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巡る旅の行き着く先は…
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しおりを挟むあっという間の10万年だったし、恐ろしく長い10万年でもあった。
結局、弱虫なままの私は精霊たちの前に現れる事はなかった。でも、私がいなくても死にたいと思わないのか、生きてくれている今は間違いなく私にとっての幸せ。
大切な人間達と関わり、時に騙し、時に生まれない残酷さに心痛め、時に愛を伝えた。
そして、もう…愛を伝える人間もいなくなった。
これから先の未来は間違いなく“ハジメテ”で、未練…というのだろうか。未練などなく彼らと対面する。
アダムにもリクにも話しかけた。
何十万回と声をかけたと思う。
それでも声を返さなかったリクと、面倒臭そうに逃げるアダムを思い返すと、それほどまでに「正しさ」というのは絶対なのだと、そんな縛りの中、生きてしまっている今に少しでもなにかできないかと聞いてもみたし、提案もしてみたが、駄目だった。
結局、私はなにもできなかったんだよ。
力があっても、魔力があっても、記憶が戻っても、無力なのは変わらなかった。
同じ生まれの彼らを救う事は………
叶わなかった。
「ヒナ、お久しぶりです」
本当に、久しぶりだよ。
そんな声してたっけ?なんて思えるほどに、久しぶりだ。
「久しぶり、話を」
「時間がありません」
「時の管理者として?」
「ええ、これ以上時間をかけるとヒナは取り込んでくださらなくなる」
「嫌なの?」
「いいえ、それが正しいのですよ」
「愛してる?」
「とても…心から愛しております」
嘘だ。
なんて、咄嗟に思った。
だって嘘だよ。
愛してるなら触れ合いたいと思うでしょ?
愛してるなら一度くらい話を聞いてくれてもいいと思うのに。
愛してるならこんなに寂しい思いをしてる私を抱き締めてくれてもいいのに。
愛してるなら抱き締めようとした私を避けたりしない。
「今更か」
アダムが目の前に現れ、つまらなさそうにそんな事を言い放った言葉は私宛て。
「10万年かけて一体なにがしたかったんだ」という気持ちが含まれているんだろう。
その言葉を初めて聞いたのはリクを紹介した時だった。
『今更伴侶か』と言われた。
それは私に向けた言葉だと思ってた。あの時は。
でも違うんだよ。あれはリクに向けた言葉だった。
今更伴侶になって来たのかと。
今更イヴを目の前に寄越したのかと。
そういう意味だったんだ。
「話を」
「取り込め」「取り込んでください」
結局なにも変えられなかった。
愛する者たちを救えなかったんだよ。
ここまで頑張ってきたのにね。
一体なんの意味があったんだよって思っちゃうよね。
「愛してたよ」
「愛してる」「愛しております。どこまでも」
もういい。
もういいよ。
もう諦めた。
2人に手を伸ばして魂に触れる。
その瞬間、私は魂を取り込んだ時に起こる眩い光と音を演出した。
*********************************
【9万年前】
召喚の空間では外と中の時間が止まる。
私はそれを利用した。
召喚となった私だけが居ても止まらない。
だから客人を迎え入れる事にした。
「退屈ー」
「死にたいの?」
「やあだー」
悪魔様を呼んだ。
肉体を渡してから随分と楽しい日々を送っているんだって。
そんな楽しい日々もしばらくはお預け。
強制的に悪魔を眠らせた私は世界を創造する為に無から有の力を使った。
やり方は至極簡単だが、私には“本物”を創り出す事が出来ない。
子を授かれないように、新しい世界を生み出す事は不可能だ。
だから仮初めの、レプリカの世界を創り上げた。
私だけの世界を。
アダムの世界とは異なった場所に出来上がる私の世界はすぐに崩れると知っている。
だからまず、アダムの世界を騙すように、私の世界をアダムの世界に移動させた。それは愛する世界を移し替えたんだ。私の世界に。
どうなるかは召喚の空間を出た後にしか分からないが、上手くいった。
アダムが勘違いしてくれたんだよ。
己の世界だと勘違いした。
これで1つはクリア。
あとの1つは本物の世界を創り出す事。
その為には………
「ラムウ様、正しさについて伺いたいのです。私は堕ちて理解が出来なくなりました」
問いかけた。
初めてラムウ様に問いかけた。
「久しぶりだね、僕の愛し子」
「お久しぶりです。ラムウ様」
アダムが問いかけても出てこなかったラムウ様はあっさりと私の問いに応える為に出て来たのを見て確信した。
感情的な言葉や、ラムウ様が意味のない内容だと判断した場合以外ならこうして簡単に来てくれるのだと。
