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七章 動乱の元霊祭
第69話 修行と日常
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「はぁっ!!」
「重心がブレてます! もっと踏み込んで!」
「やあっ!」
「今度は遅い!」
「はっ!」
「意識が下に向きすぎ!」
「せいっ!!」
「踏み込みが甘いっ!!」
また翌日の放課後。俺は師範とひたすら修行をしていた。型の練習は同じ事の反復練習だ。正直言って指導は母さん並にキツい。
ちなみにヒナとイレアは出掛けているらしい。俺も行きたかったな……。
「型やめ! 一旦休憩にしますぞ」
「はいっ!」
集中力が切れたのを悟られたのか、意識が逸れた頃に型の練習が終わった。マテリアル・オーダーを解き、剣から硝子球に戻す。精霊術の維持も同時に行っているので負荷は相当大きい。休憩と言われた瞬間、俺は地面に大の字に倒れ込むしかできなかった。
「型は覚えているようですな。ですが所々意識が薄れる部分がありますぞ。まずは意識して全てをできるようにし、それから無意識にできるようになって一人前。道のりは長いですな」
ほっほっほと笑う師範だが、息も絶え絶えな俺は受け答えすらできない。なんでこの爺さんは俺と同じ動きをして息一つ乱れてないんだよ……。
「今のリオ殿はまだ無駄が多いですぞ。スムーズに、無意識に、無駄なく剣を振れば疲れる事はありませんぞ」
「……そう、なんで、すか…………」
心を読まれたかのように教えられた。確かに、彼の剣からは風を切る音があまり聞こえない。それだけ真っ直ぐに振っているという事だ。体の動きも最小限だし、これが達人の技なのだろう。
「しかし剣術にばかり感けてはいられませんぞ。リオ殿は本番剣が使えないのですから、もう少し実戦的な技術も教えなければなりませんな。型はある程度できれば後回しでもよいでしょうし」
「……ふうー……いいんですか? 型は全ての基本なんですよね?」
ようやく息が落ち着いた俺は疑問を投げる。夏の修行の時は型こそが基本と言っていた彼だ。意外な言葉である。
「もちろん剣術においては型が最も重要ですぞ。しかし今のリオ殿に必要なのは、精霊術を使った近接戦闘で勝つ技術。私が頼まれたのは、剣の指導ではなく戦いの指導です」
「じゃあ、模擬戦もそろそろ剣を使わないものを?」
「ふむ、それも良いのですが……正直に言いますと、私が教えられる事はあまり多くないのですぞ。普通の精霊術に関してはからっきしですからな。特にリオ殿の扱う精霊術を教えられる人など、いったいこの国に何人いるのやら」
確かに。『加速』も『硬化』も『乱聴』も、複数の属性をほぼ無意識で複合した術だ。これを教えられる人なんて……いや、いるな。二人ほど。だが母さんはまず無理だし、ティフォ先輩もどこにいるか分からない。確かシルフィオ家の外交官と一緒にドラヴィドの方に行ってるんだっけ? 今は何をしてるのか知らないけど。
「という訳で、実戦の特訓なら……やはり競い合うのが一番ですな。出てきなさい」
彼の合図と共に、裏庭に一人の少女が入って来た。上背の高い、褐色の肌の少女だが……いや、見覚えがある。
「やあリオ君。アタシの事分かる?」
「えっと……放送委員の人、ですか?」
「そうそう! いつもヒナちゃん頑張ってくれてるよ」
「いえ、こちらこそ。妹がお世話になってます」
彼女は高等部三年の放送委員。面と向かって会ったのは初めてだが、ヒナから何度か話は聞いてる。名前は確か……
「一応自己紹介しとく? アタシはルーヴェラント。ルーでいいよ。知っての通り三年の放送委員でヒナちゃんの先輩。君の事は前から気になってたんだ。そんでこっちがパパ」
そう、ルー先輩だ。まさかこんな所で会うとは思ってなかったけどね、と笑った彼女だが、最後の一言が意外だった。
「パパ? 師範の娘さんなんですか?」
「うむ。以前から自分にも剣を教えろとしつこく言ってましてな。折角なのでリオ殿の相手として連れて来たのですぞ」
孫と言われてもギリギリ頷けるくらいには歳が離れている。しかし顔立ちはかなり似ているし、単に歳の差が大きい親子なのだろう。
「ルー、分かってますな? 彼の稽古のために呼んだのですぞ」
「分かってるって。相手すればいいんでしょ? トーナメント戦と同じルールでいいかな。アタシも参加するし」
「え、今からですか?」
そう言ってグルグルと腕を回したり屈伸したり、準備体操を始めるルー先輩。チラリと伺った師範は静かに頷いた。休憩の途中なんだけど……。
「リオ殿。いざという時、敵は待ってはくれませんぞ」
「……分かりました」
雰囲気とは裏腹にスパルタなのだ、この人は。俺は深呼吸して、地面に落ちていた硝子球を拾う。因みに本番も武器の持ち込みは禁止だが、ある程度の道具なら問題無いとソージア先生に確認はとってある。
「お、準備オッケー? じゃあ――行くよっ!」
一瞬。
「くっ!」
キィイン!!
