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第3章:ジュブナイルとチョコのダンジョン攻略
第3話:アンダーザマウンテン~ジュブナイルの悲劇の幕開け~
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「戻れたのか?」
マウントグランドの麓、アンダーザマウンテンの街の冒険者ギルドに戻るとチョコの仲間達がすでに戻っていたらしく声を掛けてくる。
「ええ、運良く転移の罠をもう一度踏んで入り口の近くに戻されたのよ」
「そ……そうか」
チョコの言葉に戦士の恰好をした男が答える。
20に差し掛かるくらいの、まだまだ若手だ。
レベルも11だったかな。
「ジュブナイルさんも無事だったんすね」
「はんっ、チョコが帰れたのに俺が無事じゃない訳がないだろう」
その横に居たレンジャーの男に声を掛けられて、なんでもない風を装って答える。
だが、心中は若干穏やかではない。
ギルド内の様子を見るに、こいつらはまだ俺達がダンジョン内で不明になった事を報告してないと見たからだ。
その証拠にこれでも結構顔が広いはずの俺に対して、こいつらのパーティ以外から声を掛けられることは無い。
こういっちゃなんだが、経験だけは長い俺はこのギルドでもそこそこの顔だと自負している。
俺が不明になったなら、ちょっと捜してみるかといった程度で探索ついでに来てくれる連中だっているはずだ。
「ははっ、それでそちらの子供は誰っすか?」
俺の不機嫌を悟ったのか、話題を変えるように俺の横に立つカナタに対しての質問に切り替える。
「ああ、こいつはカナタだ。ダンジョンで拾った」
「ちょっ、拾ったって酷いな。僕のお陰で戻って来られたのに」
俺の言葉にカナタが頬を膨らませているが、その心中はどうだろう。
どうも気にした様子が見受けられない。
こいつは本当に子供か?
「えっ? 君みたいな子供がダンジョンで?」
「ふふ、お兄さんも酷いね。これでも冒険者だよ?」
カナタの言葉にレンジャーの男が驚いた表情をしている。
「ああ、F級だったな。ステータスはともかくスキルに関してはお前以上にレンジャーだぞ?」
「まさか」
俺の言葉に対してレンジャーの男が冗談と思ったのか笑っている。
いやいや気配探知レベル255に、隠密レベル51とかどこの国の専属諜報員かって話だ。
いや国どころか魔王や神の使いといっても良いレベルだぞ。
他にもいろいろスキルがあるみたいだし。
「どうみても貴族のお坊ちゃんだし。というか、イースタン?」
「うん、そうだよ。あとF級っていうのは本当だしね」
嘘である。
現時点ではネクストフォレストで冒険者ギルドサブマスターのモッズの手配によりB級に昇格させられたいる。
これもカナタがフェイクカードを貰う際に、ある程度の自由が得られるという事でB級の昇格も受けたのだった。
「ん? いま何か理解できない言葉が流れ込んだ気が」
「あれっ? ジュブナイルさんもっすか? 自分もっすよ」
二人が顔を見合わせて首を傾げるが、脳みそが理解することを拒否していたため気のせいだという結論に辿り着いていた。
「取りあえず、これからカナタ坊っちゃんはどうするんだ?」
「うーん、特に目的も無く旅してたからね。まあ、最終目的地は東の大陸に渡る事だけど急ぐもんでも無いし」
「というと、故郷へ帰ろうと考えているのか?やめとけ、そう言って辿りついたもんはいないぞ?」
驚いた事に、こいつは誰も見た事の無い東の大陸を目指しているらしい。
いくらイースタンといえども、その大陸の場所を知っているものは居ない。
「うーん、まあ見つかればラッキーかなくらい。だから少しこの街でブラブラするよ。そうだ! あのダンジョンも楽しそうだったし一緒に踏破しない?」
「はあ?おまっ、E級の俺とF級のお前で踏破出来る訳無いだろう! 俺が4人居ても20階層に片道で行けるかどうか。まず戻って来られないレベルのダンジョンだぞ!」
カナタが観光気分でダンジョンを踏破するとか言い出したので、思わず呆れてしまった。
まあ、冒険者になったころはビルドのダンジョンを踏破してやると意気込んでいたが、いま思えば若かったな。
一応、3年前にB級冒険者の補助……荷物持ちで26階層まで行ったが盾を構えて亀になることしか出来なかったのは良い思い出だ。
「カナタ君はあのダンジョンの何階層に居たの?」
「ああ、13~15階層のどこかだと思うが」
「んん? ああ15階層だよ(本当は38階層だったけど……)」
カナタが補足するが、あそこは15階層だったのか。
なんか小声で聞き捨てならない事を呟いていた気がするが、気のせいだろう。
「えっ? 15階層?」
「ああ、それは間違いないと思うぞ。壁の色が赤かったからな」
「一人で?」
「おお、そういえばカナタは本当に一人であそこに居たのか?」
レンジャーの男に言われて、俺も思わず聞いてしまった。
なんとなく納得はしていたが、やっぱりよくよく考えると理解出来ない。
いや、あのスキルなら問題無いか。
というか、もしかしたらカナタ一人なら踏破は無理でも55階層まで戦闘せずに行ける気もするな。
ちなみにビルドのダンジョンの踏破者は6パーティ29人だ。
ソロでの踏破者はSランク冒険者のメランダという女性だったか?
