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第2章 夏
◆ここに私の居場所がある
乾杯の前に……どうしても、ひと言だけ。
「……今回は、私のために、皆さんがあちこち奔走してくださって……本当に、ありがとうございました」
深々と頭を下げると、胸の奥から堰を切ったように言葉があふれてくる。
「私は、たくさんの方に迷惑をかけました。けれど、その何倍も……人の温かさや、愛をいただきました。それが、ただただ……嬉しかったんです」
声が震え、喉の奥がつまる。
唇を噛みしめながら、必死にこらえても、頬に熱いものがにじみ出てくる。
「……私、母に……愛された記憶が、あまりなくて。だから今日、こんなに大勢の方が、私のために動いてくれたことが、この温もりが、もう、夢みたいで……」
言葉を繋ごうとしても、涙が先にこぼれてしまう。
あの時感じた恐怖も、不安も、心細さも、今はもうない。
だけど、その代わりに胸いっぱいの感情が溢れてうまく形にできない。
「そ、それで……あの……」
慌てて袖で涙をぬぐう。
それなのに、拭ったそばから、視界がまた滲んで真っ白になってしまう。
伝えたいことは、まだ山ほどあったはずなのに。
ありがとう、ごめんなさい、大好き……全部が胸の奥で渦を巻き、溢れて、言葉にならない。
だから私は、必死に笑って誤魔化した。
「……一生懸命、つくりました。どうぞ……召し上がってください!」
早口でまくしたてるように言い切り、ガバリと深くお辞儀をする。
その瞬間――ふわり、と柔らかな感触が私を包み込んだ。
アフロディーテの甘い香り。
涙ににじむ視界の向こう、光を弾くミルキーブロンドの髪。
私は――王妃様に抱き締められていた。
「……っ」
言葉にならない声が漏れる。
温かい腕に包まれて、心の奥の冷たい欠片がゆっくりと溶けていく。
さらに、頭をそっと撫でる手の感触。
この安心する撫で方。
――イオナおばあちゃん。
「頑張ったわね」
涙声のまま、おばあちゃんの優しい声が耳元に届く。
また涙が溢れ出した。嗚咽になって声が震え、体ごと抱きしめられた。
足元には、さらにたくさんの温もりが集まっていた。
ガチャ丸がぎゅっとしがみつき、しーちゃんはそっと体を寄せる。ウノ、ドス、トレスはふわりと浮かび、姫ちゃまは小さく旋回して励ますように羽音を立てる。
その小さな、ぎゅっとした輪は――まるで「ここが私の家族だよ」と言ってくれているみたいだった。
嬉しくて嬉しくて、胸がいっぱいで、私は確かに愛されていると実感した。
その時――
「……こほん。そろそろ宴の主役の品をいただかねば、皆様の胃袋が拗ねてしまいますな」
宰相がわざとらしく胸を張り、重々しく言うものだから、場に小さな笑いが広がった。
「腹が拗ねたら大変だな!」「(コクコク)」
ガシガシと目元をこすりながらシヴァさんがニカッと笑う。その横ではジェイさんがウンウンと頷いていて、
「こういう時は酒じゃ、乾杯じゃ」
バッカスさんは号泣しながら火酒を握り締めて乾杯を急かした。
そんなバッカスさんの言葉を受けて――
「……では、改めて」
王が杯を掲げる。
「ノエル嬢と彼女を支える皆に。感謝と祝福を!」
「乾杯!」
杯が重なり合う音が響く。
張りつめていたものが一気にほどけ、温かい笑いと涙の余韻を抱えたまま、宴の席は賑やかに、そして優しく食事へと進んでいく――
はずだった……。
「俺、カレートッピング全部乗せで」