瞬きの間に肉薄した彼女が、至近距離から何かを飛ばしてきた。足元に転がったのは短い金属の棒。多分、精霊術だ。
「おー、反応いいー!」
咄嗟にマテリアルの盾でガードしたが、反撃の余地すら貰えず彼女は元の位置に戻る。ヒットアンドアウェイか。
「それ、凄いらしいじゃん? とりあえずお手並み拝見っと! 砲!」
「精霊よ――水流壁、からのアイシクルランス!」
今度は遠距離だ。水壁を凍らせて防御し、マテリアルは攻撃のために準備する。だが相手は待ってくれない!
「おらおらっ、砲門っ!」
「クソっ……『硬化』!」
無数の弾丸が氷壁を抉る。『硬化』も使ってやっと防御を間に合わせるが、前に出なければ反撃もままならない。ならば。
「『硬化』、『加速』!」
「おっ、出てきた! だったら逃げるよ!」
盾を捨て、防御は硬化に委ねる。しかし彼女は空中へと逃げた!
「嵐槍!」
「うわ、それ見た事あるやつ! でも当たんないよっと!」
短槍に形を変えたマテリアルを、彼女目掛けて吹っ飛ばす。精霊術の制御ができない今、避けられるのは想定内だ。俺は槍から伸びる黒い糸を起点にして手元に引き寄せた。すると、
「うわっ、危なっ!」
「ルー! 油断をするな!」
「これでも当たんないか……!」
ギュイン、と不規則な軌道を描いて戻って来た槍をキャッチ。以前にソージア先生相手にも使った方法だ。武器に手で触れているのでルール的には殆どグレーゾーンだが、そんな事は言ってられない。檄を飛ばした師範が何も言わないから今はセーフだ。
「もう一回――嵐槍!」
「同じ手は食らわないよ! 精霊よ――フルメタル・ガトリング!」
不味いっ!!
手元にマテリアルは無い。せめてもの防御に『硬化』を全身にかけたが、
ドドドドドドドドドドドドッッッ!!!!!
――あれ? 衝撃が、来ない。
恐る恐る目を開ける。
「試合やめ。ルーの勝ちですな」
師範が剣を構え、俺の前に立っていた。周囲には無数の鈍色の弾丸が転がっている。恐ろしい事に、今の攻撃を全て防いだのだ。
「やりぃ! でもリオ君も良かったよ!」
「ま、参りました……」
勝負は俺の負けで終わった。
「まったく。油断した挙句、加減を忘れるとは」
「ごめんなさーい……」
試合後は勝ち誇っていたルー先輩だが、師範からすれば説教ものだったようだ。でも完全に手加減されて負けたらショックなので、俺としてはマシな結果なのだが。しかしだ。
「ルー先輩、強いですね」
「でしょ? ママの才能とパパの教えがあるからね。後輩君には負けらんないよ」
「そんな大口を叩くのは私から一本とってからにしなさい。ともかく、お疲れ様ですぞリオ殿」
「あ、ありがとうございます」
「えー、アタシも頑張ったのにー」
身内には厳しいらしい。彼女の母親とやらも気になるな。
「さて、やはりリオ殿は距離を取られると滅法弱いですな。一応の攻撃手段は持ち合わせているようですが、とても向いているとは言えませんぞ」
土の大精霊との対話で精霊術が制御できないくらい急に強くなったのだが、射程に関してはまるっきり変わらなかった。ままならないものだ。それどころか先程のように、離れた相手を狙えなくなってしまったのである。以前以上に射程が不自由になったとも言える。
「どうすればいいんですか?」
「それは簡単。相手にしなければいいのですぞ」
「あーね。アタシもそうするかな」
即答した二人。だがピンと来ないな。
「リオ殿は近接戦闘の技術以上に、身を守る術を持っています。それを活かさない手はありませんな。遠距離から攻撃してくる相手には持久戦を持ちかけ、痺れを切らした頃に反撃をすると良いですぞ」
「防御しながらさ、時間かけて一撃で仕留める仕込みするとか。その黒いの使って何かできるんじゃない?」
「なるほど……」
遠くの相手にどう攻撃するか考えていたが、よく考えたらトーナメント戦でその必要は無いのだ。というか今言われた戦法、ソージア先生に一回試してるんだよな。なんで忘れてたんだか。視野狭窄ってやつだ。
「こればかりは私からは助言できませんな。自分に合った方法を探すのですぞ」
「じゃ、今日は解散? また来るからさ、その時までに考えといてよ。じゃあバイバーイ」
「うむ、ではこれにて失礼」
「ありがとうございました。また明日お願いします」
そう言い残して親娘は帰って行った。次にルー先輩がいつ来るかは分からないが、それまでの宿題だな。
■□■□
「そう言えばお兄ぃ、また修行始めたんだよね?」
「一昨日からな。毎日クタクタだよ」
