女神のつくった世界の片隅で従魔とゆるゆる生きていきます

みやも

文字の大きさ
110 / 121
第3章 秋

◆そして始まるダンジョンBBQ攻防戦

「あぁ~そういうことですね」

「まさか、知らずについて来てたのか?」

あちゃー、と額に手を当てるシヴァさん。
私はぶわっと顔が熱くなるのを感じながら、ぶんぶんと手を振った。

「ち、違いますって!虫の話に夢中になってただけで……お塩のことを、ほんのちょっと、ほんのちょーっと忘れてただけです!」

「それを“知らずに来た”って言うんだよ」

ぐうの音も出ない。

シヴァさんは残念なものを見る目をしたあと、ガチャ丸の頭をぽんぽんと撫でた。

「ガチャ丸、お前けっこう苦労してんだな」

「ちょ、ちょっと!やめてくださいよぅ!」

私は慌ててガチャ丸を引き寄せる。

「そんなことないよね?ね?ガチャ丸?」

「ギャギャァ……」

ガチャ丸は私を見て、シヴァさんを見て、それから――
ふうぅ、と大きなため息をついた。

え。
今、ため息ついた?

「もうやめとき。ガチャ丸困っとるやん」

モードさんが肩を揺らして笑う。

うぅ……ポンコツ扱いが定着してきている気がする。

私たちは今、ダンジョンの最下層――
かつて“ドブ”と言われたエリアの奥にある、岩清水が静かに染み出す一角に来ていた。

そこにあるのは、見慣れたサイズの透明な結晶。

「へぇ……野良の精霊石、初めて見ました。これで“ソルショア”まで行くんですよね?」

「そや」

このダンジョンに来た本当の理由。

それは――
塩を得るため。

野良の精霊石を起動し、海の街ソルショアへ繋ぐ。
塩さえ手に入れば、この土地の未来は大きく変わる。

「でも、光ってないですよ?」

「最初にかなり魔力食わせなあかんのや。ほら、触ってみ」

「触ったらどうなるんですか?」

「魔力覚えさすんよ。覚えたやつしか使われへん」

「なるほど」

私はそっと精霊石に触れた。

ひんやりとした冷たさ。
そして――すっと、手の奥から何かが抜ける感覚。

……調薬に似ている。

ポーションは魔力で練る。
だから生産量は魔力量に依存する。

つまり、優秀な薬師はもれなく魔力おばけだ。

(私は……まあ、その辺は誇っていいと思う)

私に続き、
ガチャ丸。
しーちゃん。
ウノ、ドス、トレス。
姫ちゃま。
念のためルゥも。

みんな順番に触れていく。

「これで登録完了やな。起動は明日の朝でええな?」

「うぃーっす」
「(コクコク)」
「はーい」
「ギャギャァ」
「プギッ」
「「「~♪」」」
「ブンブン」
「(キラリーン)」

全員の返事が揃う。

モードさんが振り返って言った。

「なら、今からキャンプの準備やな!」

その声を合図に、私たちはそれぞれやるべきことをするために散る。
もちろん、私は、ダンジョン最後の夜を彩る楽しいキャンプ飯の準備だ。

キャンプと言ったらもう、これしかないでしょう!!
特注のBBQコンロとルオスク産の炭を出す。ついでに七輪も。
七輪はモードさん専用にする予定。
そして、火起こしはウノちゃんに。

辺りはすっかり夜。

最下層なのに、空がある。
星がある。
月まである。

濃紺の空に、宝石箱をひっくり返したみたいな星。
天の川みたいな光の帯。

(ダンジョンなのに、外より空が綺麗ってどういうことなんだろう)

腐敗の地だった場所で、今は月光が黒土を照らしている。

(不思議だなぁ)

でも、そんな情緒は――
一瞬で吹き飛んだ。

「「「かんぱーい」」」
「乾杯(小声)」
「ギャギャァー」
「プギィ―」

カチン、とジョッキがぶつかる澄んだ音。

――ダンジョンBBQ開幕!

大人組はジョッキビール一杯だけ。
ちびっこチームは炭酸ジュース。

ウノ・ドス・トレスは、ジェイさんから純度の高そうな火属性魔石をもらって大はしゃぎだ。

姫ちゃまはというと、熱烈リクエストの甘露を独占中。
小さな体でちびちび味わっている様子から、相当お気に入りらしい。

そして、ルゥは――

「さすがに食べられないよね?」

私がそっと問いかけると、少し間を置いてから返事が返ってきた。

「残念ながら……我が主の期待には応えられそうもなく……」

その瞬間、刀身の輝きがほんのわずかに曇る。

「あ、いいのいいの!せっかく家族になったんだし、一緒にご飯が食べられたらいいなーって思っただけだから」

「……家族」

ぴかぁっ、と刀身の輝きが一気に増した。

(刀身は口ほどにものを言う……)

家族になってからというもの、ルゥの“表情”は本当に豊かだ。
光り方ひとつで、気持ちがだいたい分かるようになってきた。

もう少し話していたかったけれど――

じゅるり、と音がした気がした。

BBQコンロ前に、涎を垂らしそうな“大中小”の三つの影。

シヴァ。
ガチャ丸。
しーちゃん。

視線の先には、もちろん――厚切りベヒモス肉。

(このお肉、依存物質とか入ってないよね?)