「うん、なんとなく面白そうな洞窟があったから覗いてみただけだよ?」
「そ……そうか」
面白そうという理由で入るなんて、とんでもない子供……ああ、冒険者だった。
しかも12歳……子供か。
「一人で……面白そうだから15階層? イースタンってやっぱ化け物っすね」
「酷いなー。同じ人間でしょ?」
「最近では、イースタンに関してはそれすら怪しくなってきてるが」
イースタンの連中は大体が漏らさず冒険者なら3年でB級以上、商人ギルドなら大店を構えるレベルの行商人だ。
何故大店を構えるレベルの行商人なのかって?
大半のイースタンの承認がマジックバッグ片手に、とんでもない高性能、高品質の商品を売って歩いているからな。
冒険者商人含めて1カ所に留まる連中は半々ってところで、そうやって考えるとカナタがフラフラしているのも理解出来るってもんか。
「おい、マーチこっちに来い」
「あっ、リーダーが呼んでるっすから行ってくるっす」
その時向こうに居た戦士の男がレンジャーの男を呼びつける。
ニヘラとした表情を浮かべてこっちに手を振ってから離れていく。
軽い奴だ。
いつの間にか、先ほどまでギルドに報告してなかったことに対する怒りみたいなもんはどうでも良くなっていた。
「じゃあ、ちょっとこの辺りの事を聞きに受付に行ってくるね」
そして反対側ではカナタがそう言い残して、受付にスタスタと歩いていってしまう。
本当にイースタンってのは落ち着きが無いんだな。
「おいおい、こんなところに貴族の坊やが何の用だい?」
案の定途中で柄の悪い冒険者に揶揄われている。
おいおい、俺の連れだってのを見て無かったのか?
仕方なしに助け舟を出しに歩を進めようとしたが、すぐに立ち止まる。
「フフフ、お兄さん頭悪そうだね? 貴族の坊やがギルドに来るなんて依頼の申し込み以外何かある? しかも報酬弾みそうな恰好してないかな?」
そう言ってクルリとその場で1回転して、スッと片足を引いて片手を上から下に弧を描くように下げながら礼をする。
そんなカナタの行動に、絡んでいた男はハッとした表情を浮かべた後苦笑いする。
ジェフ、だからお前はいつまで経ってもF級なんだよ。
肝心なところで抜けてる上に、素行も悪いとあっちゃどうしようもねーだろ。
「はっ! そうか! そうだよな! それは申し訳ありませんでした。もしF級の自分でも出来るような依頼があればご贔屓に頼みますよ!」
「ええ?あんな分かりやすい絡み方しててなんで頼まれると思うかなー?でも嫌いじゃないから顔は覚えとくよ」
「ありがとうございます。ジェフって言うんで覚えててくださいよお坊ちゃん」
「うむ、良きにはからえ!」
カナタが大仰に頷いて、何事も無かったかのようにカウンターに向かって行く。
中々にやるようだ。
あとジェフ……残念だけどそいつは冒険者だぞ?
しかもお前と同格の。
「ジュブナイルさーん!」
カナタの背中を見送っているとチョコがこっちに半泣きで向かってくる。
なんだというんだ一体……予想は付くが。
「どうしたんだよ」
「うぇーん! 私パーティ首になっちゃいましたー」
「で?」
そりゃそうだろ!
