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魔王編
4-35
しおりを挟む「妃様!」
「妃様万歳!」
魔人が私たちの足元で魔王様の妃を一目見ようとわらわらと集まっている。
「ふふ」
「ヒナノ」
「デズモンド様」
デズモンド様らしからぬ爽やかな笑顔となぜか恭しく私の足にキスをして忠誠を誓うのは魔国の王であり私の伴侶だ。
「お前ら聞きなさい!私が妃となったからには識字率を上げて私の体について調べ続けなさい!お前たちが生きている理由は私の為だけに存在する!」
うおおおおおお!と大きな歓声が空気を揺らして私の頬を震えさせる。
「ヒナノ、私もヒナノの為だけに生き学ぶと誓おう」
「ふんっ、今更な事を」
「そうだな」
ニコニコと笑うデズモンド様は頭を垂れて忠誠を誓うのであった。
「きもいいいぃぃ!」
「どうした」
「デズモンド様!」
あれから気絶したらしい私はデズモンド様の横で寝こけていたみたいでガバッと起き上がるとデズモンド様が目の前に居た。
「夢…」
「どうした」
怖かった。
あんなデズモンド様は嫌だ選手権があったら間違いなく優勝を掻っ攫ってたよ。
「ひいっ!」
「なにがあった」
デズモンド様の膝の上に乗せられて久しぶりに観察される、その顔は爽やかではなく冷徹な表情だけど私を心配してる。
「よ、よかったぁデズモンド様だぁ」
「なにがあった」
「夢で私が妃になった暁に魔人全員へ私の体について調べろって私が命令してた」
「…」
「しかもデズモンド様が私に跪いてっ……!」
「…」
「き、気持ちの悪い夢だ」
「…」
「あ、あんな爽やかな笑顔嫌ぁぁぁ…」
「…」
「私に忠誠をっ!ひいぃっ!恐ろしいですデズモンド様!」
「…」
デズモンド様に抱き着いてゾワゾワする気持ちを温めてもらう。
「ぅぅ…」
「…」
怖い夢ってこういう事だ。
私が魔人じゃなくて良かった、絶対に魔王様に顔向け出来ないもん。
「デズモンド様…」
「…」
喋らないデズモンド様安心するうぅぅぅ!
「デズモンド様おはようございます!」
「おはよう」
ちゅっとキスすると何故か驚いた表情をしたデズモンド様は可愛い…!
「もう怖くなくなりました!」
「…」
「お仕事します!」
「…」
「ん?」
いつもなら横に座らせてくれるのに…どうしたんだろ?
「はぁ…ナイン、エイス」
「「はっ」」
私を執務室のソファに転移したデズモンド様の意図が分からない。
「ん?」
両隣に座って足を組んだ2人にも意味が分からないぞ?
「んん?」
「なにが聞きたい」
「なんでもいいぞ」
「あっ!」
悪魔の事聞きたかったんだ!
「ありがとうデズモンド様!」
「…」
「私もなんでも聞きたいの、悪魔が産まれる理由も悪魔の存在はどういう意味があるのかも!全部!」
腹から産まれるのか、悪魔は人じゃないならなんなのか、全て知りたい。
「産まれる理由なんかない」
「勝手に起きた」
「起きた?おぎゃぁ!じゃなくて起きたって感じなの?」
「そうだ」
「ここではない世界」
「悪魔が産まれる世界だけがある」
「そこで起きる、どうして起きるかは知らない」
ここじゃない世界
私も行った事がない世界
悪魔だけが存在する世界
「起きた瞬間理解する」
「ああ、人を誑かして弄んで切り刻んで殺したいと」
「欲求が決まってるって事?」
「そう言われるとつまらなくなるな」
「あ、ごめんね」
「いい、事実だ」
性悪説に近いのかな?