念のため鑑定。

……問題なし。

ほっと胸をなで下ろす。

でも、油断はできない。

この三人を自由にしたら、コンロはベヒモス一色になる。
それだけは、絶対に阻止しなければならない。

当初は各自好きなものを焼くスタイルにしようと思っていたけれど、この三人を見て気が変わった。

「ちゃんとお野菜も食べてくださいね!いい?ガチャ丸もよ?」

「ギャギャッ!」

返事はいい。
しかし、信用してはならない。
このトリオ、ちょっと目を離すと肉まみれになる。

「あー!ノエル、もうそれでいいわ」

「え?超レアですけど!?レアっていうか、ほぼブルーですけど!?」

「表面炙るくらいでいいんだよ。効率よく食いてぇからな」

(食事に効率って言うなぁぁ!!)

私はぐっと深呼吸。

怒らない。
怒らないけど……譲らない。

炙った肉を皿に乗せ――そして、山盛りの焼き野菜もどさり。

「え?」

「“え?”じゃないです」

ニッコリ。

「野菜も“効率”に含めてください」

シヴァさんは苦笑しながら席へ戻った。

よし!まず一人。

残るは――

ガチャ丸はじーっと肉を見ている。
しーちゃんは鼻息荒く待機中。

あの目は完全に“肉一直線”。
どうやって自然に野菜へ誘導するか。
いかに違和感なく、バランスよく食べさせるか。

――BBQは戦場である。
戦の夜は、どうやら長くなりそうだ。


——————————————————

≪週2回、土・日更新+不定期≫

いつも読んでくださって、本当にありがとうございます。

ダンジョン編は、いよいよ明日が最終日です。
「◆冒険の終わり―ーそれぞれの日常へ」
よろしくお願いします。

「今日も良かったな」「続きが気になるな」と思っていただけたら、
“♡” や “応援” でそっと教えてもらえると、とても嬉しいです。

良い夜を。
また次回お会いしましょう。

感想 159

あなたにおすすめの小説

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

本の虫な転生赤ちゃんは血塗りの宰相の義愛娘~本の世界に入れる『ひみちゅのちから』でピンチの帝国を救ったら、冷酷パパに溺愛されてます

青空あかな
ファンタジー
ブラック企業に勤める本の虫でアラサーOLの星花は、突然水に突き落とされた衝撃を感じる。 藻掻くうちに、自分はなぜか赤ちゃんになっていることを理解する。 溺死寸前の彼女を助けたのは、冷徹な手腕により周囲から「血塗りの宰相」と恐れられるアイザック・リヴィエール公爵だった。 その後、熱に浮かされながら見た夢で前世を思い出し、星花は異世界の赤ちゃんに転生したことを自覚する。 目覚めた彼女は周囲の会話から、赤ちゃんの自分を川に落としたのは実の両親だと知って、強いショックを受けた。 前世の両親もいわゆる毒親であり、今世では「親」に愛されたかったと……。 リヴィエール公爵家の屋敷に連れて行かれると、星花にはとても貴重な聖属性の魔力があるとわかった。 アイザックに星花は「ステラ」と名付けられ彼の屋敷で暮らすようになる。 当のアイザックとはほとんど会わない塩対応だが、屋敷の善良な人たちに温かく育てられる。 そんなある日、精霊と冒険する絵本を読んだステラはその世界に入り込み、実際に精霊と冒険した。 ステラには「本の世界に入り込み、その本の知識や内容を実際に体験したように習得できる特別な力」があったのだ。 彼女はその力を使って、隣国との条約締結に関する通訳不在問題や皇帝陛下の病気を治す薬草探索など、様々な問題を解決する。 やがて、アイザックは最初は煩わしかったはずのステラの活躍と愛らしさを目の当たりにし、彼女を「娘として」大切に思うようになる。 これは赤ちゃんに転生した本好きアラサーの社畜OLが、前世の知識と本好きの力を活かして活躍した結果、冷徹な義父から溺愛される話である。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

家族に忘れられていた第五王子は愛され生活を送る

りーさん
ファンタジー
 アズール王国の王宮には、多くの王子や王女が住んでいる蒼星宮という宮がある。  その宮にはとある噂が広まっていた。併設されている図書館に子どもの幽霊が現れると。  そんなある日、図書館に出入りしていた第一王子は子どものような人影を見かける。  その時、父である国王にすら忘れられ、存在を知られていなかった第五王子の才覚が露になっていく。