機械仕掛けの大精霊 オートマチック・エレメント

ロング フイ

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一章 精霊術士の学園

第7話 邪霊討伐隊、始動

 「それでは、学長より皆さんに挨拶があります。ご静粛に」

 イレアが話をしに来た日の翌日。一限の時間を使って学園の生徒全員が大講堂に集められていた。教頭だか主任だかの挨拶の後、学長が壇上に上がる。

 「生徒諸君ごきげんよう、学長のヴィオテラ・ノーミオだ。長ったらしい前置きは好きじゃないから早速本題に入ろう。昨今の邪霊イビルの増加への対処についてだ。本学では、生徒による邪霊の討伐を決定した」

 学長らしい簡潔な挨拶であるが、生徒をどよめかせたのはその本題である。一部の生徒達は予想がついていたようだが困惑している者も多い。会場のそんな様子も気にせず学長は続ける。

 「高等部の生徒を中心に有志を募って討伐隊を編成する。もちろん強制はしないが、参加者の成績については優遇することを約束しよう。とはいえ、不参加の生徒の評価を下げることは無いので安心してくれたまえ」

 なるほど。言い方は悪いが、成績で釣って生徒を集めようという魂胆らしい。唯一の公立学園であるここでの評価というものは生徒にとっては大きいものなのだ。

 「詳細については追って通達する。正式な公募は来週以降だが、既に何人かの生徒にはこちらからお願いしている。今日はその最初の一人に壇上へ上がってもらおう。イレアーダス・ウンディーノ、前へ」

 再び騒めきが大きくなった中を颯爽と進むイレア。彼女のことを知らない生徒はいないらしい。流麗な銀髪をなびかせて壇上に上がる彼女に全生徒が注目する。

 「イレアーダス・ウンディーノ。貴殿を邪霊討伐隊第一班の班長に任ずる」

 「謹んでお引き受け致します」

 大きな拍手が起こる。イレアを壇上に呼んだのは一種のパフォーマンスだろう。討伐隊に参加すればウンディーノ家である彼女と同じ待遇を受けられると生徒達に印象づけたのだ。

 「我々の現状は危機的だ。しかし、これに対処するために三年前から演習の授業を増やし、準備を整えてきた。この国の未来を預かる諸君には大きな活躍を期待している。共に危機を乗り越える力となってくれることを願う」

 力強い言葉に最大の拍手が送られた。彼女のカリスマ性の成せる技だろう。それから諸連絡があり、会は解散となった。



 「ねえねえ、今日の事、知ってたの?」

 教室に帰るまでイレアに話しかけようとする者は何人かいたが、いつもの如く彼女は避けていた。そんな中、俺に聞き出そうとしてきたのはトーヤである。

 「うーん、実は知ってたけど、皆の前で発表するのは聞いてなかったな」

 「そうなんだ。それで、リオは参加するの?」

 「そのつもりだよ。学長から声かけられてるし。トーヤは?」

 「実は僕も話だけは聞いててね。参加することになると思うよ」

 討伐隊の事はやはり生徒の一部は知っていたようだ。ちなみにトーヤの演習の成績は良い方らしく、参加しても問題ないのだろう。そんなことより、とトーヤが耳打ちをしてきた。

 「イレアーダスさんとはさ、どうなの?」

 「どうって、別に普通だけど……?」

 急に漠然とした事を聞いてきたトーヤの顔を伺う。やや楽しげである。うん? そういう事を聞いてるのか?

 「いやー、巫女家の令嬢と謎の転校生、しかも精霊術は互角の強さ。これで気にしない人の方が少ないよ」

 「まあ言いたい事は分かるけど、謎の転校生はやめてくれ」

 「ほら、イレアーダスさん凄い美人じゃん? リオとしてはどうなの?」

 やはり彼の興味はそこにあったようだ。こんな事を聞いてくるキャラなのかと少し驚いたが、まだ会って一週間である。意外とゴシップ好きのようだ。

 「いや、別に――」

 待てよ、これは利用できるか? イレアに気がある素振りを見せれば、彼女に必要以上に近づいても違和感なく見えるかもしれないな。よし、乗ろう。

 「――まあ、興味はあるけど」

 「へえ、それはどういう意味で?」

 一瞬イレアに近づく理由を見透かされたかと思ったが、ニヤニヤと笑みを浮かべるトーヤを見て勘違いと分かった。

 「いいでしょ、ほら、授業始まるから!」

 「ふ~ん、まあ進展があったら聞かせてよねー」

 適当にはぐらかす風を装い、会話を切り上げた。上手く勘違いさせられただろうと思ったのだが、この時の俺は一つの失敗に気づかなかったのであった。


■□■□


 翌週。学長の宣言通り、廊下の掲示板に討伐隊の募集要項が張り出されていた。他の生徒に混じって見に行くとクラスメイトが場所を譲ってくれた。だんだんとクラスに馴染めた気がするが、まだ距離を置かれてるのは仕方ないだろう。それはさておき、要項の内容だ。

 『公立精霊学園邪霊討伐隊募集要項

 昨今の国境内における邪霊の増加に伴い、生徒による討伐隊を結成する事を決定した。本要項はその募集条件及び諸注意についてである。なお、内容については事前の通達なく変更する事がある。

