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六章 婚約と顕れる陰謀

第64話 姉妹の契り

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 「わたしさ、お兄ぃのこと、好きだったんだ」

 何気ない口調で零れた言葉に、私はまたも勢いよく顔を上げた。そしてヒナちゃんの次の言葉を待った。その「好き」というのは……

 「もちろん、兄妹とか家族としてじゃなくて。イレアちゃんと同じ意味で。たぶんね」

 私の心を見透かしたように。誤解や勘違いという可能性を丁寧に無くすように。
 そう言ってヒナちゃんは、ぽつぽつと語り始めた。

 「昨日の夜、セレナと話してたんだ」


■□■□


 「ねえセレナ。セレナのお兄さん――オクタールさんって結婚してるの?」

 「はい。それが何か?」

 晩餐会の後、わたしはセレナの部屋にいた。一人で特にする事も無いし、かと言って……お兄ぃの所も居づらいから。

 「んー、何となく気になって。どんな感じなの?」

 「どんな感じ……と言われても、あそこは純粋な政略結婚ですの。オクタール兄様もあの通り仕事一筋ですので、去年結婚してからも大した話は聞きませんのよ」

 「ふーん」

 自分から聞いておいて気の無い返事をしてしまった。しかしその理由をセレナは分かってしまう。

 「期待した回答と違った、という感じですの」

 「うーん、まあそうだけど……」

 「当ててあげましょうヒナ。貴女、お兄様が婚約する事が気掛かりですのね?」

 「えっ、……いや、うん……」

 曖昧な返事をしたら、セレナは少し笑って追撃をかました。

 「更に言うなら、イレア様にお兄様を取られて寂しい、とか?」

 「! ちっ、違うから! そこまで子供じゃないし!」

 「子供でしょう。まあ私も同い年ですけど」

 思わず声を上げたが、セレナはそれすらあっさりと受け流す。図星とは正にこの事だ。今日のわたしじゃあ彼女には敵わないな、と思って溜息を一つ。そんなわたしの受け入れ態勢を見て、セレナは話を続けた。

 「ヒナと私は似ていますの。同い年で巫女家の一員、そして兄が結婚と。だからオクタール兄様の事を聞いたのでしょう?」

 「……うん」

 「生憎、良いアドバイスはできませんの。私と兄様は歳が離れていますから、あまり兄妹らしい事はしてきませんでしたの。私も家族というより『シルフィオ家当主の長男』としか見ていませんし、向こうもきっと私の事は次期巫女、仕えるべき次期当主としか思っていませんのよ」

 「……そうなんだ」

 「そんな顔しないで下さいまし。別に仲が悪い訳ではありませんのよ。まあ、寂しくないと言えば嘘にはなりますけど」

 自分の価値観からかけ離れた家族の関係に少し、いや、かなり驚いた。確かに二人が仲良さそうにしている所は見た事が無いし、わたしとセレナとの間で話題にも上がらない。しかし、それが彼女達にとっては当たり前なのだ。
 彼女がお兄ぃの事を「お兄様」と呼ぶのは、もしかしたらその寂しさを埋めるためなのかもしれない。
 それより、とセレナはわたしに向き直った。

 「貴女は違いますのね、ヒナ」

 「違うって……」

 「寂しいのでしょう?」

 口調こそ疑問だったが、絶対にそうだとばかりに言われ、わたしはやはり頷くしかなかった。
 暫しの沈黙の後、ようやくわたしは口を開いた。

 「わたしね、好きだったんだ。お兄ぃのこと」

 「あら」

 唐突な告白に驚くセレナ。少しだけやり返したと思ったが、それよりも自分の話を続ける。

 「でも過去形ね。昔の話。て言ってもすっごく昔だけど」

 「小さい頃の話、という事ですの?」

 「うん。自慢じゃないけどさ、わたしって割と大人な方だと思うの。お母さんは仕事忙しかったから家事とかやってたし、勉強もできる方だし、身近な家族が年上のお兄ぃだったのもあるし。セレナなら分かるでしょ?」

