巡る旅の行き着く先は終焉と呼べるのか

ユミグ

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大精霊様はツンデレでした

2-22【アディティ・ウェイヤグルン】

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妃と聞いて皆が思い浮かべるのは傀儡。
だがそれは余の考えとは異なる。

妃は己で動き考え実行出来うる者だ。
傀儡など置いた所で何にもならぬ。
余は幼き頃から妃を、己が考えうる妃を作ろうと実行したが中々に困難であった。
囲い囲われるだけを良しとする女も、付随する男も使えぬ。

周りからは意味をなさぬと言われ、女からはおかしな目で見られ上手く成せぬ事に怒りが募る。

あの頃は毎日焦りと怒りを露わにしたものだ。

何故この世は傀儡で溢れているのかと。

『あんたに着いて行ける人間なんて居ないんだから上手く使える者だけを選べよ』

幼き頃から側に仕えているアルナブに諭されやっと諦めがついた。
そして余の隣には誰も居ないと言われたようでもあった。

意識を変え寛容な心で女を見て選んだ。
無論、美しく自己を持っている妻達を愛している。
妻達も余を愛してくれているのは肌を通じて分かる事だ。



だが、それでは足りぬ。

捨てた意識は何処か、心の奥底にまだ潜んでいた。

アーヴァは余の思う妃に近いようでいて、遠い。
女で商いを成功させようとしている麗しい平民の女であるアーヴァの噂は聞いていた。

会ってみれば野心があり、己の足で立っているように見せるのが上手く、魅了される人柄でもあった。
 
口説き落とし余の妻となり近しい存在となった。

だが、隣には座っていない。

燻る思いを胸に閉まっていた頃に聖女と出会った。

押しかけたのだが…

あれはいい。
あれは使える。

妃としての教養も余へ非を言える姿勢も気に入った。
あれが欲しい、あれは余の思う妃に最も近い。
もしかしたら横に座り同じ景色を見れるかもしれぬ。

周りの反対を押し切って余の色で作られたドレスとピアスを贈った。
ピアスは妻と揃いの物しか着けぬ、そして贈る事もまたしない余の思惑にアルナブは気付いたが、煩く言うだけで止めようとはせぬ。

市場の案内にアルナブが出迎えると言うのでそれを断り余が参った。
大精霊様を信仰する国と神様を信仰する神殿との仲は悪く、余が近寄る事も褒められた事ではない。

だが、余にとって重要な事柄になり得る事態を誰かに譲る事など出来ぬ。

馬車に乗り込んだ聖女がピアスを返して来たのには驚きと警戒が心に響く。
ピアスの事を知っている者は極僅か 。
それなのに聖女は余がピアスを贈る意味を知っているように見える。

間者か。

疑わしい聖女はフネを出し余に贈り物をした。
対価を持たず。

好奇と落胆を心に落とした。

このように対価を考えず知識を与える人間は余の考える妃像と異なる。
無駄かも知れぬと思うたところで敵襲だ。
外の気配に問題はなさそうだが、聖女には分からぬらしい顔色の悪さ。
そして夫への信頼と大切にされていると言い放つ聖女はやはり馬鹿ではなさそうだ。