確かに治療師は冒険者にとっちゃ喉から手が出る程欲しい存在だが、レベル2で初歩の回復しか使えないお荷物を育つまで連れまわすなんて初心者パーティには荷が重いからな。
今回の事で、あいつらも身に染みたのだろう。
大方巻き込まれたのが俺でホッとしたってとこだったんだろうな。
チラリとあいつらの方に目をやると、気まずそうに苦笑いして頭を掻いている。
まあ、人としてはあれだが判断としちゃ正解だ。
むしろ命がけの仕事だからこそ、あいつらのレベルじゃ満点だな。
折角パーティに加わってくれた治療師を手放すのは戸惑われるが、命と天秤にかけて命を取れるだけ見込みはある。
俺は嫌いだが。
「でってなんですか! 私またソロに戻っちゃったんですよ!」
「ふーん」
何が言いたいのか良く分からない。
「治療師なんだから、引く手数多だろう?」
「うー、でもみんなすぐにクビになっちゃうんです。私が回復魔法を覚えるまでに全滅するって言われて」
うん、分かりすぎる。
あんな単純な床系の罠を踏むような奴を連れ回すのは俺もごめんだ。
カナタのはまだ分かる。
赤い壁に囲まれて注意力が散漫になるのは、ある意味で仕方が無い。
ましてやF級だしな……いや、カナタのはなんか違う気がしなくは無いが、理解したら負けだ。
あいつはうっかり罠を踏んだんだ。
「はっ? 回復魔法使えないのか?」
「うう……体力微回復しか……」
チョコの答えを聞いて、背筋に冷たいものが流れる。
よく悪寒が走る日だ。
当たり前だ。
こいつの治療魔法を当てにして、肉を切らせて戦ったら確実にあの階層で死ねてたわ。
カナタ有難う……ん?カナタ?なんでギルマスと話してるの?
なんでギルマスがチラチラこっちを見てるんだい?
知り合いなのかい?
さっきまで受付嬢と話してたよね?
ちょっと、ギルマスの笑顔怖い。
「ジュブナイルさん聞いてますか?」
「ん? ああ、お前が役立たずどころか、本当にお荷物だってところまでは聞いたがちょっと待て。いま、俺はここから逃げ出さないといけない気がする!」
「ええ?ジュブナイルさんまで私から逃げるんですか?」
おい!
俺はお前とパーティを組んでないぞ!
お前の前のパーティの依頼で手伝っただけの先輩冒険者だ。
だから、俺の服から手を放せ。
ギルマスが良い笑顔をしながらこっちに近付いて来てるんだ。
俺の経験上これは、笑顔の度合いに比例して悪い事が起こるんだ。
あの笑顔は今まで見た中で最高の笑顔だ。
だからその手を放せ!
なんで、こういう時だけ前衛職顔負けの握力を見せるんだ。
そういうのはダンジョンで、ああ!ギルマスがギルマスが来てるから!来てるから!
「やあ、ジュブナイル!」
「あっ、えっとお久しぶりですねマスター。現場に顔を出すなんて珍しい」
「ふむ、ちょっと気になる冒険者が居てね」
ギルマスがそう言ってカナタの方をチラリと見る。
当の本人は笑顔でこっちに手を振っている。
おい!お前ギルマスとなんの話をしてた。
それと、チョコ!頼むから手を放してくれ。
「チョコ!」
「えっ? あれ? 誰このおじさん?」
頭痛が痛くなる。
「馬鹿! ここのギルドのマスターだ!」
「ふぇっ? マスターーーーー?」
声がデカい。
本当の意味で耳がキーンとなって頭が痛い。
「ああ、そこのチョコって嬢ちゃんにも関係ある話なのだが」
「うん、マスター! 俺は急いでいるんだ。あと、俺に話は無いので帰ってもよろしいでしょうか?」
「ふふふ、ダメに決まってるだろう」
ああ、終わった。
これ絶対に厄介事に巻き込まれる奴だ。
だってギルマスの目が笑って無いのに、顔がまるでワライダケ食ったみたいに歪んでいる。
たぶん、いや確実に最悪レベルの厄介事だな。
「あそこのカナタと組んで、3人でビルドのダンジョン制覇に挑むんだって?」
カナターーーーーーーーーー!