やっちまったよ、この男…。シヴァさんの無邪気な宣言は王城の格式を一撃で吹き飛ばすデカ盛り直球だ。
給仕さん達も顔が青ざめている。けれど、シヴァさんを止められるような屈強な給仕さんなんておらず…
自分で米をよそい、カレーを豪快にドバァッと――塔のように盛り上げていた。
「お待ちください!順番というものが……!」
震える声で給仕さんが慌てて制止するも、シヴァさんの尻尾がブンッと一振りされただけで、事態は収まるどころかますます波乱含みに……。私は猛ダッシュで割り込み、給仕さんのォローに入った。
「任せて!この人の相手は私がするわ。あなたはこちらの方をお願いね」
手早くトッピングを全投入。素揚げ野菜、スモークソーセージ、ゆで卵に目玉焼き、福神漬け――気づけばカレーは大食いのチャレンジメニューの様相を呈していた。米の高さとカレーの香りで会場の空気が二度上がる。
王城でこんなバカ飯、普通は食べていいわけがない。
それなのに、シヴァさんはニッコニコの笑顔で巨大なカレーを抱え、尻尾をブンブン振りながらご機嫌に自席へ戻っていく。
(この人、カレーだけは“待て”できないのよね…イヌ科なのに…)
「はぁ…」とため息をついて、ふとさっきの青褪めていた給仕さんを見ると、常識ある地味顔従者さんのカレーを無事にサーブできたことで、ようやく安堵の表情に変わっていた。
それにしても、この王様の側近的な地味顔さん、どこで会ったんだっけ…?というか、初手でカレーってなかなか変わってる。シヴァさんと同じくらいのタイミングでカレーに突撃して来たよね?見た目からこっちの人は絶対嫌厭すると思ってたけど……それともこっちの世界にもカレーに似た料理でもあるのかな?
そんなことを深く考える暇もなく、次々と小さな事件が勃発。
バッカスさんにロックオンされてしまった哀れな宰相さん。最初は「ガンバレ!生きろ!」って思ってたけど、驚くほど元気いっぱい。
むしろバッカスさんと乾杯しては杯を空け、お互い火酒を注いでは乾杯し、つまみを食べては唸り声を上げている。
終始上機嫌。潰れる気配もゼロ。
しかも、初見にも関わらず「塩辛」も物怖じせず食べてるし…。
(宰相さん……人族…だよね?それか、宰相ともなると肝臓も鉄でないとやっていけないのかしら?)
国をまとめる事務方トップの凄みを見たよ。今回のお礼に今度、お酒と塩辛を贈ってあげよう。
隣りでは、髭面隻眼おじこと、冒険者ギルドのギルド長アーノルドさん、彼は驚くほど繊細な手つきで上品に蟹クリームコロッケを扱っている。皿の上の俵を丁寧に割り、そっと口に運ぶ。それはもう大事に大事に。
(あんなに大切に食べてもらえたら作り手冥利に尽きるよね!)
そして、ナイフとフォークを握る手がプルプル…。一旦、カトラリーを置き、目頭を押さえて天を仰いじゃった。
(そ、そんなに美味しかったのかな?取り敢えず、良かった…?)
その頃、ジェイさんは――
完全に気配を消して、食べることに集中してるね…。話しかけるなオーラがヤバい。
オムライスを頬張って、蟹クリームコロッケを食べて、蟹グラタン掬ってチーズをみょーんと伸ばし、サラダで一休み。
そしてまた、オムライスを頬張って……のエンドレス。
安定の気配消しリス食い。頬をパンパンにして食べてる時だけ、ジェイさんはハイライトの消えた瞳が輝くんだよ。
私はそんなジェイさんの前に、自分の蟹クリームコロッケの皿をコトリと差し出す。
「いいのか?」って目で訴えて来たので、コクンと返事をしたら、ニヤリと口角だけが上がる笑顔。
(だから、それ怖いって!!!)
