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四章 それぞれの夏休み
第43話 ホムラ・ソージアの夏休み?
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「んぅ……あれ……」
学園にほど近いとあるアパートの一室。幼い少女――ではなく、一人の女性がベッドからのっそりと体を起こした。重い瞼を持ち上げながらしばし呆ける。えっと、今日は……
「――!!! 授業! 時間! 今何時!?」
既に日は高い。が、飛び起きると同時に襲い掛かる眩暈。水、体が水を求めている。
「~~っ……いや、授業は午後のはず……よね? たしか昨日は……」
頭を擦ってシンクに向かい、蛇口を捻りながら思い返す。昨日は授業のあと、職員室で残業をしていたはずだ。夜中にようやく帰った記憶がある。その後は――
「――覚えてない。いつ、帰ったのかしら……?」
今の恰好も昨日のままだ。着替えもせず寝たのは確からしい。そして再び頭を揺さぶる気持ち悪さからして、飲み過ぎたのだろう。記憶をなくすなんて初めてだ。話には聞いたことがあるが、ここまでの恐怖とは。
「ああもう、時間も無いのに……!」
全く浮かんでこない記憶を探りながら、ホムラ・ソージアは慌てて支度をするのだった。
■□■□
時は少し遡り、夏休みが始まる前の公立精霊学園。先日のノーミオ家の視察によって急遽変更されたカリキュラムの調整に加え、夏休み前での授業の最後の仕上げ、来週行われる定期試験の準備などなど、生徒達が帰った後にも関わらず教員棟の職員室は賑わって……否、ごった返していた。
「えっと、この問題は……大丈夫。二問目は……誤字かしら? あとで確認っと。三問目……四問目……六問目って、五が抜けてるわね。選択肢は……ああっ、答えが二つ出ちゃうじゃない。今聞きたいけど、お取込み中ね……」
そしてそれは新任教師のホムラ・ソージアも例外では無かった。彼女の仕事は他の教師が作ったテスト問題のチェック。下っ端、もとい新人の役割であった。
ぶつぶつと呟きながら作業をする彼女を気に掛ける者などこの場にはいない。皆が皆、己の仕事で手一杯だからだ。
「これが終わったら、演習授業の成績付けて……はぁ……」
ペンを置いて天を仰げども、作業は積もるばかりだ。見渡せば自分と同じような顔の教員が何人もいる。隣のデスクで作業をしているケルヤ先生は……声をかけるのも躊躇われる様子である。気の毒なことに、彼と自分が受け持つクラスの生徒は優秀な子が多いばかりに評価が大変なのだ。討伐隊に参加している生徒が多いのも原因の一つである。
「……ソージア先生。この名簿の確認、お願いできますか……? 時間があったらで良いですけど……」
などと他人事のように考えていたら、徐にこちらを向いた彼から掠れた声で作業を頼まれる。
「あ、えっと、まだテストの問題のチェックが――」
今の仕事もあるので断ろうとしたら、あからさまに辛そうな顔になる。もはや大の男が見せていい表情ではない。
「――分かりました、やります。確認項目は昨日の資料と同じでいいですか?」
「はい。感謝します……! 終わったらこのファイルに入れておいてください!」
私甘いな、とかでもこれは断れないでしょ、とか考えながら資料を受け取る。作者に確認の取れない問題文のチェックは一旦切り上げ、名簿とのにらめっこを始めるのだった。
春と比べて随分長くなった日も落ちていく。この日の仕事に区切りをつけられたのは、夜遅くであった。まだ職員室には人が残っている。窓際のデスクには突っ伏す教員の姿もあったが、声をかける気力も残っていなかった。
泥のような体を引き摺って家路につく。明日の午前は授業が無いから、昼までに今日の続きを終わらせて……
「あら?」
ふと耳を澄ますと、一軒の店の前で言い争いをしている二人がいた。片方は見覚えがある。行きつけのレストランのマスターだ。
「――だから何度も言ってるだろ、面倒な事には巻き込まれたくないんだ」
