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召喚されたけど引きこもっててもいいですか?
5【ネイサン・ミラ・ブルームフィールド】
しおりを挟む「成功か!?」
ここ50年で急速に拡大するかのように世界が淀みによって浸食されていく、それを食い止めると言われている聖女様が現れる事もなく神は私達の世界を捨てたと言われていた。
この50年、偽聖女が現れては高位貴族に取り入る者も増えていき、その度に混乱を起こす。
その混乱は時に神殿内まで浸食する。
そんな世界と人間に疲弊した私は伝承に残されている聖女召喚の儀を行う事にした。
今までそんな事を言い出す人間が居なかったのは聖女召喚には莫大な魔力を使用するからだ、もちろん神殿だけで補う事も出来ず3国に助けを求めたが、どの国も拒絶したのだ我が身可愛さに…
侵略をされないよう内側から守りの結界を張り続けている3国の均衡は危うい。
だがそれも淀みが消えればそんな心配もないというのに………今だけしか見れない愚かな者達だ。
そしてそんな愚かな人間に手を貸してもらわなければならない神殿の弱さにも腹が立つ。
オルレインガル神殿はどの国にも属さず中立の立場に居る特殊な場所だと言われている。
けれど実態はそんな事もない、あちこちに散らばっている神殿は場所によっては貴族が支配しているところもあれば神殿に来れば傲慢な女との結婚から逃れられるという理由で入ってくる者も少なくない。
女性が少ないこの世界での女は重宝され厳重に隔離される、だがそれも仕方がない。出生率が少なく生まれても男が多いのだから。
と、話が逸れたな………つまり私は聖女召喚の為に神殿中から魔力をかき集めたけれど、限界があり召喚に必要な分が集まらなかった。
けれど私は強行した、これ以上淀みが広がれば人間は滅びるからだ。
神殿内の賛同は大方得られたが、守護神官のダグラスにはかなり止められた………けれど必要性を説けば彼も思うところがあるのか黙る。
決行の日、つまり今日各国から貴族がちらほらと現れた。
協力してくれるのかと思ったがただの野次馬だった、大方聖女様の容姿が気になったのだろう。
伝承によれば黒目黒髪の少女が召喚されるとされている。
黒は神の色とされ神聖視されている、だからか夫に選ばれる者達も黒に近い色の者が多い。
そんな貴族は無視し計画通り召喚の儀を始める。
大聖堂に大きく描かれた陣の上に集めた魔力を流し、その場に居る者達の魔力も流していく。
途中まで陣に沿って流れていた魔力もぴたっと止んでしまった…
やはり魔力が足らないのかしばらく止まったままだったが徐々に陣が光り出す、陣にうまく流れる事がなかった魔力がか細く流れていくのが見えほっとした瞬間、大きな光が大聖堂を包み込んだ。
眩い光に皆、目を閉じていたが魔法陣から放っていた光が消え目を開けると…
眠っている少女が居た。
細い四肢に白い肌、小さな彼女は腰までありそうなアッシュグレーの髪が効力を失った陣に広がっていた光景に召喚が成功した安堵よりも彼女に、小さな女の子に見惚れてしまった。
「なんだ、黒ではないではないか」
「はあーあ、つまんない」
見学に来た貴族が口々に言いながら大聖堂を出て行く中、聖女様の具合がどんどんと悪くなっていくのを見て取れる。
荒い息に痛みがありそうな表情にやっと体が動いた。
「聖女様を寝所へお運びする!様子がおかしい!」
寝所までお運びした聖女様は顔色が悪く、どんどんと熱を帯びて行く。
「何が原因だ………聖女様、お体を調べさせていただきます」
意識がない聖女様へ断りを入れ体を調べていく。
「………………………魔力がない?」
魔力がゼロなど聞いた事もない、やはり召喚の魔力が足らなかったせいか。
「………………………くそっ!」
私の魔力を分け与えようにも魔力が枯渇していて渡せない。
数日はこのままなのか………しかし、それではお体が間に合わないかもしれない。
かといって出来る事もなくただ苦しそうな聖女様を見守る事しか出来なかった…
5日間眠っている聖女様に魔力を分け与えようとしても何故か弾いてしまう為、看病しか出来る事がない。
そんな中目を覚まされた聖女様は最初混乱しておいでだったがその隙に魔力を与えると何故か弾かれる事なく吸収し体調が良くなった事で聖女様が大人しくなられた。
そして目を開けた聖女様は美しい黒の瞳をしていた。
キョトンとした顔は可愛らしく私が話をしても黙ったままだったが、やがてキョロキョロと周りを見渡す聖女様は愛らしい表情をしている。
