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第二章 月人《つきびと》

月という国4

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 と、横で翁じいが大声をあげた。
「ジーヤンさんですか! お久しぶりです。お互い随分頭が白くなりましたなぁ」
「翁じい! お久しぶりです」
 二人は握手している。

 同じように背広を着て、同じように白髪で、同じように丸メガネで赤い蝶ネクタイ、双子みたい。

「月夜姫、実は月菜女王様の時もジーヤンがお世話してくれたんですぞ、丁度ジーヤンが2歳の頃でしたかね。月菜女王様が25歳でしたから」
「はい、もう月では青年と呼ばれる年齢でした」

 ええーそうなんだ。

「ご健在で何よりです」
「翁じいもお元気そうで」

「「お互い年寄りになりましたなぁ」」

 二人は大笑いしていた。
「これは失礼致しました。月夜姫、つい懐かしくなりましてな」
 そしてジーヤンが微笑みながら私を見た。

 19年でここまで老化するんだ。私ははっきり言って驚いた。

「驚いたでしょう、これが月の歳の取り方です。まあまあこんなところにいてもしょうがない、明日、このセンターホールで戴冠式が開かれますので、中をお見せしましょう」
「よろしくお願いします」
 と、エントランスのドアに連れて行ってくれた。
 そして、何やら考える素振りを見せるとドアが勝手に開いた。
「あれっ、どうやってドアを開けたのですか? 」
「普通に開けましたが」
「ああ、自動ドアなんだ」
「自動………そういう事か、月人は悪さしませんが、動物たちが入り込んで悪さする時がありますので警備本部を設置しております。明日お式で使いますので」


「でもドアマンも警備員もいませんが? 」
「別室にいる警備担当に『念』を飛ばして、ドアを開けてほしいとオーダーを出して、私の身分や状況をかぐやに照会して、警備員が遠隔操作でドアを開けてくれました」

「『念』なの? 」

 私はまたもやびっくりした。

「そうですよね、月夜姫は地球でお産まれになったから、ちょっと不思議ですよね。月人は人生が短い、だからいちいち顔を見合わせて打ち合わせやら、相談やらしてる時間がもったいない。そういった必要性から進化した能力です。どんな仕事にでも活用されています」

 だいぶ地球とは常識というか、技術というか、能力というか、違うんだ。
 見かけは地球人と全く同じなのに、進化の仕方で随分変わるんだ。

「月夜姫は15歳ですよね」
「はい」
「地球の環境が成長に影響するのでしょう、まだまだ少女のような肌艶ですね」
「そ、そう………? 」
「月菜女王様は25歳で戴冠式をなされたが、やはりとてもお綺麗でした。月でお住みになってたらもう凄いおばあちゃんですけどね」

「えーそうなんだ! 」
 私は大声を出してしまった。
「驚きました? 」
「はい」
「正直でよろしい」
「でもママはどうして25歳で戴冠式をしたの、私はまだ15なのに」
「『魂の注入装置』の仕上げでお忙しかったのです」
「そうなんだ………」
「ささ、こんなところで立ち話もなんですからの中に入りましょう」
 と、ジーヤンは先に入って行った。
「月夜姫、こんなカルチャーショックなんて序の口ですぞ、行きましょう」
 翁じいが私に微笑んだ。
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