ピアスを返され名を呼ぶ事を否定した聖女には恩を売ろうと、問題のない喧嘩にもならぬおままごとに手を貸した。

弱いそれ等はすぐに鎮圧した、余が出て行かなくとも容易かっただろう。

「おい!あんた何飛び出てんだ!」
「体が鈍っているかどうか確かめてみた!」
「やめろ馬鹿!」

問題がないと1番強そうな男が伝えてくるので戻ろうとしたが、か細い柔らかな声音に視線をやると聖女が馬車から覗いていた。

可愛らしい姿だが出てくる必要はないと指示を出すと戻ろうと体を動かした聖女は止まった。

驚愕。という表情が正しいだろう。

その視線の先には倒れている男に向けて。

知り合いか?夫の1人か、過去に相手をした人間なのかは分からぬが、これが聖女の好みなのかと、一瞬思考の渦に意識を置いてしまったのが良くなかった。

あれは余のミスだ。

拘束を解いた男は聖女に向かって研いだ刃を向ける。
すぐに動いた力ある男が動きを止めるだろうと眺めていたが…

「っっ駄目!ダグラス!この人は殺さないで!」

聖女の言葉に動きが止まった力ある男に呆れ、アルナブに指示を出す。

「やれ」
「はっ」

アルナブの氷が男の首を突き刺した所を女が見るべきではないと動こうとしたが、それより先に力ある男が動いた。

ふむ、これも夫だったか。

錯乱して混乱している姿は死人を見なれぬ者がする態度だと思ったが違った。

聖女は乞いた。

“助けて欲しいと。”

死人を助ける事など出来ぬ。
だが、助けを求める姿は、己が汚れるなど些末だと訴えかけているように全てが血に濡れている。

その姿はあまりにも聖女であった。

話を、独り言を聞いてみれば知らぬ男のようだった。

だが、何かを誤ったのだろう事は分かる。

全ての罪を被るなどと言う姿は聖女であった。

だからこそ彼女が聖女で居られる姿がそこにあった。



使えるか分からなくなる。
一人一人に心を割く事は妃にとって必要な事か…






「どうしたい」

聖女と別れ、壊れた馬車で帰る道中アルナブに問われた。

「聖女のお陰で使える者が手に入ったな」
「……そうかよ」

大袈裟に神殿へと伝えてみるが全て承諾された。
アルナブが手を下した事で攻め入る隙を与えてしまったかと思ったが、そうでもない。
聖女が起きればまた違う結末になるかもしれぬが、どう動くのか楽しみでもある。







「おい、起きろ」
「なんだ」
「聖女が動いた」
「……ん」

アーヴァの寝所まで入ってきたアルナブの報告に聖女の意図が分からなくなる。

市場の偵察だと?

今日まで嘆き悲しんでいたとの報告が入っていたが…

夫が何かしたか。

「向かう」
「ああ」

馬に乗り市場へと走らせる。
確かに神官共があちらこちらに散らばっているが…

「海か」

敢えて避けるような陣形は海に目が向かないように工夫されている。
そのまま海に馬を走らせると数名の神官が子供を守るように囲っている姿が見えた。

いや、背格好はまるで…

「そこに居るのは聖女か?」
「げっ!」

いたずらがバレた子供のような表情をした聖女に何故か目が惹かれる。

「なにをして」
「リク!」
「行きますよ!」
「うん!ダグラス!」
「ああ!任せろ!」
「国王もアルナブも旦那様を殺しちゃ駄目だからね!仲良くお茶でもして待ってて!」
「待て!」
「行ってきます!」

「「「「待っている!」」」」

海に潜り消えた聖女は余から見たら罪人だ。
聖女であっても許し難い。

「何をするつもりだ?」
「少し探し物をしているだけですよ」

きっとこの4人は聖女の夫なのだろう。
5人と聞いていたから一緒に海へと消えてった男で数と色味は合う。

「余の国で海に入るなど…禁忌に触れたな」

怒ってみせるが、どうも聖女の笑みが頭にこびりついたように離れぬ。
聖女が何をしようとしているのかが気になって心が躍ってしまう。

「ふむ…4人か、容易いな」
「失礼する」

剣を抜くのはあの時の男。

聖女は、なんといったか…

「殺さず仲良くだったな、ははっ!面白い!」

剣を抜き手合わせといこう!