「最近寝るの早いからね、リオ」
「でも授業の時は寝ないでよ? ていうか……」
翌日の昼休み。俺達は揃って食事をとっていた。今日から食堂がようやく一部分だけ使えるようになったのだ。
「あのさ、これやっぱり僕居て良いの?」
集まったのは、俺とヒナ、イレア、そしてトーヤ。誘ったのは俺だが、居心地悪そうにしているトーヤにはちょっと申し訳なく思うな。周囲の生徒も、いつもの俺達三人の時以上にチラチラと視線を向けてくる。
「いいのー。トーヤ先輩はお姉ちゃんの数少ない友達なんだからさ」
サラッとイレアをディスるヒナだが、悲しいかな、純然たる事実だ。イレアも言い返せず苦笑する。てかヒナとトーヤ、いつの間に仲良くなったのやら。
「で、またあのお爺さん来てるんでしょ?」
「ああ。それに昨日はルー先輩が来てたぞ」
「えっ、うちの委員の? なんで?」
「師範がルー先輩のお父さんなんだって。世間は狭いな」
「えーー! 聞いた事ないよそんなのー!」
先輩も師範の教え子が後輩の兄だとは知らなかったみたいだし、本当に偶然だろう。
「放送委員のルー先輩って言うと、『玉鋼』のルーヴェラントって言われて有名だよ。その人の父親なら、リオの師範なのも納得だね」
「有名なんだ? 確かにめっちゃ強かったけどさ」
「そりゃあもう。放送委員長の右腕って実力は折り紙だし、邪霊討伐隊の中でもかなり成果を上げてるって。委員長さんの方の強さは分からないけど、あの二人が卒業したらその後は放送委員会はどうするんだって言われてるくらいだよ」
「あー。次の委員長が決まらないって愚痴、わたしも聞いたよ。まだ一年以上は先だけどさー」
情報通のトーヤが言うからには有名なのだろう。委員長エスメラルダ・ヴィエントの方は討伐隊にも参加していないので成績以上の実力は分からないらしい。しかしヒナも言う通り、二人の後継者には難儀しそうだ。
「そう言えばトーヤさんって実行委員なのよね? 忙しいの?」
「クラスの委員長だからね。学年ごとの役割分担があるから大変だよ」
ヒナちゃんにもこき使われるしね、と笑うトーヤ。なるほど、それで二人は仲良いのか。それにしてもやはりヒナは年上に対して全く躊躇しないな。
「僕は去年も実行委員やってたんだけどさ、去年なんかよりよっぽど仕事が多いって聞いたよ。留学生がいるのもあるけど、情勢的に警備とかを増やさざるを得ないからね」
「そのせいでさ、わたしみたいな入りたての委員も仕事多いんだよねー。ほんっと、こっちの事も考えてよ」
誰に対して怒ってるのか分からないが、ヒナも大変らしい。二人の愚痴にしばらく付き合っていると、話はとある噂話に移り変わった。
「――実は最近さ、その……リオに関する根も葉もない悪い噂が流れてるんだよ。噂っていうか、半分悪口みたいなものだけど」
「ごめん、多分それ私も知ってる。ホムラ先生から聞かされたわ」
「マジかよ、先生にまで広まってんの? 内容は?」
「うーん、一番多いのが女癖が悪いとか、イレアさんの弱みを握ってるとか? 詳しくは知らないし、人によって言ってる事もバラバラなんだけどさ」
女癖が悪い? 呆れて何も言えないぞ。でもパーティーの時にもそんな話を聞いたような。
「あーそれ聞いた事ある。わたしが聞いたのだと、ウンディーノ家の令嬢を誑かして取り入ったーだってさ。あはは、笑っちゃうよね。誑かすとかお兄ぃから一番遠い言葉じゃん」
「流石に直接言うような人はいないからリオは知らないんだろうね。ただ、ここまで急に広まったってなると……」
「誰かが意図的に流してるってか。はあぁ……」
大きく溜息を吐き、一人の生徒の顔を思い浮かべる。どう考えてもミスズだろうな。何がしたいのかは分からないが。
「ま、気にしない方がいいよ。そんな噂をする人は元々リオには関わらないような人達だしさ」
「……そうだな。人の噂も七十五日って言うしな」
「何それ、極東の諺?」
「リオもヒナちゃんも、たまに分からない言葉使うよね」
そんな話をしているうちにチャイムが鳴る。どうせ友達少ないし気にしなきゃいいさ。ミスズの鬱憤晴らしとか、せいぜいそんな大した事無い理由だろう。最近全く話しかけても来ないしな。そう考えて俺は悩みを頭から追いやった。
「そうだ、リオ。今日も師範さん来るんだよね」
「ああ。帰ったら早速トレーニングだよ。悪いけどしばらく放課後は空いてないな」
教室への帰り道、イレアは決心したような表情で言った。
「ううん。それ、私も一緒にやりたいの」
「……大丈夫なのか?」