でも、蟹クリームコロッケやグラタンはジェイさん絶対好きだと思ったんだよね。
王妃様から聞いたけど、あの気持ち悪い金ピカカエル男をずっと締め上げてくれてたんだって。
こんなことでお礼になるとは思わないけど、まだまだたくさん食べてって欲しいな。
そして、ふと気になって王様と王妃様を見る。
予想通り、王妃様はハート形ケチャップのオムライスを見て「まぁ…♡」と蕩けるような笑顔で小さなスプーンに一掬い。
「お~いし~い」と頬に手を当てて無邪気に声を上げるその姿に、王様はデレッデレ。
(うん、王様わかるよ!今のゆる~い感じの王妃様、すっごいかわいいよね。さっきまでのキリリとした姿とのギャップがまたね?倍かわいく見えるよね?)
しかし、その隣では巨乳知的メガネっ子の侍女さんのこめかみにピキリと青筋が立っており……。
(お、王妃様、あとで怒られそうな予感が……)
そんな侍女さんも「もうっ!」と言いつつ、サーブされた蟹グラタンを一口食べると……表情が凍りつき、次の瞬間にはがっつり夢中になって食べ始めた。
もう王妃様のことすら見えていない。眼鏡が曇るのも厭わず、スルスルとグラタンが口の中へ消えていく。
どうやらすごくお気に召したらしい。
私はニヤニヤとその様子を見守った。
知的美女が頬を染めながら熱々のグラタンを食べる姿。眼福です。ありがとうございます。
そして、王様は――
蟹クリームコロッケに唸り声を上げている。
ジラルドさんも言ってたけど、この蟹、一生に一度食べられるかどうかの代物らしいからね。と思っていた矢先、王妃様から「あ~ん」って差し出されたオムライスの方にデレッデレになっちゃって…。
(もう蟹の味とかしていないのでは…?っていうか、国の威厳は!?!?審問室に入って来た時の王様すごくかっこよかったよ?いいの!?)
「ゴホン」
ほら、案の定、グラタンから意識が戻ってきた侍女さんがブチ切れてる…。
王妃様、顔真っ青になっちゃってるじゃん。
なんかわかってきたぞー。この王妃様だからこそ、あの侍女さんなんだわ!すごくいいバランス。
奥の方ではモルトンさんが「あの時ノエルさんに賭けて良かった」「幻の…奇跡の…食材…」「家族に持ち帰れないだろうか…」と一人ブツブツつぶやきながら、しかも涙まで流して蟹クリームコロッケを噛みしめている。
(いやいや、持ち帰るなんてパッソに着く前に腐っちゃうって。というか、怖いよ!!)
伯爵様はワイン片手にグラタンを優雅にかき込んでいる。“かき込んでいる”ここポイントね。
伯爵様の隣りに座るリアムさんもいつも通りぶっ壊れてるね。ブツブツとしきりに感想を言いながら修行僧のように蟹料理二品をモグモグ。
王様から最も遠い位置にいる「うちの家族チーム」のみんなはいつも通りの大騒ぎ。
アンジーさんは目をまん丸にしながら幸せそうに色々食べてるし、クィールくんもたくさんの料理に舌鼓を打っている。
しーちゃんは氷魔法で蟹料理二品を冷やしながら豪快に頬張ってるし、ガチャ丸は頬にご飯粒をつけてカレーを食べてる。
おばあちゃんは…うん、いつも通りお空のお爺ちゃんと交信中だね。
そして、ウノ・ドス・トレスはさっきから楽しそうに会場中を飛び回っている。
(ご飯いらないのかな?それともどっかで“火”でも食べて来たのかな?)
ふと見当たらない姫ちゃまを探すと……ケイトさんとロニーさんにお世話されながら堂々の姫プ中。
目の前には各種シロップの小皿が並べられ、ご機嫌に皿から皿へと飛び回っている。
(なんかこの子、お世話されるのが当たり前なタリサ気質を色濃く継いでる気が……それとも、私がいけないのかしら?)
みんなのお腹もくちくなってきた頃、タイミングよく給仕さん達が良く冷えた「雪乃だいふく~黒蜜がけ~」と「プリン」を運んで来た。
「……今回は、私のために、皆さんがあちこち奔走してくださって……本当に、ありがとうございました」
深々と頭を下げると、胸の奥から堰を切ったように言葉があふれてくる。
「私は、たくさんの方に迷惑をかけました。けれど、その何倍も……人の温かさや、愛をいただきました。それが、ただただ……嬉しかったんです」
声が震え、喉の奥がつまる。
唇を噛みしめながら、必死にこらえても、頬に熱いものがにじみ出てくる。
「……私、母に……愛された記憶が、あまりなくて。だから今日、こんなに大勢の方が、私のために動いてくれたことが、この温もりが、もう、夢みたいで……」
言葉を繋ごうとしても、涙が先にこぼれてしまう。
あの時感じた恐怖も、不安も、心細さも、今はもうない。
だけど、その代わりに胸いっぱいの感情が溢れてうまく形にできない。
「そ、それで……あの……」
慌てて袖で涙をぬぐう。
それなのに、拭ったそばから、視界がまた滲んで真っ白になってしまう。
伝えたいことは、まだ山ほどあったはずなのに。
ありがとう、ごめんなさい、大好き……全部が胸の奥で渦を巻き、溢れて、言葉にならない。
だから私は、必死に笑って誤魔化した。
「……一生懸命、つくりました。どうぞ……召し上がってください!」
早口でまくしたてるように言い切り、ガバリと深くお辞儀をする。
その瞬間――ふわり、と柔らかな感触が私を包み込んだ。
アフロディーテの甘い香り。
涙ににじむ視界の向こう、光を弾くミルキーブロンドの髪。
私は――王妃様に抱き締められていた。
「……っ」
言葉にならない声が漏れる。
温かい腕に包まれて、心の奥の冷たい欠片がゆっくりと溶けていく。
さらに、頭をそっと撫でる手の感触。
この安心する撫で方。
――イオナおばあちゃん。
「頑張ったわね」
涙声のまま、おばあちゃんの優しい声が耳元に届く。
また涙が溢れ出した。嗚咽になって声が震え、体ごと抱きしめられた。
足元には、さらにたくさんの温もりが集まっていた。
ガチャ丸がぎゅっとしがみつき、しーちゃんはそっと体を寄せる。ウノ、ドス、トレスはふわりと浮かび、姫ちゃまは小さく旋回して励ますように羽音を立てる。
その小さな、ぎゅっとした輪は――まるで「ここが私の家族だよ」と言ってくれているみたいだった。
嬉しくて嬉しくて、胸がいっぱいで、私は確かに愛されていると実感した。
その時――
「……こほん。そろそろ宴の主役の品をいただかねば、皆様の胃袋が拗ねてしまいますな」
宰相がわざとらしく胸を張り、重々しく言うものだから、場に小さな笑いが広がった。
「腹が拗ねたら大変だな!」「(コクコク)」
ガシガシと目元をこすりながらシヴァさんがニカッと笑う。その横ではジェイさんがウンウンと頷いていて、
「こういう時は酒じゃ、乾杯じゃ」
バッカスさんは号泣しながら火酒を握り締めて乾杯を急かした。
そんなバッカスさんの言葉を受けて――
「……では、改めて」
王が杯を掲げる。
「ノエル嬢と彼女を支える皆に。感謝と祝福を!」
「乾杯!」
杯が重なり合う音が響く。
張りつめていたものが一気にほどけ、温かい笑いと涙の余韻を抱えたまま、宴の席は賑やかに、そして優しく食事へと進んでいく――
はずだった……。
「俺、カレートッピング全部乗せで」
やっちまったよ、この男…。シヴァさんの無邪気な宣言は王城の格式を一撃で吹き飛ばすデカ盛り直球だ。