「つってもよ、急に閉めるなんて正気かよ!? アンタの所に卸す食材はどうすんだよ!」
「買い取る。長く保存できる料理にすればいいし、無理なら捨てる。お前さんに迷惑はかけんよ」
「ああもう、人が心配してんのが分かんねえのかよ! それに俺にゴミを売らせるつもりか!? ふざけんな!」
「……すまない」
店を閉めるんだろうか? 少し気になって二人に話しかけてみることにする。
「すいません、あの――」
「もういい、話になんねえ。てめえが店を開けるまで絶対卸さん。その時は土下座でもしてまた頼みに来るんだな!」
「いや……申し訳ない……」
男は声を荒げて去って行った。残されたマスターは見た事が無いほどの落ち込みっぷりだ。
「……ん、アンタか。悪いが今日は店じまいだ。帰りな」
「お店、閉めるんですか?」
無下にあしらわれるが、気になって尋ねる。それくらいにはこの店を気に入っていたのだ。
「ああ、巫女家の監視が厳しくてな。ったく、金も落とすが迷惑もかける常連のせいだ。気にすんな」
「はあ……ティフォ・ベントですか」
マスターの言葉で全てを察した。巫女家というのはノーミオ家だろう。一概に彼のせいとも言えないが、まったく、問題児は学園の外でも問題児のようだ。
「そうか、知り合いだったな。アイツには会ったか?」
「いいえ。迷惑な人ですよね。彼に代わって謝り……たくはないです」
「ハハ、だろうな」
無言になるマスター。そうか、閉めるのであれば私はしばらく来れないのでは? それは少し寂しい。
「マスター、お店少しだけ開けてもらえませんか?」
「ん? だから今日は……」
「お願いします、次にいつ来れるか分かりませんから」
既に考えていた明日の予定は変更された。明日の午前は大丈夫だ。私がいなくて困る作業は無いはず。
「……常連のよしみだ」
軽く溜息を吐いたマスターは厨房へと向かって行った。
「――それでですね、いきなりですよ、いきなり! こっちにもカリキュるぁムってもんがあるんですよ! 急に授業組み替えろなんてひどいですよね! マスター、聞いてます!?」
「……ああ、聞いてるさ。もう三回くらいは聞いた。大変なんだな」
「そうなんですよ! そもそも授業を最初に決めたのもがくちょーのくせに――」
一時間ほど経った頃にはソージアは既に出来上がっていた。呂律も回っていない。彼女の不満の源の話は四週目に入ろうとしている。マスターは久しぶりの泥酔客に辟易していたが、こんな光景もしばらく見納めだと思っていた。
「はあ……イレアさんも真面目なのはいいけど、あの二人は真面目すぎるっていうか……別に嫉妬じゃないですけどぉ……私だって出会いの一つくらい……」
と思えば今度はナイーブにウジウジと語り始める。リオの名前こそ出していないが、巫女家の機密を漏らして大丈夫なのか、とここで問う者はいない。この話もマスターは何度か聞いてしまっているのだが、ソージアは隠しているつもりである。
「ねえー、マスターは結婚してるんですかぁ?」
「前にも話した気がするが……俺は生涯独り身だ。人の相手なんてアンタみたいな客で十分さ」
「えーやだー、私ぃ、マスターとはちょっと歳離れすぎてるじゃないですかあー」
話を全然聞いていない酔っ払いは盛大な勘違いをする。いつもの事だ、とマスターが再び小さな溜息を零した時、
「あれ~? やっぱりやってるじゃん。まだ誰かいんの?」
勝手知ったるとばかりに入口から顔を出した男がいた。話題の人物、ティフォ・ベントである。
「……てめえティフォ、あんだけ騒ぎ起こしてよく来れるな」
「ごめんごめんって。でも店閉めるんでしょ? 最後くらいいいじゃんっと……お、ホムラちゃん先輩ー!」
「丁度いい。ティフォ、お客さん家に帰してやれ。そしたら今日来た分はチャラにしてやるよ。ほとぼり冷めるまではもう来るんじゃねえぞ」
「えー、俺も飲みたーい」
「断る。こっちの身にもなれってんだ」
文句を言うティフォをあしらい、マスターは食器を片付け始めた。静かになったソージアは突っ伏しながら何か呻いている。