いや、悪の部分に特化した種族って事なのかも。
「僕たちはすぐに人間がいる世界へと行く」
「どうやって?」
「空間を捻じ曲げるって言えばいいのか?」
「どうして息してんのかって聞かれるくらい難しい」
当たり前に出来ているって事か。
「理論立てて説明出来る?空間の事」
「無理だな」
「僕たちが存在してる意味を聞かれるくらい無理だ」
「そっか」
「起きてからの数百年は拙くて荒くてガキだった」
「すぐに死ぬ人に理解出来なかった」
「理解しようとしない悪魔も多い」
「だけど僕たちは違う」
「もっと苦しめる方法があるはずだ」
「もっと嫌な事があるはずだ」
「切り刻むより」
「殺すより」
「「もっと苦しめる事が出来るはずだ」」
「そこから考えるようになったの?」
「そうだ」
欲が先なのは人と変わらないな。
「人を拷問する事はやめられないの?」
「「不可能だ」」
「飯を食うのをやめろって言ってるようなもんだ」
「やってみろ、気が狂って消滅する」
「死ぬんじゃなくて?」
「跡形もなく消滅する」
「肉体は残らないの?」
「残らない」
「やめたいって思う悪魔に出会った事ある?」
「くすくす、あるぞ」
「あいつは良かった」
「あいつは極上だった」
「あいつは愛を知った」
「愛が望む己で居ようとしてた」
「無駄だったが」
「無理だった」
「食った」
「愛を食った」
「食って消滅した」
やめて欲しいと願われてやめようとしたんだ、だけど私たちのようにご飯を食べなきゃ死んでしまう。
だから人を殺す事はやめられないけど…
「その悪魔は罪の意識で消滅していったの?」
「さあな」
「知らない」
「消滅しようと思えば出来る?」
「可能だ」
「こんな楽しい世界があるのにしたいとも思えないけどな」
「いつかは消滅する?」
「知らない」
「寿命はない」
「見た事ない」
「殺す事は出来る?」
「可能だ」
「妃には無理だけどな」
「魔王様なら余裕だ」
殺す方法もあるんだ、だけど自害も出来る。
飽きたら死ねばいいって事なのかな。
悪魔は愛を知らないのかな。
「悪魔は愛を知らないまま死ぬのがほとんどなの?」
「そんな事ない」
「愛なら分かる」
「でも」
「あいつはやめろと言われた」
「やめろと言わない人を愛せばいい」
そっか。
別にいいよってそういう欲求があるんだもんねって言えればいいのか。
でもそれで家族が殺されても嫌だなとも思っちゃう。
「デズモンド様に従えてるのはどうして?」
「契約だ」
「契約?」
「縛られてる」
「デズモンド様に?」
「望んだ」
「お願いしたの?」
「した、敵わないからな」
「魔王様が居る魔国の人間は極上だ」
「すぐに死なない」
「楽しい」
「だから取引だ」
「内容は聞いてもいいの?」
「簡単だ」
「食い散らかすのは駄目だが、食える場所と食える人間を渡される」
「食い散らかしてたら魔王様に殺されかけたからな」
それで契約。
なんか悪魔との契約っていい感じはしないけど…
「デズモンド様は契約によって殺されたりしない?」
「魔王様を殺せる者は居ない」
「傷も負わせられない」
「利害の一致だ」
「僕たちが任される仕事は楽しい、多いからいい」
拷問をメインで請け負ってるんだ。
だから世話なんかした事ないって言ってたんだね。
「デズモンド様が無事ならいいや」
「他にはなにを知りたい」
「なにを知ってる?」
「どういう意味だ」
「悪魔の存在や、他の種族の存在はどこまで知ってる?」
「人は人だ」
「それ以外は悪魔しか知らない」
「僕たちの事もこれ以上知らない」
「興味がない」
「悪魔が産まれる場所に私は行ける?」
「駄目だ」
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「そうなの?」
「ただ居るだけだ」
「寝てる奴の方が多い」
「僕たちが見て分からないのに妃に分かるはずがない」
「そうだよね」
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「そう、だよね…ありがとう、また聞きたい事が出来たら聞いてもいい?」
「「いつでも聞け」」
「妃は面白い」
「妃は楽しい」
どうやら拷問されなくても悪魔に面白さを与えられているらしい。
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