「ちょっ!そっちの人!僕達もう魔力が空っぽだからせめて体で動いてよ!」

女でも通用する容姿を持った男がアルナブに苦言を吐く。

「だそうだ!加減してやれ」
「あんたはどうしてそう無茶苦茶なんだ!」

アルナブはまた口煩く喚くが、短剣を持ち肉弾戦に変える。
魔力がないのは本当のようだ。
隙を見せても飛んでくるのは刃だけ。

加減がない戦いをされるのは久々で実に愉快な時だった。

「ここまでだ、人が出て来た」

民らの気配がして剣を仕舞う。
神官と剣を交じり合っている様を見せるのは得策ではない。

「楽しいな!ところで目的を聞いても良いか!」
「はぁっはぁっ…くそっ!」

もて遊ぶように交えてやった剣に苛立ちを覚えてるらしい男は、それ以上口に出さぬ姿に参る。

「うむ…降参だ!待つとしよう」
「…ラスボスってこういう事言うんだぁー」
「うん?なんだ?」
「敵わないと思ったんですよ」

ピンクと紫の瞳らが言う言葉に理解は出来ぬが雰囲気は伝わった。

「まだまだやれるが残念だ!」
「はぁ…逃げるのはダグラスの胸の中でしたっけ?」
「笑えないぞ」

緑と赤の瞳が楽しげに話す。
これ等も欲しくなるな。
惜しい。

「あー、疲れたぁ!」
「フィフィアンみっともないですよ」
「僕もうヘトヘト」
「俺も…はぁ、ユイと一緒に寝たい」
「僕だってそうだよ!」
「バレてるとはいえ、名をそうも簡単に外で言うものではないでしょう」
「ネイサンは頭がかたーい!」
「俺もそう思うー」
「なっ!」
「もう少し簡単に物事考えないと潰れちゃうよ?」
「………」
「楽天的になれ」
「………」
「楽しそうだな!余も混ぜてくれ!」
「他に聞く事があるだろう!馬鹿か!」

聖女を心配しているだろう姿を隠す態度も好ましい。

「うむ!余の物になれ!」
「あーあ、それがユイの言葉なら嬉しいのにぃ」
「ほんと」
「……いいな」
「せめて水でも用意しておきましょう」
「つれないな!」

我々の姿に民が集まって来ている。
退ける事が正しいと分かってはいるが、予期していたであろう慌てぬ夫達の姿にやはり心が躍る。

聖女の考えが知りたい。





思案しつつも会話を繋げているとピンクが喋る。

「え……ユイが見えてるん、だけど」
「っ」
「ちょ、ダグラス!」

聖女が遠い場所で男を引っ張りながらこちらに向かう姿が見えたと同時にダグラスという男が躊躇せず海に入り助けに行く。

見えてるという事は何か施したが失敗しているのか。

聖女の元に辿り着いた男は聖女と話しているように見える。
すぐに男が男を抱え海に消える前には被っていた帽子が消え聖女の顔が分かる。

器用に海を泳いでる姿はとても美しく見惚れるには充分だった。

「ぷはっ!」

海から上がった聖女はずぶ濡れで短い髪は少年のような佇まいだがどこか色気を感じる。

「「「ユイ!」」」
「ダグラスほんとに大丈夫、けほ、大丈夫なの?」
「ああ、魔力切れだ」
「ほんとに?ほんとに大丈夫?」
「落ち着きなさい、すぐに起きてきますから」
「ほんと?海から上がって少ししたら全部消えちゃってリクも…」
「大丈夫だよ!魔力が空っぽなだけだから!ご飯食べたら元気になるよ!」
「ほんと?…よかった」
「そんな事より乾かさないと、こっち来て」

夫と話している姿は女だった。
だが、己の姿に愚痴を零さず夫を心配している様は、男同士の夫婦のように支え合っているように見えた。

心が酷く騒がしい…

これは、この感情は…

「聖女様何をなさっていたんですか」

アルナブが牙を向くお陰で目の前の事柄に意識を割ける。

「異なる世界から来た聖女様は存じ上げないかもしれませんが、ここは大精霊様の加護がある神聖な海、決して聖女なれど触れ、あまつさえ沈むなど何を考えていた」

アルナブの言葉に牙を向くか動揺するか。

だがどちらも違った。

「国王!」
「「「「「っ!」」」」」

余の胸の中に飛び込んで来た聖女は興奮し、海に入っていた事を忘れているくらい高揚し頬が赤い。

「国王!居たよ!居たの!精霊が居たの!」
「っ誠か!?」
「居たよ!とっても綺麗で眠っていた姿が底に!居たんだよ!国王!精霊は居たの!」
「場所はどこだ!連れては来れなかったのか?」
「あ、それがね」

聖女がキョロキョロと周りを気にし出した、聖女の言葉が民らの耳にも届いたらしく、騒がしい朝の海になってしまっている。

その時聖女が勢いよく体を余から離し顔を手で隠す、なんだ?