「しゃーねえなー。ほらホムラちゃーん、帰りますよー」
「んん~」
こりゃ飲み過ぎだな、とティフォは思った。貸しイチだぜーなんて心の中で恩を着せながら声を掛けるが、返事は言葉ともつかない。仕方なく小さい体を背負って店のドアに手をかける。
「平和になったらまた来るぜ、おっちゃん」
「そん時は迷惑料持って来いよ」
「ハイハイ、悪うござんしたねー」
気安いやり取りで別れを告げる。次はいつ来れるのか、なんて話はしなかった。
「……ぅん……誰……?」
「愛しのティフォ君ですよー」
ようやく目が覚めたソージアだが、意識は朧気である。
「……ごめんねえ、俺のせいで。いや悪いのはアイツらだけどさ。でも俺がなんとかしないとなぁ」
「……ティフォ、君?」
「おっ気付いた気付いた。でもこれ絶対明日覚えてねえな」
国内の混乱に多少の責任を感じているティフォは、その結果ここで影響を被っている彼女を起こすのを躊躇われた。
家に着いて書き置きでも残そうかと悩んだが、黙って消えるのがクールだろ、と考えて立ち去ることにする。
「じゃあね、ホムラちゃん。苦労かけるけど、みんなを頼むよ」
ベッドに横たえた彼女はすっかり寝入っている。それを見るティフォの表情は、いつになく真剣なものだった。次に会うのは夏休み、ウンディーノ家だろう。その時はもう戦いの準備だ。
「さて、行きますか。世界平和のためにね」
■□■□
「待って、鍵、無い。でも鍵かかってるし……あっ!」
支度を整え、家を出ようとした時。ソージアは見当たらなかった鍵をポストの中に見つけた。何故? まるで誰かが鍵を外から掛けて投げ入れたかのような……
「財布とか物は無くなってないし、きっと誰かが運んでくれた……うん、きっと心優しい人が家に届けてくれたとか?」
いくら考えても覚えていないので分からない。真相は昨日の二人のみが知るだけだ。
「って、時間時間!」
埒の開かない思考を追いやり、ソージアは学園へと向かうのだった。
次に二人が再開したウンディーノ家の会議の日にも、この時の真相が彼の口から語られることは無かったという。
学園にほど近いとあるアパートの一室。幼い少女――ではなく、一人の女性がベッドからのっそりと体を起こした。重い瞼を持ち上げながらしばし呆ける。えっと、今日は……
「――!!! 授業! 時間! 今何時!?」
既に日は高い。が、飛び起きると同時に襲い掛かる眩暈。水、体が水を求めている。
「~~っ……いや、授業は午後のはず……よね? たしか昨日は……」
頭を擦ってシンクに向かい、蛇口を捻りながら思い返す。昨日は授業のあと、職員室で残業をしていたはずだ。夜中にようやく帰った記憶がある。その後は――
「――覚えてない。いつ、帰ったのかしら……?」
今の恰好も昨日のままだ。着替えもせず寝たのは確からしい。そして再び頭を揺さぶる気持ち悪さからして、飲み過ぎたのだろう。記憶をなくすなんて初めてだ。話には聞いたことがあるが、ここまでの恐怖とは。
「ああもう、時間も無いのに……!」
全く浮かんでこない記憶を探りながら、ホムラ・ソージアは慌てて支度をするのだった。
■□■□
時は少し遡り、夏休みが始まる前の公立精霊学園。先日のノーミオ家の視察によって急遽変更されたカリキュラムの調整に加え、夏休み前での授業の最後の仕上げ、来週行われる定期試験の準備などなど、生徒達が帰った後にも関わらず教員棟の職員室は賑わって……否、ごった返していた。
「えっと、この問題は……大丈夫。二問目は……誤字かしら? あとで確認っと。三問目……四問目……六問目って、五が抜けてるわね。選択肢は……ああっ、答えが二つ出ちゃうじゃない。今聞きたいけど、お取込み中ね……」
そしてそれは新任教師のホムラ・ソージアも例外では無かった。彼女の仕事は他の教師が作ったテスト問題のチェック。下っ端、もとい新人の役割であった。
ぶつぶつと呟きながら作業をする彼女を気に掛ける者などこの場にはいない。皆が皆、己の仕事で手一杯だからだ。
