
 なんというか、全体的に中世ヨーロッパっぽい世界なのですが、ところどころ、いい感じにバージョンアップされているのを感じます。
 ひと、これをご都合主義と呼ぶ!
 ビシッと正面に人差し指を突き付けて恰好かっこうをつけてみましたが、話が通じる人はこの世界にはいません。
 少し寂しいです。

「あらあら、よほどお腹が空いているのね……そんなに気合を入れて。それじゃあ、食堂まで急ぎましょうか。でも、庭はともかく廊下は走ってはいけませんよ」

 くしくも指さした方向が館の方だったので、母さまに勘違いされてしまいました。
 少しむなしいです。
 食堂に向かいがてら、この世界で知ったことをおさらいしてみます。
 こうして思い返してみても、この世界の文化は私にとってありがたいことばかりで、やっぱりご都合主義に思えます。
 中世ヨーロッパにないはずのものがあったり、中世の悪習がなかったり。
 魔女狩りもなければ、人々もちゃんと清潔せいけつにしています。
 悪臭を漂わせたり、またそれを香水でごまかしたりすることもなく、ノミやシラミ、その卵にまみれた人もいない。
 しかも、なんといってもお風呂ふろ文化があること。
 これが一番うれしかったです。
 元の世界では、古代ローマで流行はやったのに、中世にはなくなっていた公衆浴場などの文化。
 私たちが住む町にも、ちゃんと浴場があって、町は清潔に保たれているようです。
 さすがにスラム街や裏路地に入れば、窓から糞尿ふんにょうポイの現場を見ることになるかもしれませんが、現状ではそういった現場も見てません。道に遺体が放置されていることもないそうですし。
 なんてことを考えているうちに、食堂に着きました。
 せっかくの食事の時間なので汚いことを考えるのはやめて、テーブルにつきます。
 前世と大きく変わらずに過ごせることに対する感謝の祈りを、思わず神様にしてしまいました。

「そうねぇ、今日も変わらない一日が訪れて、こうやって家族でお食事ができることを神様に感謝しないとね。エルザは、本当に食べるのが好きなのね」

 母さま……違います。
 違いますが、説明すると色々とややこしいので笑顔で頷いておきました。
 やはり、少し寂しいです。

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