「ご、ごめんなさいっ、だ、抱き着くつもりじゃっ…、す、すみません、濡らしてしまって…!」
「…」
「ユイこちらへ」
「はひっ!」

夫の言葉に赤だった顔を青にして余から離れる姿は……

「ネイサン、耳貸して」

夫から渡されたタオルを髪から被り何かを話している。

「なっ!」
「うん、だからどうしよう」
「それは…伝えるべきですね…」
「うん、お願い出来る?」
「ええ、ユイをお願いします」
「ほら、ユイちゃんと乾かして!」
「あ、ありが、くしゅっ!」
「抱き着いてれば少しは暖かい」
「ありがとダグラス、でもリクも暖めてあげないと」
「……分かった」
「ぷぷ」

「国王、精霊について話したいのですが…耳を貸して頂けますか」
「俺が」
「良い、余が聞こう」
「ったく」

海に向かった姿勢のまま話し出す、これなら民にも気付かれまい。

「精霊は2人居たようです」
「なんと!」
「ですが、名を縛る禁忌の陣や拘束…他にも様々な陣で精霊達を縛っているようです、あまりにもがんじがらめになっており全て読み解く事も出来ず、大量の魔力が必要と推測されるみたいです」
「あい、分かった。神殿はこれからどう動く」
「何も…起こす気がそちらにないのならこちらで起こしますが…」
「国を動かそう」
「それでしたら1つだけ、聖女様が聞きたい事があるそうです」
「内容は言えぬか」
「言えません」
「ふむ…」
「今日はこのまま失礼致します」
「ああ」

大精霊様が2人…しかも禁術で縛られているというのは。

罪はこの国の人間か。

起こさぬ方が身の為だ、だが。

「わぷっ!ね、ネイサン…」
「しっかり拭きなさい」
「リクも…んにゃ!」
「あちらはダグラスに任せておりますから、帰りましょう」
「うん、お腹減ったぁ…」
「食欲あるの!?いっぱい食べよう!なにがいい?」
「うーん、カリンは絶対!」
「ユイは本当果物が好きだねぇ」
「ん、好き!あっ!ダグラス!そっとだよ!そっと!リクが潰れちゃう!」
「……ああ」
「ぷぷ」

民から話が流れるのも時間の問題だ。
起こさぬ選択を聖女に潰された、意図はなくともこんな場所で声を荒げれば結果は明らか。

もし意図があるなら益々欲しい。

「で、どうした」
「愛いな」
「は?」
「聖女は愛い!」
「あんた余計な事すんなよ」
「聖女よ!」
「はい!」
「余を選んでくれ!妃となり余と共に歩もうぞ!」
「はえ!?んぎゃっ!フィフィなにっ!」

夫に強引に連れて行かれる聖女は余を楽しませてくれる。

「だから余計な事すんなって言ってんだろ!?」
「なに、ちょっとした意趣返しだ」
「…………はぁ」

大精霊様と余の求婚、騒がしくなるな。

「ああ、面白い」




**********




眠っていた夫が起き詳細を余へと伝えられた。
確かに陣は絡まり解くのが難しい。
だが、難しいのは魔力さえありば事足りると。
ほとんどほつれ、ほつれた場所が無理矢理他の陣と繋がってしまっている為、魔力を流し1つずつ形にしていけば解れた場所から自然に無効となる。
試しに1つ解してみたが、それはあっさりと消し去ったと。
海に上がった際意識がなかったのはそのせいだったのだろう。

聖女が大精霊様を見つけたというのは3日で広まり知らぬ者は居ない。
余の求婚も同じように流れ、民からは激励が送られているとアルナブは言った。
妻達の中には聖女を信仰している者も多い為、選ばれるようにと余の服やら外見まで整える事に必死になっている。