俺が聞いたのは二つの意味。一つは、一昨日の怪我はもう大丈夫なのかと。そしてもう一つは、また怪我をさせてしまうかもしれない、という事。前者は多分もう大丈夫だ。だが。
「大丈夫、ホムラ先生にも許可とったから。先生がいる時ならってね」
「そっか……でもイレアは剣は使わないだろ? 多分けっこう暇になると思うけど」
「いいよ。その時は見てるから……っていうかリオ、前にも言ったでしょ? 私も一緒に強くなるからって。怪我くらいで止まってられないの」
決意は固い。それに、俺はやっぱり自分一人でしか考えていなかったみたいだ。
そして今日から早速、二人での特訓が始まる事になった。
来たる放課後、俺達は意気揚々と帰宅したのだが。
「急用?」
「はい、今日は来れないとの事です。型の練習をしておくように、と伝言を仰せつかりました」
俺達を出迎えたソフィーさんはそう言った。師範は用事で来れないみたいだ。
「そうですか……でもホムラ先生は来るから、私達だけでやろう?」
「だな。ヒナはどうする?」
「んー、とりあえず見てるだけでいいや」
珍しく委員の仕事が無かったヒナもいるしソージア先生も来るというのに、間の悪い事だ。
「それと、今日の昼にこちらを受け取りました。どうぞ」
要件はそれだけかと思ったら、ソフィーさんは小包を取り出して俺に手渡した。送り主は……おお、完成したのか。
「あ、指輪!? 見せて見せてー!」
「待て待てヒナ、リビングで開けよう」
箱には宝飾工務店の名前が書いてあった。おのおの荷物を置いてからソファーに並んで座る。俺が真ん中で左右にイレアとヒナだ。梱包する布を開き、中から綺麗な木箱を取り出す。同封されていた封筒には謝辞やお手入れの説明が書いてあるが、後回し。
「開けるぞ?」
コクリと頷いた二人に見えるように、ゆっくりと箱を開ける。蝶番が付けられた丁寧な造りだ。
「綺麗……」
「すごーい」
箱の中には、切れ込みの入った真っ白なクッションに大小一対の指輪が埋められている。デザインは店で決めた通り、いや、それ以上のものだ。そしてふと俺は思い出し、小さい方の指輪を手に取る。
「リオ?」
「……イレア。手、貸して」
なんか急に緊張してきた。ヒナは即座にちょっと距離をとり、イレアも少し遅れて察したようだ。チラリとヒナの方に向けた視線には、責めるような、何とも言えないような感情が込められている。
「……はい」
修行をすると意気込んだ時の威勢はどこへやら、小さい声と共にそっと左手を差し出す。俺はそれを左手で軽く押さえた。震えているのは俺か、イレアの方か、はたまたどちらもか。
「……」
右手で摘まんだ指輪を、そっと薬指に通す。イレアの細い指に合ったピッタリのサイズだ。
「……合ってる?」
「うん」
恥ずかしくてなんとなく顔を合わせづらい。が、俺の背後にいたヒナはいつの間にかイレアの後ろに移動していた。ヒナがイレアの耳元で何か囁く。
「リオも……左手出して」
「……分かった」
どうやら、やり返せとのヒナからの指示だったらしい。イレアがこういうのが好きだとか言ってたけど、本当に見たいのはヒナの方だったんじゃないか? と思いながらも左手を差し出し、イレアは俺の指輪を取って薬指に嵌めた。
「「…………」」
沈黙が流れる。この後どうすんだよ、これ。そう考えた時、やはり静寂を破ったのはヒナだった。
「はい! 二人とも、おめでとう!」
パチパチと拍手をし、呆然としていた俺達の手を掴んでブンブンと振る。キッチンから様子を伺っていたらしいソフィーさんも手を止め、ヒナに合わせて拍手をしてきた。
「おめでとうございます、イレア様、リオ様。……いえ、奥様、旦那様とお呼びした方が宜しいでしょうか?」
「ま、まだいいです」
真顔で言った彼女は冗談を言うような人ではない。だが否定したイレアを見る瞳は、仕える者、というより年の離れた家族を見るような温かさだった。
「今晩はお祝いですね。ソージアも来ることです。夕飯にお誘いしましょう」
「あ、いいねー! ほら二人とも立って立って。もうすぐ先生来るんじゃない?」
俄かに騒がしくなった部屋に、ちょうどドアノッカーの音が響く。普通に特訓するつもりで来た先生の到着だ。
そんなこんなで全くトレーニングをする空気になれなかったのは仕方のない事である。その夜は気掛かりな事も忘れ、宴の席で盛り上がったのだった。
「重心がブレてます! もっと踏み込んで!」
「やあっ!」
「今度は遅い!」
「はっ!」
「意識が下に向きすぎ!」
「せいっ!!」
「踏み込みが甘いっ!!」