 条件一、精霊術の演習授業において優秀な成績を修めた者のみ入隊を許可する。判断については担任又は授業を受け持つ教師に委ねる。

 条件二、募集は高等部の生徒を中心に行う。中等部の生徒に関しては学長又は担任が許可した者のみ応募可能とする。

 条件三、上記以外でも邪霊討伐の経験者等は優先して許可する。

 その他、未応募の生徒に対してこちらから入隊を要請する場合があるが、入隊は強制ではない。

 参加する生徒には相応の成績等の優遇措置をとり、演習授業を免除する。質問等は教頭まで。


 国の未来のため、多くの生徒の参加を望む。是非協力をして欲しい。

 公立精霊学園学長ヴィオテラ・ノーミオ』

 あれ、この条件だとヒナは参加できないんじゃないか? だがあの妹のことだ。授業は真面目にやってるだろうし、担任の許可もしれっと貰ってくるかもしれない。そんなことを考えているうちに予鈴が鳴り、生徒達と共に俺は教室に戻った。



 放課後。俺は職員室に呼び出されていた。恐らく討伐隊の話だろう。

 「失礼します」

 「あ、リオ君。こっちこっち」

 俺を呼び出した当人、ソージア先生が待っていた。

 「ごめんね、聞いておきたい事があって」

 「はい、なんでしょうか?」

 やけに言いにくそうである。何か問題でもあったのだろうか? 参加できないとなれば学長に交渉しに行く事も考えよう。

 「その……この前の事、誰にも言ってないよね……?」

 「えっと、この前のってあれですよね? もちろん言ってませんけど……」

 「はあー、よかったあ。ありがと、これからも絶対秘密だからねっ。分かった?」

 安心したように息を吐く先生。あの痴態、と言ったら失礼だが、あの様子はよっぽど知られたくないようだ。

 「分かりましたけど、要件はそれなんですか?」

 何か討伐隊に関わることかと思っていたので拍子抜けだ。そのために校内放送まで使って呼び出したとなれば職権乱用もいいとこである。ちなみにこの放送、風の精霊術を使う放送委員の生徒が運営しているらしい。

 「あっ、ううん、ちゃんとした要件はあるの。討伐隊の参加募集確認についてです。学長から推薦を受けているんだけど、どうしますか?」

 口調を改め本題に移った。とはいえこの話は俺は確認済みだ。

 「はい、参加を希望します。その上でこちらから要望もあるのですが」

 「内容によります。ある程度は便宜を図れますけど。班分けについてですか?」

 「はい。イレアーダス・ウンディーノと同じ班を希望します。これは彼女の希望でもあります」 

 率直に要求を伝える。これは特に問題は無いだろう。

 「そうですね。確認はしておきますが、班分けは生徒の自由にさせるそうなので大丈夫だと思います。他には?」

 「俺の妹、中等部のミヅカ・ヒナを同班に入れて貰いたいです。彼女も参加の希望を出すはずなので、許可が出たらお願いします」

 先生の顔が若干渋る。中等部の生徒の事はこの場では返事ができないからだろう。

 「妹さんですか……分かりました、学長とそちらの担任に伝えておきます」

 「ありがとうございます。また連絡をお願いします」

 そう言って俺は職員室を出ようとした帰り際、

 「リオ君、この前の……本当に秘密だからね。言ったら先生怒るからね? 分かった?」

 「分かってますよ。誰にも言いませんから」

 苦笑して答える。この小さい先生が怒っても全く怖くはなさそうだが、まあ俺も言うつもりはない。

 「本当だからね! じゃあまた伝えるから。今日はありがとう」

 「ありがとうございました。さようなら」

 再び念押しされ、別れの挨拶を告げた。思ったより時間が経っていたようで外は夕暮れだった。


■□■□


 無事要望は通ったようで、翌週、班分けと討伐隊の隊員として任命する、という通知が参加者に送られた。昼にヒナが自慢げに通知書を掲げていたのはもちろんの事だ。許可を貰う際に担任と一悶着あったらしいが、学長の声でどうにかなったという。妹はもう学長にも気に入られたらしい。

 そしてその週末。参加者全員が学園の演習棟に集められていた。

 「これより第一回邪霊討伐演習を開始する! これは訓練であり実戦だ。気を抜く事の無いように!」

 力強く響く学長の声が一同を緊張させる。これから国境の外に行き、班ごとに別れて邪霊の討伐訓練をするのである。実戦は未経験という生徒も多い。しかし、彼らは一様にやる気に満ちていた。怖気づくような生徒はこの場にいる事を許可されていないのだ。

 「お兄ぃ、緊張してる?」

 「まさか。ヒナも慣れっこだろ?」

 「うん。ちょっと前の学校思い出したよ」

 横に並ぶヒナと囁きあう。確かに極東の頃の学校の集会と同じ雰囲気だ。今と比べればかなり規律の厳しい学校だった。そうでなくとも、旅の間に邪霊とは何度も戦っているのだ。

 「それでは、一時間後に移動を開始する。時間までに正門に集合するように」

 しばらくして学長の話は終わった。内容は戦う際の心構えなど、俺とヒナはもう耳にタコができる程母さんから聞いたものだ。やがて生徒達は解散し、演習棟に残ったのは俺とヒナ、少し離れた所で話を聞いていたイレア、そして何故かソージア先生がこちらに向かってきた。

 「イレアさん、リオ君、と、ヒナさん。第一班には私が付いて行く事になったので、今日はよろしくお願いします」

 「先生がですか?」

 「ええ、中等部の生徒がいる班には教員が付きますから」

 「うん、私はさっき聞いたよ。宜しくお願いします、ホムラ先生」

 どうやら俺もヒナも話をちゃんと聞いていなかったようだ。まあ問題ないだろう。

 「分かりました。じゃあ打ち合わせをしましょうか」

 「はい。あくまで私はサポートなので、皆さんだけで戦えるようにして下さい。絶対大丈夫だと思うけどね」

 要するにただの引率らしい。俺達は集合までの時間でフォーメーションの確認などをし、準備を整えた。
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