「これが終わったら、演習授業の成績付けて……はぁ……」
ペンを置いて天を仰げども、作業は積もるばかりだ。見渡せば自分と同じような顔の教員が何人もいる。隣のデスクで作業をしているケルヤ先生は……声をかけるのも躊躇われる様子である。気の毒なことに、彼と自分が受け持つクラスの生徒は優秀な子が多いばかりに評価が大変なのだ。討伐隊に参加している生徒が多いのも原因の一つである。
「……ソージア先生。この名簿の確認、お願いできますか……? 時間があったらで良いですけど……」
などと他人事のように考えていたら、徐にこちらを向いた彼から掠れた声で作業を頼まれる。
「あ、えっと、まだテストの問題のチェックが――」
今の仕事もあるので断ろうとしたら、あからさまに辛そうな顔になる。もはや大の男が見せていい表情ではない。
「――分かりました、やります。確認項目は昨日の資料と同じでいいですか?」
「はい。感謝します……! 終わったらこのファイルに入れておいてください!」
私甘いな、とかでもこれは断れないでしょ、とか考えながら資料を受け取る。作者に確認の取れない問題文のチェックは一旦切り上げ、名簿とのにらめっこを始めるのだった。
春と比べて随分長くなった日も落ちていく。この日の仕事に区切りをつけられたのは、夜遅くであった。まだ職員室には人が残っている。窓際のデスクには突っ伏す教員の姿もあったが、声をかける気力も残っていなかった。
泥のような体を引き摺って家路につく。明日の午前は授業が無いから、昼までに今日の続きを終わらせて……
「あら?」
ふと耳を澄ますと、一軒の店の前で言い争いをしている二人がいた。片方は見覚えがある。行きつけのレストランのマスターだ。
「――だから何度も言ってるだろ、面倒な事には巻き込まれたくないんだ」
「つってもよ、急に閉めるなんて正気かよ!? アンタの所に卸す食材はどうすんだよ!」
「買い取る。長く保存できる料理にすればいいし、無理なら捨てる。お前さんに迷惑はかけんよ」
「ああもう、人が心配してんのが分かんねえのかよ! それに俺にゴミを売らせるつもりか!? ふざけんな!」
「……すまない」
店を閉めるんだろうか? 少し気になって二人に話しかけてみることにする。
「すいません、あの――」
「もういい、話になんねえ。てめえが店を開けるまで絶対卸さん。その時は土下座でもしてまた頼みに来るんだな!」
「いや……申し訳ない……」
男は声を荒げて去って行った。残されたマスターは見た事が無いほどの落ち込みっぷりだ。
「……ん、アンタか。悪いが今日は店じまいだ。帰りな」
「お店、閉めるんですか?」
無下にあしらわれるが、気になって尋ねる。それくらいにはこの店を気に入っていたのだ。
「ああ、巫女家の監視が厳しくてな。ったく、金も落とすが迷惑もかける常連のせいだ。気にすんな」
「はあ……ティフォ・ベントですか」
マスターの言葉で全てを察した。巫女家というのはノーミオ家だろう。一概に彼のせいとも言えないが、まったく、問題児は学園の外でも問題児のようだ。
「そうか、知り合いだったな。アイツには会ったか?」
「いいえ。迷惑な人ですよね。彼に代わって謝り……たくはないです」
「ハハ、だろうな」
無言になるマスター。そうか、閉めるのであれば私はしばらく来れないのでは? それは少し寂しい。
「マスター、お店少しだけ開けてもらえませんか?」
「ん? だから今日は……」
「お願いします、次にいつ来れるか分かりませんから」
既に考えていた明日の予定は変更された。明日の午前は大丈夫だ。私がいなくて困る作業は無いはず。
「……常連のよしみだ」
軽く溜息を吐いたマスターは厨房へと向かって行った。
「――それでですね、いきなりですよ、いきなり! こっちにもカリキュるぁムってもんがあるんですよ! 急に授業組み替えろなんてひどいですよね! マスター、聞いてます!?」
「……ああ、聞いてるさ。もう三回くらいは聞いた。大変なんだな」
「そうなんですよ! そもそも授業を最初に決めたのもがくちょーのくせに――」
