巡る旅の行き着く先は終焉と呼べるのか

ユミグ

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大精霊様はツンデレでした

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「とても綺麗だ!よく似合っている!うむ、愛いな!」
「はひ…」

神殿の入り口で待っていた国王はそれはそれはもう快活な大きな声で、とっても存在感があってどうしてこうなったのか分からないけど…

「今日はよろしくお願いします」
「うむ!」

差し出された手にネイサンが鋭い目を送るけど、見て見ぬフリをして国王に手を重ねる。
大きくて剣ダコがある国王の手は火傷しそうな程の熱を持っていた。

「聖女様お気をつけて」
「にゃんっ!?」

おでこにキスをするネイサンにびっくりした…

何故ここで……

「聖女様をよろしくお願い致します…不躾にお体を触らぬよう」
「い、いってくるね?ちゃんと帰ってくるから!ね!」
「……何かされたら大きな声を上げるのですよ」
「何かってなんだろう!?そ、そんな事起こり得ないから大丈夫!ね?」
「…わか」
「む、それでは口説き方を変えるか!」
「はえっ!?」
「なっ!?」
「時間がない!行くぞ聖女」
「は、はい」

多分きっと愉快犯だ…
ネイサンをからかってるに違いない…





馬車の前にはアルナブが立っていた。

「私は我が王の右腕としてお側におりますアルナブ・カスケンと申します、本日は私も同行させて頂きますがよろしいでしょうか」
「はいアルナブも今日はよろしくお願いします、“3人”で市場楽しみです!」

頭を下げて3人という事を大きな声で言えばきっとダグラスには届いてるだろう。

そんなに私がモテるみたいに排除しようとしないで大丈夫なんだけど!
異世界マジックにも限度っていうものがあるから!

「うむ!面白いな!」
「へ?ぎゃっ!」

抱き上げられて馬車の中に座らされる。

私はそんなに軽くないし、人形でもないんだが…

「手に持っている物はなんだ!余への土産か!?」

3人で馬車に乗り込み出発したところで国王が話しかけてきた。

「あ、はい。あ、えっと1つはお返しする物なんですけど」
「ピアスか、気に入らなかったか?」
「い、いえ…あ、ドレスもとても綺麗で可愛いです。ありがとうございます」
「うむ!よく似合っている!」
「は、はい…ピアスはお返しします」
「何故だ?」
「私には、その、過ぎた物ですので…」
「聖女に過ぎた物などないだろう!」
「そ、それでも、これは…受け取れません…」
「ふむ……あい、分かった」

助かった……
聖女だから一番の物を贈りたかったんだろうけど、やめて欲しい……

「ピアスは嫌いか?」
「いえ、そんな事はありません」
「ふむ……」
「そ、それと、これを!私の旦那様が作ってくれたんですけど、すっごくいい出来で!可愛く出来すぎたから国王には似合わないかもしれない…けど、外観は好きにイジってくれれば…え、と、ど、どうぞ」
「うむ!……ん?なんだこれは」
「船…という物です」
「フネ?」

前回私は会話の中でこの世界にはない船の形状やどういう物なのか説明した。
拙い私の話だけで作り上げてしまったフネはウェイヤグルン国にとってのちに欠かせない乗り物となった。
加護のある海に物を置くなんて到底出来ないので、フネを少し浮かせた形になったらしいけど、奥の方まで探索出来るようになり、そこに生息してる魚がアーヴァの好物となり感謝の手紙を送ってきた事で仲良くなったのだ。

「私の世界にある乗り物です、それは小さな模型ですけどこの国に船がないと聞いたので、こういう乗り物があればもう少し海の向こう側に行けるんじゃないかなぁって…あの、思っただけでどうするかは国王次第ですが、その、あの、見た事ない魚を見たいかなって、あの、え、と…すみません」

