104 / 247
魔王編
4-10
しおりを挟む起きた私に気付いたのかいつもみたいに観察しながら私を見て膝から降ろされた。
どうやら仕事中なのに私を見てくれていたらしい。
「すまんかったな!」
ラグウダ様の声が聞こえて執務室だろう部屋の椅子に目をやる。
「生きていたので大丈夫です」
「死にかけていたぞ」
「…」
魔王様がそんな事を言うから顔が真っ青になる。
「…やっぱり大丈夫じゃないです、怖かったです」
「すまんかった!弱いとは聞いていたがあれくらいで死にそうになるとも思わなかったんでな!」
軽いよ!
人の命が軽々しいよ!
どんだけデンジャラスな生活してんだよ!
「詫びに酒でも呑むか!」
「はあ…」
外は明るいけどそういうのは関係なさそうだ
少なくともラグウダ様の前では。
「ほら座れ」
「え?ここで?」
「どこでならいいんだ?」
「でも魔王様まだお仕事中で」
「いつも仕事だ!」
いいのかな?
チラッと見るけど気にしてるようには見えない。
「ありがとうございます」
「呑め呑め!」
注がれたお酒を飲むけど美味しい。
「美味しいお酒は初めてです」
「そうなのか?可哀想な人生だな!」
ラグウダ様には美味しいお酒が飲めないのは可哀想な人生なのか。
「にしても妃はちんまいなぁ」
そういえばこの人妃、妃、って言うけど私って妃になったの?
聞きたいけど、今聞いてもいいのかな。
「どうだ魔国は!」
「あまり部屋から出ないので」
「聞いてるぞ!本ばかり読んでるらしいな!」
「好きなので」
「で、どうだ!」
「まだ分からない事の方がほとんどですが花畑は大好きになりました、エイスとナインもよくしてくれます」
「花畑?」
「庭に咲いてるのは花じゃないんですか?」
あの見た目で魔獣とか?
「気持ち悪くならないのか?」
魔王様以外に初めて聞かれた。
ここではそういう事が多いのかな。
「なりません、好きですあの花」
「本当に平気なんだな」
「証明した」
魔王様が口を挟む、証明?
「気持ち悪すぎて寝こけてるのかとも思った!」
なるほど、心配してるのか。
魔王様の事が好きなんだ。
「魔王様にもよくして頂いています、魔国に来てから気持ち悪いと思ったことは1度もありません。快適に過ごせてます」
「なんで名前で呼ばないんだ?」
名前?聞いてないけど…
あれ?風のが言ってた気もする…
なんだっけ…
「デズモンド様…?」
「ほお」
「…」
「?」
あれ?呼んじゃ駄目だった?
「魔王様呼んじゃ駄目でしたか?」
「構わない」
構わないらしい。
それにしてもラグウダ様は見かけによらず含みが多い話し方をする。
私には分からない事だらけだから意味が分からない。
「ほら呑め!」
「はい、ラグウダ様も」
「ははっ!妃に酌などさせたら殺されそうだ!」
誰も殺さないだろうけど。
それにしてもやっぱり私は魔王様の妃らしい
そういう契約なのかな。
「今度俺の領地に来い!」
「魔王様がいいなら…」
「魔王様いいだろ!?」
「まだ駄目だ」
「なんでだよ!?」
「お前に会って分かったが危なすぎる」
それは私もそう思うよ。
「いつならいいんだ」
「視察に行く時だ」
「まだ先じゃねぇか!」
「お前が教えてくれた、むやみに近付けてはならないと」
そうだろうな。
私も身を以て体験しました。
「相変わらずかてぇ頭だ」
「ふふっ」
固い頭だって
確かに固いかも
それが可愛いんだけど
「妃…?」
「ふあ?」
「なんだ?」
「んー、ふふ、魔王様はかあいーの、ねー?」
「「…」」
私の言う事に素直に動く指は可愛い
そういえば今は黒い目だ
どこで変わるんだろう
「もう酔ったのか?」
「んふふふふ」
「駄目だ」
魔王様が私の手からお酒を奪う。
「あー!魔王様がお酒取った!返してくらさーい!」
「駄目だ」
「むうっ…!えいっ!」
魔王様の手からグラスを取ろうと立ち上がったら避けられた。
そのまま床に顔がぶつかってまた気絶する。
「「…」」
起きた時全部の記憶があってベッドの上で
うおー!うおー!言いながら転げ回った。
魔国のお酒は度数が高いみたい。
*********************************
そういえばと本を読んでいる最中、花に何か意味があるのかと思って窓際に行く。
私には魔力がないから分からないし、魔国の常識も分からないから見ても気付ける事なんてないんだけど。
「綺麗なのになぁ」
この花もきっと気持ち悪くなるんだろう。
そういえばどうして気持ち悪くなるのか知らないや。
今日は魔王様が来る日だろうから聞いてみよう。
「ヒナノ」
「んー?」
エイスが窓際まで来た。
「甘いのは食べる?」
「好きだよ甘いの」
「ほら」
「ありがと」
手渡されたのは金平糖みたいなお菓子。
口にするとしゅわしゅわと溶ける不思議な食べ物。
「不思議、でも美味しい!」
「まだ食べる?」
「エイスの食べ物でしょ」
「いい」
「そう?ありがと、もう1つ食べたい」
「ん」
エイスは日に日に口数が減ってる。
嫌そうには見えない。
むしろ気安さが増した気がする。
気のせいかもしれないけどね。
「逃げないの?」
「どうして逃げるの?」
「供物だろ」
「へ?」
「なんだ聞かされてないのか」
「なに?」
「魔王様への供物だろ」
「食べられちゃうの?」
「そういう意味ならもう食われてる」
「…」
なんだか随分私に都合がいいな。
魔王様はきちんと説明してないんだろうか。
私が助かる為に利用してるのに。
これじゃなんだか私がいい人みたいだ。
「私は助けて欲しかったの」
「…」
「疲れちゃってもう嫌だなって思ってたところに魔王様が手を差し伸べてくれたんだよ」
「…」
「だから私を非難するのは分かるけど、魔王様を悪く思っちゃ駄目だよ」
「思ってない」
「それなら良かった、私が生きていられるのは魔王様のお陰なんだってちゃんと理解してね」
「分かった」
説明してくれればいいのに。
魔王様はどう見られるのか気にしないのかな。
「魔王様の事好きなんだねぇ」
「よく思わない連中がいる」
「魔王様に?」
「ヒナノだ」
「それはそうだよね、いきなり来て妃って呼ばれてるんだもん」
「いいのか」
「んー、痛いのも怖いのも嫌だけど魔王様が守ってくれてるの分かるから」
「…」
「よく思わない連中には理解してもらうか…」
「なんだ」
「力尽くで、って思ったけど無理だった」
「弱いからな」
「うん、魔王様の迷惑にならなければいいけど」
「鍛えるか?」
「鍛えられるかな?」
「…間違えた」
「だよねー」
私は弱いから。
どれだけ鍛えたところで魔法が使えないなら弱い。
「綺麗だね」
「変だから付け込まれないようにしろ」
「ええ!?」
「気付いてなかったのか?」
ええ?どこが変なの。
「どこが変なの!?」
「存在」
「嘘だ」
「なんで嘘つく」
「…え?ほんとに変なの?」
「変」
え?なんか知らず知らずのうちに変な事してた!?
「どこが変!?マナーとか?」
「分からないところが変だ」
「教えて!?」
「…」
「なんで無言!?」
いつの間にか帰って来てたナインにも変だって言われた…
10
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる