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第三章 ボラン島と月夜姫

憎っくき鬼塚原左門二1

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「これですよ、これ、入り口にいたじじいの背広から持ってきた。じじいには催眠弾ですっかりおねんねして貰いましたけどね」

 手には雲を飛ばした時に、翁じいの胸ポケットに入ったてんとう虫を持っていた。

「あの時のてんとう虫」
「そうでございますお姫様、これは小型のGPSになっております。そしてこの銃には催眠弾でなく実弾が入っております、当たるとあの世行き」
「なんだって! 」
「ご自宅の横にある山から監視カメラを使って、14年も様子を伺っておりましたら、塀ができたり、シールドが張られたり、もう、全然近づけなくなりましたからね、忌々しい」
「こいつぶっ飛ばす」
 鉄ちゃんが言った、ドスの効いた恐ろしい声だった。

 でも銃口が狙っている。動くに動けない。

「お坊ちゃん、動くと銃が火をふくよ、もう何人も殺してるんだ、一人二人増えようがなんとも感じませんわ、ハハハ! 」
 気味の悪い笑い声が坑道に響いた。
「くそー」
 私はパパを思い出して泣きそうになった、悔しくて、悲しくて、憎らしくて、いろんな感情が渦巻いていた。

「そしたらここ一年で動きがあるじゃありませんか、私は慌てて山に入って遠くから見てたんですが、シールドが開いた瞬間に、てんとう虫を中に入れておき、あの時にじじいの胸ポケットに誘導したんですな。
 それが発信する信号を頼ってここまで来ました。
 いやー、飛行機乗って船乗って、太平洋のこんな遠くまでくるの非常にたいへんでしたわ、手ぶらじゃ帰れないんですよ」

「でもこれだけじゃ、装置は動かない」

 私は言った、怒りを抑えて。

「これでも科学者ですぞ、あのノートを見たら地球の人間じゃ作れないのは分かりますわ。その為にお母さんとお嬢さんが地球に来たんでしょう、どこから来たのか知らんけど」

 盗んだパパのノートのことだ。

「私のバックには大物政治家がいてね、死にたくないもんだから、金ならある早く研究を完成させろって煩くてね」

 やっぱり翁じいの推理は当たっていたんだ。

「死にたく無ければ付き合ってもらいますぞ、この鬼塚原と二人っきりで、美人のお嬢様、二人っきりでね」
 鬼塚原は下品な笑顔を見せた。
 私は悪寒が走った。体が震える。
 と鉄ちゃんが動いた、その大きな体で私の前に立った。

「月夜ちゃんは俺が守る」

「うるせえ! 」

 大声で叫んだ鬼塚原は、鉄ちゃんに向かって拳銃を発射した。

 バキューッンンンン

 坑道に銃声が響いた。
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