 「ええ。クラスメイトの方々より、ませている自覚はあります。私はそのように求められたのもありますけど」

 「そうそう。前も言ったけどさ、クラスの男子とかあんまり好きじゃないんだよね。子供っぽいっていうか。そうなったらさ……好きになる男の子は、お兄ぃなんだよね」

 セレナは黙って聞いている。自分よりも相当大人な彼女の前で言うにはちょっと恥ずかしいが、それよりも今は聞いて貰いたいのだ。

 「でもさ、そういうのはダメじゃん? 兄弟だから。わたしはそれを理解するのも早かったの。だからお兄ぃを好きなのはやめた。もちろん家族としては好きだし大事だよ? それはお互いそうだし、公国こっちに来てからは唯一の身近な家族だったからさ。お兄ぃにとって妹はわたししかいないし、わたしにはお兄ぃしか兄はいない。お母さんの事が分かんなくなっちゃってからは、唯一信じられる人だったの。お互いね」

 「ヒナ……」

 「だけど、家族ができたの。おばあちゃんはわたしとお兄ぃをウンディーノ家に迎えてくれたし、イレアお姉ちゃんも家族になった。それに、もしかしたらお父さんもいるかもしれないって。だから寂しくなくなったの。なくなったんだけど……」

 「お互いが、お互いだけのものではなくなったと」

 「……うん。最近お兄ぃはわたしをあんまり頼ってくれないし、周りは何となくお兄ぃとイレアお姉ちゃんをセットにしてるし。まあ仕方ないんだけどさ。そしたら、なんかお兄ぃが離れちゃったっていうか、とられちゃったって感じがしてさ」

 さっきは否定した事を自分の口から言ってしまった。心の壁にひびが入ったかのように言葉が漏れ出す。

 因みに今日聞いたのだが、この時セレナは「素直に話せる精霊術」を少しだけかけていたらしい。無断で自白剤を飲まされた気分だ。まあ、相談に乗ってくれた上で後で聞いた解決策を提示してくれたのだから許しはしたけど。彼女は良い当主になるかもしれない。

 「別にお兄ぃは悪くないよ? それにイレアちゃんとの結婚も応援してるし。イレアちゃんのことも好きだしね。でも、何て言うかさー……分かる?」

 「……ええ、分かりますわ。お兄様は許せませんの」

 ぼんやりとした同意を求めたところ、思った以上の反応があってちょっとビックリした。

 「せ、セレナ?」

 「妹にこんなに想われておきながら他の女性にうつつを抜かし、あまつさえヒナの方に身を引かせるとは。許せませんの」

 「ちょっ、セレナ、いや、そこまでじゃなっ」

 「ええ、ヒナ。ヒナはちっとも悪くありませんの。乙女心を弄んだお兄様が悪いんですのよ。これはきつく言っておかなければなりませんの。さあ行きますよヒナ!」

 「ちがっ、待って! セレナ!」

 拳を握り締めて立ち上がったセレナに掴みかかり、ヒートアップした彼女を止める。いや、ヒートアップしたように見せた、と言うべきか。先程までの威勢が嘘のようにケロっとした表情でわたしに振り向いた。

 「違うの! ただその、小さい時の憧れ? みたいなのがずっとモヤモヤ引っ掛かってて、それを最近ちょっと思い出しちゃっただけで! 別にどうこうしたいって訳じゃないの!」

 「あら、そうでしたの」

 息も荒く言い切ると、セレナはスッと座って冷めた紅茶を啜る。一瞬ポカンとしてしまった。ほんっと、今日はとことんしてやられた気分だ。わたしが息を落ち着けている間にカップを空にしたセレナは、パンと手を打った。

 「じゃあキチンと話をするべきですの」

 「いやだから、別にいいんだって。もう今のでスッキリしたし」

 「いいえ、こういうものはわだかまりを残してはいけません。お兄様に話せないなら、イレア様に伝えるのがよいですの」

 「でも……」

 「きっと、気付いていますのよ」

 セレナはきっぱりと言い切った。

 「最近のヒナは少し元気がありませんの。確かに立て続けに色々な出来事が起こったからと考えれば当然でしょうけど、急な環境の変化に対応できない程、ヒナは適応力が無い訳ではないでしょう?」

