巡る旅の行き着く先は終焉と呼べるのか

ユミグ

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巡る旅の行き着く先は…

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コーヒーを出され、飲んでいると次々と部屋から出て行く護衛ら。
信用できる者だけを側に置いたんだろう。

「海上カフェ♪というふざけた国が出来たのは200日前の事だ」

本当にふざけてるな。
でも、悪ふざけなら私もそういった名前を付けるだろうよ。

「なにが目的か分からない。どれほどの人数がいるかも分からない。もやは国であって国でない、突如として出来た海上の城に近付く事も出来ない」

リクの仕業か。
無から有を感じ取れるかもしれないと思っているけれど、今のところは無理だ。

「方向は」
「あちらだ」

指差した方向を透視し、果てまで視えるようにすると、確かに海に浮かんだ城があった。
そこに居るのは………一人。
リクじゃない。ただの人間だ。
顔を拝もうと、その魂に注視してみると、

「くそったれが」

ネイサン・ミラ・ブルームフィールドが居た。
私を召喚した者。
最初の夫の一人。
いつだって私を召喚した罪に苛まれていた、可愛くも可哀想な男。

「獣王様という方の召喚方法は元から存在していたが、それを変え、勇者という存在を召喚する方法にした結果が今だ」

私の悪態には気にも止めず、話を進める男に有り難いと思う。

「なにをされているか分からない。だが、いつか世界を滅ぼしてしまうのではないかと危惧せざる終えない程に、暴れている。集落を壊し、人を殺め、土地を穢していくが……目的が分からず、接点も持てていない」
「収束させる」
「助かる」
「さっきの阿呆がしでかしている事よ」
「………敵うのか」
「当たり前でしょう?私をなんだと思っているの?」
「頼む」
「そっちも頼んだわよ?あの男はしつこそうなんだもの」
「困った弟だ」

強気な態度を取った私は、私を思い出した。
そうだよ、いつだって虚勢を張って前を向いていたじゃないか。
愛する者達が敵になったとしても、私は変わらない。
ちゃんと自分の足で立って、幸福の為に歩き出そうと心に決め、ネイサンの元へ転移した。

「せ、聖女様!?このような場所まで…どうなさったのですか?」
「お前は何故ここに居る」
「神様からの願いでここに」

神?………。ああ、リクはネイサンの前でキラキラーってしてたんだっけ?
信仰心の厚いネイサンなら疑わずに、与えられた職務を全うするか。

「もう終わり、帰りましょう」
「で、ですが、ここで生涯を終えよとの命を頂きま……聖女様も罰を?」

震える声で、そんな事を言うネイサンは相変わらずだ。
罪だの罰だの………まぁ、でも、今の私とはお似合いか。
私たちはいつだって罪深いね。

「ネイサンの罪は償えたと言っていたわ」
「そう…なのでしょうか…ここに居るだけでいいなどと…」

いやぁ…それはどうだろうか?
勇者サマーが召喚されちゃうような事態を引き起こしてる元凶だと言われてるよ?君。
罪を償うどころか、罪を増やしちゃってるよ。

「戻れる居場所はある?」
「ありません」
「どうして?」
「私の罪は神殿中に…」
「私を召喚した罪?」
「はい……もうし」
「私は召喚されて良かったよ」
「は………」

たくさん知ったから。
召喚されなければ、愛も、罪も、幸福も、孤独も、知らなかった。

「感謝してるのよ」
「っっ」

ネイサンの手を掴むのは久しぶりすぎて、初めての感覚に近い。

「本当に感謝しているの。少しだけだけれど、あなたにも出会えて良かった」
「せい、じょ、さま、」
「愛しているわ、ネイサン」

愛していたよ。

「ありがとう」
「は、い、」

ネイサンの罪はここで終わり。

でもねぇ?どうしようかなぁ…。
帰る場所はリクが失くしちゃったし?神サマーから断罪された人間が次期国王として、ブルームフィールド国に戻れる訳もないし?いっその事、新しい世界で暮らしちゃう?でもなぁ…ネイサンの女嫌いというか、あの国の常識を捨て去るのも一苦労か。

なにはともかく。

「っ………」

悪ふざけに見えるこの始末は一体何処へ向かうのだろうと思いながら、気絶させたネイサンを陛下の元へ連れて行った。
もちろん、「海上カフェ♪」なんてふざけた建物も消滅させ、世界中に枯れている場所があれば行き、土と草木を潤してから。

「大切なら牢にでも入れておきなさいよ」
「離れるなぞ許さんぞ!!!」

私はお前のなんなんだよ。なんて思いながら、城内で暴れでもしたんだろう痕跡がある室内には、なだめる陛下と運命が居た。
もう一度、追い出しておくかと、転移させてからネイサンをソファに放り投げた。

「その子も被害者、何も知らない純然な被害者よ。他世界から来たの。常識が分からないから教え」

ドガアアアアアアンッッッ!!!

本能が強い奴って大抵、馬鹿力だよなぁ…。

「どこにも行くな!」

そんな事より壊した壁をどうにかしたらいかがかな?運命君よ。

「ん……聖女様?」

起きちゃったよ。
壁を壊す音で起きちゃったよ。ややこしくなるよ。

「陛下、その子よろしく」
「あ、ああ、いや!待て!」
「なに」

陛下と話してる途中だというのに構わず私に、最大出力で魔力を放ってきた運命。
うん、一応、君の運命なんだけどな?攻撃するってどういう事かな?
返しておくね?君のだからね?

「ぐあああっっ!」

いや、だからどれほどの力で攻撃しようとしてたんだよ。

「で?」
「………うん、いや、うん、その、弟の側にいてあげてくれ」

結局、巻き込んでしまった。
“心砕く”というのはなにも、私側だけの話じゃない。
海のたちを巡りに付き合わせたと気付いた時、そう思ったんだ。
相手が心砕いてしまえば、私も向き合わなければならないと。
例えそれがリクに踊らされていようと。
私自身の心で決めるよ。

「治したわよ」
「行くな!!!」

元気だねぇ。

「説明する。ネイサンはやすみなさい」
「は、はい」
「陛下、小さな子どもだと思いなさい」
「ああ、すぐ手配しよう」
「終えれば説明するわ、あなたも巻き込まれた被害者になったのだから」
「…………分かった」

そんな事を言う私を抱き上げながら、ぎゅぅぎゅぅと……ぐる゙じぃ゙………。

「はな、けほっ、はなれない、から、ちから、よわ、めて、けほっ、ぐる゙じぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙っっっ!」

死ぬよ!

死ねないけど!
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