また翌日の放課後。俺は師範とひたすら修行をしていた。型の練習は同じ事の反復練習だ。正直言って指導は母さん並にキツい。
ちなみにヒナとイレアは出掛けているらしい。俺も行きたかったな……。
「型やめ! 一旦休憩にしますぞ」
「はいっ!」
集中力が切れたのを悟られたのか、意識が逸れた頃に型の練習が終わった。マテリアル・オーダーを解き、剣から硝子球に戻す。精霊術の維持も同時に行っているので負荷は相当大きい。休憩と言われた瞬間、俺は地面に大の字に倒れ込むしかできなかった。
「型は覚えているようですな。ですが所々意識が薄れる部分がありますぞ。まずは意識して全てをできるようにし、それから無意識にできるようになって一人前。道のりは長いですな」
ほっほっほと笑う師範だが、息も絶え絶えな俺は受け答えすらできない。なんでこの爺さんは俺と同じ動きをして息一つ乱れてないんだよ……。
「今のリオ殿はまだ無駄が多いですぞ。スムーズに、無意識に、無駄なく剣を振れば疲れる事はありませんぞ」
「……そう、なんで、すか…………」
心を読まれたかのように教えられた。確かに、彼の剣からは風を切る音があまり聞こえない。それだけ真っ直ぐに振っているという事だ。体の動きも最小限だし、これが達人の技なのだろう。
「しかし剣術にばかり感けてはいられませんぞ。リオ殿は本番剣が使えないのですから、もう少し実戦的な技術も教えなければなりませんな。型はある程度できれば後回しでもよいでしょうし」
「……ふうー……いいんですか? 型は全ての基本なんですよね?」
ようやく息が落ち着いた俺は疑問を投げる。夏の修行の時は型こそが基本と言っていた彼だ。意外な言葉である。
「もちろん剣術においては型が最も重要ですぞ。しかし今のリオ殿に必要なのは、精霊術を使った近接戦闘で勝つ技術。私が頼まれたのは、剣の指導ではなく戦いの指導です」
「じゃあ、模擬戦もそろそろ剣を使わないものを?」
「ふむ、それも良いのですが……正直に言いますと、私が教えられる事はあまり多くないのですぞ。普通の精霊術に関してはからっきしですからな。特にリオ殿の扱う精霊術を教えられる人など、いったいこの国に何人いるのやら」
確かに。『加速』も『硬化』も『乱聴』も、複数の属性をほぼ無意識で複合した術だ。これを教えられる人なんて……いや、いるな。二人ほど。だが母さんはまず無理だし、ティフォ先輩もどこにいるか分からない。確かシルフィオ家の外交官と一緒にドラヴィドの方に行ってるんだっけ? 今は何をしてるのか知らないけど。
「という訳で、実戦の特訓なら……やはり競い合うのが一番ですな。出てきなさい」
彼の合図と共に、裏庭に一人の少女が入って来た。上背の高い、褐色の肌の少女だが……いや、見覚えがある。
「やあリオ君。アタシの事分かる?」
「えっと……放送委員の人、ですか?」
「そうそう! いつもヒナちゃん頑張ってくれてるよ」
「いえ、こちらこそ。妹がお世話になってます」
彼女は高等部三年の放送委員。面と向かって会ったのは初めてだが、ヒナから何度か話は聞いてる。名前は確か……
「一応自己紹介しとく? アタシはルーヴェラント。ルーでいいよ。知っての通り三年の放送委員でヒナちゃんの先輩。君の事は前から気になってたんだ。そんでこっちがパパ」
そう、ルー先輩だ。まさかこんな所で会うとは思ってなかったけどね、と笑った彼女だが、最後の一言が意外だった。
「パパ? 師範の娘さんなんですか?」
「うむ。以前から自分にも剣を教えろとしつこく言ってましてな。折角なのでリオ殿の相手として連れて来たのですぞ」
孫と言われてもギリギリ頷けるくらいには歳が離れている。しかし顔立ちはかなり似ているし、単に歳の差が大きい親子なのだろう。
「ルー、分かってますな? 彼の稽古のために呼んだのですぞ」
「分かってるって。相手すればいいんでしょ? トーナメント戦と同じルールでいいかな。アタシも参加するし」
「え、今からですか?」
そう言ってグルグルと腕を回したり屈伸したり、準備体操を始めるルー先輩。チラリと伺った師範は静かに頷いた。休憩の途中なんだけど……。
「リオ殿。いざという時、敵は待ってはくれませんぞ」
「……分かりました」
雰囲気とは裏腹にスパルタなのだ、この人は。俺は深呼吸して、地面に落ちていた硝子球を拾う。因みに本番も武器の持ち込みは禁止だが、ある程度の道具なら問題無いとソージア先生に確認はとってある。
「お、準備オッケー? じゃあ――行くよっ!」
一瞬。
「くっ!」
キィイン!!