俺は心の中で先のチョコよりデカい声を張り上げた。
マウントグランドの麓、アンダーザマウンテンの街の冒険者ギルドに戻るとチョコの仲間達がすでに戻っていたらしく声を掛けてくる。
「ええ、運良く転移の罠をもう一度踏んで入り口の近くに戻されたのよ」
「そ……そうか」
チョコの言葉に戦士の恰好をした男が答える。
20に差し掛かるくらいの、まだまだ若手だ。
レベルも11だったかな。
「ジュブナイルさんも無事だったんすね」
「はんっ、チョコが帰れたのに俺が無事じゃない訳がないだろう」
その横に居たレンジャーの男に声を掛けられて、なんでもない風を装って答える。
だが、心中は若干穏やかではない。
ギルド内の様子を見るに、こいつらはまだ俺達がダンジョン内で不明になった事を報告してないと見たからだ。
その証拠にこれでも結構顔が広いはずの俺に対して、こいつらのパーティ以外から声を掛けられることは無い。
こういっちゃなんだが、経験だけは長い俺はこのギルドでもそこそこの顔だと自負している。
俺が不明になったなら、ちょっと捜してみるかといった程度で探索ついでに来てくれる連中だっているはずだ。
「ははっ、それでそちらの子供は誰っすか?」
俺の不機嫌を悟ったのか、話題を変えるように俺の横に立つカナタに対しての質問に切り替える。
「ああ、こいつはカナタだ。ダンジョンで拾った」
「ちょっ、拾ったって酷いな。僕のお陰で戻って来られたのに」
俺の言葉にカナタが頬を膨らませているが、その心中はどうだろう。
どうも気にした様子が見受けられない。
こいつは本当に子供か?
「えっ? 君みたいな子供がダンジョンで?」
「ふふ、お兄さんも酷いね。これでも冒険者だよ?」
カナタの言葉にレンジャーの男が驚いた表情をしている。
「ああ、F級だったな。ステータスはともかくスキルに関してはお前以上にレンジャーだぞ?」
「まさか」
俺の言葉に対してレンジャーの男が冗談と思ったのか笑っている。
いやいや気配探知レベル255に、隠密レベル51とかどこの国の専属諜報員かって話だ。
いや国どころか魔王や神の使いといっても良いレベルだぞ。
他にもいろいろスキルがあるみたいだし。
「どうみても貴族のお坊ちゃんだし。というか、イースタン?」
「うん、そうだよ。あとF級っていうのは本当だしね」
嘘である。
現時点ではネクストフォレストで冒険者ギルドサブマスターのモッズの手配によりB級に昇格させられたいる。
これもカナタがフェイクカードを貰う際に、ある程度の自由が得られるという事でB級の昇格も受けたのだった。
「ん? いま何か理解できない言葉が流れ込んだ気が」
「あれっ? ジュブナイルさんもっすか? 自分もっすよ」
二人が顔を見合わせて首を傾げるが、脳みそが理解することを拒否していたため気のせいだという結論に辿り着いていた。
「取りあえず、これからカナタ坊っちゃんはどうするんだ?」
「うーん、特に目的も無く旅してたからね。まあ、最終目的地は東の大陸に渡る事だけど急ぐもんでも無いし」
「というと、故郷へ帰ろうと考えているのか?やめとけ、そう言って辿りついたもんはいないぞ?」
驚いた事に、こいつは誰も見た事の無い東の大陸を目指しているらしい。
いくらイースタンといえども、その大陸の場所を知っているものは居ない。
「うーん、まあ見つかればラッキーかなくらい。だから少しこの街でブラブラするよ。そうだ! あのダンジョンも楽しそうだったし一緒に踏破しない?」
「はあ?おまっ、E級の俺とF級のお前で踏破出来る訳無いだろう! 俺が4人居ても20階層に片道で行けるかどうか。まず戻って来られないレベルのダンジョンだぞ!」
カナタが観光気分でダンジョンを踏破するとか言い出したので、思わず呆れてしまった。
まあ、冒険者になったころはビルドのダンジョンを踏破してやると意気込んでいたが、いま思えば若かったな。
一応、3年前にB級冒険者の補助……荷物持ちで26階層まで行ったが盾を構えて亀になることしか出来なかったのは良い思い出だ。
「カナタ君はあのダンジョンの何階層に居たの?」
「ああ、13~15階層のどこかだと思うが」
「んん? ああ15階層だよ(本当は38階層だったけど……)」
カナタが補足するが、あそこは15階層だったのか。
なんか小声で聞き捨てならない事を呟いていた気がするが、気のせいだろう。
「えっ? 15階層?」
「ああ、それは間違いないと思うぞ。壁の色が赤かったからな」
「一人で?」
「おお、そういえばカナタは本当に一人であそこに居たのか?」
レンジャーの男に言われて、俺も思わず聞いてしまった。
なんとなく納得はしていたが、やっぱりよくよく考えると理解出来ない。
いや、あのスキルなら問題無いか。
というか、もしかしたらカナタ一人なら踏破は無理でも55階層まで戦闘せずに行ける気もするな。
ちなみにビルドのダンジョンの踏破者は6パーティ29人だ。
ソロでの踏破者はSランク冒険者のメランダという女性だったか?