驚きながら話を聞いている国王とアルナブに見られながらだとどんどん萎縮してきちゃって言おうと思ってた事が飛んで訳分かんなくなってきちゃった…

「フネ…ふむ、そうか、ありがたい!とても素晴らしい贈り物だな!」
「あ、な、なら良かった、です」
「うむ!」
「対価には何を望みますか?」

アルナブが真剣な顔で私に問いかける。

「あえ?た、対価?え……」

考えてなかった…アーヴァが喜ぶかなって…ど、どうしよう…

「あ、じゃ、じゃぁ未知な魚が居たら是非妻に食べさせてあげて下さい」
「…余の妻か?」
「は、はい、喜んでくれたらいいんですけど…」
「対価に願う事ですよ?」
「は、はい!お願いします!あ、で、でも、作るか作らないかは私が決める事じゃないから、その、もし作ったらで…」
「ははっ!聖女は面白いな!異なる世界から来ただけある」
「そ、そうですか…」

珍獣扱いかよ。

「何故そんな」
「構えよ」
「え?」

国王が訳の分からない事を言い出す。

アルナブには伝わったみたいで魔法で馬車の扉を固める。

氷の属性を持っているみたいで扉が凍っている…
馬車のカーテンを開けて外を見るアルナブと国王を見て訳が分からなくなる。

敵襲?なんで?そんな事前回は起こらなかった…

少しずつ変わっているけど襲撃が起こるくらい変わるなんて思ってもいなかった……これは、私のせいなの?私が違う動きをしたからこんな事に……

「っ!ダグラス!」

もし敵襲ならダグラスがっ!

駄目。

私が行ったらダグラスの邪魔になる。

前回はそれでダグラスに怪我を…………

どうする事も出来ない。

私は守られて閉じ込められていた方が一番ダグラスにとって力が出せる。

分かってるのに焦れた体は動きだそうとしてしまう。

駄目だよ。

落ち着け、落ち着け、大丈夫。

ダグラスなら大丈夫。

ゆっくり深呼吸して心を、動き出そうとする体を落ち着かせる。

「大丈夫、大丈夫、ダグラスなら大丈夫、大丈夫だから信じる…」

声に出して自分に勇気を送る。

何が起こってるのかも、もしかしたら敵襲ですらないかもしれない。
それでもダグラスになんの怪我もないように祈る


ダグラスの強さに祈る。

「何故心配する」
「…………は?」

見上げた先は見た事のない表情をした国王は、覇気が存在するならきっとその覇気で私は息が出来ないくらいの圧を・恐怖を・逃げ出したくなるような気持ちにさせられる。

「夫の1人だろうが、何故先に己の心配をしない」
「………は?」
「恐怖で分からなくなっているか?己の身の方が大事であろう」

言われてる言葉はまるでダグラスを捨て駒のように扱えと言われているようだった。

「何を言ってるのか分かりません、私にとって…私より大切な旦那様達を誰1人欠ける事なく旅を終えて、幸せだったなって思えるような…そんな最期を絶対に送るんだ…だから誰も傷ついて欲しくない、ただ笑っていて欲しい…だからダグラスを…旦那様達を傷つけるような事などあってたまるか!!!」

思わず感情的になった言葉を国王に向けて、自分自身に向けて放つ。

「己より夫が大事か」

「違う、違います…私だって大事です、だって私が死んだら悲しむから…私が居ないと駄目なんだって言ってくれる人達だから、私だって大事、大事にしなきゃいけない」
「ふむ…そうか、なら余も手伝おう」
「え?」
「あんた何する気だ!おい!」
「恋した女の願いは聞きたくなるものだろう!」
「馬鹿!おい!燃やすな!」

アルナブが閉じた扉を国王が出す炎で溶かされていく。

バキバキ音がなる扉は炎に包まれて炭になる、炭になった時か、まだ炎が扉を燃やしている時か分からないけど国王がそこから飛び出る。

「くそっ!あの馬鹿!」

飛び出た国王を追いかけるアルナブはあっという間に馬車から居なくなり私は1人になった。
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