一時間ほど経った頃にはソージアは既に出来上がっていた。呂律も回っていない。彼女の不満の源の話は四週目に入ろうとしている。マスターは久しぶりの泥酔客に辟易していたが、こんな光景もしばらく見納めだと思っていた。
「はあ……イレアさんも真面目なのはいいけど、あの二人は真面目すぎるっていうか……別に嫉妬じゃないですけどぉ……私だって出会いの一つくらい……」
と思えば今度はナイーブにウジウジと語り始める。リオの名前こそ出していないが、巫女家の機密を漏らして大丈夫なのか、とここで問う者はいない。この話もマスターは何度か聞いてしまっているのだが、ソージアは隠しているつもりである。
「ねえー、マスターは結婚してるんですかぁ?」
「前にも話した気がするが……俺は生涯独り身だ。人の相手なんてアンタみたいな客で十分さ」
「えーやだー、私ぃ、マスターとはちょっと歳離れすぎてるじゃないですかあー」
話を全然聞いていない酔っ払いは盛大な勘違いをする。いつもの事だ、とマスターが再び小さな溜息を零した時、
「あれ~? やっぱりやってるじゃん。まだ誰かいんの?」
勝手知ったるとばかりに入口から顔を出した男がいた。話題の人物、ティフォ・ベントである。
「……てめえティフォ、あんだけ騒ぎ起こしてよく来れるな」
「ごめんごめんって。でも店閉めるんでしょ? 最後くらいいいじゃんっと……お、ホムラちゃん先輩ー!」
「丁度いい。ティフォ、お客さん家に帰してやれ。そしたら今日来た分はチャラにしてやるよ。ほとぼり冷めるまではもう来るんじゃねえぞ」
「えー、俺も飲みたーい」
「断る。こっちの身にもなれってんだ」
文句を言うティフォをあしらい、マスターは食器を片付け始めた。静かになったソージアは突っ伏しながら何か呻いている。
「しゃーねえなー。ほらホムラちゃーん、帰りますよー」
「んん~」
こりゃ飲み過ぎだな、とティフォは思った。貸しイチだぜーなんて心の中で恩を着せながら声を掛けるが、返事は言葉ともつかない。仕方なく小さい体を背負って店のドアに手をかける。
「平和になったらまた来るぜ、おっちゃん」
「そん時は迷惑料持って来いよ」
「ハイハイ、悪うござんしたねー」
気安いやり取りで別れを告げる。次はいつ来れるのか、なんて話はしなかった。
「……ぅん……誰……?」
「愛しのティフォ君ですよー」
ようやく目が覚めたソージアだが、意識は朧気である。
「……ごめんねえ、俺のせいで。いや悪いのはアイツらだけどさ。でも俺がなんとかしないとなぁ」
「……ティフォ、君?」
「おっ気付いた気付いた。でもこれ絶対明日覚えてねえな」
国内の混乱に多少の責任を感じているティフォは、その結果ここで影響を被っている彼女を起こすのを躊躇われた。
家に着いて書き置きでも残そうかと悩んだが、黙って消えるのがクールだろ、と考えて立ち去ることにする。
「じゃあね、ホムラちゃん。苦労かけるけど、みんなを頼むよ」
ベッドに横たえた彼女はすっかり寝入っている。それを見るティフォの表情は、いつになく真剣なものだった。次に会うのは夏休み、ウンディーノ家だろう。その時はもう戦いの準備だ。
「さて、行きますか。世界平和のためにね」
■□■□
「待って、鍵、無い。でも鍵かかってるし……あっ!」
支度を整え、家を出ようとした時。ソージアは見当たらなかった鍵をポストの中に見つけた。何故? まるで誰かが鍵を外から掛けて投げ入れたかのような……
「財布とか物は無くなってないし、きっと誰かが運んでくれた……うん、きっと心優しい人が家に届けてくれたとか?」
いくら考えても覚えていないので分からない。真相は昨日の二人のみが知るだけだ。
「って、時間時間!」
埒の開かない思考を追いやり、ソージアは学園へと向かうのだった。
次に二人が再開したウンディーノ家の会議の日にも、この時の真相が彼の口から語られることは無かったという。
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