海に潜るというのは宮廷魔術師でさえ躊躇してしまい話が進まぬ。

加護の海というのは入るだけで罪だ。

「俺が行く」
「アルナブなら上手くいくとは思うが、難儀だぞ」
「分かってる」

海に潜り大精霊様を起こせなかった場合アルナブは裁かれるだろう。

そういう場所なのだ。

あれが聖女でなければとっくに死んでいる。

魔石の準備も場所も分かる、アルナブは魔法の扱いに長けているから問題はない。
聖女に対し疑いを持ってはいない。
あのように興奮し、話す姿を見て嘘だとは思えん。

「ふむ…任せた」
「御意」

あれからひと月以上は経った。
聖女は神殿を変え、今は馬車での旅を続けている。
求婚については何も返答がない。
こちらから接触を持てぬというのはままならぬ
だが大精霊様が起きて下されば…

「ふむ」
「なんだ」
「余は本気で聖女に惚れてしまったようだ!」
「今言う事かよ」
「ははっ!待っているぞ」
「お任せを」

海に消えたアルナブに期待を乗せる者達は久しぶりに傀儡に見えた。

「どのようなお姿なのかしら」
「アーヴァ程美しい姿だろうな」
「もう!…聖女様は何も言って来ないの?」
「ああ」
「気にならないのかしら」
「アーヴァならどうする」
「アディを海に蹴落とすわ」
「だろうな!」

己が禁忌の海に沈もうなどと考えぬ。
それは余にも言える事。
確たる証拠もないのに無謀な計画は常識が違うが故か…




聖女は今あの時の顔で笑っているのか…






数時間は経ったであろう。
周りの者はじっと待っている者も居れば、近くで茶をしている者も居る。
アーヴァもすぐに市場の方へと向かって行った。

余はアルナブと話した場所で待っている。

「構えよ」

余の声に反応し警戒をする。
力なき者は非難した。

海が荒れている…?
いや、意思を持って動いているようにも見える。
見た事のない海の動きに目を凝らす。

ザバアアアッ!

音がしたと同時に水柱が上がりその上に見えるは…




「大精霊様…」




男と女だとは聞いておらぬ。
アルナブを持った男がこちらへと投げる、衝撃に備え炎でアルナブを包むが。

「問題ないか?」
「げほっげほっ、分かんねぇ…げほっ!」
「アルナブを診よ!」

水柱が止んだと同時にこちらへと浮きながら来るお姿は、聖女のように小さき女と余と同じくらいの背格好の男。
ヘラヘラとしている男に思う所があるのか女が海へと沈めた。

やはり大精霊様だった。
近くで見ると神々しいお姿は人ならざる者。
頭を下げ次の行動を待つ。

「女はどこじゃ」
「どのような女をお探しで」
「おい!そこの!声を聞かせ」

見ると戻って来ていたアーヴァに話しかけている。
大精霊様は透明感のある水色の髪が足元までなびいている。
水色の瞳が鋭く従える事に慣れている様子だ。

「あ…わ、私は」
「違うのお」

誰を探しているのか、話にある女ならもう死んでいるだろう。

「余を起こした女はどこじゃ」

聖女か。

「聖女の事かと思われます」
「聖女…?聖女じゃと?」

余の声に大精霊様が不機嫌を露わにし波が高く上がる。

「あの女まだ生きておったか」
「そんな事ないと思うよ~?」
「風の!もう1度沈んでおれ!阿呆が!」
「わあぁっ!!」

戯れなのか本気なのか力の差がありすぎて分からぬ。

「あの女は生きておるのか」
「大精霊様がおっしゃっている方はきっと亡くなっておられます、何千年と前から大精霊様の姿は現しておりません故」
「ふんっ!で、どこじゃ」
「神殿の者と旅に」
「やめ」
「はっ」
「人間の常識など知らぬ、連れて来い」
「時間がかかります…」
「なら海で街を沈めるだけじゃ、急げよ人間、高くなった波は敵わぬぞ?」

狡猾に笑う大精霊様の望みが叶う時、余の国はどうなっているのか想像しただけで身震いがする。



だが、それ以上に。



ああ、面白い。

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