給仕さん達も顔が青ざめている。けれど、シヴァさんを止められるような屈強な給仕さんなんておらず…
自分で米をよそい、カレーを豪快にドバァッと――塔のように盛り上げていた。
「お待ちください!順番というものが……!」
震える声で給仕さんが慌てて制止するも、シヴァさんの尻尾がブンッと一振りされただけで、事態は収まるどころかますます波乱含みに……。私は猛ダッシュで割り込み、給仕さんのォローに入った。
「任せて!この人の相手は私がするわ。あなたはこちらの方をお願いね」
手早くトッピングを全投入。素揚げ野菜、スモークソーセージ、ゆで卵に目玉焼き、福神漬け――気づけばカレーは大食いのチャレンジメニューの様相を呈していた。米の高さとカレーの香りで会場の空気が二度上がる。
王城でこんなバカ飯、普通は食べていいわけがない。
それなのに、シヴァさんはニッコニコの笑顔で巨大なカレーを抱え、尻尾をブンブン振りながらご機嫌に自席へ戻っていく。
(この人、カレーだけは“待て”できないのよね…イヌ科なのに…)
「はぁ…」とため息をついて、ふとさっきの青褪めていた給仕さんを見ると、常識ある地味顔従者さんのカレーを無事にサーブできたことで、ようやく安堵の表情に変わっていた。
それにしても、この王様の側近的な地味顔さん、どこで会ったんだっけ…?というか、初手でカレーってなかなか変わってる。シヴァさんと同じくらいのタイミングでカレーに突撃して来たよね?見た目からこっちの人は絶対嫌厭すると思ってたけど……それともこっちの世界にもカレーに似た料理でもあるのかな?
そんなことを深く考える暇もなく、次々と小さな事件が勃発。
バッカスさんにロックオンされてしまった哀れな宰相さん。最初は「ガンバレ!生きろ!」って思ってたけど、驚くほど元気いっぱい。
むしろバッカスさんと乾杯しては杯を空け、お互い火酒を注いでは乾杯し、つまみを食べては唸り声を上げている。
終始上機嫌。潰れる気配もゼロ。
しかも、初見にも関わらず「塩辛」も物怖じせず食べてるし…。
(宰相さん……人族…だよね?それか、宰相ともなると肝臓も鉄でないとやっていけないのかしら?)
国をまとめる事務方トップの凄みを見たよ。今回のお礼に今度、お酒と塩辛を贈ってあげよう。
隣りでは、髭面隻眼おじこと、冒険者ギルドのギルド長アーノルドさん、彼は驚くほど繊細な手つきで上品に蟹クリームコロッケを扱っている。皿の上の俵を丁寧に割り、そっと口に運ぶ。それはもう大事に大事に。
(あんなに大切に食べてもらえたら作り手冥利に尽きるよね!)
そして、ナイフとフォークを握る手がプルプル…。一旦、カトラリーを置き、目頭を押さえて天を仰いじゃった。
(そ、そんなに美味しかったのかな?取り敢えず、良かった…?)
その頃、ジェイさんは――
完全に気配を消して、食べることに集中してるね…。話しかけるなオーラがヤバい。
オムライスを頬張って、蟹クリームコロッケを食べて、蟹グラタン掬ってチーズをみょーんと伸ばし、サラダで一休み。
そしてまた、オムライスを頬張って……のエンドレス。
安定の気配消しリス食い。頬をパンパンにして食べてる時だけ、ジェイさんはハイライトの消えた瞳が輝くんだよ。
私はそんなジェイさんの前に、自分の蟹クリームコロッケの皿をコトリと差し出す。
「いいのか?」って目で訴えて来たので、コクンと返事をしたら、ニヤリと口角だけが上がる笑顔。
(だから、それ怖いって!!!)