「うん、なんとなく面白そうな洞窟があったから覗いてみただけだよ?」
「そ……そうか」
面白そうという理由で入るなんて、とんでもない子供……ああ、冒険者だった。
しかも12歳……子供か。
「一人で……面白そうだから15階層? イースタンってやっぱ化け物っすね」
「酷いなー。同じ人間でしょ?」
「最近では、イースタンに関してはそれすら怪しくなってきてるが」
イースタンの連中は大体が漏らさず冒険者なら3年でB級以上、商人ギルドなら大店を構えるレベルの行商人だ。
何故大店を構えるレベルの行商人なのかって?
大半のイースタンの承認がマジックバッグ片手に、とんでもない高性能、高品質の商品を売って歩いているからな。
冒険者商人含めて1カ所に留まる連中は半々ってところで、そうやって考えるとカナタがフラフラしているのも理解出来るってもんか。
「おい、マーチこっちに来い」
「あっ、リーダーが呼んでるっすから行ってくるっす」
その時向こうに居た戦士の男がレンジャーの男を呼びつける。
ニヘラとした表情を浮かべてこっちに手を振ってから離れていく。
軽い奴だ。
いつの間にか、先ほどまでギルドに報告してなかったことに対する怒りみたいなもんはどうでも良くなっていた。
「じゃあ、ちょっとこの辺りの事を聞きに受付に行ってくるね」
そして反対側ではカナタがそう言い残して、受付にスタスタと歩いていってしまう。
本当にイースタンってのは落ち着きが無いんだな。
「おいおい、こんなところに貴族の坊やが何の用だい?」
案の定途中で柄の悪い冒険者に揶揄われている。
おいおい、俺の連れだってのを見て無かったのか?
仕方なしに助け舟を出しに歩を進めようとしたが、すぐに立ち止まる。
「フフフ、お兄さん頭悪そうだね? 貴族の坊やがギルドに来るなんて依頼の申し込み以外何かある? しかも報酬弾みそうな恰好してないかな?」
そう言ってクルリとその場で1回転して、スッと片足を引いて片手を上から下に弧を描くように下げながら礼をする。
そんなカナタの行動に、絡んでいた男はハッとした表情を浮かべた後苦笑いする。
ジェフ、だからお前はいつまで経ってもF級なんだよ。
肝心なところで抜けてる上に、素行も悪いとあっちゃどうしようもねーだろ。
「はっ! そうか! そうだよな! それは申し訳ありませんでした。もしF級の自分でも出来るような依頼があればご贔屓に頼みますよ!」
「ええ?あんな分かりやすい絡み方しててなんで頼まれると思うかなー?でも嫌いじゃないから顔は覚えとくよ」
「ありがとうございます。ジェフって言うんで覚えててくださいよお坊ちゃん」
「うむ、良きにはからえ!」
カナタが大仰に頷いて、何事も無かったかのようにカウンターに向かって行く。
中々にやるようだ。
あとジェフ……残念だけどそいつは冒険者だぞ?
しかもお前と同格の。
「ジュブナイルさーん!」
カナタの背中を見送っているとチョコがこっちに半泣きで向かってくる。
なんだというんだ一体……予想は付くが。
「どうしたんだよ」
「うぇーん! 私パーティ首になっちゃいましたー」
「で?」
そりゃそうだろ!