瞬きの間に肉薄した彼女が、至近距離から何かを飛ばしてきた。足元に転がったのは短い金属の棒。多分、精霊術だ。
「おー、反応いいー!」
咄嗟にマテリアルの盾でガードしたが、反撃の余地すら貰えず彼女は元の位置に戻る。ヒットアンドアウェイか。
「それ、凄いらしいじゃん? とりあえずお手並み拝見っと! 砲!」
「精霊よ――水流壁、からのアイシクルランス!」
今度は遠距離だ。水壁を凍らせて防御し、マテリアルは攻撃のために準備する。だが相手は待ってくれない!
「おらおらっ、砲門っ!」
「クソっ……『硬化』!」
無数の弾丸が氷壁を抉る。『硬化』も使ってやっと防御を間に合わせるが、前に出なければ反撃もままならない。ならば。
「『硬化』、『加速』!」
「おっ、出てきた! だったら逃げるよ!」
盾を捨て、防御は硬化に委ねる。しかし彼女は空中へと逃げた!
「嵐槍!」
「うわ、それ見た事あるやつ! でも当たんないよっと!」
短槍に形を変えたマテリアルを、彼女目掛けて吹っ飛ばす。精霊術の制御ができない今、避けられるのは想定内だ。俺は槍から伸びる黒い糸を起点にして手元に引き寄せた。すると、
「うわっ、危なっ!」
「ルー! 油断をするな!」
「これでも当たんないか……!」
ギュイン、と不規則な軌道を描いて戻って来た槍をキャッチ。以前にソージア先生相手にも使った方法だ。武器に手で触れているのでルール的には殆どグレーゾーンだが、そんな事は言ってられない。檄を飛ばした師範が何も言わないから今はセーフだ。
「もう一回――嵐槍!」
「同じ手は食らわないよ! 精霊よ――フルメタル・ガトリング!」
不味いっ!!
手元にマテリアルは無い。せめてもの防御に『硬化』を全身にかけたが、
ドドドドドドドドドドドドッッッ!!!!!
――あれ? 衝撃が、来ない。
恐る恐る目を開ける。
「試合やめ。ルーの勝ちですな」
師範が剣を構え、俺の前に立っていた。周囲には無数の鈍色の弾丸が転がっている。恐ろしい事に、今の攻撃を全て防いだのだ。
「やりぃ! でもリオ君も良かったよ!」
「ま、参りました……」
勝負は俺の負けで終わった。
「まったく。油断した挙句、加減を忘れるとは」
「ごめんなさーい……」
試合後は勝ち誇っていたルー先輩だが、師範からすれば説教ものだったようだ。でも完全に手加減されて負けたらショックなので、俺としてはマシな結果なのだが。しかしだ。
「ルー先輩、強いですね」
「でしょ? ママの才能とパパの教えがあるからね。後輩君には負けらんないよ」
「そんな大口を叩くのは私から一本とってからにしなさい。ともかく、お疲れ様ですぞリオ殿」
「あ、ありがとうございます」
「えー、アタシも頑張ったのにー」
身内には厳しいらしい。彼女の母親とやらも気になるな。
「さて、やはりリオ殿は距離を取られると滅法弱いですな。一応の攻撃手段は持ち合わせているようですが、とても向いているとは言えませんぞ」
土の大精霊との対話で精霊術が制御できないくらい急に強くなったのだが、射程に関してはまるっきり変わらなかった。ままならないものだ。それどころか先程のように、離れた相手を狙えなくなってしまったのである。以前以上に射程が不自由になったとも言える。
「どうすればいいんですか?」
「それは簡単。相手にしなければいいのですぞ」
「あーね。アタシもそうするかな」
即答した二人。だがピンと来ないな。
「リオ殿は近接戦闘の技術以上に、身を守る術を持っています。それを活かさない手はありませんな。遠距離から攻撃してくる相手には持久戦を持ちかけ、痺れを切らした頃に反撃をすると良いですぞ」
「防御しながらさ、時間かけて一撃で仕留める仕込みするとか。その黒いの使って何かできるんじゃない?」
「なるほど……」
遠くの相手にどう攻撃するか考えていたが、よく考えたらトーナメント戦でその必要は無いのだ。というか今言われた戦法、ソージア先生に一回試してるんだよな。なんで忘れてたんだか。視野狭窄ってやつだ。
「こればかりは私からは助言できませんな。自分に合った方法を探すのですぞ」
「じゃ、今日は解散? また来るからさ、その時までに考えといてよ。じゃあバイバーイ」
「うむ、ではこれにて失礼」
「ありがとうございました。また明日お願いします」
そう言い残して親娘は帰って行った。次にルー先輩がいつ来るかは分からないが、それまでの宿題だな。
■□■□
「そう言えばお兄ぃ、また修行始めたんだよね?」
「一昨日からな。毎日クタクタだよ」