「正しさとはなんですか」
「イヴだけが堕ちた間違いを正す為の「正しさ」だよ」
「アダムと堕ちる予定だったという事ですか」
「そうだね。どうして果実と堕ちたの?」
やっぱり。
リクも堕ちたんだ。
私が果実を食べた時に。
そして何故か時の管理者として存在している。
「なぜ果実は時の管理者となったのですか」
「分からないよ。こんな正しくない世界を僕は知らない」
「アダムと果実をも取り込まないといけないと思い込んでいるのはどうしてですか」
「知らないよ。それも正しくない」
「伝えてもらえませんか?」
「どうして?」
「それが間違いだからです」
「………分からない、僕には分からない」
「…ラムウ様は眠っていたんですね?」
「そうだね、君たちを創った後、イヴに呼び出される前まで寝ていたよ」
赤子だ。
ラムウ様は赤子。
なにも知らず、ただそう在るべきだと教わったなにも知らず、知ろうともしない赤子。
「先代のラムウ様は?」
「消滅したよ」
「次代のラムウ様は」
「まだその時じゃない。イヴがイヴでなければ次代が決まらない」
「ラムウ様は私たちを創る事だけが使命なんですか」
「そうだよ」
「私が地球に何度も行ったのは何故ですか」
「魂を取り込む度に器が持たなかったから、イロスが行った意味は分からないよ」
「あそこはなんですか?」
「昔のアダムとイヴが眠った場所」
「楽園だったってこと?」
「そうだね」
私は魂が欠けている。
欠けているからこそなんでも取り込めると確信している。
「ぐあ゙!」
「私の復讐の為に死んでください」
ラムウ様にも魂があった。
それなら取り込めるはずだと、魂を掴んで……。
眠りについた。
「イヴー、イーヴー」
「……煩いわね」
「起きた?早く終わらせてよー、たいくつなんだってばー」
目の前に居たのは悪魔様。
そして私の中にはラムウ様の魂が新たに追加された。
成功したんだと理解したと同時に、なんでも生み出せる事にも気が付いた。
ラムウ様は私たちを生み出した。けれど、私はやっぱり中途半端なのか、アダムとリク、動物と、私…イヴを創り出す事は叶わなかった。でも、いいんだ。新しい世界が創れればそれで。
ラムウ様の魂を取り込んで気付いたけれど、あの2人が必死になって「正しさ」を貫こうとしている、その、埋め込まれた感情はアダムが世界に植え付けた正しさだった。
昔にイヴを探していたアダムは世界に願ったんだよ。
取り込まなきゃいけないって。
そうしたら会えるようになるって。
その願いが酷くごちゃついて今のアダムとリクに植え付けられてしまった。
それなら………
それなら世界が変われば植え付けられた「正しさ」は消えるはずだと思い、私の世界を創った。
今度は本物の世界を。
ラムウ様の力で。
あまりに力を吸い取られるから、召喚の空間で1万年程、眠っちゃってたけどね。
でも出来たんだよ。
神々が現れ、人間世界が出来、下位世界も…ううん、淫魔世界も、悪魔世界も出来た。
行くのは9万年後だけどね。
だって私の愛は私の世界にはないから。
こうして時の管理者も騙せた計画は遂行され、魂を掴むフリをして、2人を私の世界に引っ張った。
「「………え?」」
死んでいない事に疑問を浮かべている2人が居る場所は私の世界。
神々が住まう天界に居る。
「な、なぜ、し、死ぬはずでは……」
「………うわああああああああああん!!!」
未だ混乱し、理解していないリクと、世界から離された事で理解したアダムが目の前にいる。
「リク、ここは私の世界。正しさなんて必要ない世界なんだよ」
「そん、な…こと、が…」
「ね、愛してる?」
「あ、あい、して、」
リクの言葉は震えている。
「愛しております!心から!も、もうし、わけ、ございません!た、たすけて、くださって、あり、ありが、とう、ございますっ、ヒナっ!」
解放された心で愛を伝えている。
「あい、し………え?」
「私は愛してないよ」
ずっと考えてた。
この10万年以上の間、考えてたよ。
ずっと、ずっと、考えてたんだ。
一度でも私と話し合ってくれればいいのにって。話し合ってリクの気持ちを理解して、たくさんの事を許さないけど、それでも愛してるから傍にいて。って伝えたかった。
一度でも向き合ってくれたらこんな事、しないで済んだのにね。って思いながら、リクの魂を掴んだ。
「っっ、ヒナ!ヒナ!まだ一緒にいたいのです!やっと、やっと…!」
「分かるよ。だってデズモンド様が死んじゃった時、私もそう思ったから」
「っっ~~、ごめ、ごめんなさいっ、ヒナっ!」
「イヴ!やめろ!」
「ふふ、“やめろ!”だって。ずっと取り込めって言ってたのにね」
私が巡った事や、その中であったツライ事や、幸せな事、全部許せるんだ。
リクがやった事を私は許す。
でもね?