確かに治療師は冒険者にとっちゃ喉から手が出る程欲しい存在だが、レベル2で初歩の回復しか使えないお荷物を育つまで連れまわすなんて初心者パーティには荷が重いからな。
今回の事で、あいつらも身に染みたのだろう。
大方巻き込まれたのが俺でホッとしたってとこだったんだろうな。
チラリとあいつらの方に目をやると、気まずそうに苦笑いして頭を掻いている。
まあ、人としてはあれだが判断としちゃ正解だ。
むしろ命がけの仕事だからこそ、あいつらのレベルじゃ満点だな。
折角パーティに加わってくれた治療師を手放すのは戸惑われるが、命と天秤にかけて命を取れるだけ見込みはある。
俺は嫌いだが。
「でってなんですか! 私またソロに戻っちゃったんですよ!」
「ふーん」
何が言いたいのか良く分からない。
「治療師なんだから、引く手数多だろう?」
「うー、でもみんなすぐにクビになっちゃうんです。私が回復魔法を覚えるまでに全滅するって言われて」
うん、分かりすぎる。
あんな単純な床系の罠を踏むような奴を連れ回すのは俺もごめんだ。
カナタのはまだ分かる。
赤い壁に囲まれて注意力が散漫になるのは、ある意味で仕方が無い。
ましてやF級だしな……いや、カナタのはなんか違う気がしなくは無いが、理解したら負けだ。
あいつはうっかり罠を踏んだんだ。
「はっ? 回復魔法使えないのか?」
「うう……体力微回復しか……」
チョコの答えを聞いて、背筋に冷たいものが流れる。
よく悪寒が走る日だ。
当たり前だ。
こいつの治療魔法を当てにして、肉を切らせて戦ったら確実にあの階層で死ねてたわ。
カナタ有難う……ん?カナタ?なんでギルマスと話してるの?
なんでギルマスがチラチラこっちを見てるんだい?
知り合いなのかい?
さっきまで受付嬢と話してたよね?
ちょっと、ギルマスの笑顔怖い。
「ジュブナイルさん聞いてますか?」
「ん? ああ、お前が役立たずどころか、本当にお荷物だってところまでは聞いたがちょっと待て。いま、俺はここから逃げ出さないといけない気がする!」
「ええ?ジュブナイルさんまで私から逃げるんですか?」
おい!
俺はお前とパーティを組んでないぞ!
お前の前のパーティの依頼で手伝っただけの先輩冒険者だ。
だから、俺の服から手を放せ。
ギルマスが良い笑顔をしながらこっちに近付いて来てるんだ。
俺の経験上これは、笑顔の度合いに比例して悪い事が起こるんだ。
あの笑顔は今まで見た中で最高の笑顔だ。
だからその手を放せ!
なんで、こういう時だけ前衛職顔負けの握力を見せるんだ。
そういうのはダンジョンで、ああ!ギルマスがギルマスが来てるから!来てるから!
「やあ、ジュブナイル!」
「あっ、えっとお久しぶりですねマスター。現場に顔を出すなんて珍しい」
「ふむ、ちょっと気になる冒険者が居てね」
ギルマスがそう言ってカナタの方をチラリと見る。
当の本人は笑顔でこっちに手を振っている。
おい!お前ギルマスとなんの話をしてた。
それと、チョコ!頼むから手を放してくれ。
「チョコ!」
「えっ? あれ? 誰このおじさん?」
頭痛が痛くなる。
「馬鹿! ここのギルドのマスターだ!」
「ふぇっ? マスターーーーー?」
声がデカい。
本当の意味で耳がキーンとなって頭が痛い。
「ああ、そこのチョコって嬢ちゃんにも関係ある話なのだが」
「うん、マスター! 俺は急いでいるんだ。あと、俺に話は無いので帰ってもよろしいでしょうか?」
「ふふふ、ダメに決まってるだろう」
ああ、終わった。
これ絶対に厄介事に巻き込まれる奴だ。
だってギルマスの目が笑って無いのに、顔がまるでワライダケ食ったみたいに歪んでいる。
たぶん、いや確実に最悪レベルの厄介事だな。
「あそこのカナタと組んで、3人でビルドのダンジョン制覇に挑むんだって?」
カナターーーーーーーーーー!
俺は心の中で先のチョコよりデカい声を張り上げた。
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緋色優希
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勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
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