 「まあ、そうだけど……」

 「なら、心境の変化だと近しい者は気付きますの。一緒に暮らしていれば尚更、ですのよ」

 まあお兄様はもっと大変でしょうから気付いていないかもしれませんけどね、とセレナは欠伸混じりに言った。確かにわたし自身もお兄ぃの前では元気を見せていたから、きっと気付いていないだろう。気付かれたくなかったのだ。

 「さ、ここまで話せばスッキリしたでしょう? イレア様に今日の内容をそのまま話せば良いと思いますのよ」

 「……うん。ありがと、セレナ」

 終始誘導されていた気がしたが、大いに意味のある相談だった。素直に礼を言い、自分も手を付けていなかった紅茶を飲み干す。中身は冷めきっていた。

 「明日も夜は立ちっぱなしですのよ。もう寝ましょう」

 ふわぁ、とセレナは先程より大きな欠伸。時計を見れば、思ったより遅い時間だ。こんなに話し込んでしまったのか。

 「じゃあ、おやすみセレナ。また明日ね」

 「はい、おやすみなさい。また明日」

 既に瞼の重そうなセレナに挨拶し、わたしは彼女の客室を出た。
 その夜はすぐに眠れたが、やはり翌日お兄ぃの顔を見ると少し気分が沈むのだった。


■□■□


 「――だから、そのうちイレアちゃんに話そうと思ってたんだけど。先に気付かれちゃったな」

 「……そうなんだ」

 話し終えた頃には紅茶は出し過ぎの状態だった。慌てて茶葉を引き上げ、カップに注ぐ。かなり渋みが出てしまった。

 「ごめん、時間経っちゃった」

 「ううん、いいよ。ありがと、イレアちゃん……あ」

 カップを受け取るヒナちゃんは気付いたようだ。さっきから話している最中、イレア「お姉ちゃん」と呼んでいなかったことに。やはり、少し無理をしていたのだ。家族として迎え入れられた事を受け入れ、彼女は努めて私の事を姉と呼んでいたのだ。それが嫌かどうかは別として、精神的に負担になっていたのは当然である。自分より二つ下の、まだ十四歳の少女だ。

 「ごめんね、こんな話して。……あーあ、こういう人間関係のゴタゴタ、わたしが一番キライなのに」

 「ううん。話してくれて良かった。ありがとうヒナちゃん」

 それでも、彼女は聡い。考え、相談し、受け入れた上でこうやって話してくれたのだ。本当はもっと我儘でも良かったはずだ。年相応の感情と歳不相応の聡明さが噛み合わず、彼女を悩ませたのだろう。
 となれば、私がやる事は一つだ。

 「ヒナちゃん」

 「なあに?」

 改めて真正面から彼女の名を呼ぶ。シリアスを毛嫌いする少女は、おどけて可愛らしく返事をした。

 「これからも、悩んだ時は一人で抱え込まないで欲しい。私で良ければいつでも相談に乗るし……ううん、私がヒナちゃんにとって、何でも相談できる人になりたいの」

 「……いいの?」

 彼女の黒い瞳が不安げに揺れる。見れば見る程リオに似ている顔立ちだ。私の婚約者リオの、血の繋がった家族だ。

 「私もね、あんまり自覚なかったんだ。リオとヒナちゃんと、家族になるって事。でももう分かった。私はリオの代わりにはなれないけど、ヒナちゃんの姉になりたい。だからヒナちゃんも、私の妹になってくれる?」