でも、蟹クリームコロッケやグラタンはジェイさん絶対好きだと思ったんだよね。
王妃様から聞いたけど、あの気持ち悪い金ピカカエル男をずっと締め上げてくれてたんだって。
こんなことでお礼になるとは思わないけど、まだまだたくさん食べてって欲しいな。
そして、ふと気になって王様と王妃様を見る。
予想通り、王妃様はハート形ケチャップのオムライスを見て「まぁ…♡」と蕩けるような笑顔で小さなスプーンに一掬い。
「お~いし~い」と頬に手を当てて無邪気に声を上げるその姿に、王様はデレッデレ。
(うん、王様わかるよ!今のゆる~い感じの王妃様、すっごいかわいいよね。さっきまでのキリリとした姿とのギャップがまたね?倍かわいく見えるよね?)
しかし、その隣では巨乳知的メガネっ子の侍女さんのこめかみにピキリと青筋が立っており……。
(お、王妃様、あとで怒られそうな予感が……)
そんな侍女さんも「もうっ!」と言いつつ、サーブされた蟹グラタンを一口食べると……表情が凍りつき、次の瞬間にはがっつり夢中になって食べ始めた。
もう王妃様のことすら見えていない。眼鏡が曇るのも厭わず、スルスルとグラタンが口の中へ消えていく。
どうやらすごくお気に召したらしい。
私はニヤニヤとその様子を見守った。
知的美女が頬を染めながら熱々のグラタンを食べる姿。眼福です。ありがとうございます。
そして、王様は――
蟹クリームコロッケに唸り声を上げている。
ジラルドさんも言ってたけど、この蟹、一生に一度食べられるかどうかの代物らしいからね。と思っていた矢先、王妃様から「あ~ん」って差し出されたオムライスの方にデレッデレになっちゃって…。
(もう蟹の味とかしていないのでは…?っていうか、国の威厳は!?!?審問室に入って来た時の王様すごくかっこよかったよ?いいの!?)
「ゴホン」
ほら、案の定、グラタンから意識が戻ってきた侍女さんがブチ切れてる…。
王妃様、顔真っ青になっちゃってるじゃん。
なんかわかってきたぞー。この王妃様だからこそ、あの侍女さんなんだわ!すごくいいバランス。
奥の方ではモルトンさんが「あの時ノエルさんに賭けて良かった」「幻の…奇跡の…食材…」「家族に持ち帰れないだろうか…」と一人ブツブツつぶやきながら、しかも涙まで流して蟹クリームコロッケを噛みしめている。
(いやいや、持ち帰るなんてパッソに着く前に腐っちゃうって。というか、怖いよ!!)
伯爵様はワイン片手にグラタンを優雅にかき込んでいる。“かき込んでいる”ここポイントね。
伯爵様の隣りに座るリアムさんもいつも通りぶっ壊れてるね。ブツブツとしきりに感想を言いながら修行僧のように蟹料理二品をモグモグ。
王様から最も遠い位置にいる「うちの家族チーム」のみんなはいつも通りの大騒ぎ。
アンジーさんは目をまん丸にしながら幸せそうに色々食べてるし、クィールくんもたくさんの料理に舌鼓を打っている。
しーちゃんは氷魔法で蟹料理二品を冷やしながら豪快に頬張ってるし、ガチャ丸は頬にご飯粒をつけてカレーを食べてる。
おばあちゃんは…うん、いつも通りお空のお爺ちゃんと交信中だね。
そして、ウノ・ドス・トレスはさっきから楽しそうに会場中を飛び回っている。
(ご飯いらないのかな?それともどっかで“火”でも食べて来たのかな?)
ふと見当たらない姫ちゃまを探すと……ケイトさんとロニーさんにお世話されながら堂々の姫プ中。
目の前には各種シロップの小皿が並べられ、ご機嫌に皿から皿へと飛び回っている。
(なんかこの子、お世話されるのが当たり前なタリサ気質を色濃く継いでる気が……それとも、私がいけないのかしら?)
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