デズモンド様を殺した事だけは許せない。
「ヒナ!」「イヴ!」
許せないよ。
今だって本当なら傍に居てくれたはずなのに。
私だけでいいって言ってくれた人。
片時も離れず、私を愛してくれた人。
ただただ私の幸福を考えて動いてくれた人。
最期まで闘ってくれた。
無力な私を抱えながら、私に巻き込まれてしまった人。
今だって愛してる。
傍にいてくれたら…って、何度思ったか分からない。
腕を掴んだ相手を憎み、その気持ちがあったからこそ生きてこれた。
リクが伝えてくれた言葉で生きていけたのも本当だけど…あれは全てまやかしだ。
「許せない…デズモンド様を殺した事を許せるはずない!!!お前が殺したんだ!私の愛を!一生懸命守ってくれた人だったのに!私だけを見て、私だけでいいって言ってくれたのに!」
「っ、もうし…わけ、ございません………」
許さないよ。
許さない。
どうしたら許せるんだ。
これから先、例え私が独りになってしまうとしても、許せない。
「死ね」
死んじゃえ。
「イヴ!!!」
全ての憎悪をぶつけてリクの魂を取り込んだ。
「ん………」
「イヴ!お前なにしてんだ!」
泣いてる。
アダムがとっても悲しそうに泣いてる。
良かった。
リクも泣いてた。
取り込む事が間違いだってようやく気付けたんだね?
良かったぁ…
復讐は大成功だ。
「だいじょーぶ、だよー、こわくないよー」
「イヴ!イロスが!」
イロスはリクの名前。
時の管理者としての名前。
「アダム」
一瞬だけ意識を飛ばしてた私はアダムの腕の中だった。
そして魂を見ると、時の管理者としての魂はないけれど、リクの、果実の魂があった。
ある訳ないよね。だって新しい私の世界での器じゃないんだから弾いちゃう。
「戻ったら動物がいるよ」
「え?」
動物がどこに居るのかは、ラムウ様を取り込んで理解した。
リヴァイアサンという、本来はゼウスが無茶をした時に止める役割りを持つ存在。
ヘビ型のなにかだった。
そこの空間に動物は迷い込み、ずっと出れずに助けを求めていた。
見つけたのは9万年前だけど、天界に連れて来たのはさっき。
だって寂しいでしょう?これから1人だなんて。
「アダムの世界にいるよ」
「な、にが、」
「アダムはデズモンド様を殺してない。だから殺す理由もない。でもね?」
もう遅い。
もう諦めちゃったんだもん。
「もう愛してない」
「っっ」
「顔も見たくない、この世界に二度と入ってこないで」
「っ、イヴ!“話し合おう!”」
ほんと………馬鹿馬鹿しい。
「うん、話し合いたかった」
「イ、ヴ……」
「これあげる。一度だけ私を呼べる物」
「まって、く、れ、」
「死にたくなったら呼んで?取り込んであげる」
「まて、まってくれ!」
「取り込んだ後は寂しくなるからなにかが欲しいなぁ…」
いいのあるかな?
アダムの遺品。
「ふふっ、そうだ!ゼウスの名前を貰おう!」
「イヴ!」
「“バイバイ”」
こうしてアダムと動物を私の世界から弾き、元々移動させていた悪魔様の元へと向かった。
「泣いてるー♪」
「煩いわね」
「僕まだ死にたくなーい」
「そう」
「全然死にたくならないから確認しに来なくていいよー」
「そう」
「でも遊んでねー?一緒に遊ぼ♪」
「………いいわよ」
悪魔様を取り込まなくていいなら当分……ううん、なにもやる事がなくなった私が天界に戻ると全ての神々が揃っていた。
「「「「「「「「「「「「「「「世界様!」」」」」」」」」」」」」」」
どうやら私は世界様という名称が付いたらしい。
この世界での神々も宴会が好きらしく、その場に案内され、腰を下ろした。
風が頬に当たる不快感をなくした。
いつかの日に風を感じたいなんて馬鹿なことを思ったのだろう。風を感じる全てを遮断した。
わいわい、ガヤガヤと、神々が今日も宴会をしている。
「あ……お久しぶりです!世界様!起きられたのですね」
どうやら私は眠っていたらしい。
酒をあおるとつまみが目の前に置かれる。
ああ、退屈だ。
久しぶりに悪魔の元にでも行こうかな。
「あの…あの…」
私に話があるのか、たどたどしい口調で話しかけてきた神が鬱陶しいから悪魔世界にでも行こうか。
「お、お名前を、その…伺ってもよろしいでしょうか」
この間、誰かに伝えなかったっけ?なんて思いながら、久しぶりに口を開いた。
「ゼウス」
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