 それは、ある意味で一世一代の告白だった。家族になる、契りだ。

 「イレア、お姉ちゃん……うん、うん。イレアお姉ちゃん」

 噛み締めるように私の名前を呼ぶヒナちゃん。感極まった目元は決壊する寸前だ。

 「うん。お姉ちゃんだよ。……ふふ、一人っ子だったから、ちょっと恥ずかしいわ」

 「――じゃあ、お姉ちゃんが妹にする事、教えてあげる!」

 ヒナちゃんは立ち上がり、あっという間に二人分のカップを片付けて、私の手を取って階段を駆け上がった。そのまま私の部屋に入り、遠慮もなくベッドに飛び込む。

 「今日は一緒に寝よ?」

 日も短くなり、肌寒く人恋しい季節。可愛い妹の頼みを断れる訳も無かった。

 「うん。いいよ」

 その夜は、二人揃ってぐっすりと眠れたのだった。


■□■□


 「くぁあ……よく寝た……」

 翌朝。眠りが深かったのか、思ったよりもスッキリと目が覚めた。さて、昨日できなかった授業の支度をしなければ。

 「って、鞄とかも全部一階か。この土日、全く触れてもなかったもんな」

 着替えてから階下に降りてソフィーさんに挨拶をする。そのまま朝食をとったが、今日は珍しくイレアもヒナも降りてこない。寝坊という程じゃないが、まだ寝ているのだろうか。

 「朝食が冷めてしまいますので、お二人を起こして参ります」

 「いいんじゃないですか? 今日くらいは」

 「……そうですね。失礼致しました」

 ソフィーさんとそんな会話をしていると、食後のお茶を飲み終わった頃にようやく階段から足音が。それも二人分だ。

 「おはよーお兄ぃ!」

 「おう、おはよう。イレアも珍しいな、こんな時間まで寝てたんだ」

 「うん、おはようリオ。それがね」

 「昨日はお姉ちゃんと一緒に寝てたの!」

 「一緒に? 仲良いな」

 「えへへ~、いいでしょー」

 聞くと、目が覚めてからもヒナが暫く離さずに微睡んでいたらしい。いつの間にそんなに仲良くなったのやら。というかイレアと一緒に寝るだけなら俺だって……いや、妹に張り合ってどうすんだ俺。

 「ほら、さっさと飯食って行くぞ。支度は?」

 「大丈夫、できてるから……って、もうこんな時間?」

 「うわ、急げ! お兄ぃに急かされるとか悔しい!」

 慌ただしく朝食を口に運ぶ二人を見ながら、ぼんやりと今日の授業の事とかを考えていた。平和な日常に少し戻った気分だ。



 その日は何だかヒナがご機嫌だった。

 「じゃあねー! またお昼にー!」

 「うん、またね」

 「授業寝るなよー」

 「お兄ぃじゃないもん! じゃあねイレアお姉ちゃん!」

 ブンブンと手を振って中等部の校舎に歩いて行くヒナを見届け、俺達は高等部の校舎へ歩く。心なしかイレアも嬉しそうだ。

 「ヒナとなんかあったのか?」

 「え? うーん……ヒミツ」

 「秘密?」

 「うん。女の子の秘密を詮索しちゃだめよ?」

 「なんだそりゃ」

 よく分からないが、二人の仲が良いのは嬉しい事だ。そう考えて教室へ向かう。周りの生徒は俺達が一緒なのは見慣れたようで、前ほどの居心地の悪さは無い。だが時折不審なものを見る目が女子から向けられるのは……いや、考え過ぎか。クラスメイトでもない生徒にまでミスズの立てた噂が広がっているという事は無いだろう。何せ彼女が学園に来てまだ二週間だ。

 「おはようリオ。昨日はお疲れ様」

 「おはようトーヤ。そっちこそ」

 「おはようございます……トーヤさん」

 教室に入った俺達にトーヤが挨拶をする。イレアも躊躇いがちに名前を呼ぶと、トーヤは少し驚いたようだ。

 「おはようイレアさん。さ、昨日ので疲れてるかもしれないけど、一週間頑張ろう」

 「うん、寝ないように気を付けるわ」

 「そうだね、リオみたいに居眠りしないようにね」

 うっ、ちょくちょく寝てたのイレアにもバレてたか。そういえば前にヒナにも言われたことあるし、バレバレなのかな……

 「ねえリオ、ちょっと小耳に挟んだんだけど」

 「なんだ?」

 日頃の行いを心の中で反省していると、トーヤが俺の耳元に小声で囁く。またマズい話か?