「最近寝るの早いからね、リオ」
「でも授業の時は寝ないでよ? ていうか……」
翌日の昼休み。俺達は揃って食事をとっていた。今日から食堂がようやく一部分だけ使えるようになったのだ。
「あのさ、これやっぱり僕居て良いの?」
集まったのは、俺とヒナ、イレア、そしてトーヤ。誘ったのは俺だが、居心地悪そうにしているトーヤにはちょっと申し訳なく思うな。周囲の生徒も、いつもの俺達三人の時以上にチラチラと視線を向けてくる。
「いいのー。トーヤ先輩はお姉ちゃんの数少ない友達なんだからさ」
サラッとイレアをディスるヒナだが、悲しいかな、純然たる事実だ。イレアも言い返せず苦笑する。てかヒナとトーヤ、いつの間に仲良くなったのやら。
「で、またあのお爺さん来てるんでしょ?」
「ああ。それに昨日はルー先輩が来てたぞ」
「えっ、うちの委員の? なんで?」
「師範がルー先輩のお父さんなんだって。世間は狭いな」
「えーー! 聞いた事ないよそんなのー!」
先輩も師範の教え子が後輩の兄だとは知らなかったみたいだし、本当に偶然だろう。
「放送委員のルー先輩って言うと、『玉鋼』のルーヴェラントって言われて有名だよ。その人の父親なら、リオの師範なのも納得だね」
「有名なんだ? 確かにめっちゃ強かったけどさ」
「そりゃあもう。放送委員長の右腕って実力は折り紙だし、邪霊討伐隊の中でもかなり成果を上げてるって。委員長さんの方の強さは分からないけど、あの二人が卒業したらその後は放送委員会はどうするんだって言われてるくらいだよ」
「あー。次の委員長が決まらないって愚痴、わたしも聞いたよ。まだ一年以上は先だけどさー」
情報通のトーヤが言うからには有名なのだろう。委員長エスメラルダ・ヴィエントの方は討伐隊にも参加していないので成績以上の実力は分からないらしい。しかしヒナも言う通り、二人の後継者には難儀しそうだ。
「そう言えばトーヤさんって実行委員なのよね? 忙しいの?」
「クラスの委員長だからね。学年ごとの役割分担があるから大変だよ」
ヒナちゃんにもこき使われるしね、と笑うトーヤ。なるほど、それで二人は仲良いのか。それにしてもやはりヒナは年上に対して全く躊躇しないな。
「僕は去年も実行委員やってたんだけどさ、去年なんかよりよっぽど仕事が多いって聞いたよ。留学生がいるのもあるけど、情勢的に警備とかを増やさざるを得ないからね」
「そのせいでさ、わたしみたいな入りたての委員も仕事多いんだよねー。ほんっと、こっちの事も考えてよ」
誰に対して怒ってるのか分からないが、ヒナも大変らしい。二人の愚痴にしばらく付き合っていると、話はとある噂話に移り変わった。
「――実は最近さ、その……リオに関する根も葉もない悪い噂が流れてるんだよ。噂っていうか、半分悪口みたいなものだけど」
「ごめん、多分それ私も知ってる。ホムラ先生から聞かされたわ」
「マジかよ、先生にまで広まってんの? 内容は?」
「うーん、一番多いのが女癖が悪いとか、イレアさんの弱みを握ってるとか? 詳しくは知らないし、人によって言ってる事もバラバラなんだけどさ」
女癖が悪い? 呆れて何も言えないぞ。でもパーティーの時にもそんな話を聞いたような。
「あーそれ聞いた事ある。わたしが聞いたのだと、ウンディーノ家の令嬢を誑かして取り入ったーだってさ。あはは、笑っちゃうよね。誑かすとかお兄ぃから一番遠い言葉じゃん」
「流石に直接言うような人はいないからリオは知らないんだろうね。ただ、ここまで急に広まったってなると……」
「誰かが意図的に流してるってか。はあぁ……」
大きく溜息を吐き、一人の生徒の顔を思い浮かべる。どう考えてもミスズだろうな。何がしたいのかは分からないが。
「ま、気にしない方がいいよ。そんな噂をする人は元々リオには関わらないような人達だしさ」
「……そうだな。人の噂も七十五日って言うしな」
「何それ、極東の諺?」
「リオもヒナちゃんも、たまに分からない言葉使うよね」
そんな話をしているうちにチャイムが鳴る。どうせ友達少ないし気にしなきゃいいさ。ミスズの鬱憤晴らしとか、せいぜいそんな大した事無い理由だろう。最近全く話しかけても来ないしな。そう考えて俺は悩みを頭から追いやった。
「そうだ、リオ。今日も師範さん来るんだよね」
「ああ。帰ったら早速トレーニングだよ。悪いけどしばらく放課後は空いてないな」
教室への帰り道、イレアは決心したような表情で言った。
「ううん。それ、私も一緒にやりたいの」