その後なんともあっさりと聖女の任を受けて下さった彼女の名前はユイ様というらしい。
控えていた3人も寝所に入り込み挨拶をすると柔らかな態度で受け入れてくれた聖女様にみな内心驚いていた、懐が深いのか未だ状況を飲み込んでいないのか分からないが、気安く接する姿に困惑し…そしてお心を知りたいと思ってしまう。
一先ず紅茶を飲んでもらおうとカップを渡した後、意識が落ちるように倒れてしまわれた。
「な、なんで!?魔力は与えたんだよね!?」
「足らなかったのでしょうか」
「………魔力がゼロに見えるぞ」
そう言われ不躾ながらも体を調べると私が渡した魔力の残留すらもなく体内に魔力が留まっていない事が分かる。
聖女様に何が起こっているかを調べる為、図書室に行き魔力不足による影響について片っ端から探し体内もお調べしたところ1つの可能性が浮かび上がってきた。
確たる証明をするためもう1度聖女様のお体を調べた時に手が軽く触れてしまった瞬間、少しだけ苦しそうな息が和らいだ気がしたのを確かめる為に手を握ってみる。
「やはり………」
おそらく手を握るのも一時的の対処法に過ぎないだろう。
聖女様のお体は召喚される際流す魔力が足りず、その影響で他人から粘膜接触をしなければならない体になってしまったのだ。
そしてその方法が体液の摂取…
「私はなんて事を………」
調べた事実を最も信頼している3人に伝える為、聖女様の寝所に集め説明した。
他の場所では誰が聞いているか分からない為…
その時、目を覚ました聖女様は一番に私の名前を呼んで下さったのだ、元凶の私を………そしてあろう事か私達を夫にしたいとおっしゃってくれた聖女様は全てを受け入れたのだ。
状況を理解していない訳でもなく、悲観もせず…ここに居る意味も体もこの世界の常識も私の失態も全て………
本当だったら神官の座を辞して自害しようと思っていた私に手を伸ばし簡単に懐に入れてしまわれた私の聖女様を生きて私の全てを捧げお守りしようと誓う。
抱いている時も可愛らしく恥じらう姿に理性が飛びそうになるのを堪え…られていたかどうかは自信がない…
ただ吐精した時に私の体に変化が起きた。
魔力が増えたのだ…
魔力量は生まれながらに決まっている、稀に成長過程で増える者も居るが…その魔力量を増やしてしまわれたのだ。
この事実が広まれば瞳が黒だという事も既に危ういというのにこのままでは聖女様を巡って争いになる。
だから秘匿する事にした、我々4人の秘密とする事にした。
夫として選ばれた3人も既に私のように聖女様に骨抜きになっているようで、強固な守りを提案される。
抱かれ続けどんどんと体調が目に見えて良くなっていく聖女様が我々を夫として選んだのは既に周知の事実だ。
そして今日は神官達に披露目をする。
ユイは知らないが、もうここ一帯の淀みは消えているのだ。
日に日に淀みが薄くなり遂に消滅した時、疑心暗鬼だった者達も涙し聖女に感謝し崇め始めた、そして私たちを夫とした聖女に選ばれるように画策する者も現れ始めたのも当然の事だろうな。
そんな期待に溢れた大聖堂に聖女が現れた。
私たちが着ている神官服を模してはいるが、彼女の為だけに作られた服は華奢なユイに似合うよう首を見せるように調整し、重なる襟元はすっきりと見せ、だぼっとした印象のある我々の服よりはすっきりと見せるよう絞ってあるが、それでも体の線は見えないようにしている。
キュロットタイプになっている足元も歩く歩幅が小さいのでスカートにしか見えない。
そして瞳はどんな鉱石や闇夜にも敵わない漆黒。
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「此度召喚され我らをお救い下さる聖女様に淀みを浄化する事実をみな体感した事であろう、別の世界から我らの都合で召喚されたのにも関わらず我らの住まう世界を浄化し過酷であろう先の旅にも了承なされた。そんな我らに出来るのは全てから聖女様をお守りし、心身共に安らかにして差し上げる事だ。これから煩くなるだろう時に内輪揉めなど決して許さぬ!これから先、我らが先導し世界を導く聖女様に仕え続ける事を神の居るこの場で宣言せよ!」
みなの宣言で大聖堂の空気が震える中ユイは気恥ずかしそうに佇んでいる、その姿もまたみなを魅了するのだと理解してくれるのは難しそうだ。
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