 「一昨日の式典の時にリオがやらかしたって聞いたんだけど……何かあったの?」

 マズイ話だった。マジでやめてくれ。触れられたくない俺は無言でその場を離れ、そそくさと授業の支度を始めた。



 やはりその日は平和だった。ミスズも特に話しかけては来ず、これといった事件も無い。クラスメイトの女子達とつるんでいるのが目に付いたが、気にする事ではない。授業は相変わらず歴史以外は難しくも面白くもない。
 そして昼休み。天気も良いのでソフィーさんの作った弁当を中庭で食べることにした。ベンチに座る俺達を遠巻きに見る人も多いが、見られるのは昨日のパーティーでさんざん慣れたものだ。が、

 「は~いお姉ちゃん、あーん」

 「ちょっ、自分で食べれるから……あーん……」

 「お前ら何やってんの……?」

 ヒナがフォークに刺したベーコンをイレアに差し出す。困惑しながらも受け入れるイレア。傍から見ればバカップルだ。羨まし……いやだからヒナに妬いてどうすんだ俺。

 「ダメだよ。これは妹の特権なんだから」

 「特権ではないだろ。いや俺がやりたいとかじゃないけど」

 「やりたくないんだ……じゃあ私がリオにしようか?」

 よく分からない言い訳をしたら、イレアがそう言いながら俺の口元にサンドイッチを突き出す。反射で咥えてしまったが、これじゃあ俺もバカップルの仲間入りだ。それとイレア、やる側は恥ずかしくないんだな。

 「あーズルい、わたしもー!」

 「はいはい。あーん」

 ねだるヒナにもミニトマトをあげるイレア。もにょっとした顔で飲み込んだヒナを見るに、今日のトマトは酸っぱいようだ。ヒナに押し付けるか。

 「はいヒナ、俺もあげる」

 「やだ」

 断られた。魂胆がバレたか。

 「あ、トマトで思い出したけど。二人は元霊祭げんれいさいの事は知ってる?」

 「「元霊祭?」」

 「うん。生徒が中心になってやるお祭り……みたいなものかな」

 「なるほど、学園祭か」

 話によると、毎年秋に行う公立精霊学園の学園祭らしい。巫女家が密接に関わっているからか極東の学校での学園祭とは少し雰囲気が違うみたいだが、俺達の知っているものと凡そ同じようだ。ちなみに何故トマトで思い出したかと言うと、イベントの一つに「トマトを投げ合う」という由来不明の祭もあるかららしい。なんじゃそりゃ。

 「そのうちクラスとか放送委員の方でも説明があると思うけど……そっか、みんな普通知ってるから先生も説明忘れてるのかもね。放送委員は忙しいと思うわ」

 「うげぇ、また仕事増えるのー?」

 「まあ、臨時実行委員も増やすみたいだから。放送委員は指揮に回るんじゃないかな」

 「……なあ、もしかして俺達もやる事あるのか? 巫女家のやつでさ」

 「うーん、それは多分無いと思うけど……一対一の精霊術模擬戦のトーナメントはあるわ。クラスで何人かずつ選ばれるけど、リオは確定じゃない?」

 「そんなん聞いてないけど!?」

 参加者は各クラスから二人以上四人以下で、担任の推薦で決めるようだ。そうなると二十人の特別クラスが有利に感じるが、元々優秀な生徒が多い所から多く出すための措置らしい。
 ちなみに俺が所属するこの特別クラスの制度だが、中等部には無い。曰く、精霊術の素質が伸びるのは多くの場合十代後半からなので、高等部に上がる時に編成するからというのが理由らしい。

 「それはともかく、担任の推薦ってなると極東の人達も出るのかな」

 ヒナの言葉にハッとした。確かに、実力的にも関係的にも可能性は高い。

 「うちの教師は実質ほとんどノーミオ家派閥だからな。学長の指示とかで留学生達を参加させるかもしれない。そうなると俺達と戦うことになるのか」

 「学園での教育の成果を見せるっていうのが理由の一つだから、留学生ばかりを出すとは思えないけど……注意するに越した事は無いわね」

 元霊祭、トーナメント、留学生。嫌な予感しかしない。平和な日々になるのは、まだ先の事らしい。
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