「……大丈夫なのか?」
俺が聞いたのは二つの意味。一つは、一昨日の怪我はもう大丈夫なのかと。そしてもう一つは、また怪我をさせてしまうかもしれない、という事。前者は多分もう大丈夫だ。だが。
「大丈夫、ホムラ先生にも許可とったから。先生がいる時ならってね」
「そっか……でもイレアは剣は使わないだろ? 多分けっこう暇になると思うけど」
「いいよ。その時は見てるから……っていうかリオ、前にも言ったでしょ? 私も一緒に強くなるからって。怪我くらいで止まってられないの」
決意は固い。それに、俺はやっぱり自分一人でしか考えていなかったみたいだ。
そして今日から早速、二人での特訓が始まる事になった。
来たる放課後、俺達は意気揚々と帰宅したのだが。
「急用?」
「はい、今日は来れないとの事です。型の練習をしておくように、と伝言を仰せつかりました」
俺達を出迎えたソフィーさんはそう言った。師範は用事で来れないみたいだ。
「そうですか……でもホムラ先生は来るから、私達だけでやろう?」
「だな。ヒナはどうする?」
「んー、とりあえず見てるだけでいいや」
珍しく委員の仕事が無かったヒナもいるしソージア先生も来るというのに、間の悪い事だ。
「それと、今日の昼にこちらを受け取りました。どうぞ」
要件はそれだけかと思ったら、ソフィーさんは小包を取り出して俺に手渡した。送り主は……おお、完成したのか。
「あ、指輪!? 見せて見せてー!」
「待て待てヒナ、リビングで開けよう」
箱には宝飾工務店の名前が書いてあった。おのおの荷物を置いてからソファーに並んで座る。俺が真ん中で左右にイレアとヒナだ。梱包する布を開き、中から綺麗な木箱を取り出す。同封されていた封筒には謝辞やお手入れの説明が書いてあるが、後回し。
「開けるぞ?」
コクリと頷いた二人に見えるように、ゆっくりと箱を開ける。蝶番が付けられた丁寧な造りだ。
「綺麗……」
「すごーい」
箱の中には、切れ込みの入った真っ白なクッションに大小一対の指輪が埋められている。デザインは店で決めた通り、いや、それ以上のものだ。そしてふと俺は思い出し、小さい方の指輪を手に取る。
「リオ?」
「……イレア。手、貸して」
なんか急に緊張してきた。ヒナは即座にちょっと距離をとり、イレアも少し遅れて察したようだ。チラリとヒナの方に向けた視線には、責めるような、何とも言えないような感情が込められている。
「……はい」
修行をすると意気込んだ時の威勢はどこへやら、小さい声と共にそっと左手を差し出す。俺はそれを左手で軽く押さえた。震えているのは俺か、イレアの方か、はたまたどちらもか。
「……」
右手で摘まんだ指輪を、そっと薬指に通す。イレアの細い指に合ったピッタリのサイズだ。
「……合ってる?」
「うん」
恥ずかしくてなんとなく顔を合わせづらい。が、俺の背後にいたヒナはいつの間にかイレアの後ろに移動していた。ヒナがイレアの耳元で何か囁く。
「リオも……左手出して」
「……分かった」
どうやら、やり返せとのヒナからの指示だったらしい。イレアがこういうのが好きだとか言ってたけど、本当に見たいのはヒナの方だったんじゃないか? と思いながらも左手を差し出し、イレアは俺の指輪を取って薬指に嵌めた。
「「…………」」
沈黙が流れる。この後どうすんだよ、これ。そう考えた時、やはり静寂を破ったのはヒナだった。
「はい! 二人とも、おめでとう!」
パチパチと拍手をし、呆然としていた俺達の手を掴んでブンブンと振る。キッチンから様子を伺っていたらしいソフィーさんも手を止め、ヒナに合わせて拍手をしてきた。
「おめでとうございます、イレア様、リオ様。……いえ、奥様、旦那様とお呼びした方が宜しいでしょうか?」
「ま、まだいいです」
真顔で言った彼女は冗談を言うような人ではない。だが否定したイレアを見る瞳は、仕える者、というより年の離れた家族を見るような温かさだった。
「今晩はお祝いですね。ソージアも来ることです。夕飯にお誘いしましょう」
「あ、いいねー! ほら二人とも立って立って。もうすぐ先生来るんじゃない?」
俄かに騒がしくなった部屋に、ちょうどドアノッカーの音が響く。普通に特訓するつもりで来た先生の到着だ。
そんなこんなで全くトレーニングをする空気になれなかったのは仕方のない事である。その夜は気掛かりな事も忘れ、宴の席で盛り上がったのだった。
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